エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第182話)

第182話:負担額自体は前回の1/4程度となる次回の消費増税

 次回の消費増税の負担額を試算すると、消費増税そのものは景気へのダメージが前回の四分の一程度になると判断される。参考のために97年度と2014年度、それから次回2019年10月に2%ポイント引き上げた場合のそれぞれについてマクロの負担額を見ると、97年度は消費税率の引上げ幅自体は2%で、負担増は5兆円程度と限定的であった。

 しかし、特別減税の廃止や年金医療保険改革等の負担が重なり、結果的には9兆円近い大きな負担となった。更に、景気対策がない中で同年6月にアジア通貨危機が起こり、同年11月に金融システム不安が生じたため、景気は腰折れをしてしまった。

 確かに、97年度は消費増税以外の負担増もあったため、消費増税の影響だけで景気が腰折れしたとは判断できない。しかし、前回2014年の消費税率3%の引き上げは、それだけで8兆円以上の負担増になり、家計にも相当大きな負担がのしかかった。

 次回2019年10月の消費増税の負担額は、財務省の試算によれば、2019 年10月から軽減税率を導入せずに消費税率が10%に引き上げられると、最終的に税収が5.6 兆円増えることになる。一方で酒類・外食を除く食料を軽減税率の対象品目とした場合の必要な財源が1兆円、教育無償化に伴う必要な財源が1.4兆円となることなどから、家計全体では2.2兆円程度の負担にとどまることを示唆している。

 一方、2017年の総務省『家計調査』を用いて、具体的に平均的家計への負担額を試算すれば、年間約4.4万円の負担増となる。また、世帯主の年齢階層別の負担額を算出すると、世帯主の年齢が40 代~60代の世帯では4万円/年を上回るも、世帯主が30 代以下か70代以上になるとその額が4万円/年を下回る。同様に、世帯の年収階層別では、年収が1500 万円以上の世帯では負担額が9万円/年を上回るも、年収200 万円未満ではその額が2万円/年を下回ることになる。

 先述の通り、2019 年10月に予定する消費増税の使い道を巡っては、増収分の1.4兆円を教育無償化・負担軽減に充当することになる。これは、家計全体では1.4兆円程度の所得減税と同程度の効果になることを示唆している。

 そこで、内閣府の最新マクロモデルの乗数を用いて、前回2014年の消費税率が3%ポイント引き上げられた場合の影響を試算すると、初年度に個人消費の▲1.53%押し下げを通じて実質GDP を▲0.72%押し下げたことになる。一方、次回2019年10月に軽減税率導入のうえ消費税率が2%ポイント引き上げられた場合の効果を試算すると、初年度に個人消費の押し下げ▲0.84%を通じて実質GDP を▲0.39%押し下げることになる。しかし一方で、子育て世帯還付による個人消費の押し下げ+0.15%を通じて実質GDPが+0.08%押し下げることになるため、次回の消費税率引き上げに伴うマクロ経済への悪影響としては、前回の半分以下にとどまることになる。

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第181話)

第181話:臨時国会前に打ち出される観測の経済対策

 各紙の報道によれば、政府は自然災害の復旧作業に対応すべく、10月26日に開会予定である臨時国会までに経済対策をまとめるとされている。

 特に経済対策の規模については、西日本豪雨や台風21号、北海道胆振東部地震の復旧・復興に対して、大型の補正予算が組まれることが予想される。

 経済対策の規模を設定する際に一般的に参考にされるのが、潜在GDPと実際の実質GDPのかい離を示すGDPギャップ率である。直近の2017年のGDPギャップ率は、内閣府の推計によれば+0.4%とプラスに転じている。

 しかし、より各国のインフレ率と関係が深いIMFのGDPギャップ率を見ると、2018年の日本の見通しは依然として▲0.2%のデフレギャップが残存していることになる。従って、少なくともIMFのGDPギャップを解消するのに十分な規模の経済対策を前提とすると、2017年の実質GDP531兆円の0.2%分となる1.2兆円程度の追加の経済対策で済む。

 ただし、6月以降に相次いで発生している地震や豪雨、台風によって、巨額な資本ストックの被害が発生していることが予想される。実際、内閣府によれば、前回の熊本地震の被害額を2.4~4.6兆円と試算しており、発生年度に打ち出された補正予算の規模は5.5兆円となっている。また、資本ストックの被害総額が1.7~3.0兆円と試算された新潟中越地震においても、発生年度に打ち出された補正予算の規模が4.8兆円にも上ったことからすると、すでに西日本豪雨への対応などで18年度予算から約1700億円の予備費を支出しているが、それに加えて5兆円を上回る規模の復興予算が望ましい。

既に、10月26日に開催予定となっている臨時国会冒頭において、西日本豪雨対応の補正を提出すると報道されている。具体的には、西日本豪雨対応以外にも、台風被害や北海道胆振東部地震関連対応に加え、学校のブロック塀対策やエアコン設置等の歳出も含まれる可能性がある。ただ、こうしたメニューだけでは事業規模は5兆円に届かないだろう。従って、実際に打ち出される補正予算については、災害対策に加えて国土強靭化関連の歳出を加えるべきだろう。実際、先般の自民党総裁選において、安倍首相は防災・減災の緊急対策を3年間で集中実施するとしていたため、2次補正にはこれに関連するメニューが加わることを期待したい。

 なお、公共事業に関しては、建設業界の人手不足の深刻化により工事が予定通り進まないと懸念する向きもある。しかし、国土交通省の建設労働需給調査によれば、建設技能労働者の過不足率は2014年度以降急速に不足率が縮小して以降は安定している。従って、東日本大震災からアベノミクスの初期段階における補正予算に比べれば、GDPの押し上げ効果は顕在化しやすい可能性がある。日銀は、過去のオリンピック開催国のパターンを参考にすると、関連する建設投資は2017~2018 年頃にかけて大きく増加するとしており、この予想に基づけば2019年以降はその反動減が懸念されるが、この反動減の部分を今年度補正予算における景気対策により緩和することが期待されよう。(第182話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第180話)

第180話:戦後2番目の景気回復はいつまで続くか

 日本の景気回復は、曲がりなりにも2017年9月から戦後2番目の長さとなっている。ただ、筆者の見通しでは2019年度後半あたりから景気が悪くなる可能性が高いと予測している。その要因としては、既に戦後2番目の長さになっている米国経済が今後景気後退に転じる可能性があることや、東京五輪特需のピークアウト、2019年10月の消費税率引上げ等が考えられる。

 実際に「ESPフォーキャスト調査」では、2018年度から2019年度にかけて経済成長が緩やかに減速していくと予測されている。尚、2018年度の減速の一因は、2017年度は4年ぶりに増加に転じた公共事業が減少に転じるためである。また世界経済についても、2017年末にかけて欧米の生産活動が良すぎた反動もあり、2018年の生産活動の回復は少し緩やかになっている。ただし特に、米国は2017年末に決まったトランプ減税の効果で、少なくとも2019年前半頃までは好調が続くだろう。

 数少ない期待される消費の分野としては、2009年に導入されたエコカー補助金と省エネ家電の購入を促すエコポイント制度から9年が経過しており、当時売れたテレビや車の買い替え需要が期待できよう。特にテレビについては、2011年の地デジ化の影響もあり、2019年10月に控える消費税率引き上げ前の駆け込み需要も合わせると、かなり大きな買い替え需要が見込まれる。

 しかし、経済は循環しているため、いつかは景気後退局面が訪れよう。その要因としては、米国経済の減速や景気後退、東京五輪特需の剥落、消費税増税などがある。中でも消費税増税の時期については、注意が必要だろう。実際、近年の日本の個人消費が大きく下振れした時期はこれまでリーマンショック、東日本大震災、2014年の消費増税の3度あった。下振れの時期は、リーマンショックは2年、東日本大震災は1年にとどまったのに対し、2014年4月の消費増税の時は3年かかった。更に、個人消費のトレンドという面でみれば、前2つは上方トレンドが維持されたが、消費増税時は上方トレンドが下方屈折してしまった。このことからも、消費増税時には経済の勢いが大幅に削がれることが経験的にわかっている。

 なお、消費税増税の負担額については、2014年に3%引き上げられたときには家計の負担は8兆円以上だった。来年10月の増税では上げ幅自体は2%だが、子育て世代への1.4兆円の還付や軽減税率などを考えると、トータルの負担は2.2兆円となり、負担額だけで見れば前回の4分の1程度だろう。更に、景気対策も実施するため、消費増税のみで日本経済が腰折れすることはないだろう。しかし問題は時期である。過去の経験に基づけば、2020年の東京五輪の特需のピークは来年夏が予想される。建設需要の勢いがピークアウトすることが予想されるためである。つまり、東京五輪特需の勢いがピークアウトするタイミングで消費税増税に突入するため。つまり、ピークが過ぎた後の増税はタイミングとしては最悪であると考えられている。(第181話に続きます)

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第179話)

第179話:米国はいつまで世界最大の経済大国?

 今後の人口動態などから主要地域の名目GDPを予測して、今後の世界経済の構造変化を確認すると、第一の特徴は2030年にかけて名目GDPの規模で中国が米国を、インドとASEANが日本を逆転する可能性がある。

 そして第二は、アジアを中心としたインフラブームと世界の経済連携が世界経済をけん引することが予想される。

 名目GDPのシェアはあくまで相対的な経済規模の割合を示したものにすぎず、個別の国や地域の市場性という意味での経済成長率を示したものではない。実際、世界最大の経済大国である米国と中国を比較すると、実際の経済成長率については、例えば、①米国の潜在成長率は高々2%程度である、②中国経済は成長率が減速するとはいえ2020年代後半でも4%程度の成長を維持している可能性がある、等である。

 一方、IMFの経済成長率予測と国連の人口予測通りに今後の世界が推移したと仮定して、経済成長率と人口増加数の上位10か国をランキングした。なお、同分析では、経済成長率は2016-2022年の平均、人口予測については2015年から2030にかけての増加数とした。このランキングから、次の三つのポイントが挙げられる。

 第一に、2022年までの高成長国ランキングを見ると、アジア各国が上位を独占することになる。この予測に従えば、今後の世界経済の成長センターはアジアになる可能性が高いと言えよう。

 第二に、人口動態的に見ても、インドやパキスタン、中国を筆頭に、アジア諸国がけん引することがわかる。しかし、そうした中でも2位にナイジェリア、5位にエチオピア、8位にエジプト、10位にウガンダがランクインしており、人口動態的には長期的にアフリカも成長ポテンシャルが高いという見通しが立つ。

 そして第三に、世界最大の経済大国の米国についてである。一般に経済が成熟した先進国はキャッチアップの余地が少ない。このため先進国の経済成長率は相対的に低くなりがちであり、更に経済が成熟して人口ボーナス指数がピークアウトすれば、のちに生産年齢人口の伸びも鈍化し、経済成長率の下押し圧力が高まる。

 冒頭で指摘したように、米国は経済規模の観点から、2030年にかけて中国に追い抜かれる可能性が高い。しかし、一方で今後も移民の増加などにより人口の増加を維持する可能性も高い。このため、米国は人口増加数でも引き続き上位に位置し、世界経済における優位性を維持することになろう。(第180話に続きます)

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第178話)

第178話:携帯料金4割引き下げの負担軽減額は消費増税負担額を上回る

 今回の菅官房長官の携帯料金4割引き下げ発言については、2019年10月の消費増税を前に家計の負担を減らすことができる分野として携帯料金がターゲットになったと指摘する向きもある。

 そこで、次回の消費増税の負担額を試算すると、前回の四分の一程度になると試算される。参考のために97年度と2014年度、それから次回2019年10月に2%ポイント引き上げた場合のそれぞれについてマクロの負担額を見ると、97年度は消費税率の引上げ幅自体は2%で、負担増は5兆円程度と限定的であった。しかし、特別減税の廃止や年金医療保険改革等の負担が重なり、結果的には8兆円以上の大きな負担となった。更に、景気対策がない中で同年6月にアジア通貨危機が起こり、同年11月に金融システム不安が生じたため、景気は腰折れをしてしまった。

 確かに、97年度は消費増税以外の負担増の要因もあったため、消費増税の影響だけで景気が腰折れしたとは判断できない。しかし、前回の消費税率3%引き上げ時は8兆円以上の負担増になり、家計にも相当大きな負担がのしかかった。

 次回の消費増税の負担額は、日銀の試算によれば、2019 年10月から軽減税率を導入せずに消費税率が10%に引き上げられると、最終的に税収が5.6 兆円増えることになる。これは、一方で酒類・外食を除く食料を軽減税率の対象品目とした場合の必要な財源が1兆円、教育無償化に伴う必要な財源が1.4兆円となることなどから、家計全体では2.2兆円程度の負担にとどまることを示唆している。つまり、単純に携帯電話の料金が4割下がれば、次回の消費税率引き上げの負担を相殺して余りある負担軽減と試算される。

 また、2017年の総務省『家計調査』を用いて、具体的に次回消費税率引き上げが平均的家計に及ぼす負担額を試算すれば、年間約4.4万円の負担増となる。そこで、世帯主の年齢階層別の消費増税負担増と携帯4割値下げの軽減額を比較すると、世帯主の年齢が20~50代の二人以上世帯では携帯料金の負担軽減額が消費税率負担額を上回るも、世帯主が60 代以上の二人以上世帯になると、消費増税の負担額が携帯料金の負担軽減額を上回る。同様に、世帯の年収階層別では、年収が350万円未満と1250 万円以上の二人以上世帯では消費増税負担額が携帯料金の4割負担軽減額を上回るも、年収350万円以上1250万円未満の二人以上世帯ではその携帯料金の4割の負担軽減額が消費増税負担額を上回ることになる。

 しかし、一律的な値下げとなると、家計部門への直接的な恩恵はあるが、通信会社の売り上げは値下げ分減少することが想定されるので、その分の悪影響も考慮しなければならない。

 携帯料金引き下げ策は、家計支援策として議論を進めるというよりも、移動通信事業者の競争環境の整備を通じて、いかに料金引き下げを図るかという観点で議論を進めるべきものと考えられる。(第179話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
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永濱利廣

さてこの度、永濱氏の書籍が出版となりましたので、ご案内させていただきます。何卒よろしくお願いします。

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