エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第153話)

第153話:景気動向を占う上で重要性が高い設備投資

 設備投資の動向をいち早くとらえようとする経済指標は多数存在するが、中でも内閣府が発表する『機械受注統計』が、月次の設備投資先行指標として最も注目されている。

 受注額には民間需要以外にも外需や官公需、代理店経由の受注が含まれている。その中でも設備投資の先行指標として最も注目されるのが「船舶・電力を除く民需」である。船舶と電力が除かれるのは、それらの受注が大口であることが多く、変動を極端に大きくすることでデータのかく乱要因となるためである。

 ただ、それでも受注統計は季節調整値の前月比が大きく振れやすいことから、3ヶ月移動平均などを用いて判断することが一般的である。また、機械受注はGDPベースの民間設備投資に1~2四半期先行する性質を持つ。これは、機械の受注から生産、納品段階までに時間を要するためである。

 こうした設備投資の変動を規定する最大の要因は、投資する資本のコストを上回る収益が得られるかどうかを示す投資の採算性である。そして、その判断は企業が投資による期待収益とコストの関係をどう見るかに依存する。

 つまり、企業が投資コストに見あう収益が期待できると判断すれば設備投資を増やして生産能力を増強するが、景気の悪化期待などにより設備が過剰になると判断すれば、設備投資は抑制されることになる。一方、市中金利が高ければそれだけ企業の資金調達コストが増えることを意味することから、金利の低下は設備投資の刺激要因となり、逆に企業の期待収益率を上回る金利上昇は投資採算の低下を通じて設備投資の抑制要因となる。こうした投資採算に基づく企業行動が行われることで設備投資の循環が作られている。

 このため、調達コストがかからない企業の手持ち資金(キャッシュフロー)と設備投資は関係が深く、この関係を見るために財務省の「法人企業統計季報」がよく用いられる。同統計は、金融・保険業を除く資本金1千万円以上の法人企業の四半期決算を業種・規模別に集計したものであり、GDP2次速報の推計にも用いられるため、市場の注目も高い。

 実際にこの関係を見ると、設備投資はバブル経済を追い風に80年代後半から90年代前半にかけて手持ち資金を上回った後、94年以降はキャッシュフロー(簡便的に経常利益/2+減価償却費で計算)に連動して推移した。しかし、98年以降はキャッシュフローと設備投資の差が拡大している。この背景には、過剰設備や過剰債務の処理に追われる企業が多く、手持ち資金からの有利子負債返済を優先していたことがある。

 その後、2013年以降は国内設備投資も拡大基調にあるが、キャッシュフロー対比で見れば相変わらず抑制傾向にある。この背景としては、企業における生産・販売拠点のグローバル化等により、日本企業が国内設備投資のみならず、海外向けの投資やM&Aといった資金の使い道も視野に入れていることが影響している。

こうした経済のグローバル化は今後も進展する可能性が高いことからすれば、国内設備投資がキャッシュフローの範囲内で行われる状況は今後も継続しよう。(154話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第152話)

第152話:消費者心理ウォッチ

 最も総合的な個人消費の月次指標である内閣府「消費総合指数」の動きを見ると、2013年から拡大が続き、特に消費税率の引き上げを控えていた2013年度末にかけては駆け込み需要で大きく盛り上がった後、2014年4月にその反動で減少に転じて以降は低迷傾向にあった。しかし2017年以降は、雇用・所得環境の改善や消費者心理の持ち直し等を背景に、少なくとも昨年末までは個人消費は回復していた。

 こうした個人消費を左右する最大の要因は、財布の中身に例えられる家計の可処分所得だが、財布の紐に例えられる消費者心理も個人消費を大きく左右する。

 消費者心理を表す統計としては、毎月中旬頃に前月分データが公表される内閣府の『消費動向調査』の消費者態度指数が代表的である。特に、約4900 世帯を調査対象とした2人以上の一般世帯の計数が注目される。同指数は「暮らし向き」「収入の増え方」「雇用環境」「耐久消費財の買い時判断」の4つの判断項目のDIの単純平均として算出され、各判断項目は「今後半年間」の変化の方向について5段階での回答を求め、50を中立とするDIとして集計される。

 また、消費者心理をより迅速に把握するには、毎月上旬頃に前月分が発表される内閣府の『景気ウォッチャー調査』を利用する方法もある。同調査は、景気動向を敏感に観察できる立場にある全国2050人を対象に3ヶ月前と比べた景気の現状について5段階で評価を求め、50を中立とするDIとして集計したものである。DIは、小売店、旅行代理店などの経営者・従業員、タクシー運転手等の調査から集計されており、消費者心理を映す。

 これまでの消費者心理の動きを見ると、昨年秋までは景気の拡大と共に改善してきたが、冬以降は悪化に転じている。昨秋までの改善は、消費者心理が株価などの水準感を反映しやすいことや、景気変動が残業時間の変化などを通じて勤労者の所得を左右するためである。しかし、2018年以降は特に景気ウォッチャー調査が大きく悪化している。この要因としては、寒波到来で経済活動が抑制されたことや、昨年夏以降の原油高により、ガソリンや光熱費、食料品など生活必需品の価格が上昇したことが考えられる。

 通常、物価の上昇は需給の逼迫を意味するため、家計の所得も拡大していることが多く、個人消費にプラスとされる。しかし、家計の所得が伸び悩む一方で、コストの上昇により需要に関係なく物価が上がる場合は、家計の購買力を低下させるため、消費にマイナスの影響を及ぼす。

 今後、春闘の賃上げなどにより家計の所得が回復し、購買力の低下が解消されれば消費は上向くだろう。ただし、一方で原材料価格の上昇や人手不足による値上げなど、物価に対する構造的な上昇圧力は根強く残るため、その出現の仕方次第では、個人消費が伸び悩む可能性があることにも注意が必要だろう。(第153話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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