エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第137話)

第137話:企業業績≠日本経済の実力は当たり前

 21年ぶりの高値、史上初の16連騰――。記録的な上昇を演じる日経平均株価だが、その底流にあるのは、2013年度から最高益を続ける日本企業の好調な業績である。しかし、日本経済の実力を示すと言われる名目GDPは、企業業績ほどは伸びていない。これは、企業業績の拡大が海外経済によってもたらされていることが背景にある。一方、企業が獲得した儲けを国内設備投資や人件費に使う割合も低下傾向にある。この背景には、いわゆるキャッシュフローの使い道が海外投資や内外のM&A優先になっていることがある。

 実は、こうした構造変化が、企業の利益からも見えてくる。財務省『法人企業統計季報』では、二種類の利益が公表されている。一つは、企業の本業から生み出した利益を示す『営業利益』であり、売上高から売上原価や販売費、一般管理費を差し引いて算出される。一方、ここでは本業以外の日常的に発生する損益は含まれていない。企業経営では本業以外にも、支払利息や受取利息、その他の営業外損益などの損益が発生する。そこで、営業利益にこれら本業以外の損益を加えた利益が『経常利益』であり、日常的な企業活動から生まれる利益として重視されている。これが、法人企業統計季報で公表される利益である。

 利益獲得を目指す企業活動が経済環境に大きく左右されるということは、当たり前の話である。例えば、海外需要が拡大すれば、輸出産業の利益は増加する。また、資源価格が上昇すれば、原材料コストが上昇して多くの企業で利益悪化要因となるが、資源高は資源国に対する輸出などで恩恵を受けることもある。一方、所得環境が悪化すれば、内需関連の商品やサービスを取り扱う業種の利益は低迷することが多くなる。為替相場の変動も、輸出入金額の変化を通じて利益に影響を及ぼす。

 実は、このように日本企業の利益構造にも、2000年代半ば以降、特徴的な変化が起きている。財務省の「法人企業統計季報」を見ると、統計が開始された1955年度以降は常に営業利益は経常利益を上回っていた。それが、2004年度から法人企業の経常利益(除く金融)が営業利益を上回っている。

 この背景には、金利の低下や債務削減による支払利息の減少もある。しかし、それ以上に海外子会社からの配当や特許権使用料の増加が影響している。このことは、日本企業の海外事業の収益性が向上し、海外現地法人で稼いだ利益の国内への還流が拡大していることに他ならない。

 国内で人口減少や少子高齢化が続くことを考えると、将来的にも日本企業がグローバル化を進めることは避けられず、今後も経常利益が営業利益を上回る関係は続く可能性が高い。これが、日本企業の単体で見たときの収益構造の変化である。(第138話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第136話)

第136話:米景気と五輪効果の持続性

 2017年は欧米経済が好調だったといえる。特にユーロ圏は、フランス大統領選で親EU派マクロン氏当選等による政治的不安の後退で製造業の景況感が6年ぶりの水準まで上昇している。米国の製造業景況感指数も6年ぶりの水準まで上昇しており、景気は底堅いと言える。これを受けて、日本も欧米に比べてペースが緩いが、景気は拡大している。不動産市場を中心に警戒された中国経済も、金融市場は引き締め方向に進んでおり、バブル崩壊リスクの軽減や、商品市況の安定などにより、実体経済も今のところ安定している。

 ただ、これまで世界経済が好調だったのも、アメリカ経済が長く拡大してきたからこそ続いてきた部分も大きい。アメリカ経済は景気が拡大を始めてから8年以上が経過している。しかし、過去のアメリカの景気回復期間の平均は5年程度であることからすれば、そろそろアメリカ経済も景気回復の終盤に差し掛かっている可能性がある。当然、アメリカも景気後退期に入れば金融緩和の方向に向かうため、ドル安円高により株価が下落し、日本経済の足かせになる可能性があるだろう。

 実は、近年のアメリカの景気循環には法則がある。アメリカのGDPギャップのデータによれば、需要が供給能力を上振れすると物価が上がるため、FRBがインフレの加速を抑えるために金融引締めを強化することにより景気後退に入っている。リーマンショックで大変な需要不足が生じたため、8年間景気回復が続いてもGDPギャップは依然としてマイナスである。しかし、2018年に減税やインフラ投資の効果が出現すれば、需要が刺激されることになるため、需要が供給を上回ることになり、その後の金融引き締めにより、早ければ2019年頃にアメリカ経済が景気後退に入ってもおかしくないという見方もできる。

 日本経済を考えても、オリンピック効果は主に建設投資であり、ピークは開催年の1年前の2019年に訪れる可能性が高い。更に、2019年10月に消費増税も予定されているが、本当に上げられるのか分からない。ただ、景気に関係なく消費税を上げてしまう可能性もあり、これが目先の日本経済の最大のリスクだと思われる。

 また、安倍政権の政権基盤の揺らぎがマーケットを通じて日本経済に悪影響を及ぼす可能性もある。日本株の売買は7割が外国人投資家であり、安倍政権の政権基盤が盤石なほど、外国人投資家が日本株を買い、基盤が揺らぐほど日本株は売られる。従って、2018年9月の自民党総裁選の行方次第では、アベノミクスが終了する可能性があり、そうなれば日本経済も後退を余儀なくされる可能性がある。

 アメリカ経済のリスクは引き続きトランプ政権の政策運営だろう。減税やインフラ投資により経済が良くなれば金利が上がってドル高になり、レパトリ(海外に投資されていた資金が本国に還流すること)により経常赤字の新興国が経済危機、通貨危機に陥る可能性もあろう。また、北朝鮮とアメリカの関係もリスクである。特に北朝鮮と日本は地理的に近いため、万一ミサイルにより国内で被害が出るようなことがあれは、経済へのマイナス影響が大きくなろう。(第137話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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