エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第242話)

第242話:原油高が日本経済に及ぼす影響

 米国とイランの対立激化により、原油価格が上昇している。昨年9月のフーシ派によるサウジアラビアの石油施設攻撃や、イスラエルがパレスチナやイランへ強硬姿勢を示していたこと等から中東情勢に対する懸念がくすぶる中、1月3日に米軍がイランの総司令官を殺害したことをきっかけに、ドバイ原油は年明け以降1バレル=60ドル台後半で推移し、前年比で2割近く上昇した。

 その後、1月8日にイラクの米軍駐留基地がイランから数十発の弾道ミサイル攻撃を受けたが、米国側に死傷者が出なかったこと等により、トランプ大統領はイランの抑制姿勢を指摘し、追加の武力行使を示唆しなかった。このため、更なる事態の悪化は避けられそうだが、これまでの原油価格上昇が経済活動に及ぼす影響が懸念される。

 原油価格が上昇すれば、企業の投入コストが上昇し、その一部が産出価格に転嫁されるため、変動費の増分が売上高の増分に対して大きいほど利益に対する悪影響が大きくなる。また、価格上昇が最終製品やサービスまで転嫁されれば、家計にとっても消費者物価の上昇を通じて実質購買力の低下をもたらす。そうすると、企業収益の売上面へも悪影響が及び、個人消費や設備投資を通じて経済成長率にも悪影響を及ぼす可能性がある。

 そこで、ドル建ての原油先物価格をみると、月平均のドバイ原油先物は昨年8月を大底に上昇基調にあり、今年1月までに+16.6%上昇している。一方、円も対ドルで昨年8月から1月までに▲1.8%減価(円安)しており、交差項の影響も含めれば、円建てドバイ原油先物価格はこの約5か月で+18.6%程度上昇したことになる。

 続いて、家計への影響を見ると、タイムラグを伴って消費者物価へ押し上げ圧力が強まることがわかる。事実、2006 年1月以降の原油価格と消費者物価の相関関係を調べると、円建てドバイ原油価格の+1%上昇は4か月後の消費者物価を約0.012%押し上げる関係がある。

 従って、円建てドバイ原油先物価格+18.6%上昇の影響としては、消費者物価を4か月後に18.6%×0.012%≒0.23%pt 程度押し上げる圧力となり、家計に負担が及ぶことになる。

 具体的な家計への負担額として、2018年度における二人以上世帯の月平均支出額約28.9万円(総務省「家計調査」)を基にすれば、0.23%pt の消費者物価の上昇は4ヵ月後の家計負担を28.9万円×0.23%≒651円/月程度、年額に換算すると7,810円以上増加させる計算になる。

 特に足元の個人消費に関しては、消費増税や冬のボーナス減等の影響により消費者心理は大きく低下しているが、東京五輪関連の特需発生等に伴い、夏場にかけて一時的に回復するかもしれない。しかし、今後の個人消費の動向を見通す上では、原油価格の高騰といったリスクが顕在化してきたことには注意が必要であろう。(第243話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第241話)

第241話:悪化が明確化する日本経済に暖冬が思わぬダメージ

 過去の冬場の気象の変化が家計消費全体にどのような影響を及ぼしたのかを見るべく、国民経済計算を用いて 10-12 月期の実質家計消費の前年比と全国平均の気温の前年差の関係を見ると、10-12 月期は気温が上昇した時に実質家計消費が減少するケースが多いことがわかる。従って、単純に家計消費と気温の関係だけを見れば、暖冬は家計消費全体にとっては押し下げ要因として作用することが示唆される。

 そこで1990年以降のデータを用いて、10-12月期の全国平均気温を説明変数に加えた実質消費関数を推計し、冬場の気温がマクロの家計消費に及ぼす影響を試算してみた。これによると、10-12 月期の実質家計消費と気温との間には、気温が+1℃上昇する毎に同時期の家計消費支出が▲0.6%程度押し下げられるという関係が見られる。これを金額に換算すれば、10-12 月期の平均気温が+1℃上昇すると、同時期の家計消費支出を約▲3,604億円(▲0.6%)、実質GDPを約▲2,514憶円(▲0.2%)程度それぞれ押し下げることになる。

 従って、この関係を用いて今年 10-12月期の気温が記録的高温となった2015年と同程度となった場合の影響を試算すれば、平均気温が平年比で+1.2℃上昇することにより、今年10-12月期の家計消費は平年並みだった時に比べて約▲4,306億円(▲0.7%)、実質GDPは約▲3,004億円(▲0.2%)程度それぞれ押し下げられることになる。このように、暖冬の影響は経済全体で見ても無視できないものといえる。

 なお、今回の試算では2015年並みの暖冬となったことを前提に試算しているが、今後も暖冬が続くとは限らない。しかし、実際に暖冬になれば、気象要因により家計の消費行動に大きな変化が及ぶことも十分に考えられる。

 2015 年の場合、前年の低温の反動や暖冬に加えて、チャイナショックに伴う株価の下落や消費マインドの低迷も手伝って、同年10-12月期の家計消費支出(除く帰属家賃)は前期比年率▲2.7%となり、同時期の経済成長率は前期比年率▲1.2%とマイナス成長に陥った。

 今回も、10-12月期は既に消費増税と台風の影響等により、経済成長率と関連が深い鉱工業生産指数は予測指数などを加味すると前期比▲4.6%となる。したがって、2月に公表となる2019年10-12月期の経済成長率も大幅なマイナス成長になる可能性が高い。

 以上の事実を勘案すれば、今後の気象動向次第では、悪化が明確になりつつある日本経済に暖冬が思わぬダメージを与える可能性も否定できないだろう。特に足元の個人消費に関しては、消費増税や自然災害等のマイナスの材料が目立っているが、今後の個人消費の動向を見通す上では、さらに暖冬といったリスク要因も潜んでいることには注意が必要であろう。(第242話に続きます)
 

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第240話)

第240話:経済活動を停滞させる暖冬

 今年度も昨年度に引き続き、今のところ暖冬となっている。気象庁が11月25日に公表した12月から2月までの3か月予報でも、1月にかけて気温は全国的に平年並みか高いと予想している。

 近年では、2015年に記録的な暖冬となり、北海道を除く北日本で平年より10日-14日以上遅い初雪・初冠雪、沖縄では12月に長期的な高温を観測した。また12月は日本国内のみならず、国外の多くで北半球最大規模の大暖冬となった。

 気象庁の発表によると、2015年10-12月期の全国平均の気温は前年より+1.2℃程度高くなった。この暖冬の影響で同時期の消費支出(家計調査)は前年比▲3.2%の減少に転じた。特に、被服履物が冬物衣料の売り上げが不調となったことから、同▲11.5%の落ち込みを記録した。また、交通関連を見ても、暖冬の影響は明確に表れた。同時期の交通・通信支出は暖冬の影響で冬のレジャーやタクシー利用が落ち込み、車関連でもスタッドレスタイヤ等の冬物商材が落ち込んだことで売り上げが低迷した。保険医療の支出動向も製薬関連が落ち込み、全体として低調に推移した。

 国民経済計算ベースで見ても、暖冬の影響が及んだ。2015年10-12月期の実質国内家計最終消費支出は前年比+0.3%と伸びが急速に鈍化し、家計調査同様に被服履物の支出額が大幅に減少した。また、冬のレジャーの低迷により娯楽・レジャー関連でも暖冬がブレーキとなった。

 以上より、今年の冬も暖冬が続けば、各業界に影響が及ぶ可能性がある。過去の経験によれば、暖冬で業績が左右される代表的な業界としては冬物衣料関連や百貨店関連がある。また、電力・ガス等のエネルギー関連のほか、製薬会社やドラッグストア等も過去の暖冬では業績が大きく左右されている。自動車や除雪関連といった業界も、暖冬の年には業績が不調になりがちとなる。鍋等、冬に好まれる食料品を提供する業界やスーパー、食品容器等の売り上げも減少しやすい。冬物販売を多く扱うホームセンターや暖房器具関連、冬のレジャー関連などへの悪影響も目立つ。

 一方、屋外娯楽関連サービスや鉄道、外食に加え、コールド系の飲食料品の販売比率が高いコンビニなどには恩恵が及ぶ可能性がある。(第241話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第239話)

第239話:2020年のマーケット展望

 2020年のマーケットを展望するうえで最大の注目は、トランプ大統領と民主党候補者の経済政策である。トランプ大統領の経済政策の特徴を勘案すれば、更なる拡張的な財政政策への期待と保護主義的な通商政策の懸念が残る。

 一方、民主党候補者の一人であるバイデン前副大統領はトランプ政権の保護主義を批判しており、通商面で不透明感が少ないと見られている。また、企業に対する規制に対しても前向きでない点が、金融市場にとってポジティブだろう。しかし、同じ民主党候補者のウォーレン上院議員は、反自由貿易主義で企業や高所得者への増税、企業への規制強化を打ち出しているため、民主党候補者が誰になるのかも金融市場の大きな焦点となろう。

 日本経済への影響としては、ウォーレン上院議員が勝ち上がり、米国経済が大きく落ち込むことになれば、日本の経済成長率もかなり押し下げられることになるだろう。また、トランプ大統領が再選を果たしたとしても、トランプ政権の政策運営もリスクだろう。というのも、次の再選はないため、経済そっちのけで米中通商摩擦が激化することになれば、米国経済が景気後退に陥り、円高・株安を通じて日本経済にも悪影響が波及する可能性がある。

 2019年のマーケットは、夏ごろまで長期金利が低下トレンドにあったことに加えて、不安定な株式市場でリスクを取りにくい状況にあった。

 こうした中、FRBが2019年7~10月のFOMCで、立て続けに利下げに踏み切るとともに、ECBも9月に緩和にかじを切ったことも、株式・債券市場にポジティブに作用した。しかし、すでにFRBは10月に利下げを打ち止め、様子見の姿勢に転じている。このため、米中貿易協議の進展次第では、世界の株価や長期金利が更なる上昇を試す可能性もある。

 2020年の相場環境については、トランプ大統領が再選を目指すべく、経済重視に政策がシフトすることが予想される。また、日本でも東京五輪特需が期待されることに加えて、中国が2010年比でGDPを倍増する目標期限年でもある。このため、リスクオン気味に推移するとの見方が強まれば、世界の株式市場の押し上げ圧力となる可能性がある。

 ただし、年後半以降はこれらの重要インベント効果が剥落することが意識されるだろう。特に米国では、大統領次第で米中の覇権争いが再び激化することが懸念され、任期満了に近づく安倍首相が経済政策後回しで憲法改正に邁進するリスクも警戒される。年後半はリスクオフに伴う株価の下落が金利低下・円高を後押しする展開になるかもしれない。

 なお、リスクは金融市場のバブルである。特に米国経済は景気後退の前に必ず見られる逆イールド(長期金利が短期金利を上回る)の状況にあったため、予防措置的な利下げに動いた。しかし、98年のLTCMショック(米国大手ヘッジファンドLTCMの実質破綻)後の逆イールド発生時の様にFRBが利下げをしすぎるようなことになれば、99年以降のITバブルのように、今回も短期的に金融市場でバブルが発生しその後崩壊する可能性もあり、その場合には日本経済への悪影響も無視できないことになろう。

永濱 利廣 氏

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第238話)

第238話:目まぐるしく変わる家計の負担状況とマーケット

 2020年の消費を占う上では、家計の負担増も大きなカギを握っている。今年10月に引き上げられた消費増税については、軽減税率の負担軽減を加味しても、2019年対比で3.5兆円の家計負担増となる。しかし一方で、年金生活者に対する支援給付金により2019年対比で0.4兆円の負担軽減となる。また、消費増税の使い道として増収分の一部が10月から幼児・保育無償化に充当されており、2020年4月から大学無償化へも充当されることになっている。このことから、子育て世帯を中心に2019年対比で1.2兆円の負担軽減になると計算される。

 ただし、消費増税に伴う負担軽減の時限措置の多くが2020年に期限を迎えることにも注意が必要だろう。例えば、プレミアム付き商品券と次世代住宅ポイントが3月までで終了する。また、キャッシュレスポイント還元も6月末に終了の予定である。さらに、自動車税環境性能割軽減も9月末で終了する。

 加えて、年明けから給与所得控除の見直しや、10月にたばこ増税といった負担増が予定されている。このため、こうした税制改革が家計に及ぼす影響を試算すると、トータルで2019年に比べて年間1.6兆円の負担増となる。

 なお、企業経営への影響としても、消費税の仕入税額計算などの特例の適用期限が2020年9月末となっている。このため、2019年同様に消費の現場では混乱が生じ、中小の小売業等では廃業が増加する可能性もあろう。

 こうした中、リスクは政治と金融市場だろう。安倍首相が自民党総裁として在任できる最長期限は2021年9月末だが、その翌月10月21日が衆議院議員任期満了となることからすると、自民党総裁選前の2020年中に解散総選挙を行う可能性もあろう。また、安倍政権は憲法改正と改正後の憲法施行の目標時期を2020年12月としている。

 このため、憲法改正案や解散総選挙の状況次第で安倍政権の政権基盤の揺らぎが生じることになれば、マーケット環境の悪化を通じて日本経済に悪影響を及ぼすリスクもあろう。日本株の売買は約6割以上を外国人投資家が占めており、安倍政権の政権基盤が盤石で政治的に安定的であるほど、外国人投資家が日本株を保有しやすくなり、基盤が揺らぐほど手放されやすくなる。マーケット環境が悪化すれば、日本経済も困難を強いられることになるだろう。

 また、11月に控える米国大統領選挙に対する不確実性も、日本経済に大きく影響を及ぼすだろう。前回の大統領選のように、世論調査の信頼性が低下すれば、市場関係者は積極的なポジションを取りにくくなり、株安等を通じて米国経済に悪影響を及ぼす可能性があろう。(第239話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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