エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第184話)

第184話:2019年経済界展望

 2019年の景気を占う上では消費税率の引き上げが大きなカギを握るだろう。特に、耐久財の買い替えサイクルに伴う需要効果は大きいと思われる。なぜなら、内閣府の消費動向調査によれば、テレビと新車の平均使用年数は9年強となっている。

 テレビや新車の販売は2014年4月の消費税率引き上げ前に駆け込み需要で盛り上がったが、更に前に遡ると、2009~2010年度かけてはそれ以上に販売が盛り上がった。背景には、リーマンショック後の景気悪化を受けて、麻生政権下でエコカー補助金や家電エコポイント政策が打ち出されたことがある。これで、自動車やエコポイントの対象となったテレビ、冷蔵庫、エアコンの駆け込み需要が発生しており、2019年はそこから9年を経過していることに加え、10月に消費税率の引き上げを控えていることから、その時に販売された家電や自動車の買い替え需要が期待される。

 特にテレビに関しては、2011年7月の地デジ化に向けて多くの世帯で買い替えが進んだため、買い替え需要はかなりあることが期待される。2020年に東京五輪が控えていることも、買い替え需要の顕在化を後押しする可能性があるだろう。なお、2019年の新天皇の即位に伴って、同年のゴールデンウィークが10連休となる可能性もある。もしこれが実施されれば、レジャーや観光関連市場でも特需が発生する可能性があろう。

 なお、今回の消費税率引き上げのマクロ的な負担増加額は、引き上げ幅が2%にとどまることに加え、軽減税率導入や子育て世帯への還付などもあるため、前回8兆円/年の約四分の一の2.2兆円/年にとどまることになる。それでも、恒久的な負担増になるため、消費増税後の景気悪化は避けられないだろう。また、2018年の建設投資をけん引した東京五輪特需も、過去の経験則を踏まえれば、その勢いのピークは五輪開催1年前の2019年夏ごろに訪れる可能性がある。

 また、来春の統一地方選や夏の参議院選挙の結果次第で第三次安倍政権の政権基盤の揺らぎが生じることになれば、マーケット環境の悪化を通じて日本経済に悪影響を及ぼすリスクもあろう。日本株の売買は6割以上が外国人投資家であり、安倍政権の政権基盤が盤石なほど、外国人投資家が日本株を保有しやすくなり、基盤が揺らぐほど手放されやすくなる。したがって、来年夏の参議院選挙の行方次第では、アベノミクスが終了する可能性もあり、そうなれば日本経済も後退を余儀なくされるだろう。

 トランプ政権の政策運営もリスクだろう。減税や保護主義等によりインフレ率が加速すれば、FRBが物価の安定のために利上げを急がざるを得なくなり、中立水準を上回る金利上昇により米国経済が景気後退に陥る可能性もあろう。

 また、新興国経済もリスクである。特に新興国の民間非金融法人の債務残高/GDPは過去にないほど膨張しているため、米国資金の本国還流などにより、経常赤字の新興国が経済危機や通貨危機に陥るようなことになれば、日本経済への悪影響も無視できないことになろう。(第185話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第183話)

第183話:消費税率引き上げで1年目の経済成長率を▲0.7%程度押し下げ

 内閣府のマクロ計量モデルの乗数をもとに、消費税率引き上げが経済成長率に及ぼす影響を試算すれば、前回は駆け込み需要により2013年度の成長率が+0.7%ポイント引き上げられた一方で2014年度の経済成長率は▲1.4%ポイントも押し下げられたと試算される。同様に次回の影響も試算すれば、前の年は駆け込み需要により+0.4%ポイント経済成長率を押し上げるが、消費税率を引き上げてから1年の経済成長率は、子育て還付の+0.08%ポイント押し下げを加味しても▲0.7%ポイントも押し下げると試算される。従って、外部環境にもよるが、無防備で消費税率を引き上げれば相当景気腰折れの可能性が高まるだろう。

 なお、軽減税率導入となると、IT関連業界への直接的な恩恵となるが、事業所などの会計システム変更を余儀なくされることが想定されるため、その分の一時的な負担も考慮しなければならない。また、本試算では内閣府のマクロ計量モデルの乗数を用いているため、子育て世帯還付の効果は平均的な所得減税の効果となっている。しかし、相対的に子育て世帯の限界消費性向が平均値より高くなれば、それだけGDP押し上げ効果も変わる可能性があることには注意が必要だろう。

 今後の消費税率引き上げにおける課題としては、まずデフレ脱却への影響が指摘できる。理由としては、既に内閣府が試算するGDPギャップはプラスだが、日本経済研究センターのESPフォーキャスト調査に基づけば、フォーキャスターのコンセンサス通りに成長した場合は、2019年10月から消費税率を引き上げることで再度デフレギャップが生じてしまうためである。特に、2014年4月に消費税率を引き上げた際も、引き上げ直前にデフレギャップが一時的に解消したものの、消費税率引き上げ直後に安倍政権発足以前の水準までデフレギャップが逆戻りしてしまった経緯がある。

 また、前回の消費税率引き上げの影響を勘案すると、安定的な財源が確保されることにより税収増が期待できる一方で、家計の恒常的な購買力低下で内需への影響が大きいという声もある。従って、前回2014年の消費税率引き上げでは家計向けの支援策が0.7兆円弱にとどまったことからすれば、家計向けの支援策等、ある程度の規模の予算を配分した対策は不可欠であると思われる。一方で、将来のさらなる消費税率引き上げ幅を抑制する意味でも、社会保障の効率化も必要な策といえる。

 将来的にも、更なる消費増税を実施しても生活必需性の高い軽減税率の引き下げを併用すれば、その後の消費増税も実施しやすくなるが、逆に負担軽減策をおろそかにして国民の不満を高めてしまうとその後の消費増税が政治的に困難になるだろう。将来の消費税率引き上げを確実なものにするという意味でも、経済のパイが拡大する中での家計負担軽減策は不可決であると考えられる。(第184話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第176話)

第176話:経済が正常化する前に日銀が金融緩和の出口に向かう可能性

 先進国間での経済正常化には時間差がある。IMFが公表する先進国のGDPギャップの見通しによれば、米国は既に2017年に需給ギャップが解消されているが、ユーロ圏は2018年に解消することになっている。一方、日本は2020年代半ばに遅れることに鑑みれば、日本は今後も相対的に低インフレ低金利の長期化をイメージさせるものとなっている。

 しかし、この解釈には注意が必要だ。なぜなら、IMFのGDPギャップがプラスになるまで金融政策の出口に向かわないわけではないからである。したがって、このようにGDPギャップが推移しても、日本の金融政策も財政政策も制約されるとは限らないだろう。

 つまり、米国のようにIMFのGDPギャップがマイナスの局面であっても金融引き締め的政策を取る可能性が十分にあると解釈することが出来る。実際、日本のマネタリーベースの増加ペースはすでに2017年から縮小方向にある。

 また海外を見ても、必ずしもインフレ目標を達成するまで緩和を続けているわけではない。米国がインフレ目標2%に到達する前にテーパリングを進めた時期は2014年1月~10月であり、2015年12月から利上げを実施している。

 その間のPCEコアデフレーターのインフレ率は一度たりとも2%に到達しておらず、インフレ目標に対して柔軟に対応している。つまり、日銀も円安の進行などをきっかけに金融政策の正常化に向けた動きが強まる可能性が十分にある。

 金融・債務危機への対応と再発防止が進展したことによって、欧米は経済政策の正常化が進んでいる。このため、日本経済も欧米経済の正常化の動きを反映するだろう。

 更に、バブル崩壊後の長期停滞に陥っていた日本も、労働力人口の減少圧力が弱まる中で、デフレ均衡からの離陸が進みやすい環境にある。加えて2020年に向けて、東京五輪特需の相乗効果や海外経済の回復が期待される。

 この点を合わせて考えると、バブル崩壊によって低下した日本の潜在成長率はバブル崩壊前の水準には至らないが、2020年に向けて徐々に高まっていく見通しとなる。

 2020年代前半もデフレ圧力は完全に払拭されないものの、人口減少圧力緩和と海外経済に支えられて平均1%程度の経済成長を維持することが可能となるだろう。具体的には、アジアを中心としたインフラ需要や第四次産業革命、経済連携の進展などの押し上げ効果を期待することができるだろう。これは2020年代以降の経済成長率が人口動態の悪化ほどは減速しないことを意味する。

 しかし、一般的に各国の経済成長率は同国の人口動態に大きく左右される。今後の日本経済も人口動態に従うのであれば、日本の経済成長率については2020年代後半に人口減少圧力の拡大に下押しされて経済成長率が鈍化する可能性がある。そのため、将来を見据えた予防的な政策運営が求められるといえよう。(第177話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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