エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第250話)

第250話:五輪中止による経済損失は3兆円以上か

 2019年までの建設投資をけん引したオリンピック特需は、過去の経験則を踏まえれば、その勢いのピークは過ぎている可能性がある。

 こうした中、東京オリパラが中止になった場合に最も注意しなければならないのは、日本人や外国人旅行客の特需が失われることだろう。事実、これからの経済効果として期待されていたのが、日本人と外国人旅行客の増加であった。政府は2020年に4000万人の誘致を目指して外国人が訪問しやすい環境を整えてきた。これまでもビザの発給要件緩和等により外国人観光客は増え、2019年には3200万人台に到達した。

 目標到達にはこれをさらに2割以上増やさなければならなかったわけだが、仮に東京オリパラが延期、もしくは中止になれば、過去の経験則に基づくと、開催年に期待される経済効果、GDPベースで+1.7兆円、経済波及効果ベースで+3.2兆円程度が失われることになる。

 ただ、仮に無観客であれ東京五輪が開催されれば、耐久消費財の買い替えサイクルに伴う需要効果は期待できるものと思われる。背景には、内閣府の消費動向調査によれば、テレビの平均使用年数が9.7年となっていることがある。

 テレビの販売は2019年9月や2014年4月の消費税率引き上げ前に駆け込み需要で盛り上がったが、さらに前にさかのぼると、2009~2011年にかけてはそれ以上に販売が盛り上がった。背景には、リーマンショック後の景気悪化を受けて、麻生太郎政権(内閣)下で家電エコポイントが打ち出されたことと、2011年7月の地デジ化に向けて多くの世帯で買い替えが進んだためである。これで、エコポイントの対象となったテレビの駆け込み需要が発生しており、2020年はそこから10年を経過していることから、その時に販売されたテレビの買い替え需要がかなりあることが期待できる。しかし、仮にテレビの国内出荷台数が2019年の486万台から700万台程度に増加したとしても、トータルの需要創出額は4000憶円程度にとどまるだろう。

 サッカーワールドカップと並び、世界の二大スポーツイベントであるオリパラの開催は、開催国のスポーツ活動の活発化、スポーツ施設を中心とした社会資本整備の促進、開催地の知名度やイメージの向上、市民参加やボランティアの育成、国民の国際交流の促進に寄与するだけでなく、建設・工業・商業・輸送・対個人サービスなどを中心とした産業部門の需要拡大を通じて国内に大きな経済活動をもたらすと期待されていた。仮にそれが中止となると、国民心理的にも失われるものは計り知れない。(第251話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

さてこの度、永濱氏の書籍が出版となりましたので、ご案内させていただきます。何卒よろしくお願いします。

MMTとケインズ経済学

21世紀版のケインズ革命は、今まさに起こっているのか?
例外的な環境下において、赤字財政を推進したケインズの学説は、経済学に大きな影響を与え、ケインズ革命と呼ばれた。MMTはインフレ率に注意さえすれば、赤字財政は際限なく出すべきと主張する。本理論は21世紀のケインズ革命となるのか?

第1章  ケインズ経済学の衝撃

第2章  MMTとは

第3章  ケインズ経済学とMMTの違い

第4章  MMTの考え方(MMTは日本で実現するのか?)

第5章 アベノミクスの検証

第6章 日本の財政の誤解

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第249話)

第249話:オリンピック経費と国内の経済効果⓵

 今夏に開催する予定の東京オリンピック・パラリンピック。当初は世界一コンパクトなオリンピックを目指し、経費を7000億円に抑えるというものだったが、経費は膨れ上がり3兆円超に上るとされている。オリンピックに合わせて進めてきた事業等は多数あり、政府の方でもキャッシュレス等も含めたインフラ整備に力を入れていた。

 しかし、ここにきて中国発祥の新型コロナウイルスの影響が肥大し、日本全国で感染者が見られている。コロナウイルスの影響次第では夏に予定している東京オリンピック・パラリンピック(以下オリパラ)が延期、もしくは中止になる可能性も出てきている。延期ならまだしも、中止になれば日本経済に与えるダメージは計り知れない。そこで、今回と自戒の二回に分けて2020年の日本経済の目玉である東京オリパラの経済効果について解説する。

 過去、オリンピックを開催した国は例外なくその前後に景気の拡大や、株価や通貨の上昇を経験しており、オリンピック開催は当該国の経済にプラスの効果をもたらしてきた。前回のブラジルでは、2009年にオリンピックの開催が決定してから、競技場の建設や交通網の拡充など、様々なインフラ整備を通じて景気が押し上げられたが、観光収入や個人消費の増加という経路からも、経済成長率の押し上げ効果があった。

 今年の東京オリパラも、例外なく経済効果が期待されていた。東京が招致段階でIOCに提出した「立候補ファイル」の大会経費は、建設工事が本体工事費のみに限るなど計上される費用が基礎的なものに絞られていた。さらに、IOCは大会開催を側面から支える都市基盤整備等は大会後も残る「レガシー(遺産)」に当たるとして大会関係経費に盛り込まれなかったため、約7340憶円にとどまっていた。

 しかし、昨年12月に会計検査院が公表した試算では、国の大会関連支出とした事業が340あり、国は関連経費として既に1.06兆円を支出したことが明らかになった。これは、府省庁が照会に回答した支出を幅広く計上している。このため、検査院の試算や東京都の関連経費を含めると、総額3兆円を超えることになっている。

 このように、オリンピック経費は総額3兆円を超えることになっているが、それにはオリンピックに向けて支出される民間部門の投資や消費は入っていない。あくまでざっくりした試算ではあるが、1984年のロサンゼルス以降に夏季オリンピックを開催した国の経済成長率の平均をとると、開催3年前を底に開催2年前が+0.4%ポイント、開催1年前が+0.9%ポイント、開催年が+0.3%ポイント押し上げられていることがわかる。それを現在の日本の経済規模に当てはめると、GDPの押し上げ額は直近3年間の累計で+9.2兆円、開催年だけでも+1.7兆円となる。ただ、これは付加価値ベースの金額である。生産誘発額に換算すれば、それぞれ+17.0兆円、+3.2兆円程度の金額になる。従って、すでに14兆円近くの経済効果が出た可能性があるといえよう。(第250話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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MMTとケインズ経済学

21世紀版のケインズ革命は、今まさに起こっているのか?
例外的な環境下において、赤字財政を推進したケインズの学説は、経済学に大きな影響を与え、ケインズ革命と呼ばれた。MMTはインフレ率に注意さえすれば、赤字財政は際限なく出すべきと主張する。本理論は21世紀のケインズ革命となるのか?

第1章  ケインズ経済学の衝撃

第2章  MMTとは

第3章  ケインズ経済学とMMTの違い

第4章  MMTの考え方(MMTは日本で実現するのか?)

第5章 アベノミクスの検証

第6章 日本の財政の誤解

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第237話)

第237話:東京五輪で個人消費活性化

 2020年の景気を占う上では、2020年の国内最大イベントである東京五輪の開催が大きな鍵を握るだろう。既に建設特需は2019年中にピークアウトしている可能性が高いが、2019年のラグビーW杯でも開催期間中に内外の観光客の増加により、組織委員会が当初想定していた4,300億円を上回る経済効果が発生した可能性がある。東京五輪の開催時期は8月となるため、他の外部環境にもよるが、夏場にかけて東京五輪関連の消費特需が盛り上がる可能性が高い。

 特に、インバウンドの拡大に伴う需要効果は大きいと思われる。なぜなら、政府は2020年の訪日外客数と訪日外国人旅行消費額の目標をそれぞれ4,000万人、8兆円としているからである。

 2019年の訪日外客数は日韓関係の悪化による韓国人観光客減少の影響等もあり、3,300万人台にとどまりそうだが、2020年は政府目標の4,000万人までは行かずとも、3,500万人は超えそうだ。これに訪日外国人一人当り消費額の約15万円を乗じれば、5兆円を大きく超える旅行消費額の出現の可能性がある。

 更に、東京五輪観戦のための国内旅行やテレビの買い替え等の特需が発生することが予想され、特に6月末にはキャッシュレスのポイント還元の期限を控えていることから、年前半に駆け込み需要が発生することが予想される。

 中でも、五輪特需としてテレビの買い替えサイクルに伴う需要効果も大きいと推察される。内閣府の消費動向調査(2019年3月)によれば、テレビの平均使用年数は9.7年となっている。

 テレビの販売は2019年10月の消費税率引き上げ前に駆け込み需要で少し盛り上がったが、更に前に遡ると、2009年度~2010年度にかけてはそれ以上に販売が盛り上がった。背景には、リーマンショック後の景気悪化を受けて、麻生政権下で家電エコポイント政策が打ち出されたことがある。これで自動車やエコポイントの対象となったテレビ、冷蔵庫、エアコンの駆け込み需要が発生しており、2020年はそこから10年を経過していることに加え、一昨年末から4K・8K放送が始まっていること等もあり、その時に販売された家電の買い替え需要が期待される。

 中でもテレビに関しては、2011年7月の地デジ化に向けて多くの世帯で買い替えが進んでから、買い替えサイクルの9年以上が経つため、買い替え需要はかなりあることが期待される。なお、2020年の東京五輪が実施されれば、日本人のレジャーや観光関連市場でも特需が発生する可能性が高いだろう。(第238話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第187話)

第187話:キーワードは「国際化」

 東京五輪開催で最も注意しなければならないのは、開催後の経済の反動減だろう。2次利用できない施設は、負の遺産となることも考えられる。需要の先食いと実需の減少によって、開催後のGDPは0.4%押し下げられることが予測され、その対策が求められよう。

 また、インフラ整備の名を借りて、無駄なものを作りすぎると財政の健全化にマイナスに働くことも考えられる。投資先は集中と選択で選ばなければならない。

 建設投資の他に経済効果として期待できるのが、外国人観光客の増加である。

 政府は2020年に4000万人の誘致を目指している。実現のためには、外国人が訪問しやすい環境を整える必要がある。

 空港を見ても、国際線の発着便の少なさに加えて旅客機の離着陸料の高さも改善されていない。また、道路の案内標識はローマ字のためわかりづらく、交通機関のアナウンスも英語だけのところもまだある。また、ショッピングを楽しみたくても言葉が通じない店舗が依然として多い。

 こうした課題の解決は、実は外国企業の誘致にもつながることが期待される。日本に進出希望の企業にアンケート調査を行うと、ビジネス環境に求める改善点と観光客の不満点は共通している。「世界で最もビジネスをしやすい国をつくる」ことはアベノミクスの目標の一つであるため、オリンピックを契機に変えていくべきだろう。

 観光産業がこれから成長する素地が十分にあるわけだが、その魅力ある観光地づくりの一例として考えられるのがIRである。

 IRは、外国人観光客のリピーターを増やすのに有効な手段である。実際、シンガポールやマカオは、カジノで外国人観光客を急増させた。大阪や北海道、九州、和歌山等、すでに候補地が絞られてきており、2023~2024年ごろに開業との見通しもある。

 また、訪日増加のターゲットとして力を入れたい国はインドである。購買力を持つ中間層が日本の総人口より多いものの、観光客として訪れる人はまだ少ない。たとえば、インド映画のロケ地として売り込むのも一つの方法かもしれない。スイスはロケ地の誘致で知名度を大きく上げ、インド人観光客が多数訪れるようになった。観光客を増やすには、まず日本に興味を持ってもらうことから始めるべきだろう。

 オリンピック開催を控え、今後成長が見込めそうな分野をキーワードにすると「国際化」である。また、食や農産物等にもビジネスチャンスがあり、各地域は情報発信の仕組みづくりに重点を置くべきである。オリンピック開催後も反動減の少ない分野を狙い、今から市場開拓を進めるべきだろう。(第188話に続きます)

永濱 利廣 氏

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第186話)

第186話:五輪とともに外国の観光客・企業を日本に誘致するには

 外国人が訪問しやすい環境の整備は、外国企業の誘致にもつながる。2020年の東京オリンピックを契機に、日本を「ビジネスをしやすい」国に改革することで、持続的な成長が可能になる。外国人観光客のリピーター獲得に向けては、IR(カジノを含む統合型リゾート)も有効な手段だ。

 オリンピックの開催国は必ず景気の拡大や株価の上昇を経験しており、2020年の東京オリンピックも例外ではないだろう。

 その経済効果は、東京都の試算によると約3兆円弱となっている。しかしその大半は競技場の建設や周辺施設の整備であり、開催に向けて行われる道路や鉄道などのインフラ整備は含まれていない。

 先進国で開催された過去のオリンピックを見ると、開催までの7年間は、それ以前と比べてGDPを年平均約+0.3ポイント押し上げる効果がある。これを日本に当てはめると、累計で10.5兆円程度になる。

 ただし、これはあくまで付加価値ベースの金額で、生産誘発額に換算すれば21兆円程度になると試算できる。中でもインフラ整備と観光客の増加は大きな経済効果が期待される。

 例えば、環状道路の整備率を見ると過去の開催国のソウル、北京、ロンドンはともに100%だが、慢性的な渋滞を引き起こす東京の環状道路は大幅に遅れている。

 オリンピック関連施設の建設や改修工事などに4000億円が見込まれているが、それ以外の周辺の再開発や道路網、鉄道、空港等といった交通インフラにも整備が必要である。また民間では、ホテルや商業施設の建設や改修、さらにオリンピック終了後の再開発にも設備投資が行われるだろう。

 しかし、こうした再開発のハードルになるのが、建設労働者不足である。人件費を中心に建設コストの上昇が懸念され、特にオリンピックと関係のない地域では、建設・資材費の高騰を販売価格に転嫁できず、収益を圧迫する要因になりかねない。

 今後も被災地の復興や地方の老朽インフラで建設需要が続くため、現在のような建設労働者不足の状況で、オリンピックに向けた東京の整備が十分に行えるのか疑問も湧いてくる。少子化で建設労働者を増やすのは構造的に困難だろう。そこで関心を呼びそうなのが、外国人労働者の受け入れである。

 しかし、外国人労働者の受け入れには不確実性がある。例えば、政府の骨太方針では新たな外国人材の受け入れを強調しているものの、移民の受け入れは視野に入っていない。オリンピックを契機に移民受け入れに風穴が開く可能性もあろう。(第187話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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