エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第142話)

第142話:国内設備投資よりも海外展開

 「キャッシュフロー」とは、簡便的には当期利益の内部留保分に減価償却を加えたものであり、こちらも設備投資と密接な関係がある。この考え方は、学問的にも実務的にも定着している。分かりやすく言えば、「キャッシュフロー」とは、企業活動の中で獲得した正味の現金収支であり、企業が自ら獲得した資金となる。そして、仮にキャッシュフローと外部からの調達資金にコスト差が無ければ、設備投資はキャッシュフローの動向に大きく影響を受けないはずである。しかし、キャッシュフローと外部資金にコスト差が生じれば、設備投資が相対的に低コストであるキャッシュフローに影響されることになる。この外部資金のコスト差の部分は「エージェンシーコスト」と呼ばれる。ここでのエージェンシーとは、外部資金提供者(依頼人)と企業(代理人)の関係として整理することができるが、外部資金は企業内部に発生するキャッシュフローに比べて「エージェンシーコスト」がかかる分だけ割高となる。実務面でも、企業が設備投資計画を策定する際には、キャッシュフローの見込額をまず想定する。そして、足りない部分を銀行借り入れや資本市場からの調達等で賄うという資金計画を立てる。事実、キャッシュフローと設備投資との長期的関係を見ても、キャッシュフローと設備投資は総じて連動してきたことが見て取れる。しかし、設備投資とキャッシュフローとの相対関係は、年代によって変化してきた。

 設備投資がキャッシュフローを上回る場合は、外部からの資金調達に依存する。このため、総じて80年代後半から90年代前半に掛けては、企業による資金調達が活発であったことが分かる。その後、90年代後半以降はキャッシュフローに連動して推移したが、98年以降は両者の差が拡大し、設備投資はキャッシュフローを下回っている。この背景には、企業が過剰設備や過剰債務の処理に追われたことがある。これは、期待収益率の低い設備投資よりも、デフレで実質的な負担が高まる有利子負債の返済にお金を使ったほうが有利だったということだろう。

 一方、2003年以降は企業の期待収益率が高まったが、キャッシュフローの水準を鑑みれば、設備投資は依然として抑制傾向にあった。これには経済のグローバル化が関係している。つまり、日本企業が国内設備投資のみならず、海外への設備投資やM&Aといった資金の使い道も視野に入れてきたことが影響している。これらにあたって企業が焦点を当てたのは、生産立地としての新興国の人件費の安さだけでなく、経済連携協定締結において日本が他のアジア諸国に遅れをとってきた中、地域での販売市場の開拓に注力してきたこともある。この裏づけとして、経済産業省の「海外事業活動基本調査」から、製造業の海外生産比率の推移がわかる。これによれば、リーマンショックで急速な円高が進行した2009年度以降の海外生産比率は上昇を続けており、直近の2015年度時点では25.3%まで上昇している。更に、これを海外進出企業だけで見れば、海外生産比率は38.9%まで上昇している。従って、企業活動のグローバル化は今後も進展する可能性が高く、国内設備投資がキャッシュフローの範囲内で賄われる状況は今後も続くことになるだろう。(第143話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第141話)

第141話:設備投資こそが経済成長の原動力

 国内総生産(GDP)最大の需要項目である個人消費は、日本のGDPの6割弱を占めることから、経済成長を大きく左右する。しかし、家計所得の水準が下方屈折した1998年以降の個人消費は、伸びてもせいぜい年+1%台であり、リーマンショック後の落ち込みでも年▲2%台と変動幅が小さいことが特徴である。これに対して、設備投資はGDPの15%程度と個人消費と比べて規模は小さいわけだが、変動幅が大きいことから、景気への影響力も大きいという特徴がある。

 それによって、『景気循環の原動力はむしろ設備投資』という見方が浮かび上がる。したがって、市場関係者の多くは、昔からこのように考えて景気を判断している。経済学者の考え方も同じである。

 GDPにおける設備投資は、正式には「民間企業設備」と呼ばれている。これは企業が製品やサービスを提供するために購入する機械や建築物、ソフトウェアなどが該当する。そして、設備投資の動向を捉えるにあたって、極めて重要性の高い二つの要素がある。

 最初に取り上げる視点は企業の期待収益率から見る「投資採算」である。これは、投資する資本を上回る収益が得られるかどうかということである。つまり、設備投資は投資による期待収益とコストの関係を企業がどう見るかに依存する。企業が投資コストに見合う収益が期待できると判断すれば、設備投資を増やして生産能力を増強する。逆に、景気の悪化で設備が過剰になると判断すれば、設備投資は抑制される。また、市中の金利が低くなると、それだけ企業の資金調達コストが縮小することから、金利の低下は設備投資の刺激要因となり、逆に企業の期待収益率を上回る金利上昇は、投資採算の悪化を通じて設備投資の抑制要因となる。

 一方、マクロ経済の視点から見る「投資採算」は、実物資産の収益性と金利の差分として定義される。そして、これは企業が実物投資か金融資産投資かの選択を行う際に重要な意味を持つ。

 実物資産の収益率が金利に比べて十分高い水準にある場合は、設備投資が増加基調を示し、逆の場合は減少に転じると考えられている。事実、2000年代後半までは設備投資の増減率とマクロ経済の視点から見るこの投資採算との間には、総じて密接な関係が観察されてきた。しかし、2010年代以降は、金利の低下と実物資産の収益率の上昇から投資採算は上昇したが、設備投資は投資採算の伸びほどは伸びていない。

 そのヒントは、内閣府の「企業行動に関するアンケート調査」に隠されている。この調査では、上場企業の中期的な経済成長率見通しを集計している。これによれば、企業による我が国経済の先行き見通しは、2010年代半ばにかけて厳しさを増していたことがわかる。つまり、いくら現状の実物資産の収益率が上昇しても、企業の期待成長率が上昇しなかったのである。結局は、金利は低水準でも、企業が我が国経済の見通しに楽観的になっていないことが、設備投資の伸び悩みの背景の一つにある。(第142話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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