エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第92話)

第92話:不動産・REIT市況動向を踏まえた資産運用の際のポイント

 不動産株やREITは底値を探る展開が続いている。背景には、2017~2018年にかけての大型ビル完成に伴う空室率の上昇懸念や、マンションの売れ行き低迷に伴う在庫増等があると推察される。

 一方、日銀が新たに打ち出した10年国債利回り0%をターゲットにイールドカーブをコントロールする方針は量的緩和の縮小とネガティブに捉える向きもある。しかし、今後にマイナス金利深堀の可能性もあり、不動産・REIT市況にとってネガティブとは決めつけられない。特に、このところの不動産・REIT市況はCPIと連動性を強めており、インフレ期待の低下とともに市況が悪化してきただけに、インフレ期待の動向が注目されよう。そして、日本経済の回復や日銀が目標とする消費者物価上昇率2%達成に向けては、為替動向が鍵を握るため、2017年の不動産・REIT市況も米大統領選後の政治や日米の金融政策の行方に大きく左右されることになろう。

 足元では、長期金利の上昇を受け、不動産・REIT市況に対しネガティブな反応が出ている。しかし、日銀の枠組み変更については、10年国債利回りがゼロ%を超えて上昇しない蓋然性が高まったとの解釈もでき、不動産・REIT市況にとって悪くないとの見方もできる。従って、米国が2017年以降の緩やかな利上げペースを明確に打ち出し、国内でも不動産・REIT市場で長期金利が0%以上は上がりにくいという見方が強まれば、不動産・REIT市況の調整は2017年に一旦収まる可能性もあろう。

 ここもと、世界経済の不透明感が軽減して以降はGDPギャップも順調に縮小しており、このまま原油価格が下がらなければ再来年頃にはデフレ脱却宣言が出せるところまで来ている。デフレから脱却するということは、日本経済が安定的なインフレ経済に移行することを意味している。つまり、持続的に物価が上がっていくため、何もしなければ現金の価値が下がることになる。特に、マイナス金利下で銀行預金や現金で資金を保有していては価値が目減りすることになる。つまり、余剰資金は現預金以外の形で持つことが、インフレ時代の資産運用の基本となる。

 具体的には、インフレヘッジが重要となる。インフレヘッジに適した金融資産の代表が株や不動産である。しかし、人口減少局面にある今の日本では、全国津々浦々で不動産の価格が上がることは考えにくいため、積極的には勧められない。ただし、REIT(不動産投資信託)の場合、専門家が収益性を考えて、商品設計をしているため、投資先として株と同様に候補になるだろう。

 もう一つが円安対策である。インフレになって現金の価値が下がるということは、日本では円の価値が下がりやすくなることも意味している。従って、目減りしないように外貨建ての資産を持つことも重要になろう。特に米国では利上げのタイミングを世界中の市場関係者が固唾を飲んで見守っている。アメリカの長期金利次第では、ドルに対して更に円安が進む可能性もあるため、資産を外貨でも持っておくことも重要になるだろう。(第93話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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60分でわかる「マイナス金利」
第一生命経済研究所
首席エコノミスト:永濱利廣(監修)

mainasu2016年1月29日に日銀の金融政策決定会合で決定され、2月16日から実施された「マイナス金利」。

プラスであることが当たり前の金利がマイナスになるとは、いったいどういうことなのか?

日本の経済を再生する原動力となるのか?

そして、私たちの生活にどのように関係するのか?

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第91話)

第91話:2017年のアベノミクス

 アベノミクスの当初の3 本の矢は、①大胆な金融緩和、②機動的な財政政策、③民間投資を促す成長戦略であったが、2017年は第一の矢、すなわち金融緩和中心の運営からの転換を迎える年となろう。背景には、日銀が2016年9 月に金融政策の新しい枠組みとなる「長短金利操作付き量的質的金融緩和」を打ち出したことがある。具体的には、イールドカーブコントロール(長短金利操作)とオーバーシュート型コミットメント(CPI上昇率が2%を安定的に超えるまで金融緩和を続ける)が設けられた。今回の措置は、マイナス金利の副作用とマネタリーベース拡大の限界に対応したものであり、特に長期金利ターゲットの導入は量的緩和政策のテーパリング容認への転換を意味する。従って、新たな枠組みの下では金融緩和の効果は限定的となり、財政政策に依存することになろう。

 こうした中、2017年の内需をけん引するのは、秋の臨時国会で成立する事業総額28.1兆円の新経済対策、すなわちアベノミクスの第二の矢の効果であろう。経済対策の規模としては安倍政権で最大であり、リーマンショック時の対策を含めても過去3番目の大きさとなる。しかし、約半分の14.6兆円は政府系金融機関の融資枠や民間企業の自己負担分であり、実際の支出に結びつくかは不透明である。また6兆円の財政投融資を除く国・地方の財政措置は約7.5兆円であり、うち今年度の第二次補正予算に計上されるのは現時点で5兆円程度である。このため、2017年度のGDP押し上げ規模は2.5兆円(0.5%)程度にとどまろう。なお、解散総選挙の行方次第では、補正予算が追加される可能性もあろう。

 一方、2017年度は構造改革と規制緩和、すなわちアベノミクス第三の矢の再加速が期待される。背景には、政府が2016年9月に政府の成長戦略や構造改革策等を議論してきた「産業競争力会議」と「未来投資に向けた官民対話」を統合して新たな司令塔「未来投資会議」を設置したことがある。本会議では2017年1月に中間報告を行い、毎年6月頃に発表する「日本再興戦略」に反映することが予定されている。

 未来投資会議の傘下には、課題分野毎に「ローカルアベノミクスの深化」「医療・介護」「企業関連制度改革・産業構造改革」「第4次産業革命・イノベーション」といった4つの構造改革徹底推進会合が設置されている。特に政府内では、法人税を減税しても賃上げにも設備投資にも消極的な企業への不満が高まっており、企業の内部留保が重要な論点になっている。従って、2017年はマクロの経済財政政策の司令塔である経済財政諮問会議とミクロの成長戦略の司令塔である未来投資会議が車の両輪となり、企業の内部留保改革が強力に推進されることが期待される。

 他方、もう一つの構造改革を議論する政府会議となる「規制改革会議」も「規制改革推進会議」に衣替えされた。こちらの会議では、大胆な労働市場改革や規制改革の提案が期待されている。外国人投資家を中心にマーケットでは、労働市場改革や社会保障制度改革等の遅れを指摘する向きも多い。従って、安倍内閣の支持率が依然高いことからすれば、2017年度はアベノミクスの第三の矢である構造改革の加速に期待したい。(第92話に続きます)

永濱 利廣 氏

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第90話)

第90話:日本経済の懸念材料と中小企業の成功事例

 来年の春闘が、このままだと結構厳しい可能性があるとの見方がある。春闘の賃上げ率は、①前年の企業業績、②人手不足感、③物価上昇率に影響を受ける。特に物価上昇率が、大きな決定要因になっており、物価が上がっていれば、それだけ従業員の生活水準を維持するために賃上げの要請がしやすい、ということになる。実際の物価はこれまでの円高の影響で今期のインフレ率や業績はそこまで期待できない。労働需給だけは、失業率が3%まで下がって逼迫しているが、再度為替レートが円高に転じてしまえば、来年の賃上げ率が下がる可能性もある。

 一方、これまでのように消費が減り続けていくという局面は脱し始めてきている。従って、いかに個人消費の耐久財買い替えサイクルが持続している間に、円高がある程度是正されて、企業マインドが戻ってくるかというところにかかっている状況だといえる。

 こうした中、日銀短観によると、特に製造業で業況が良いと答える企業の割合を見ると、大企業よりも中小企業の方が多いことがわかる。これは、中小でも好業績を上げている企業が多いということを示している。

 こうした中小企業成功のトレンドには大きく二つある。一つ目がITの導入である。大企業はIT導入済で改善の余地は少ないが、中小企業はクラウドサービスを導入して業務効率化することにより、収益拡大に繋げる成功事例もある。

 二つ目が、特に中小企業であれば単独だとなかなか厳しい中で、企業間ネットワークを形成して、成功をしているというのが最近のトレンドである。例えば大阪のネジ卸の会社は、中小企業4社でネットワークを形成し、受注から出荷まで、部品の一貫生産を可能にし、完成部品を短期で納品できる仕組みを作って、事業化に成功している。

 また、イノベーションまで行かなくても、端的に販路開拓で成功しているケースも最近目立つ。ここには、①グローバル展開、②ITの有効活用、③デザイナーの有効活用、とポイントが三つある。

 大阪にある土鍋を作っている会社では、デザイナーと連携した新しいデザインの商品を開発して、フランスの見本市に出展して評価され、それがネットで広がり、他の海外や国内でもネット通販で販路獲得に成功している。デザイナーがポイントになっている背景としては、日本特有の文化風潮もあり、デザイン性や芸術性とか他には真似できないものがあるため、こうした部分をいかに有効活用できるかが勝負の分かれ目だと考えられる。

 最後に、日本でも地方に行けば地方に行くほど、人材不足や定着の問題があり、それに対する決定打はない。しかし、面白い取り組み事例もある。広島では、NPO法人や自治体や商工団体で組織し、中小企業間で人材のローテーションを行っている。人手の過不足を補完するだけではなく、様々な経験をさせて将来を担う人材を育成する取り組みであり、参考になるのではないだろうか。(第91話に続きます)

永濱 利廣 氏

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第89話)

第89話:ようやく最悪期を脱しつつある日本経済

 日本経済の全体的な動向を見るという意味では、代表的な指標としてGDP、すなわち経済成長率等がある。最近の状況を見ると、日本経済は特に2015年からプラス成長になったりマイナス成長になったりと、一進一退を続けてきたが、2016年以降、ようやく3期連続でプラス成長になった。うるう年の特殊要因を加味すれば、若干だが3期連続で伸びが加速していることになる。

 内訳を見ると、個人消費が明確に回復とは言わないまでも、これまで続いてきた悪化が止まってきたと言える。その最大の要因は、耐久財である。

 この背景には、2009年度から2010年度にかけて、家電エコポイントやエコカー補助金等により家電や自動車販売の特需があったことがある。一方、内閣府の消費動向調査によれば、こうした耐久消費財の平均使用年数は7~9年程度である。このため、長年低迷していた車や家電等の耐久消費財の消費が買い替えサイクルの到来により増加している可能性がある。

 しかし、景気の先行きを規定するのは企業部門であるが、主に設備投資の数値が低迷していることがある。その最大の要因は、特に今年の年明け以降、急速に進んだ円高により、企業マインドが悪化し、設備投資に悪影響が及んでいる可能性がある。

 そのような中で、明るい材料としては、消費増税が先送りされた点である。この点については、少なくとも来年度の経済にはプラスに効いていくと考えられる。実際、日本経済研究センターのESPフォーキャスト調査を基に消費増税先送り前後の経済見通しに基づけば、消費増税が先送りされたことによって、GDPは4兆円程度恒常的に水準が高くなると計算される。

 もう一つは、事業規模28兆円の大型の景気対策である。実際に中身を見ると、国が実際に負担をする真水部分は7.5兆しかなく、今年度ベースでは5兆円強程度の真水の景気対策になるようである。それを踏まえると、今年度と来年度の経済成長率をそれぞれ+0.2ポイント程度、+0.3ポイント程度押し上げられる程度と予測される。中身を見ると、公共事業系のウエートが大きいため、建設関連には一部恩恵が行く可能性はあるが、表面上の数字ほど大きな効果は期待できないことには注意が必要だろう。

 一方、輸出の動向が大きく影響するのが、国内の生産活動であり、マクロ経済全体で見ると、増産に転じ始めている。鉱工業生産の生産計画まで入れると、在庫率が下がっていることもあり、秋口以降は明確な増産基調になっている。マクロ経済全体で生産調整が終了している状況を見ると、日本経済はようやく最悪期を脱しつつあると見ることが出来よう。(第90話に続きます)

永濱 利廣 氏

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