エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第162話)

第162話:景気拡大と財政再建の両立に大きな課題

 長期金利はマイナス金利の影響で2016年3月からはマイナスに沈んだが、その後は日銀のイールドカーブ・コントロール導入により2016年12月からプラスに転じた後、現在は+0.0%台の水準にある。

 2016年9月から長期金利が上昇したのは、日銀がイールドカーブ・コントロールを導入したことと、トランプラリー等により景気が回復しそうだとの観測を反映した面が大きい。基本的に景気が良くなる期待が高まれば、物価上昇期待も高まり、金融緩和の出口の可能性が出てくるため、長期金利の上昇要因となる。

 ただ、近年では日銀のイールドカーブ・コントロール導入により日本と海外の間で長期金利の連動性が低下しており、海外の金利が国内の長期金利に及ぼす影響が小さくなっている。こうしたイールドカーブ・コントロールの枠組みは、世界経済が良いときは緩和効果が増幅されるが、世界経済が悪いときは金融引き締め効果にもなりうるため、金融緩和の効果を見通す上で海外の景気や物価、金利動向などの注視が必要だ。

 こうした中、日本の財政は深刻な状況にあるといわれている。経済協力開発機構(OECD)によれば、日本における一般政府(国と地方自治体など)の債務残高は名目国内総生産(GDP)比で200%を超え、主要先進国中で最大である。時系列で見ると、リーマンショックに伴う世界金融危機とともに急速に膨れ上がったことがわかる。

 ただ、新規国債発行額は2013年度以降減少に転じ、2018年度には33.7兆円まで低下する見込みだ。これは歳入面で企業収益増加により法人税収入が大幅に増えて税収が増加したことに加え、歳出面では社会保障の効率化効果が表れたためである。

 財政破綻を回避するには、名目GDP比で上昇が続く政府債務残高の持続的な上昇を止める必要があり、政府は2025年度に国と地方の基礎的財政収支の黒字化目標を先延ばした。基礎的財政収支とは、債務返済や利払い費を除いた歳出と、国債などの借金を除いた歳入との収支を指す。

基礎的財政収支が均衡すれば、その年の政策に必要な経費を税収で賄え、必要な公債発行は過去の債務の元利払いに充てる分だけになる。さらに名目GDP成長率と債務の名目金利の水準が等しくなれば、債務残高はGDP比で一定となる。

 2018年度の国と地方を合わせた基礎的財政収支は当初予算ベースで約10兆4000億円の赤字となっている。これをもって、日本の財政は依然永続的に維持できる状況になく、赤字解消のために歳出削減や増税が必要であるとする向きもある。ただ、歳出削減や増税は景気を抑制する効果があり、現在のように先行き不透明感が高まっている中での増税は、税の大幅な自然減収に結びつく可能性もある。

 事実、日本は橋本政権時の1997年に景気が底割れし、増税にもかかわらず財政構造改革自体が頓挫した経験を持つ。同じ過ちを繰り返さないためにも、政府は景気動向を慎重に判断し、景気拡大と財政再建が両立するような政策運営が求められる。(第163話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第128話)

第128話:財政再建による景気回復は望み薄

 日本政府の借金がどれだけ深刻な状況にあるかを考えてみよう。国際通貨基金(IMF)によれば、日本における一般政府(国と地方自治体等)の借金残高は、2016年に名目国内総生産(GDP)の2.5倍に上り、主要先進国中で最大である。しかし、2015年には一時的に低下しており、アベノミクス以降の債務残高/GDPは、実は上昇ペースが急速に低下している。

 財政赤字は政府の借金の増加分を示すが、これも2016年時点で名目GDP比4.5%まで縮小し、米国の同5.0%を上回ることでG7諸国の中で最悪のポジションから脱出している。これは、政府の財政問題は景気が良い時に改善しやすいということを示している。

 まず、なぜ財政赤字が減ったかを見ていこう。2016年における政府の財政赤字/GDPは4.5%であった。アベノミクス始動前の2012年は8.1%であったことからすれば、この4年間で財政赤字/GDPは45%近く減っていたことがわかる。

 背景には、2014年4月の消費税率引き上げにより消費税収が増加したこともあったが、それ以上に異常な円高・株安の是正に伴う企業収益の拡大により法人税収が増えたことや、資産価格の上昇を背景とする金融・土地取引関連の税収増による影響が大きかった。

 つまり、財政赤字/GDPが改善したのは、アベノミクスによる景気回復により歳入が増えた要因が大きい。また、税収がより顕著に増えた裏側には、税務上の損失繰り延べ期限を迎えた企業が多かったこと等により、企業が利益に見合った税金を払うようになったこともある。これが、この時期に税収が大きく押し上げられた理由である。

財政危機を回避するためには、政府債務/GDPの上昇を食い止める必要がある。つまり、政府債務/GDPの持続的上昇を食い止めれば、財政の安定化が進むことになる。そして、この問題については、基礎的財政(プライマリー)収支、つまり財政赤字から純利払い費を除いた考え方が必要となる。要するに、債務返済や利払い費を除いた歳出と、国債などの借金を除いた歳入との収支が重要である。

 基礎的財政収支が均衡すれば、その年の政策に必要な経費を税収で賄え、必要な公債発行は過去の債務の元利払いに充てる分だけになる。そして、名目GDP成長率と債務の利回りの水準が等しくなれば、債務残高はGDP比で一定となる。こうした理論的背景もあり、政府は2020年度初頭に国と地方の基礎的財政収支を黒字に転換することを目標にしてきたのである。従って、債務の利回りの水準が名目GDP成長率を下回れば、基礎的財政収支を必ずしも黒字にしなくても、債務残高/GDPの上昇は食い止められるといえよう。

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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