清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第60話)

第60話:顧客から「私の店」「私のもの」と言って貰えること。

 季節を問わず、仲間とのコミュニケーションの場を求めて生ビールを飲み干すシーンがあります。1杯2杯と杯が進み、普段は小声の人までが声高に会話を始め、隣の集団の話題までが、聞くでもなく聞こえてくる空間になります。「ちょっと1杯」の誘い文句が、いつの間にやら「空いたジョッキがいっぱい」の状況。

 どうもビールの飲み比べだけでは物足りなくなってしまうようで、次なる店の物色が始まります。足もとがおぼつかなくなっている御仁もいます。何とか近場で気の利いた店はないか。スマホ・携帯の電話帳が活躍し始めます。また、エリア内の検索も始まります。情報社会の縮図が現出する瞬間です。そして仲間の内の一人が喜々として声を発する。「じゃ、僕の店に行きましょう。そう、俺の店に・・・」といった声。次なる店が決まり、皆の安堵の声と次への行動準備に移るという、よく出会う光景です。

 ところで「僕の店」「俺の店」「私の店」とは、どのような店のことでしょうか。発言した本人が経営しているわけではなく、投資をしたわけでもありません。また、家族が関与しているわけでもありません。ただ、数回にわたって行ったことのある店です。過去体験によって、その店の雰囲気やメニュー、更には料金までがだいたい予測できる。一緒に行くメンバーの、予算レベル、趣味の範囲、料理の好み・・・等々から判断して、自分なりに妥当と判断した店が「自分の店」でしょう。

 馴染み度の深まりは個人差はあるものの、過去の使用頻度・接触頻度と相関するようです。馴染み度が深まれば、それだけ安心感・納得感も深まりを増します。行く度に新しさを感じさせる店、楽しい会話の待つ店。顧客と店との関係は、自ずと密接なものになるものです。

 多くの顧客から「私の○○」と言って貰えること。マーケティングのなすべき役割は、「私の商品」「私の店」といわれるレベルへの創造行為と見ることが出来ます。(第61話に続きます)

清野 裕司 氏 オフィスにて
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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第59話)

第59話:マーケティングは、お客様との合意形成プロセスでもあります。

 同じ時に同じ場面の体験をしても、人によってその折々の印象や感覚は異なったものとして残るもの。ある人にとっては感動的なことであったとしても、他者にとってみればさしたる感動をもたらさないことがあります。人それぞれに、積み重ねてきた歴史や知見は異なるものですから、同じ刺激に対しての反応が異なるのは当然です。

 しかし、ある目的を持ってゴールを目指して多くのメンバーと共に行動をする際には、一人ひとりの感覚や感性を各自が勝手にゴリ押ししたのでは、ことは運ばなくなってしまいます。目的を共有し、目指すべき目標に向かってチームメンバーが合意のもとで力を合わせる。決してきれいごとではなく、日々の仕事はそのような動きをもって進みます。全員の合意が、責任の所在を不鮮明にするというのではなく、各自の役割を明解にしながら、多くの意志を統合することが、チームを預かるリーダーの役割にもなります。

 当然、全員が納得するとなれば、腹を割った話し合いも必要です。その議論の過程では、他者の意見に対する「反論」もあるでしょう。ただひたすら押し黙って、事の成り行きに身を任せ、決まったことを渋々やっていたのでは、プロジェクト自体が滞ってしまいます。また、所期の目的を達成することも難しくなります。「合意形成」とは、さまざまな意見を丸めて、総花的で角の取れた結論を導くことではありません。ある一人の人の意見に全員が賛同することもあります。たとえ「反論」があったとしても、何に対しても「反対」の姿勢では後ろ向きです。

 そのように考えると、マーケティングの思考の基本は、仲間やお客様との「合意形成」にあると捉えることが出来ます。(第60話に続きます)

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く(第5話)

第5話:相手を思い遣る心こそがマーケティング思考

 マーケティングが日本の産業界に紹介されたのは1955年と言われています。既に60年近い時が流れました。その間の日本経済の変遷と共にマーケティング自体も変化・進化の道を辿ってきました。今も、人によってさまざまなマーケティングの解釈がされるのも、それだけ時代環境変化に敏感に反応しつつ発展をして来たからともいえます。販売支援型のマーケティング、流通形態対応型、広告優位型・・・。その一つひとつに、今までの日本経済の歩みそのものにも似た動きをみることが出来ます。

 60年代から70年代のマーケティングは、「つくる」ことに主眼を置いたものでした。モノ不足の時代に始まり、モノをいかに大量につくり、大量に届けるかと、企業の経営もモノ主導型発想に主眼が置かれました。効率的なモノづくりをリードして、販売を円滑にする手段として、マーケティングは拡大成長のガイド役を果たしました。

 80年代のマーケティングは、「伝える」ことに主眼が置かれていました。多くのモノやサービスが、高い品質を維持してつくられる環境で、自らの差別性をいかに理解してもらうか。広告のコピー1行を書くのに何千万円といったコピーライターが、社会的にも認知され注目されていた頃です。

 時流れて90年代以降、特に21世紀に入ってから、マーケティングは一段と企業経営の根幹的な位置づけで語られるようになっています。一方的に企業サイドの論理だけではなく、顧客の真の想いを辿りながら、必要とされるものを一緒に「生み出し」無駄のない経済活動を進めようとする考え方です。「顧客主導」の発想。「つくる-つかう」「伝える-聞く」の対極的な考えではなく、「共に生み出す」考え方です。

 マーケティングの今日のテーマは、自らの相手を今まで以上に思いやる幅広いものへと拡張し、過去を分析することに止まらず、未来を語る役割までが求められているのです。(第6話に続きます)

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第3話)

第3話:「顧客」は誰ですか

 さまざまなモノや情報がお客様と出会う場や装置が「市場」。その変化を常に気にした経営をすることがマーケティングとお話ししました。では、お客様=顧客とはどのような意味を持ったものでしょうか。

 経営をする際には、顧客開発,顧客管理,顧客主導,顧客志向という言葉や「顧客は企業の資産である」と言われるように、「顧客」という言葉は普段からよく使っています。

 企業にとって「顧客」とは誰のことを指しているのでしょうか。そして、どこにいるのでしょうか。そもそも「顧客」というのは、どんな意味を持っているのでしょうか。何ごとも基本を知っておくことが大切です。

 「顧客」は「顧(かえりみる)」と「客」から出来た熟語です。更にこれは、「雇」と「頁」/「ウ冠」と「各」に分化できます。そして、「雇」=古い/「頁」=頭・顔/「ウ冠」=家・店/「各」=来る、の意味を持っているのです。個別の要素を続けて読んでみると、「古顔が店に来る」になります。

 馴染みの人の来店や来宅ということが元々の意味です。一度限りの顔見せではなく、一度の関係(来店)が長く続いて、また顔を見せてくれる人が「顧客」なのです。

 昨今マーケティングでは、顧客との関係づくりが重要と言われます。顧客をいかに維持するのかが経営の主題がおかれるのも、店や企業と顧客との長期的友好関係の形成の大切さを言っていることです。「顧客」は一度として「開発」されたり「管理」されたりしたいと考えたことはないのです。回を重ねて利用しようと考えるのは、そこに何か魅力があって魅かれるからに違いありません。

 顧客との関係づくりとは、店や企業サイドが、何度となく利用していただける魅力を提供しつづけ、馴染みの顔を理解することに始まるということは、もともとの「顧客」の意味をたどれば言うまでもないことなのです。(第4話に続きます)

株式会社マップス 代表取締役 清野 裕司

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く(第2話)

第2話:「市場:Market」の意味を知ること

 マーケティングは、市場(Market)の現在進行している(ing)変化状況を読み、その動きを自分自身の経営の姿勢や行動に取り込むことを基本の思想としています。ところで、ここで言う「市場」とは何を指しているのでしょうか。その意味を知ることが、マーケティングを理解するスタートにもなります。音としては、「いちば」と「しじょう」の二つがあります。

 先ずは「いちば」。まさに「場」のこと。モノや人が、そして情報や金が出逢い交換される「場所」であり「装置」のことです。その昔、10日毎や20日毎に開催された交換の場所は、今も地名に残る十日市や廿日市です。また、装置としては、現在のインターネット環境の申し子のような「楽天市場(いちば)」をご存知でしょう。

 さらに「しじょう」という場合はどうでしょうか。高齢者市場、女性市場という言い方や自動車市場、パソコン市場といった言い方があります。つまり、交換対象者であり、交換対象物を指すときにも「市場(しじょう)」という言葉が使われます。交換された結果(需要の規模)を示すこともあります。「○○市場は100億円」といった表現です。

 こうして見てみると「市場(Market)」という言葉も、「交換の場や装置/交換の対象/交換の結果」の意味をもったものであることがわかるのではないでしょうか。マーケティング思考では、これらの要素の変化をどのように読み解いたらいいのかが問われるのです。

 従来は手売りが当たり前だった飲み物を、今は自動販売機という装置でも購入できます。まだ行ったこともない国の名産を、インターネットという仕組みを使って購入できます。かつて若者市場にいた人も、年とともに高齢者市場に組み込まれます。モノの持つ意味も変わると、交換の結果の需要量も変化します。まさに変化は各「市場」現場で起きるのです。

その変化の中に身を置きながら、常に今の「市場」状況を考えること。自らも変化し続けなければ、市場の今を読むことは出来ないのです。まさに、今を生き続けることが「マーケティングすること」でもあるのです。(第3話に続きます)

kiyono

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