エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第192話)

第192話:2019年の個人消費展望

 2018年の日本経済を一言で表現すると、一進一退だったといえよう。好調な米国経済やそれに伴う為替の安定に加えて東京五輪特需等もあり、大企業を中心に設備投資は好調だったものの、原油価格の上昇や自然災害が多発したことなどにより、個人消費の拡大が不十分だったということだろう。

 好調な企業業績期待を反映して、日経平均株価もバブル崩壊以降の最高値を更新した。それにもかかわらず景気回復の実感が乏しかった原因は、政府が積極的な賃上げ対策を講じた割に、賃上げ率が力不足だったことがある。

 また、エネルギー価格の上昇を主因に上昇した消費者物価が、家計の消費行動に対する慎重姿勢を誘発したこともあろう。

 こうした中、2019年の景気を占う上では消費税率の引き上げが大きなカギを握るだろう。特に、耐久財の買い替えサイクルに伴う需要効果は大きいと思われる。背景には、内閣府の消費動向調査によれば、テレビと新車の平均使用年数は9年強となっていることがある。

 テレビや新車の販売は2014年4月の消費税率引き上げ前に駆け込み需要で盛り上がったが、更に前に遡ると、2009~2010年度かけてはそれ以上に販売が盛り上がった。リーマン・ショック後の景気悪化を受けて、麻生政権下でエコカー補助金や家電エコポイント政策が打ち出されたためだ。

 2019年はそこから9年を経過していることに加え、10月に消費税率の引き上げを控えていることから、その時に販売された家電や自動車の買い替え需要が期待される。

 特にテレビに関しては、2011年7月の地デジ化に向けて多くの世帯で買い替えが進んだため、買い替え需要はかなりあることが期待される。2020年に東京五輪が控えていることも、買い替え需要の顕在化を後押しする可能性があるだろう。なお、2019年の新天皇の即位に伴って、同年のゴールデンウィークが10連休となる。レジャーや観光関連市場でも特需が発生する可能性があろう。

 なお、今回の消費税率引き上げのマクロ的な負担増加額は、引き上げ幅が2%にとどまることに加え、既に決まっている軽減税率導入や子育て世帯への還付等の増税対策を考慮しただけでも、前回8兆円/年の約四分の一の2.2兆円/年にとどまることになる。

 ここに、①キャッシュレス決済によるポイント還元、②プレミアム付商品券、③住宅購入支援、④自動車購入支援、等の増税対策も加味すれば、短期的な負担増加額は更に少なくなることが示唆される。なお、一部報道にあるとおり、軽減税率などを除く新規の対策が総額2兆円を超えることになると、その対策が発動されている間の増税の影響は各種増税対策でほぼ相殺される可能性もある。(第193話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第191話)

第191話:暖冬が各業界に及ぼす影響

 過去の経験によれば、暖冬で業績が左右される代表的な業界としては冬物衣料関連や百貨店関連がある。また、電力・ガス等のエネルギー関連のほか、製薬会社やドラッグストア等も過去の暖冬では業績が大きく左右されている。自動車や除雪関連といった業界も、暖冬の年には業績が不調になりがちとなる。鍋等、冬に好まれる食料品を提供する業界やスーパー、食品容器等の売り上げも減少しやすい。冬物販売を多く扱うホームセンターや暖房器具関連、冬のレジャー関連などへの悪影響も目立つ。一方、屋外娯楽関連サービスや鉄道、外食に加え、コールド系の飲食料品の販売比率が高いコンビニなどには恩恵が及ぶ可能性がある。

 そこで1990年以降のデータを用いて、10-12月期の全国平均気温を説明変数に加えた実質消費関数を推計し、冬場の気温がマクロの家計消費に及ぼす影響を試算してみた。これによると、10-12 月期の実質家計消費と気温との間には、気温が+1℃上昇する毎に同時期の家計消費支出が▲0.6%程度押し下げられるという関係が見られる。これを金額に換算すれば、10-12 月期の平均気温が+1℃上昇すると、同時期の家計消費支出を約▲3,784億円程度押し下げることになる。

 従って、この関係を用いて今年 10-12月期の気温が記録的高温となった2015年と同程度となった場合の影響を試算すれば、平均気温が平年比と前年比でそれぞれ+1.2℃、+1.8℃上昇することにより、今年10-12月期の家計消費は平年および前年に比べてそれぞれ▲4,521億円(▲0.7%)、▲6,772億円(▲1.1%)程度押し下げられることになる。このように、暖冬の影響は経済全体で見ても無視できないものといえる。

 なお、今回の試算では、エルニーニョで2015年並みの暖冬となったことを前提に試算しているが、これまでの歴史を見ても分かるように、エルニーニョが発生したからといって、必ず暖冬になるわけではない。しかし、実際に暖冬になれば、気象要因により家計の消費行動に大きな変化が及ぶことも十分に考えられる。2015 年の場合、前年の低温の反動や暖冬に加えて、チャイナショックに伴う株価の下落や消費マインドの低迷も手伝って、同年10-12月期の家計消費支出(除く帰属家賃)は前期比年率▲2.7%ととなり、同時期の経済成長率は前期比年率▲1.2%とマイナス成長に陥った。

 また、エルニーニョは世界的な現象であるため、エルニーニョが海外経済にも影響を及ぼすようなことになれば、日本からの輸出減を通じても日本経済に悪影響を及ぼしかねない。

 以上の事実を勘案すれば、今後の景気動向次第では、減速感が明確になりつつある日本経済に暖冬が思わぬダメージを与える可能性も否定できないだろう。特に足元の個人消費に関しては、自然災害や株価下落等のマイナスの材料が目立っているが、今後の個人消費の動向を見通す上では、エルニーニョによる暖冬といったリスク要因も潜んでいることには注意が必要であろう。(第192話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第190話)

第190話:暖冬をもたらすエルニーニョ

 世界的に異常気象を招く恐れのあるエルニーニョ現象が発生している。気象庁が11月9日に発表したエルニーニョ監視速報によると、ペルー沖の海面水温が高くなるエルニーニョ現象の影響等で暖冬となる見込みとされており、気象庁が11月21日に公表した向こう3か月の予報でも、全国的に気温が高くなりがちと予想している。

 エルニーニョ現象とは、南米沖から日付変更線付近にかけての太平洋赤道海域で、海面水温が平年より1~5度高くなる状況が1年から1年半続く現象である。エルニーニョ現象が発生すると、地球全体の大気の流れが変わり、世界的に異常気象になる傾向がある。

 近年では、2015夏から2016年春にかけて発生し、北海道を除く北日本で平年より10日-14日以上遅い初雪・初冠雪、沖縄では12月に長期的な高温を観測した。また12月は日本国内のみならず、国外の多くで北半球最大規模の大暖冬となった。

 気象庁の過去の事例からの分析では、エルニーニョ現象の日本への影響として、梅雨入りと梅雨明けが遅くなることで夏の気温は低めとなり、冬の気温は高めとなる傾向がある、ということ等が指摘されている。

 実際、エルニーニョ現象の発生時期と我が国の景気局面には関係がある。というのも、過去のエルニーニョ現象発生時期と景気後退局面を図にまとめると、90 年代以降全期間で景気回復期だった割合は26.1%となる。しかし驚くべき事に、エルニーニョ発生期間に限れば46.7%の割合で景気後退局面に重なっており、エルニーニョ発生時の景気後退確率は1.8倍となることがわかる。

 特に、2015年のエルニーニョ発生局面では記録的な暖冬に舞われた。気象庁の発表によると、10-12月期の全国平均の気温は前年より+1.2℃程度高くなった。この暖冬の影響で2015 年10-12 月期の消費支出(家計調査)は前年比▲3.2%の減少に転じた。特に、被服履物が冬物衣料の売り上げが不調となったことから、同▲11.5%の落ち込みを記録した。また、交通関連を見ても、暖冬の影響は明確に表れた。同時期の交通・通信支出は暖冬の影響で冬のレジャーやタクシー利用が落ち込み、車関連でもスタッドレスタイヤ等の冬物商材が落ち込んだことで売り上げが低迷した。保険医療の支出動向も製薬関連が落ち込み、全体として低調に推移した。

 国民経済計算ベースで見ても、暖冬の影響が及んだ。2015年10-12月期の実質国内家計最終消費支出は前年比+0.3%と伸びが急速に鈍化し、家計調査同様に被服履物の支出額が大幅に減少した。また、冬のレジャーの低迷により娯楽・レジャー関連でも暖冬がブレーキとなった。

 以上より、エルニーニョ現象により今年の冬も暖冬となれば、各業界に影響が及ぶ可能性があるといえよう。(第191話に続きます)

永濱 利廣 氏

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第189話)

第189話:2018年4-6月期が景気の山となる可能性

 正確な景気の山谷は、政府の景気動向指数研究会によって、ヒストリカルDI(以下HDI)を計算して決められる。HDIはDIの一致指数として採用されている9系列の山谷を決定し、景気拡張期は+、後退期は-に変換して新たにDIを作り直すことにより求められる。そして、HDIが50%を切る直前の月が景気の転換点となる。

 そこで、今回の局面について簡便的にHDIを推定してみた。ただ、一致系列の4/9を占める鉱工業指数関連のデータが今月基準改定を控えており、データにかなりぶれが生じやすくなっている。このため、今回はブライ・ボッシャン法の移動平均の一つにも採用されている3か月移動平均値も用いて考慮した。

 一致指数を構成する9の系列を見ると、今後のデータ次第ではあるが、営業利益と有効求人倍率以外の7系列が2018年5月までに山をつけたと事後的に判断される可能性がある。このため、この7系列のうち5系列以上が2018年4-6月期にピークアウトしたと判断されれば、9系列中過半の5系列以上が山をつけることになる。こうなれば、日本経済はHDIが50を下回る可能性のある2018年4-6月期が景気の山となり、翌7-9月期から景気後退局面入りと機械的に判断される可能性がある。

 ただ、政府の公式な景気動向指数研究会で景気の山谷を設定するに当たっては、HDIの試算に加えて、①転換点を通過後、経済活動の拡大(収縮)が殆どの経済部門に波及・浸透しているか(波及度)、②経済活動の拡大(収縮)の程度(量的な変化)、③景気拡張(後退)の期間について検討する。併せて、念のため、参考指標の動向が整合的であるかどうかについても確認する。

 そこで、これらについても具体的に見てみると、波及度については依然として営業利益と有効求人倍率が拡大及び上昇を続けている。また量的な変化については、一致CIが2017年12月の直近ピークから2018年7月の直近ボトムまで▲2.4%程度の低下にとどまっている。また、参考指標の動向として日銀短観の業況判断DIを見ると、全規模全産業ベースで現状判断DIは2018年6月調査以降2期連続で低下しているが、まだ水準はプラスを維持している。

 したがって、これらの指標の動向を勘案すれば、機械的に判定したHDIが50%を下回っても、景気の波及度や量的な変化といった観点からとらえると、2014年4月~2016年2月までHDIが50%を割ったのに景気後退と認定されなかったこともあり、今回も景気後退局面入りと最終的に判断されるかは微妙な状況と判断できよう。ちなみに、今後の景気が更に悪化し、2018年4-6月期が景気の山となれば、今回の景気拡大局面は60か月台半ばとなり、戦後最長の景気回復73か月は更新できないことになる。(第190話に続きます)

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第188話)

第188話:景気後退瀬戸際の日本経済

 足元の経済動向について、筆者は非常に危機感を抱いている。背景には、10月の株価の下落速度がアベノミクス以降で見ると非常に大きかったことがある。

 実際2012年12月のアベノミクス始動以降の日経平均株価の月間下落率を大きい順に並べると、最大の下落幅を記録したのがイギリスの国民投票で予想外のEU離脱が決まった2016年6月であり、実にその次が2018年10月の株価下落である。つまり、2016年2月のチャイナショック第二弾、2015年8月のチャイナショック第一弾を上回る非常に大きな株価の調整が起こったことがわかる。

 こうした状況は、既に実体経済にも影響が出ている。事実、街角景気指数とされる景気ウォッチャー調査を見ると、現状判断DIが今年1月分から10か月連続で好不調の分かれ目となる50割れとなっている。また、経済成長率が鉱工業生産の変化率と関係が深いことから見れば、日本経済は2018年7-9月から2期連続でマイナス成長になる可能性も出てきた。実際、2018年10月分の生産予測指数の経産省試算値と同11月分の生産予測指数を基に、2018年10-12月期の前期比を機械的に計算すると、2018年7-9月期の前期比▲1.6%に続いて前期比▲0.2%と2期連続マイナスになると試算される。この結果に基づけば、既に7-9月期にマイナス成長となっている経済成長率が10-12月期もマイナスになる可能性もあり、非常に厳しい状況といえる。

 一般的に、景気がピークアウトしたことを簡便的に判断するには、経済成長率が2期連続でマイナスになったか、もしくは景気動向指数の一致CIや鉱工業生産がピークアウトしたか、等により判断される。こうした中、過去の景気回復局面と比較すると、このまま景気後退が認定されなければ、2018年12月には戦後最長の景気拡大期間となる73か月に並ぶことになる。

 一方、景気の現状を示す代表的な指標とされる一致CI・鉱工業生産指数とも昨年12月をピークに低下基調にあることからすると、今後もこの環境が続けば、景気後退時期に関する議論が盛り上がることになろう。なお、足元の景気動向に関しては、自然災害に伴う一時的な悪化と判断する向きもあるが、今後の景気動向を見通す上では、米国の金利上昇や保護主義の悪影響といった押し下げリスクが潜んでいることには注意が必要であろう。

 特に、米国の金利上昇に関しては、このままいけば来年前半中にもFFレートが中立金利を上回る可能性があり、米経済や新興国経済の足を引っ張るとみられる。また、米中貿易摩擦についても、年内に米中の歩み寄りがなければ、年明け以降は追加関税の幅が引き上げられることになっている。従って、国内の自然災害の影響も合わせて、今後の海外経済の動向次第で日本経済の景気後退局面入りの可能性が高まれば、来年10月に控える消費税率引き上げを先送りする理由になる可能性もあろう。消費増税の行方を見る上でも今後の景気動向からは目が離せない。(第189話に続きます)

永濱 利廣 氏

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