清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第154話)

第154話:夜の繁華街を朝歩くと異邦人に出逢います。

 日々の通勤路の途中に渋谷があります。改札を抜けて、ほんのわずかの距離を、昨夜はさぞ賑わったであろうと思われる小さな店々の横を抜けて歩いて行きます。その一隅から、けたたましい笑い声が聞こえてきます。朝から酒盛りとは、何事が起きたのかと目と耳を疑うことがあります。いつから飲み始め、飲み続けているのか。既に朝の7時を過ぎています。コーヒーを飲んできた匂いの残る鼻に、焼き鳥の香ばしい臭いが鼻を突きます。夜感じるにおいとは異なる感じです。既に、夜を越えて朝を向かえ、感覚器官の働きも異なっているようです。

 その先に歩を進めます。20名近い男性がたむろしています。パチンコ屋の前です。店が開くのは何時でしょうか。今から待つのは、さぞつらかろうと要らぬ心配をしてしまいます。彼らは、この時間に出勤なのか、既にマインド自体が満開モードです。そうすることが日常であって、非日常空間での遊技場の前に並ぶスタイルではありません。日常の中に組み込まれたスタイルと思われます。どこか人種の違いを実感してしまいます。

 一杯のコーヒーを飲みに、コーヒーショップに立ち寄ります。知らぬ人種にまた出会う時です。多分昨夜は、そのテンションであったと思われる若い女性数名の集団が、髪の乱れも気にせず、椅子にもたれかかっています。身体に芯がない座り方です。時折目が覚めるのか、突然のバカ声。大きい。聞くではなく、聞こえてきてしまいます。一緒にいる仲間との会話かと思えば、相手は寝ています。どうやら携帯電話での会話のようです。夜の雑踏の中では、大声を出さなければ相手に自分の声が届かないのでしょう。しかし今は違います。比較的時の流れは早いものの、空気は澄んで音の通り具合も良い朝です。耳をつんざく声とはこのことかと耳を塞ぎます。

 朝は人種の坩堝(るつぼ)。澄んだ空気、整然と進む時の中で、不釣合いと思われる集団、異邦人との出会いのときです。朝の異邦人の合間を縫って、また今日も私は、昼の人種とマーケティングを語る一日が始まります。

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 2016年11月の九州生産性本部での授業風景
株式会社マップス 
代表取締役 清野 裕司

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清野裕司の「ビジネス心論」


今、マーケティング・スタッフには効率よく作業をこなすためのスキルを高めることよりも、幅広い視野で変化を敏感に捉える感度(センス)が問われています。起きている現象を見る目だけではなく、時にもう一つの目(心眼)を開いて、今迄と今を見直し、明日への道を切り拓いて行くように、自らの心に問う学びの志です。
学ぶこと考えることの楽しさを知った自らのビジネス体験を、次代へと歩み行く方々に伝承しておきたいと考えて「心論」と題しました。

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第153話)

第153話:新たな専用車両が欲しいと思うことがあります。

 私鉄主要各線の殆どに「女性専用車両」があります。私が通勤に利用する、東京メトロも1両が女性専用です。その場所は、今まで乗り慣れていた最後尾車両が停車する予定の場所。無意識にたたずんでいると、駅のスタッフにキッとにらまれます。止む無くそそくさと、一両先まで歩を早めます。

 車両に乗り込むと、そこもかつては見ることのなかった風景に出逢います。女性が二人乗り合わせている以外、全員が男性です。夫婦での通勤や、恋人同士の通勤風景があまり見られなくなったように思います。勿論、人の振りを毎日細やかに観察しているわけではありません。ひとり考えごとをしたり、当日の自分の行動予定を考える時間と空間。それが朝の通勤スタイルです。確かに、不逞の輩がいるのであれば、女性にとっては専用車両の空間は、今までにない心の安定が通勤時間でも得ることが出来るでしょう。専用というからには、その人たちだけが利用できる、いわば特定属性限定の囲い込みです。であるならば、日常の通勤時間ではない領域で、同じような発想がもてないだろうかと思います。新幹線でのこと。

 仕事柄、出張での新幹線利用の頻度は高いものがあります。その折に見えてくる車内風景は、実にさまざま。旅行に行くと思われる集団の元気な笑い声。眉間にしわを寄せてレポートを読むビジネスパーソン。この両者は同一の空間で衝突を起こしています。前者は弾む会話のにぎやかさを、後者は一人考える静寂を求めているからです。であるならば、この両者を分けるべく「ビジネス専用車両」があっても良いのではないかと考えてしまいます。

 じっくりと、周りに邪魔されることなく思考の回路を深め、インターネットで情報の幅を広げる。疲れた身体を窮屈なシートに押し込むよりも、ビジネス専用空間の方が、仕事で新幹線を利用する者にとっては自分専門の車両として活用されるのではないでしょうか。

 「専用」とは、限定です。出張の折に、新幹線の限定に期待を寄せることがあります。(第154話にに続きます)

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第152話)

第152話:「名顔一致」の顧(個)客との会話がマーケティングの原点です。

 時代の価値観を共有することが目的でしょうか。時折TV番組で、繁盛店やヒット商品を生み出した企業の様子を、その店・企業の経営(創業)者との会話を通じて紹介しているものを視聴することがあります。そこでは、形は違えど必ずのように「経営の極意は何か」といった質問が投げかけられます。聞こえてくる答えに共通していることは、「経営に極意はないが、重要なことはお客様との会話にある」という点です。顧客がいてはじめて経営は成り立ちます。顧客なくして店も企業も成り立ちません。このごく当たり前と思えることが基本と指摘される場面を見聞きしています。

 「顧客」を知るというのは、いわばマーケティングの原点でもあります。ところが、その具体的方法を取り上げるとなると、なぜかCRMやデータベース・マーケティング、さらには POSといった、送り手が自らの思いのままに「顧客」を操るがごとき考え方が横行するようです。

 かつて「顧客の囲い込み」とか「顧客組織化」「顧客管理」といった言葉も多く語られました。しかし、お客様は囲い込まれたり、管理されたいと思ったことはない筈です。それよりも、お店での新しい出逢いや感動を得たいと思っている筈。その経験の結果が、長い付き合いの始まりになるのです。

 人と人との関係は、先ずはお互いが知り合うことから始まります。しかもそれは、相手の名前を覚えることから。POSはあくまでも、何がしかのモノやサービスが販売された時点でのデータです。相手の立場に立てば、購買した時点での会話のやり取りこそが、印象に残るものです。

 あなたは、何人のお客様の名前を承知しているでしょうか。個人名を投げかけられるお客様は何人いますか。顧客を知るのは、日常のあなたとお客様との個別的な会話に始まります。まさに、名前と顔が一致すれば、送り手・受け手の関係を超えた人間的な関係もできてきます。

 ソリューション・ビジネスを発信するのであれば、そのまず第一歩は、名前と顔の一致する顧客をどれ程知っているかを自問してみることです。

 マーケティングの思考が変わったのではなく、改めて源流を辿ろうとする機運が高まることを期待する時が今なのです。(第153話に続きます)

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第151話)

第151話:「点と面と圏」。点の動きが変化を感じさせます.

 仕事柄、月に数回は東京を離れます。東海道新幹線か飛行機での移動が多い。新幹線の場合には町並みを見ながらの移動になるので、その折に改めて「都市部とそれ以外」の二項対立的な情景に接します。一極集中の弊害が言われながら、深い議論にまで至らぬままに時が過ぎていきます。

 そうこうしている内に、グレーの景観が途切れて緑色の景色に変わります。しばらくは緑が続きます。そしてまたグレー。そのことが繰り返されます。東京を中心としたグレーの面の広がりが、時代と共に大きくなっていることを実感するときでもあります。なかなかグレーの景観から離れることが出来ないと、眼が休まることがなくなってしまいます。更には、同質的な景観で面白みがありません。同じ景色を余儀なくされ、変化を楽しむどころではなくなるからです。東京を出てほぼ1時間ほどで、富士山が視界に入ってきます。異界を感じるときです。今までのグレー一色の景観から、緑も所々に見られるまだらの壁紙です。少し、ほっとした気分になるもの。

 面的な広がりを持つからこそ「圏」。首都圏とはまさに言い得て妙。その圏域が東に西に、そして北へと広がりを見せています。東京都の隣の千葉県に「東京ディズニーランド」があり、東京の中心部に入るのに数時間を要するのに、かつて「成田国際空港」は「新東京国際空港」といっていました。面の浸透は、いつか「圏」を無意識的に広域化するようです。そして、生活における壁紙状況をつくっていきます。あること自身が、無意識下に置かれてしまい、変化を身体で感じなくなってしまいます。幾つかの点的な存在が束になって面を形成しているにもかかわらず、その個々の点の存在を忘れてしまうものです。

 点の変化があってはじめて、景観や生活の変化を知るきっかけが得られるにもかかわらず、同質的な面の中に内包されてしまっては、変化への気付きの感度も鈍くなるのは止む無しかと思ってしまいます。

 点的な存在が個々に特徴を発信することに、暮らしの面白さも見えてくるものを、との想いを、点在する拠点を結ぶ線となる新幹線車中で思います。(第152話に続きます)

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第150話)

第150話:生活コストは生活者の目線で考えることがビジネスの大前提です。

 日常の生活においてもビジネスにおいても、何事にもお金の動きがついて回ります。まさにコストのかかることばかりです。しかし、使うお金も納得できるものと、必ずしも納得できず何とも理不尽と思ってしまうものとがあります。

 自宅で使っていた家電製品のひとつに不具合がおきた時のこと。さしたることもなく、部品が古くなったので新しいものを購入しなければならなくなっただけでした。しかし、長く使ったものなので、交換したい部品があるかどうかが判然としません。昔であれば、近所の電器屋に行き製品番号を確認して貰い純正部品を頼んでおけば、1週間から10日ほどで店を経由して手許に届いたものです。しかし、最近は頼むべき電器屋がありません。

 しからばと、インターネットで製造メーカーのホームページを検索してみます。該当製品の写真が見つかり、更にクリック。やっと行き当たった先のコメントは「製造中止」の一行でした。止む無しと問合せすべき部署を探してみます。「お客様相談」のコーナーが記述され、0120の電話番号も書かれていました。早速掛けてみます。番号案内の声。なかなか人の肉声に出会うことが出来ません。やっと繋がって案内係の人に聞いてみる。「こちらは新製品に関する案内をしております。部品のお問合せは受け付けておりません」と、つれない答が返ってきました。であればどこに掛けるのか。教えてもくれません。再び、購入時のパンフレットに眼をやると、小さな数字が眼に入ってきました。電話番号です。そこに問い合わせる。やっとの思いでたどり着きました。

 部品は取り寄せてくれるとのこと。値段は400円。やれやれ助かった。送って貰えればと頼むと、「送ることは出来ません。取りに来て下さい」とのコメント。何たることと思いつつも、その場所を尋ねます。同じ区内ですが、バスで向かえば往復で420円程かかります。しかし、他に手立てはありません。部品到着の連絡を待つだけです。

 この間にかかった時間は約3時間。購入する部品代は400円。取りに行く交通費が420円。はてさて、部品一つが手許に届くのに、どれ程の生活コストを費やしたことになるのでしょうか。家電メーカーのマーケティング・スタッフは、先ずその制服を脱いで、生活者の目線で計算をして欲しいものです。(第151話に続きます)

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