エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第161話)

第161話:日銀の「ステルステーパリング」が家計や為替に与える影響

 日銀が公表する「マネーストック」は、金融機関以外の企業や個人等が保有している通貨を合計した統計であり、物価と並んで実体経済の状態を示す指標とされている。しかし、近年は実体経済との関係が不安定となっている。

 マネーストックの中で最も代表的な統計は「M2」である。これは、現金と要求払預金を示すM1に、定期性預金と外貨預金と譲渡性預金を合わせたものである。そして、M2に金融債、銀行発行普通社債、金銭信託、その他の金融商品等を加えたものが「広義流動性」と呼ばれる。

 2017年度の後半以降はM2も広義流動性もマネタリーベースの伸び鈍化により鈍化傾向にある。これは、日銀がステルステーパリング(中央銀行が密かに量的金融緩和を縮小)を行っていることにより、マネタリーベースの伸びの鈍化がマネーストックに波及していることを示す。ステルステーパリング前の2016年はチャイナショックや英国の国民投票リスクを意識してリスク性資産から現預金へのシフトが見られ、M1の伸びは加速したが、2017年以降はM2や広義流動性の伸びが鈍化する中でもM1の伸びが減速している。このように、実体経済が減速感の兆しを強める中、資金取引を包括的にとらえるマネーストックの先行きにも不透明感が漂っていることは、日本経済の先行き懸念材料の一つである。

 一方、外国為替相場は、短期的には国際貿易や資本・金融取引から生じる外国為替取引の需給関係によって決まる。国際貿易では輸出でドル建てのもうけが出れば円に換えようとするため、円の需要が増え円高圧力が高まる。

 しかし、近年では国際貿易より国際的な資本・金融取引の規模が拡大し、影響力を増している。そうした取引は投資した資金から将来どれだけの収益が上がるかに基づいて行われ、金利の低い国から高い国へ資金が流れやすい。このため、為替相場は自国と外国のインフレ率を加味した実質金利の差の影響を強く受ける。

 実際、日米間の金利差と為替相場の動向を見ると、2013年以降は金利差の拡大で、円安・ドル高に進んでいる。しかし、2014年の後半以降は金利差が縮小したが、日銀が量的緩和政策を強化したため、円安ドル高となった。その後、2015年半ば以降からチャイナショック等により金利差見合いで割安だった円が増価し、2016年秋の米国大統領選挙を受けた金利差拡大でドル高円安に進んだが、足元ではトランプ政権に対する不透明感の高まりなどで、金利差拡大する中での円高ドル安相場がもたらされている。

 各国通貨の交換比率である為替レートが注目されるもう一つの理由は貿易への影響である。円高になれば円建てで同じ価格でも輸出時にドルに直すと割高となり、輸出競争力が失われ、やがて景気の下押しにつながる。一方、円高には海外からの輸入品に対する購買力が拡大する恩恵があるが、日本は経常黒字国であり、円高は景気に悪影響を与えやすい。このように、為替相場は経済の動きを受けて変動する一方で、貿易や金融取引を通じて経済に影響を与えている。(第162話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第160話)

第160話:求められる機動的な財政政策

 足下の経済動向について、筆者は非常に危機感を抱いている。背景には、2月以降の株価の下落速度がアベノミクス以降で見ると非常に大きかったことがある。実際、2012年12月のアベノミクス以降の日経平均(月平均)の下落幅を大きい順に並べると、過去最大の下落幅を記録したのがチャイナショック第二弾であり、その次がチャイナショック第一弾となっている。実にその次が2013年6月のバーナンキショック後と今回の株価下落であり、非常に大きなマーケットの調整が起こったことがわかる。

 こうした状況は、既に実体経済にも影響が出ている。アベノミクスの根幹はいかに好循環で賃金を上げるかというところだが、そこに赤信号がともっている。今年の春闘の賃上げ率を見ると、金融システム不安で経済が大きく混乱した1998年以来の水準となりそうである。しかし、1998年度の名目賃金上昇率は一般労働者の所定内給与で+0.8%にとどまった。一方で、原油価格の上昇などにより今年の消費者物価指数の上昇率が1%程度となる可能性があることに加えて、働き方改革の影響もあり残業代収入が減っていることからすれば、今年の実質賃金は2年連続のマイナスの可能性もある。つまり、このまま放置しておくと、今年の日本経済は相当厳しいことになることが想定される。

 以上を勘案すると、日本経済が取り組むべき課題としては、需要刺激策が非常に重要だと考えられる。既に2017年度の補正予算という形で政策がまとめられているが、事業総額を見ると2.7兆円とアベノミクス以降最小規模にとどまっている。相対的に財政規律への配慮が見られる予算となっているが、2016度補正に比べて公共事業費は少なく、非常に力不足である。

 一方、公共事業について、よく建設現場で人手不足ということを言われてきたが、建設労働者の労働需給判断DIを見ると、不足感は緩和の方向にある。また、日銀がイールドカーブ・コントロールを導入している面からも、今、安倍政権始まって以来、最も機動的な財政政策の効果が出やすい時期になっていると考えられる。

 このため、公共事業も一定割合は増やす必要があろう。具体的には、特に介護施設や保育所の増設については昨年度の補正予算では不十分であるため、そうした方向性の増額も考えられるだろう。また、国内の空港整備や港湾インフラといった日本全体の国際競争力が増すような公共投資であれば、国民にも理解される可能性が高いと考えられる。

 さらには、数年前にトンネルが崩落した事故もあったように、老朽化インフラの整備も重要である。日本のインフラは50年以上前に建設されたものが多くを占めるため、老朽化インフラ整備については、本気で取り組めば甚大な需要が存在する。こうしたメニューを上手く取捨選択して、いかにワイズスペンディングという形ができるかが重要であろう。(第161話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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〇「クレジットカードの仕組み」「なぜカンタンにお金が借りられる?」「友だちとのお金の貸し借り」「ものの値段の決まり方」「バイト代や給料の仕組み」「お金がなくなったときどうすればいいのか」「お金を増やすことはできるのか」「無料はほんとうに得なのか?」「君たちもすでに税金を払っている」「修学旅行や部活にだって保険はある」など、中高生の日常に身近なことから「お金とのつきあいかた」を教える。

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第67話)

第67話:求められる財政政策②

 財政政策については、既に昨年度の補正予算という形で政策がまとめられており、このメニューについて全般的な方向性は一定の評価ができよう。ただ、事業総額を見ると3.5兆円にとどまっており、これは内閣府の試算によれば今年度のGDPを+0.4%程度押し上げるということになっているが、当研究所の計算によれば同+0.3%程度であり、非常に力不足である。このため、今後の財政政策の方向性としては、これをさらに拡充するという方向が良いのではないかと考えられる。

 一方、公共事業について、よく建設現場で人手不足ということを言われてきたが、建設労働者の労働需給判断DIを見ると、不足感は解消してきており、マイナス金利の面でも、今、安倍政権始まって以来、最も機動的な財政政策の効果が出やすい時期になっていると考えられる。

 このため、公共事業も一定割合は増やす必要があろう。具体的には、熊本地震復興を筆頭に、介護施設や保育所の増設の部分については昨年度の補正予算では不十分であるため、そうした方向性の増額も考えられるだろう。また、国内の空港整備や港湾インフラといった日本全体の国際競争力が増すような公共投資であれば、国民にも理解される可能性が高いと考えられる。

 さらには、数年前にトンネルが崩落した事故もあったように老朽化インフラの整備も重要である。日本のインフラは50年以上前に建っているものが多くを占めるため、老朽化インフラ整備については、本気で取り組めば甚大な需要が存在する。こうしたメニューを上手く取捨選択して、いかにワイズスペンディングという形ができるかが重要であろう。

 具体的に必要な規模については、1つ目安となるのは足下の需要不足である。去年の10-12月期時点で年換算8.6兆円となっているため、昨年の補正予算の規模も加味すれば最低でも5兆円規模は必要と考えられる。さらに、ESPフォーキャスト調査に基づくエコノミストの予測の平均成長率が実現した場合、今後の日本のGDPギャップがどうなるかを予測すると、消費増税が織り込まれているため一旦は駆け込み需要で縮小するも、その後は反動減でマイナス7兆円のデフレギャップに逆戻りすることになる。デフレ脱却を重視するのであれば、次の消費増税も織り込んだ形で日本経済を考えると、デフレ脱却は2017年度一杯までは厳しいことになる。逆にデフレ脱却よりも財政再建ということを前向きに打ち出すのであれば、消費増税という選択肢もある。このため、ここはどちらを重視するかによって消費増税を予定通り実施するか先送りするかの重要な決断になってくるのかと思われる。(第68話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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60分でわかる「マイナス金利」
第一生命経済研究所
首席エコノミスト:永濱利廣(監修)

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第66話)

第66話:求められる財政政策

 足下の経済動向について、筆者は非常に危機感を抱いている。背景には、年明け以降の株価の下落速度が歴史的に見ても非常に大きかったことがある。実際、過去2か月間のピークからボトムまでどの程度株が下がったかを下落速度が大きい順に並べ替えると、過去最速の下落速度を記録したのがリーマン・ショックであり、その次がバブル崩壊となる。実にその次が今回の年明け以降の株下落であり、2000年以降のITバブル崩壊を凌ぐ落ち込みという意味でも、非常に大きなマーケットの調整が起こったことがわかる。

 さらに1年前との比較で見ても、1年前の日経平均株価は、1万8,000円台から1万9,000円台へと、上昇基調にあった状況に対して、逆に今年は大きく値を下げたということで、真逆の動きになっている。

 こうした状況は、既に実体経済にも影響が出ている。事実、街角景気指数とされる景気ウォッチャー調査を見ると、現状・先行き判断DIとも8カ月連続で好不調の分かれ目となる50割れとなっている。時期的に見ても、チャイナショックを発端としたマーケットの去年の夏以降の混乱というのが大きく影響していることが推察される。

 また、経済成長率を見ても2015年10-12月期はマイナス成長となっている。更に、経済成長率は鉱工業生産の変化率と関係が深く、これを見ると生産計画ベースで1-3月期の鉱工業生産が前期比マイナスになっていることからすると、場合によっては経済成長率が2期連続でマイナス成長となる可能性もあり、非常に厳しい状況といえる。

 さらに厳しい状況としては、アベノミクスの根幹はいかに好循環で賃金を上げるかというところだが、そこに赤信号が灯っている。

 春闘の賃上げ率の先行指標として、労務行政研究所が2月初旬に公表した賃上げ率を見ると、去年よりも下がる予測になっているが、これは調査期間が去年12月から年明けの1月前半までだったことからすれば、恐らく実際の賃上げ率は更に下がる可能性が高いと考えられる。17年ぶりの水準まで賃上げ率が上がった去年でも、毎月勤労統計ベースの名目賃金上昇率が+0.1%だった。それよりも賃上げ率が今年下がるということは、今年の名目賃金はマイナスの可能性が高い。つまり、このまま放置しておくと、今年の日本経済は相当厳しいことになることが想定される。

 以上を勘案すると、年前半に取り組むべき課題としては、需要刺激策が非常に重要だと考えられる。先般のG20でも、国際協調によりこの世界経済の難局を乗り切るために、全ての政策手段を用いるという政策協調がされたこともあり、日本もこれにある程度追従すべきだと考えられる。(第67話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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