エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第198話)

第198話:生涯未婚増加が日本経済に及ぼす影響

 総務省が2017年に公表した「平成27年国勢調査」によると、生涯未婚率は男性23.4%、女性14.1%まで上昇しており、それを基に内閣府が公表した「平成30年版少子化対策白書」によれば、生涯未婚率は2040年までに男性29.5%、女性18.7%まで上昇が続くと推計されている。このため、今後「生涯未婚増加に伴う人口減少」は、日本の経済社会へ多くの影響を及ぼすことが予想される。

 政府の「中長期の経済財政に関する試算」の基となる「平成27年度雇用政策研究会報告書」の労働需給推計によれば、2014年に6,351万人だった就業者は、経済成長と労働参加が適切に進むケースでも2030年に6,169万人(2014年比▲3%)、経済成長と労働参加が適切に進まないケースに至っては同5,561万人(同▲12%)まで落ち込む計算となっている。

 つまり、生涯未婚増加に伴う労働力人口の減少を高齢者、女性、若者の労働参加だけで補うことは難しく、最終的には積極的な少子化対策により出生数を増やすか外国人労働者の受け入れを増やすことが必要となる。特に外国人労働者については、都道府県・職種別のデータを見ると、日本の労働者と代替的関係ではなく、むしろ補完的関係にあり、労働需給のミスマッチを埋める形で就労していることが裏付けられている。外国人労働者により労働需給ミスマッチの解消が期待できるのであれば、人口減少下で経済活力の維持のために受け入れを強化することは有用となる。従って、生涯未婚増加は、社会的受け皿をしっかりと整備しつつ、職種・産業別に労働需給を慎重に勘案することで外国人材の就労機会の更なる拡大が検討されることを促すことになろう。

 一方、生涯未婚増加に伴う少子高齢化の進展を背景に、我が国の社会保障関係費は年々増大しており、2019度予算では33兆円を突破、一般歳出に占める割合も44.8%まで達している。近年、年金・医療・介護と一連の社会保障制度改革がなされてきているが、改革後も社会保障給付費の増加は避けられず、政府が昨年5月に公表した社会保障給付費の見通しによると、2040年度の社会保障給付費はGDP23.8~24.0%(名目額188.2~190兆円)と2018年度の同21.5%(121.3兆円)から増加する見通しである。

 また、年金における世代別の給付と負担の関係を見てもと、依然として世代間格差が存在すると試算されている。今後、生涯未婚増加に伴う少子高齢化の更なる進展により現役世代への負担が一層高まることで、世代間の不公平が大きな問題となる恐れがある。

 このため、我が国の社会保障制度を持続可能なものにするために、生涯未婚増加に伴う人口減少・少子高齢化を所与とした制度に転換し、給付と負担のバランスの取れた制度に作り直す圧力がかかることになろう。つまり、膨張する社会保障費を、現役世代や将来世代の負担となる財政赤字だけで賄うのではなく、社会保障費の増加を出来るだけ抑える努力も求められてくることになる。特に、社会保障制度の持続可能性を探るために、現役世代から高齢者世代への分配という「世代間扶養」の仕組みから、高齢者同士の「世代内移転」を進める政策によりシフトしていく動きが出てくることになろう。(第199話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第51話)

第51話:日本経済にとって、ここ2~3年が最重要

 失われた20年の影響もあって、企業経営者にデフレマインドがしみつき、なかなか楽観的にはなりにくい状況にある。売上が増えて利益が増える場合と売上はそれほど増えないものの、原材料などのコストが下がって利益が増える場合では、企業経営者の受け止め方が異なり、原材料コストの低下による利益増では前向きに考えにくい状況になっている。

 政府がデフレ脱却のために必要な指標として、消費者物価の上昇率、GDPデフレーターの上昇率、単位労働コストの伸び率、GDPギャップの4つを定義しているが、GDPギャップがまだマイナスであり、デフレではないもののデフレ脱却といえる状況ではない。

 2016年の経済成長が民間エコノミストの予測並みであれば、2016年度半にはGDPギャップが解消される可能性がある。デフレ脱却を確かなものにするという観点からみると2017年4月の消費増税はタイミングが悪い。ベストシナリオは消費税率を10%に引き上げても、経済の勢いが弱まらないように2016年中に景気を良くすることだろう。2016年夏の参議院選挙、2017年4月の消費税率の引上げなどを考えると、2016年夏までに景気をどの程度良くできるかが重要となる。

 現在の日本経済が一番避けなければならないことは財政破綻である。今、国の借金が増えながらも国債の信任が落ちない理由は、日銀が買っていることもあるが、間接的には政府の債務残高を家計の純金融資産が上回っていることもある。ただ、安倍政権以前はその幅が縮小傾向で、逆転してしまう可能性があった。それがアベノミクスによって、格差拡大などの問題はあるものの、経済全体を考えれば、株価が上昇し家計の金融資産も1,400兆円から1,700兆円に増え、政府債務は増えているものの家計の純金融資産との差は拡大し、財政危機は遠のいている。財政のプライマリーバランスも黒字化はしていないものの改善し、問題はあるもののマクロ経済政策という意味では成功している。直接的な経済政策で大切なのは、雇用環境をいかに改善させるかで、雇用も100万人以上増加し、完全雇用までには至っていないものの、失業率も低下している。あとは影の部分をいかに手当するかという意味でも、再分配を行う必要がある。

 2020年代半ば以降を考えると、団塊世代が後期高齢者となり、社会保障費のさらなる増加、生産年齢人口の減少幅が拡大することなど、様々な課題がある。社会保障費の削減が必要だが、急激な削減には問題がある。2014年はシニア層の消費が好調だったが、2015年はシニア層の消費が弱く、個人消費の落ち込みの一つの要因となっている。ある程度の金融資産を持つシニア層には社会保障も応分の負担を求めることや2021年をめどに預金口座へのマイナンバー適用の義務付けといった報道があり、将来の社会保障の姿を懸念して、消費を抑制した可能性もある。

 日本経済にとって、これからの2~3年が非常に重要な時期で、2018年3月に黒田日銀総裁の任期、さらに2018年秋には安倍首相の自民党総裁任期が終わる。2018年以降の金融・経済政策がどうなるかは日本経済にとって大きなカギを握るかもしれない。同じ方向であればいいが、政策が大きく変われば、日本経済の先行きも大きく変わる。好条件の揃っている間にしっかりとした成長戦略を実行すると共に緩やかに社会保障の効率化をはかっていくことが大切である。(第52話に続きます)

 

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所

経済調査部 主席エコノミスト

永濱利廣

 

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nagahama20161011企画提案、事後報告、業界予測──。自分のやりたい仕事を通すには、わかりやすさと説得力を兼ね備えたレポートをつくる力が欠かせません。でも、多くは「表やグラフを多用しすぎ」「論旨が脱線」「とにかく長い……」など、“残念なレポート”になってしまっています。長年、業界のプロや一般読者を対象に“読ませるレポート”を作成してきたエコノミストが、どんなレポートも見違える大原則を公開します。