エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第215話)

第215話:他の景気指標と乖離するGDP

 今年1-3月期において、日本の代表的な景気指標であるGDPと日銀短観や景気動向指数が逆の動きをしている。これまで短観の業況判断指数(全規模全産業、以下DI)や景気動向指数(一致CI)が悪化するときは、おおむね実質GDPも縮小してきた。しかし、今年1-3月期は日銀短観の業況判断指数や景気動向指数の一致CIが大幅に悪化したのに対して、実質GDPは拡大した。

 このように、経済成長率が他の景気指標と反対の動きをすることから、GDPによる景気判断が困難になっている。

 この背景には、GDP統計の、①国内需要の悪化に伴う輸入の落ち込みがGDPの押し上げ要因になる、②国内需要の悪化による在庫の積み上がりもGDPの押上げ要因になる、等の点が景気実感との乖離をもたらすからだ。

 GDP速報では、国内で生み出された付加価値を把握するために、最終需要から輸入を控除して計算される。

 こうした輸入の割合は、米国GDPではこの10年間で▲2.0%ポイントも低下し、影響は縮小している。逆に日本では、その割合が1.2ポイントも拡大している。特に、東日本大震災の原発事故で化石燃料の輸入拡大を余儀なくされた2011年と、アベノミクスで極端な円高が是正された2013年に大きく拡大していることがわかる。さらに長期に見れば、2000年代後半以降のGDPは生産拠点の海外移転などに伴う輸入の増加により抑制されており、これがGDPによる景気判断を困難にしている。

 また、国内で生み出された付加価値を集計したGDPから在庫変動を除いたものが最終需要であるが、こうした生産と需要の乖離もGDPによる景気判断を困難にしている。在庫変動とは、例えば企業が製品を作りすぎて売れない場合でも、在庫として積みあがれば国内で付加価値が生み出されたとみなす項目である。従って、景気が悪くてその製品が売れなくても、GDPにはその分付加価値額として計上される。

 しかし、現実には売れない製品の生産が増加して景気が良いと認識する国民はどれだけいるだろうか。それどころか、その期に製品が売れ残った製品は、翌期以降の生産を抑制する要因となる。従って、在庫変動も含んだGDPは最終需要と乖離が生じ、景気実感と合わない一因となっている。内閣府も、GDP速報の中で、参考として最終需要の動向も示しているが、利用者の注目度は低いままだ。

 以上の理由から、GDP統計で示される経済成長率と景気動向には大きなギャップがある。実際、1-3月期の実質GDPは2次速報段階で年率+2.2%成長となっているが、輸入と在庫変動を除去すると、年率▲1.2%と大幅マイナス成長に転じる。つまり、輸入と在庫変動を除いた方が他の景気指標と連動性が高まることになる。(第216話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第95話)

第95話:GDPの問題点と改革案

 多くの民間エコノミストは、GDP速報の問題点として1次速報から2次速報への改訂幅の大きさを挙げている。実際、一次速報から二次速報への改定幅の大きさを確認すると、実質GDP成長率のかい離幅は2002年以降の平均で0.8ポイントとなる。特に、2014年7-9月期は一次速報と二次速報で成長率の符号が逆転した。この時は2014年4-6月期がマイナス成長であったため、二期連続マイナス成長を景気後退の定義とするテクニカルリセッションとなるか否かのタイミングだった。その時点で成長率の符号が逆転したことが、市場関係者の不満をより高めている。現行の推計方法に基づくGDP速報は景気判断を行う指標として重大な欠陥を抱えているといわざるを得ない。

 こうしたかい離の主因は、2次速報で法人企業統計季報の情報が加わることで、設備投資と民間在庫の推計値が大幅に修正されることである。そもそも法人企業統計は、資本金一億円未満の抽出率が低く回答率にもばらつきがあるため、中堅・中小企業に関するデータが不安定であり、サンプル替えの際に調査結果に連続性が損なわれることや、公表時期が遅いという問題がある。この背景には、資本金1000万円以上の営利法人における財務諸表を広範に調査していることがあろう。

 家計調査の改善策としては、今後はよりマクロの消費動向をとらえやすくすべく、例えば調査項目を限定してサンプルを拡大した家計消費状況調査をメイン指標とし、家計調査をサブ指標として取り扱うことが考えられよう。総務省は2001年10月より約3万世帯を調査対象とした大サンプルの高額商品購入調査として『家計消費状況調査』を開始し、2002 年から公表している。これは、調査項目を高額商品・サービスへの支出やIT 関連消費支出に限定する代わりに調査世帯を拡充することにより、消費動向を安定的にとらえることを目的としている。市場での認知度は低いが、日本銀行等では個人消費の需要側の統計として家計調査よりも消費の実態を表していると見ており、家計消費状況調査を重視している。しかし、家計消費状況調査がGDPの個人消費の推計に反映されるのはごく一部であり、かなりの部分は家計調査が使われることからすれば、GDPの実態も統計から乖離している可能性があるといえる。従って、GDP速報の推計についても、もし需要側からの推計を継続するのであれば、統計精度の維持・向上を図る観点から可能な限り家計消費状況調査の結果を活用する等の改善策を検討すべきである。このように、個人消費の実勢を判断するには、家計調査よりもサンプル数が多く安定的な動きをする家計消費状況調査をメイン指標として見ることが重要といえる。ただ、問題なのは、調査対象世帯が多くデータ収集にも時間を要する等の理由から、速報の公表時期が当該月の翌々月上旬と遅い。このため、現在の当該月の翌月下旬となっている家計調査の公表時期を遅らせる等して、家計消費状況調査の公表を現在の家計調査並に早めるべきであろう。更に、家計消費状況調査については、実質値や季節調整値が無い等、データが充実しておらず、消費のメイン指標としては物足りない。従って、メイン指標とするにはデータを拡充することが求められよう。(第96話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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