エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第228話)

第228話:日米貿易交渉の影響

 トランプ大統領がTPP離脱を正式表明してから2年8ヵ月を経て、日米貿易交渉が最終合意に至った。世界最大の経済大国である米国との貿易協定は、米国産農産物の市場開放をTPP合意時より低く抑えた一方で、TPP合意時よりも自動車の関税引き下げが不十分な結果になり、やや押し込まれた印象だ。

まず、日米貿易交渉の一番身近なメリットは、米国から輸入する牛肉や豚肉、小麦、ワイン等の値段が下がることである。合意内容によれば、日本は米国産牛肉や豚肉をTPPと同じ水準まで関税を下げるため、安く米産品を調達できる。これは一般消費者にとっては大きなメリットになる。さらに、輸入食料品が安くなることに関連して、輸入する原材料が安くなることにより、食料品産業や外食産業にもメリットがある。

 産業に関しては、自動車関連以外では工業品の幅広い分野で関税を撤廃することになったため、関連分野はメリットを受けることになろう。しかし、TPPでは8割以上の品目で即時関税撤廃するとしていた約400品目ある自動車部品と自動車本体の関税撤廃について、今回の協定では見送られた。TPPでは乗用車関税の2.5%を25年かけて、ピックアップトラックの関税25%を30年かけてそれぞれ撤廃するとしていたが、自動車の対日貿易赤字を問題視するトランプ大統領に配慮せざるを得なかったようだ。

 ただし、日本の農産品の市場開放にはプラスに働く可能性がある。昨年度の牛肉の輸出量は6年連続で過去最高を更新する等、海外で日本の農産品の人気は高まっているが、米国が低関税の輸入枠拡大に合意した。関税が安くなれば、和牛のさらなる輸出拡大につながる。ほかにも、TPP合意で新設するはずだった最大年7万トンの米国からのコメの無関税輸入枠が見送られた。内向きの農業から脱却し、競争力を高めれば、農産品の海外輸出拡大につながることも見込まれる。

 一方、デメリットを被るのは米国から輸入する農産物と競合する日本の農林水産業や畜産業であろう。ただし貿易交渉とは別に、既に合意していた米中貿易摩擦で中国への輸出が伸び悩んでいる米国産の飼料用トウモロコシ250万トンを購入することは、飼料のコスト減を通じて日本の畜産業等にむしろプラスに働く可能性もある。こうした関税の直接的なメリット・デメリットのほかにも、日米間の貿易が活発化すれば、商社や倉庫業などがメリットを享受できる。

 しかし、来年11月の大統領選に向けて、今後のトランプ氏の出方に安心はできないだろう。日本にとっては、トランプ氏が何度もちらつかせてきた日本車への追加関税や数量規制、更には為替条項の回避に成功した。しかし米国は、他国との通商交渉ではこれらを盛り込んでいる。従って、米国側は今後の状況次第では、来年11月の大統領選挙に向けて強行姿勢でこれらの導入を求めてくる可能性もあり、更に有利な条件獲得を狙って日本を追い込む可能性も否定できない。今回の基本合意があっても予断は許さないだろう。今後も日本にとっては難しい交渉が続きそうだが、是非とも今後の日本の交渉力に期待したい。(229話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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