エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第197話)

第197話:原油安で抑制される所得の海外流出

 原油価格と我が国の交易利得(損失)には強い相関がある。交易利得(損失)とは、一国の財貨と他国の財貨との数量的交換比率である交易条件が変化することによって生じる貿易の利得もしくは損失のことであり、輸出入価格の変化によって生じる国内と海外における所得の流出を示す。

 そしてこの関係に基づけば、原油先物価格が10ドル/バレル下がると、年換算で1.6兆円の所得の国外流出が減ることになる。一方、2018年10-12月期の原油先物価格は2018年7-9月期の平均より約5.7ドル/バレル低下しているため、2018年10-12月期の交易利得は年換算で+0.9兆円程度増加する可能性がある。これは、原油先物価格の下落により、2018年10-12月期の3カ月間で約2,335億円の所得の海外流出が抑制されたことを意味する。

 またこの関係から、今年の原油先物価格が70ドル/バレル程度で推移すると仮定すれば、今年の所得の海外流出は昨年とほぼ変わらないことになる。しかし、今年の原油先物価格が平均60もしくは50ドル/バレル程度で推移すると、今年はそれぞれ+1.6兆円、+3.2兆円も国内所得の増加が生じることになる。

 近年は経済のグローバル化や市場の寡占化が進展しており、物価がこれまでと比較して世界の需給条件を反映した水準で決まりやすくなっている。特に新興諸国の経済成長率における寄与度が高まった2003年頃から、経済のグローバル化が実体・金融両面を通じて商品市況の大きな変動要因として作用している。このため、今後も世界経済の低迷が持続すれば、世界の商品市況は上がりにくい環境が続くことになろう。特に今後は、米国の減税効果が一巡することが予想され、世界の原油需要はさらに減少する可能性もある。従って、今後もしばらくは原油先物価格が低水準で推移する可能性もある。

 これは、日本のように原油をはじめとした資源の多くを海外に依存する国々とって、資源国への所得流出が抑制されやすい環境にあることを意味する。特に人口減少等により国内市場の拡大が望みにくい我が国では、今年は消費増税も控えていることもあり、こうした所得の海外流出の減少が、地方や寒冷地の経済を中心に思わぬ恩恵となる可能性がある。従って、世界経済が低迷を続ける限り、資源の海外依存度が高い日本経済が資源価格下落の恩恵を相対的に受けやすく、日本経済はこうしたビルトインスタビライザー機能を有しているといえよう。(第198話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第196話)

第196話:原油価格下落、消費増税迎える日本経済に“想定外の恩恵”

 原油価格が下落している。ドバイ原油は昨年12月から1バレル=50~60ドル台で推移しており、経済活動に及ぼす影響が注目される。原油価格が下落すれば企業の投入コストが低下するため、変動費の減少分が大きいほど利益に対する押し上げ効果が大きくなる。また、価格下落が最終製品やサービスまで転嫁されれば、家計にとっても消費者物価の下落を通じて実質購買力の上昇をもたらす。そうすると、企業収益の売り上げ面へも恩恵が及び、個人消費や設備投資を通じて経済成長率にも押し上げ要因となる可能性がある。

 ドル建ての原油先物価格をみると、月平均のドバイ原油は昨年10月から下落に転じ、今年1月までに▲25.6%下落している。一方、円も対ドルで昨年10月から昨年12月までに▲3.79%増加(円高)しており、交差項の影響も含めれば、円建てドバイ原油価格はこの3カ月で▲28.4%程度低下したことになる。

 そこで、家計への影響を見ると、タイムラグを伴って消費者物価へ押し上げ圧力が強まることがわかる。事実、2006 年1月以降の原油価格と消費者物価の相関関係を調べると、円建てドバイ原油価格の+1%上昇は4カ月後の消費者物価を約0.013%押し上げる関係があることがわかる。

 従って、円建てドバイ原油価格▲30.8%下落の影響としては、消費者物価を4カ月後に2830.48%×0.013%≒0.369%程度押し下げる圧力となり、家計に恩恵が及ぶことになる。

 具体的な家計への負担軽減額として、2017年度における2人以上世帯の月平均支出額約28.5万円(総務省「家計調査」)を基にすれば、0.369%の消費者物価の下落は4カ月後の家計負担を28.5万円×0.369%≒1,018円/月程度、年額に換算すると1.23万円以上減少させる計算になる。

 よりマクロ的な経済への影響について、内閣府「短期日本経済マクロ計量モデル(2018 年版)」の乗数を用いて試算すれば、今年の原油先物価格が70ドル/バレル程度で推移した場合には、今後2年間の経済成長率への影響はほぼニュートラルとなる。しかし、今年の原油先物価格が平均60ドル/バレルもしくは50ドル/バレル程度で推移したとすれば、今後2年間の経済成長率をそれぞれ+0.04、+0.02%ポイント、+0.08、+0.04%ポイント程度も押し上げることになる。このように、原油価格の下落はマクロ経済的に見ても、無視できない恩恵をもたらす可能性がある。(第197話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第195話)

第195話:消費増税の総合的影響

 内閣府の最新マクロ計量モデルの乗数を使って、前回2014年4月の消費税率3%引き上げの際の個人消費や経済成長率への影響を試算した。すると、2013年度は駆け込み需要により個人消費の押し上げ等を通じて経済成長率が+0.7%引き上げられた一方で、2014年度は個人消費の押し下げなどを通じて経済成長率が▲1.5%押し下げられたことになる。

 一方、今回2019年10月に軽減税率を導入した上で税率を2%引き上げた場合の効果を試算すると、前年は駆け込み需要で個人消費の押し上げ等を通じて経済成長率を+0.4%押し上げるが、引き上げた年は個人消費の押し下げ等を通じて経済成長率を▲0.8%押し下げることになる。ただ、2019年10月の消費増税では、2.4兆円が幼児教育の無償化や社会保障の充実に充当される一方で、昨年度実施したたばこ税や所得税の見直しなどによる財源確保でも家計負担が0.3兆円増えることになっている。これは、家計全体で実質的に2.1兆円の所得減税になるが、ここにポイント還元やプレミアム付き商品券、住まい給付金、次世代住宅ポイント制度など臨時・特別の予算措置のプラス効果が加わっても、1年目の成長率の押し下げは▲0.7%となると試算される。

 なお、ここに防災・減災、国土強靭化等の対策がGDPの押し上げにつながると、今回の消費増税は、前回と比べて経済成長率の押し下げ効果がもう少し小さくなる可能性がある。ただし、2020年東京五輪の特需の反動減や米国経済の減速が生じる時期と重なる可能性があることには要注意だ。五輪特需は建設投資が主だが、1964年開催の東京五輪では経済成長率のピークは前年の1963年10~12月期だった。2020年8月開催の東京五輪にあてはめると、2019年7~9月期になる。また、2018年春から減税の効果が出てきた米国経済も、利上げや貿易摩擦の影響もあり、2019年後半になると減税効果が一巡して成長率の減速は避けられない。このため、いくら手厚い消費増税対策を実施しても、外部環境次第では税率引き上げが景気腰折れの引き金を引く可能性はあるだろう。

 一方、消費税率引き上げの効果は、財政収支の動向と切り離して評価することはできない。そこで、内閣府マクロ計量モデルの乗数を基に、消費税率引き上げに伴う経済動向の変化を通じて事後的に財政収支/国内総生産(GDP)に及ぼす影響を試算した。

 まず、前回2014年4月の3%引き上げを前提に得られた試算結果によれば、財政収支への影響はGDP比で1年目と2年目が+0.9%ポイント、3年目が+0.8%ポイント程度の赤字縮小要因となる。だが、今回2019年10月の引き上げ案では、税率の引き上げ幅が2%にとどまり、軽減税率と幼児境域無償化、社会保障の充実による支援や臨時特別の予算措置が加わる。このため財政収支への影響はGDP比で+0.1%ポイント程度となり、財政赤字の縮小は2014年の1割強程度にとどまる。

 更に、2020年度までの3年間の事業規模が概ね7兆円程度とされる防災・減災、国土強靭化策も財政赤字の拡大要因となるため、その間の消費増税に伴う財政再建効果はほぼ相殺されてしまうだろう。(第196話に続きます)

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第194話)

第194話:消費増税の総合的影響

 2019年10月の消費増税前後における家計の恒久的な負担増加額を試算すると、消費税率引き上げに対応した新たな対策を考慮すれば、年額2.5兆円と前回2014年4月の3割強の負担となる。

 マクロの家計負担増減額は、1997年4月と2014年4月、2019年10月のそれぞれについて、日銀が消費増税前後の家計のネット負担額を試算している。これによれば、1997年は税率の引き上げ幅は2%で、負担増は年5.2兆円だった。しかし、所得減税打ち切りや医療費自己負担増などの歳入増が重なり、直接的には年8.5兆円の大きな歳入増になったと計算されている。

 しかも、景気対策がない中で1997年6月にアジア通貨危機が起こり、同年11月に山一証券の破綻など金融システム不安が生じて景気は腰折れをしてしまった。そのため、所得減等も考慮した最終的な負担増加額は年8.5兆円を大きく上回った可能性が高い。

 また、前回2014年の3%の引き上げは、それだけで年8.2兆円の負担増となり、給付措置や住宅ローン減税などの負担減を考慮しても、直接的には年8.0兆円の大きな負担増と計算されている。こちらも増税以降に個人消費のトレンドが大きく落ち込んでしまっており、所得の押し下げも含めた最終的な負担増加額は年8.0兆円以上と推察される。

 これに対し、2019年10月の消費増税の負担額は、軽減税率を導入せずに税率が10%に引き上げられると、直接的には家計負担が5.7兆円増えることになる。また、昨年度実施したたばこ税や所得税の見直しなどによる財源確保でも、家計負担が0.3兆円増えることになる。

 しかし、酒類・外食を除く食料を軽減税率の対象品目とした場合、1.1兆円の負担減となる。また、全世代型の社会保障制度の転換に向け、2.4兆円を幼児教育の無償化や社会保障の充実に活用することになっている。ここに、消費税率引き上げに対応した新たな対策として臨時・特別の予算措置が加わるが、恒久的な家計の直接的な負担額は年約2.5兆円にとどまることになる。

 なお、臨時、特別の予算措置となる(1)中小小売業等に関する消費者へのポイント還元の0.3兆円、(2)低所得・子育て世帯向けプレミアム付商品券の0.2兆円、(3)住宅の購入者等への支援の0.2兆円などの対策も加味すれば、短期的な家計の負担増加額はさらに少なくなる。また、家計負担には直接影響しないが、重要インフラの緊急点検等を踏まえた「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」に基づき2020年度までの3年間で集中的に実施するため、その対策が発動されている間の増税効果はかなり少なくなるだろう。(第195話に続きます)

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第193話)

第193話:2019年の海外経済リスク

 トランプ政権の政策運営は2019年もリスクとなろう。減税や保護主義等によりインフレ率が加速すれば、FRBが物価の安定のために利上げを急がざるを得なくなり、中立水準を上回る金利上昇により米国経済が景気後退に陥る可能性もある。そうなれば、日本経済も後退を余儀なくされるだろう。

 更に、新興国経済も重荷となる。特に新興国の民間非金融法人の債務残高/GDPはリーマンショック以降、過去にないほど膨張しているため、米国資金の本国還流などにより、経常赤字の新興国が経済危機や通貨危機に陥るようなことになれば、日本経済への悪影響も無視できないことになろう。

 以上のように、2019年も引き続き海外経済には注意が必要となろう。最大の注目は、米国のねじれ議会の誕生である。トランプ氏の経済政策は、減税やインフラ投資をはじめとした財政政策の計画があったが、ねじれ議会ではこの法案が通りにくくなることが予想される。このため、財政悪化に伴う米国の長期金利上昇リスクは軽減したといえるだろう。

 一方でトランプ氏は2020年の大統領選で再選を目指しているが、財政政策で有権者にアピールしにくくなるため、外交や通商政策でのアピールを強めることが予想される。特に、通商政策は大統領権限を発揮しやすい分野であり、議会の制御が効きにくいという意味では、更なる保護主義化のリスクは小さくない。従って、外交や通商政策において、トランプ氏がどこまで過激な大統領令を発動してくるかも焦点となろう。

 日本経済への影響としては、自動車の追加関税発動等で対米貿易黒字の大幅縮小を余儀なくされれば、経済成長率がかなり押し下げられることになろう。また、中東やロシア等の産油国等に対して更なる経済制裁の強化が実行されれば、原油価格の上昇を通じて日本経済にも悪影響が波及する可能性もある。

 欧州でも、政治の波乱要因が目白押しである。いずれの国でも反EU的な世論の勢いが増しており、欧州政治不安への懸念が燻っている。英国ではブレグジット交渉が内憂外患となっており、ブレグジットを巡って英国保守党内でも意見が対立している。こうした英国の不確実性上昇は円高ポンド安要因となろう。

 ユーロ圏でも、ドイツのメルケル首相の求心力低下や、イタリアの2019年度予算案を巡る財政赤字拡大懸念でイタリア国債利回りが急騰している中、ECB(欧州中央銀行)は量的緩和政策を2018年内で終了することを決定している。

 したがって、こうした欧米政治の不確実性の高まりが、日本企業のセンチメント悪化を通じて、2019年の賃上げ抑制や設備投資先送り等から日本経済の下押し要因になりうることが懸念される。また、今後のトランプ氏の言動や欧州政局次第では、中国をはじめとした新興国経済が大きく悪化するリスクもあることには注意が必要だろう。(第194話に続きます)

永濱 利廣 氏

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