清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第93話)

第93話:マーケティングが求めることは「楽しみ」の提供です。

 1955年に日本に紹介されたマーケティング。時あたかも、時代の変革を生活の中に感じるような時でした。翌1956年には電気炊飯器が、東芝から初めて生活用品として発売されています。台所での家事労働は一気に楽(らく)になりました。ほぼ400年近く続いていた家事労働のモデルが一変したとも言われています。その後の洗濯機,冷蔵庫,掃除機と続く家電革命は、まさに日本人の生活行動自体に革命をもたらしたともいえるでしょう。

 生活モデルに止まらず、企業行動モデルにおいても同様の動きを見ることが出来ます。戦後日本の経済復興にあっては、従来辛かった仕事からの解放をめざし、交換頻度を高めて経済成長を実現するための試みが多く取り入れられていきました。作業の標準化や単純化によって、人の個別的な技能の習熟を待たずに、均一化された規格品を次々に生み出す仕組みを作り出してきたのです。今まで以上に「楽(らく)」になろうとした努力だったといえるでしょう。

 しかし、「会社の寿命は30年」ともいわれます。成長神話を生み出す起爆となった「所得倍増」のビジョンが発信された1961年から30年経過した91年、バブル経済が崩壊したと言われています。従来型経営モデルの行き詰まり感が蔓延し始めた年でもあります。楽(らく)なことを考えるのは、一面的には効率性を高めることに通じるところがあります。しかし、大切な何かを削ぎ落としたり、置き去りにしてきたように思えます。人間は決して、何事に対しても楽になることを求めているわけではないのです。

 同じ漢字の「楽」ですが、一方の読み・意味として「楽しい」があります。ある会合に参加することで気分が高まったり、商品の開発に自分自身が直接関与し新たなアイデアが実現することで、今まで以上に「楽しさ」を感じることはないでしょうか。苦痛の回避ではなく、傍から見れば大変そうに見えることが、本人にとっては心の奥で「楽しさ」に満たされていることもあるのです。

 企業のマーケティングは、苦役を和らげ「楽(らく)」をつくり出すためにあるのではなく、自らが生み出す「楽しさ」を顧客の「楽しさ」に転換するためにあるプロセスと理解できるのです。(第94話に続きます)

法政2015年最終講義:2015.12.21

清野氏 法政大学 講義

株式会社マップス 代表取締役 清野 裕司

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