エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第124話)

第124話:円安は外需よりもむしろ内需に効く

 本邦株価と為替の相関関係をみると、近年、グローバルなリスクオン・オフの流れの中で両者の相関関係が強まっている。特に、昨年秋からの株高局面ではとりわけ、本邦株価の上昇と円安・ドル高が同時に進行するといった形での、株価と為替の同時相関関係が一段と強まる場面が目立っている。こうした背景には、グローバルにみた投資家のリスクセンチメントの改善が進む中で、昨年秋からの株高局面で買い主体となっている海外投資家の日本株買いとそれに絡んだ為替ヘッジの動きなどが指摘されている。さらに、こうした動きに着目した、高速・高頻度のプログラム売買による株式と為替の同時売買が相関関係を一層強めている可能性がある。

 実際、日経平均株価とドル円レートの推移をみると、2000年代後半に両者の関係性が強まっており、為替が円安になれば株価が上昇しやすくなっている。株価と為替の関係については、為替レートが変化すると、日本のグローバル企業の収益が変動するとの思惑から株価に影響を与えるという見方がある。中でもグローバルなリスクオン・オフの投資行動からも株価と為替の連動性が説明される。

 投資家のリスク許容度が高まり、円が売られ円安になることは、日本のグローバル企業の収益改善を意味する。収益が改善すれば、その企業の株式はより買われることになる。つまりトービンのQに従えば、円安が進むほど設備投資が拡大することになる。

 実際、ドル円レートと日本の設備投資の関係をみると、2013年以降の設備投資の盛り上がりは円安による影響が大きいことがわかる。世界的な投資家のリスク許容度の高まりはリスク資産への投資と円売りのきっかけになるが、円安・株高になることは、日本の企業経営者にとって大きな設備投資の機会になるのである、この経験則に従えば、2000年代後半以降は為替レートの動向によっても日本の景気循環が左右されることになる。

 設備投資が増加すれば、機械設備投資に利用される資本財や、その施設を建設するために建設財の生産も盛り上がろう。あくまで為替や株価主導であるが、この結果によって国内で働く労働者の雇用者報酬が増え、消費者が欲しいものを国内で買うことで内需につながれば、日本国内にも資金が回ることになる。

 一方で2013年以降、約4年以上にわたり円安局面が続いている日本では、その間も輸出が伸び悩む傾向にあることが知られている。背景には、新興国を中心に世界経済の成長率が鈍化していることがある。また、新興国の自給率向上に伴い世界で輸入依存度が低下していることや、新興国の輸出競争力が高まり日本の輸出シェアが低下していることもある。

 このように考えると、円安の景気押し上げ効果を外需のみで議論するのは誤りであり、円安はむしろ内需に効くといえる。

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

エコノミスト永濱氏の新刊も是非お読みください。
60分でわかる「マイナス金利」
第一生命経済研究所
首席エコノミスト:永濱利廣(監修)

mainasu2016年1月29日に日銀の金融政策決定会合で決定され、2月16日から実施された「マイナス金利」。

プラスであることが当たり前の金利がマイナスになるとは、いったいどういうことなのか?

日本の経済を再生する原動力となるのか?

そして、私たちの生活にどのように関係するのか?

誰もが疑問に思うことを、Q&A方式を用いて簡潔に解説していきます。
(ご購入はお近くの書店か本の表紙をクリックしてください。)

エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第123話)

第123話:株価に連動する設備投資

 景気の変動は、谷から山を経て、次の谷に到達するまでが一つの循環とされている。こうした景気の山や谷は、正式には内閣府が景気動向指数を基に基準日付を後日決めるが、中期的な景気の循環は設備投資の変動によってもたらされる。このため、景気循環は設備投資の動きで大まかに確認できる。

 経済統計の教科書には、設備投資比率(名目民間企業設備/名目GDP)が設備投資循環をとらえる指標として重要と解説されている。実際、これまでの日本の設備投資比率と景気局面を比べると、設備投資比率が上昇基調にあれば景気も拡大、低下基調にあれば後退局面にあり、景気局面に連動していたことがわかる。安倍政権がアベノミクスを打ちだし、戦後三番目の景気回復期についても、設備投資循環の大底が、直近の景気の谷である2012年10-12月期に重なる。

 一方、こうした設備投資の動向は、株価指数とも連動性が高い。現基準でデータが存在する1994年以降の名目設備投資と日経平均株価の推移をみると、特に2000年代以降になって両者の連動性が高まっていることがわかる。そして、GDPの需要項目では「民間最終消費支出」の比率が約56%と高いが、これまでGDPの変動に最も大きな影響力を持ってきたのは、むしろシェア15%強の「民間企業設備」である。従って、「設備投資の循環で日本の景気循環が決まる」と言っても過言ではない。

 代表的な設備投資の変動理論としては、トービンのQ理論という投資理論の存在が知られている。トービンのQとは「株式市場で評価された企業の価値を資本の再取得価格で割った値」として定義される。企業の価値とは、株式市場が評価する企業の時価総額と債務総額の和である。一方、資本の再取得価格とは、現存する資本を全て買い替えるために必要となる費用の総額となる。そして、Qが1より大きい(小さい)場合、市場はこの企業の価値が既存設備の価値よりも高い(低い)と評価していることになり、投資の拡大(設備の縮小)を求められる。つまり、トービンのQが上昇(低下)すると設備投資が拡大(縮小)する。これは、株主の利益の極大化を目指する企業行動からは当然の結果である。仮に、市場が評価している企業の価値が現存の資本価値より大きければ、企業は資本(設備投資)を増やして付加価値を増産したほうが有利になるが、逆に小さければ、企業は資本を市場で売却(設備投資を縮小)したほうが利益に有利になるためである。

 このように、株価と設備投資は連動性が非常に高いのである。当然、この株価と設備投資の関係は景気の波を発生させ、国が認定する景気の山・谷、すなわち景気の転換点を形成することになる。(第124話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

エコノミスト永濱氏の新刊も是非お読みください。
60分でわかる「マイナス金利」
第一生命経済研究所
首席エコノミスト:永濱利廣(監修)

mainasu2016年1月29日に日銀の金融政策決定会合で決定され、2月16日から実施された「マイナス金利」。

プラスであることが当たり前の金利がマイナスになるとは、いったいどういうことなのか?

日本の経済を再生する原動力となるのか?

そして、私たちの生活にどのように関係するのか?

誰もが疑問に思うことを、Q&A方式を用いて簡潔に解説していきます。
(ご購入はお近くの書店か本の表紙をクリックしてください。)

エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第122話)

第122話:完全雇用、人手不足の現実

 2017年2月以降、日本の完全失業率は3%を下回っており、1993年末に記録した2.8%まで低下してきている。また、有効求人倍率も1990年7月に記録したピークを更新している。

 企業の人手不足感も深刻である。2017年3月調査の日銀短観によれば、全規模全産業の雇用人員判断DIは1992年3月調査以来25年ぶりの人手不足感を強めており、先行きも更に人手不足感が強まると見られている。

 この背景には、2012年12月から2017年4月まで380万人以上の生産年齢人口が減少しているにもかかわらず、同時期に就業者数が260万人近く、雇用者数に限れば290万人以上も増えていることがある。そして、近年の就業者数が日経平均株価やドル円レートに遅れて変動していることからすれば、国内の雇用機会の増加は、大胆な金融緩和に伴う極端な円高・株安の是正に伴い生じていると推察される。

 極端な円高・株安が是正されると仕事が増える背景には、まず円安に伴い国内で生み出されたモノが相対的に割安になることがある。このため、輸出関連産業では製品の競争力が増して販売量が増えることで人手が必要になる。また、輸入代替産業においても競合する輸入品の価格が上がることや、株高で購買力が上がるため、国産品の需要が高まり雇用が必要となる。更には、国内のサービスも価格面から競争力を増すことや株高で購買力が上がる。このため、外国人観光客の増加等も含めてサービス産業への需要も高まっているため、雇用が生み出されていることが指摘できる。

しかし、労働需給がひっ迫している割には、一人当たり賃金の上昇率は伸び悩んでいる。実際、厚生労働省の毎月勤労統計を用いて、所定内給与の前年比を要因分解すると、2015年から一般労働者の賃金上昇とパート比率上昇ペースの鈍化を主因に上昇に転じているが、その上昇率は平均すると前年比+0.3%程度にとどまっている。一方、年次データであるがサンプルが多く、賃金統計で最も信頼性が高いとされる厚生労働省の賃金構造基本統計調査によれば、2014年、2015年とも一般労働者の所定内給与は前年比で+1%を大きく超える伸びを示している。しかし、同統計でも2016年は横ばいに止まっており、賃金が上がりにくい構図に変わりはない。

 そもそもマクロ経済学上には「完全雇用」という概念があり、経済全体で非自発的な失業者が存在しない状態を示すとされている。そして、その状態における失業率を下回ると賃金上昇率が加速するということで「完全雇用失業率」と呼ばれている。従って、我が国でも非自発的失業者が存在しない失業率の水準が完全雇用失業率の目安となる。そこで、総務省「労働力調査」を用いて非自発的離職が存在しない場合の失業率を求めると、2010年頃までは3%程度で安定していたが、2017 年以降は2.1%まで下がっている。従って、完全雇用失業率の水準自体がここ7年で1%近く下がっており、賃金上昇率が加速するまで労働需給がひっ迫していない可能性が指摘できる。(第123話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

エコノミスト永濱氏の新刊も是非お読みください。
60分でわかる「マイナス金利」
第一生命経済研究所
首席エコノミスト:永濱利廣(監修)

mainasu2016年1月29日に日銀の金融政策決定会合で決定され、2月16日から実施された「マイナス金利」。

プラスであることが当たり前の金利がマイナスになるとは、いったいどういうことなのか?

日本の経済を再生する原動力となるのか?

そして、私たちの生活にどのように関係するのか?

誰もが疑問に思うことを、Q&A方式を用いて簡潔に解説していきます。
(ご購入はお近くの書店か本の表紙をクリックしてください。)

エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第121話)

第121話:7-9月期の平均気温+1℃上昇で家計消費が+3,200億円

 今回は、過去の気象の変化が家計消費全体にどのような影響を及ぼしたのかを見てみよう。内閣府『国民経済計算』を用いて、7‐9月期の実質家計消費の前年比と東京・大阪の平均気温や日照時間の前年差の関係を見ると、両者の関係は驚くほど連動性があり、7-9月期は気温上昇や日照時間が増加したときに、実質家計消費が増加するケースが多いことがわかる。したがって、単純に家計消費と気温や日照時間の関係だけを見れば、猛暑は家計消費全体にとっては押し上げ要因として作用することが示唆される。

 ただ、家計消費は所得や過去の消費などの要因にも大きく左右される。そこで、国民経済計算のデータを用いて、気象要因も含んだ7‐9月期の家計消費関数を推計してみると、7‐9月期の日照時間や平均気温が同時期の実質家計消費に統計的に有意な影響を及ぼす関係が認められる。

 そして、過去の関係から読み解くと、7-9月期の日照時間が+10%増加すると、同時期の家計消費支出が+0.38%程度押し上げられることになる。これを気温に換算すれば、7-9月期の平均気温が+1℃上昇すると、同時期の家計消費支出を約+3,212億円(+0.5%)押し上げることになる。

 したがって、この関係を用いて今年7-9月期の日照時間が記録的猛暑となった1994年および2010年と同程度となった場合の影響を試算すれば、日照時間が平年比でそれぞれ+30.5%、+22.2%増加することにより、今年7‐9月期の家計消費はそれぞれ前年に比べて+6,904億円(+1.2%)、+5,026億円(+0.9%)程度押し上げられることになる。

 また、家計消費が増加すると、同時に輸入の増加などももたらす傾向がある。このため、こうした影響も考慮し、最終的に猛暑が実質GDPに及ぼす影響を試算すれば、94年並となった場合は+4,220億円(+0.3%)、2010年並となった場合は+3,072億円(+0.2%)ほど実質GDPを押し上げることになる。このように、やはり猛暑の影響は経済全体で見ても無視できないものと言える。

 しかし、猛暑効果だけを見ても経済全体の正確なトレンドはわからない。猛暑の年は、夏が過ぎた後の10~12 月期に反動が予想されるからだ。過去の例では、1994年、2010 年とも7~9月期は大幅プラス成長を記録した後、翌10~12 月期は個人消費主導でマイナス成長に転じているという事実がある。

 つまり、猛暑特需は一時的に個人消費を実力以上に押し上げるが、むしろその後の反動減を大きくする姿がうかがえる。猛暑効果により売上を伸ばす財・サービスは暑さを凌ぐためにやむなく出費するものが多い。したがって、今年も猛暑効果で夏に過剰な出費がなされれば、秋口以降は家計が節約モードに入ることが予想されるため、秋以降は注意が必要だろう。(第122話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

エコノミスト永濱氏の新刊も是非お読みください。
60分でわかる「マイナス金利」
第一生命経済研究所
首席エコノミスト:永濱利廣(監修)

mainasu2016年1月29日に日銀の金融政策決定会合で決定され、2月16日から実施された「マイナス金利」。

プラスであることが当たり前の金利がマイナスになるとは、いったいどういうことなのか?

日本の経済を再生する原動力となるのか?

そして、私たちの生活にどのように関係するのか?

誰もが疑問に思うことを、Q&A方式を用いて簡潔に解説していきます。
(ご購入はお近くの書店か本の表紙をクリックしてください。)

エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第120話)

第120話:今夏は猛暑の見込み

 今夏は暑くなることが予想されている。気象庁が6月23日に発表した7‐9月の3ヵ月予報によると、太平洋高気圧の張り出しが強く、暖かい空気に覆われやすいため、気温は全国的に平年より高くなる見込みとされている。

 近年では、2010年が観測史上最も暑い夏と呼ばれている。当時の気象庁の発表によると、6~8月の全国の平均気温は平年より1.64℃高くなり、1898年の統計開始以来、最高の暑さとなった。この猛暑効果で、2010年6月、7月のビール系飲料の課税数量は前年比2ヵ月連続プラスとなった。同様に、コンビニ売上高も麺類や飲料など夏の主力商品が好調に推移したことから、既存店前年比で7月以降2ヵ月連続プラスとなった。

 また、小売業界全体を見ても猛暑効果は明確に現れた。7月の小売業界の既存店売上高伸び率は猛暑の影響で季節商材の動きが活発化し、百貨店、スーパーとも盛夏商材が伸長したことで回復が進んだ。家電量販店の販売動向もエアコンが牽引し、全体として好調に推移した。

 2010年は小売業界以外にも、猛暑の恩恵が及んだ。外食産業市場の全店売上高は7月以降の前年比で2ヵ月連続のプラスとなり、飲料向けを中心にダンボールの販売数量も大幅に増加した。また、ドリンク剤やスキンケアの売上好調により、製薬関連でも猛暑が追い風となった。

 さらに、乳製品やアイスクリームが好調に推移した乳業関連も、円高進行による輸入原材料の調達コストの減少も相俟って、好調に推移した。化粧品関連でも、ボディペーパーなど好調な季節商材が目立った。一方、ガス関連は猛暑で需要が減り、医療用医薬品はお年寄りの通院が遠のいたことなどにより、猛暑がマイナスに作用したようだ。

 以上の事実を勘案すると、仮に今年の夏も猛暑となれば、幅広い業界に恩恵が及ぶ可能性がある。

 事実、過去の実績によれば、猛暑で業績が左右される代表的な業界としてはエアコン関連や飲料関連がある。また、目薬や日焼け止め関連のほか、旅行や水不足関連も過去の猛暑では業績が大きく左右された。そのほか、冷菓関連や日傘・虫除け関連といった業界も、猛暑の年には業績が好調になることが多い。

さらに、飲料の販売比率の高いコンビニや猛暑による消費拡大効果で、広告代理店の受注も増加しやすい。缶・ペットボトルやそれらに貼るラベルを製造するメーカー、原材料となるアルミニウム圧延メーカー、それを包装するダンボールメーカーなどへの影響も目立つ。

 さらには、ファミレスなどの外食、消費拡大効果で荷動きが活発になる運輸、猛暑で外出しにくくなることにより販売が増える宅配関連なども、猛暑で業績が上がったことがある。一方、食料品関連やガス関連、テーマパーク関連、衣類関連などの業績には、過去に猛暑がマイナスに作用した経験が観測される。(第121話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

エコノミスト永濱氏の新刊も是非お読みください。
60分でわかる「マイナス金利」
第一生命経済研究所
首席エコノミスト:永濱利廣(監修)

mainasu2016年1月29日に日銀の金融政策決定会合で決定され、2月16日から実施された「マイナス金利」。

プラスであることが当たり前の金利がマイナスになるとは、いったいどういうことなのか?

日本の経済を再生する原動力となるのか?

そして、私たちの生活にどのように関係するのか?

誰もが疑問に思うことを、Q&A方式を用いて簡潔に解説していきます。
(ご購入はお近くの書店か本の表紙をクリックしてください。)