エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第117話)

第117話:2014年3月が景気の山と認定されない理由

 政府の公式な景気基準日付委員会で景気の山・谷を設定するに当たっては、ヒストリカルDI(以下HDI)の試算に加えて、(1)景気の量感を表すとされるコンポジット・インデックス(CI)、(2)企業の景況感を表すとされる日銀短観の業況判断DI等の動向も考慮して総合的に判断される。そこで、これらの指標についても具体的に見ると、(1)一致CIは2014年3月にピークアウトし、2016年2月にボトムアウトしているが、(2)日銀短観の業況判断DIは全規模全産業ベースで2013年9月調査以降、現状判断DIも先行き判断DIも50%ポイントを一度も下回っていない。 従って、これらの指標の動向を勘案すれば、機械的に判定したHDIでは景気後退とみなされても、景気の量感や景況感といった観点からとらえて、景気の山が2014年3月と最終的に判断されなかったといえよう。

 このように、企業の景況感まで含めて定性的に判断すれば、景気は2014年3月に山を付けていた可能性は低下し、消費増税後も後退局面入りしていなかったという結論に至る。ただ、一致指数の構成系列を見ると、生産指数(鉱工業)、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数(除輸送機械)、中小企業出荷指数(製造業)とも全て製造業関連指標であることには注意が必要である。

 このため、景気の転換点は事実上、実質GDPベースで2割強を占めるに過ぎない製造業の動向に強く影響されることになる。したがって、これまで政府が行ってきた景気局面の判断手法は、サービス経済化が進んでいる状況が十分反映されないという問題がある。

 今回は、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動により製造業が早めに生産調整をした可能性がある。しかしその一方で、労働需給の逼迫を示す有効求人倍率は、人手不足を受けて25年ぶりの水準まで上昇している。このため、今後の景気局面の実態を判断する際には、製造業の生産活動以外の動向も充分注視することが必要となってこよう。

 これに対して、米国における景気の転換点は、NBER(全米経済研究所)が労働、所得、生産、需要関連の各指標の動向を偏りなく反映して、定性的に判断されることが知られている。米国における景気の転換点の判断が優れている点としては、第一に生産関連指標に偏りの大きい我が国の一致指数とは異なり、労働、所得、生産、需要の各項目にウェイト付けをして反映しているということだ。また、第二に少数の指標で判断するため、景気の現状が速やかに判断できることである。さらに、第三に水準や前年比が混在しているわが国の一致系列と異なり、全ての系列が実質の水準値で統一されていることである。

 以上より、デフレ脱却による内需の持ち直しで内需依存度が高まっている我が国の景気局面を正確に判断するには、景気動向指数の構成系列や景気の山・谷の判定について抜本的な見直しが必要である。構成系列の抜本的な見直しを行った上で景気一致CIを作成し直せば、景気局面に応じた望ましい政策対応が政府としても可能となるだろう。米国を参考に、一日も早い景気動向指数の構成系列の改良と景気の山・谷の判定の見直しが望まれる。

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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第一生命経済研究所
首席エコノミスト:永濱利廣(監修)

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第116話)

第116話:2014年3月が景気の山だった可能性

 第2次安倍政権が発足した2012年12月に始まった景気回復は2017年3月までで52カ月となった。1986年12月~1991年2月の51カ月間だったバブル経済期を抜き戦後3番目になる。今年9月まで回復すると、1965年11月~1970年7月の57カ月間に及んだ「いざなぎ景気」も抜く。こうしたことから、景気回復時期に関する議論が盛り上がりつつある。しかし、内閣府の景気動向指数研究会によれば、2015年7月24日に公表した資料で直近の景気の山・谷をそれぞれ2012年3月、2012年11月に確定して以降、景気の転換点は設定されていない。

 一般的に、景気の転換点を簡易的に判断するには、景気動向指数の一致DIが3ヵ月連続で50%を上回ったか、一致CIのトレンドが転換したか、等が基準となる。そうだとすると、2012年11月に確定した景気の谷以降、2014年4月から3か月連続で50%を下回る一方、2016年8月から5か月連続で50%を上回っているため、2014年3月と2016年7月が景気の山・谷と判断されてもおかしくない。同様に、2012年11月以降の一致CIのピークとボトムを確認しても、それぞれ2014年3月と2016年2月となり、少なくともデータのトレンドが転換していることは確実な状況である。ただし、そもそもこうした判断はあくまで目安に過ぎず、一致DIや一致CI動向をみているだけでは景気の正確な転換点を決めることはできない。

 正確な景気の山谷は、ヒストリカルDI(以下、HDI)に基づき、政府の景気基準日付検討委員会によって決められる。HDIはDIの一致指数として採用されている10系列の山谷を決定し、景気拡張期は+、後退期は-に変換して新たにDIを作り直すことにより求められる。そして、HDIが50%を切る直前の月が景気の転換点となる。

 なお、各指標の山・谷は、全米経済研究所(NBER)が開発したブライ・ボッシャン法という手法を用いて設定される。この手法では、3種類の移動平均をかけたデータについて検討を行ない、①山はその後のデータの値より高いこと(谷はその逆)②山や谷が系列の終了時点から6ヵ月以上離れていること、③山と山、谷と谷が15ヵ月以上離れていること、④山と谷が5ヵ月以上離れていること――等の条件を考慮して山谷が確定される。このため、実際の景気の山・谷は発生してからかなりの期間を置いて十分なデータが得られたところで決定されるのである。

 そこで、今回の局面についてHDIを推計してみた。推計した結果を見ると、2014年4月~2016年2月までHDIが50%を下回り、2016年3月以降はHDIが50%超を維持している。

 このため、機械的にHDIの結果だけを基に判断すれば、日本経済は消費税率引き上げ後の2014年4月から景気後退局面入りしたことになる。そして、23か月間の景気後退後、2016年3月から景気回復局面入りしている可能性がある。(第117話に続きます)

永濱 利廣 氏

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第115話)

第115話:短観から読み解く企業業績見通し

 4月3~4日にかけて公表された3月短観の大企業調査は、3月下旬にかけて金融・保険を除く資本金10 億円以上の大企業約2千4百社に対して行った調査であり、そこでの収益計画は、今期業績予想の先行指標として注目される。

 まず売上高を見ると、16 年度下期は依然として前年比マイナスの計画となっており、前回調査からは▲1.0%の下方修正となっているが、17 年度に至っては上期から前年比プラスに転じる計画となっている。

 一方、経常利益は16年度下期から前年比で増加に転じており、前回調査からの修正率も+12.3%となっている。しかし、17年度の経常利益は減益計画となっており、前年比で▲0.2%の微減見込みとなっている。このことから企業は、今年度は昨年度と比べてコストが増加しやすいと想定していることが推察される。

 結局、産業全体で見れば、売上高、経常利益とも半期ごとの伸び率は17 年度上期に増収増益になるものの、下期は増収減益に転じる計画になっている。ただ逆に慎重な計画であれば、夏場に向けて4-6月期の企業業績が見え始め、収益回復への市場の期待が高まることで、株式相場の押し上げ要因となることが期待される。

 続いて、3月短観の売上高計画を基に、2017 年度において前年度比で大幅な増収が見込まれる業種を見てみたい。

 結果を見ると、製造業では「電気機械」、非製造業では「物品賃貸」「通信」「鉱業・採石業・砂利採取業」を除く全ての業種で増収計画となる中で、最大の増収率計画を立てているのが「非鉄金属」の前年比+7.9%である。それに続くのが「はん用機械」の同+4.4%、「鉄鋼」の同+4.0%、「生産用機械」「造船・重機、その他輸送用機械」の同+3.4%であり、金属や機械関連業種が連なる。

 従って、17 年度の業績見通しにおいては、こうした業種に関連する企業についてどれほど増収になるかが注目されよう。特に、16 年度は対事業所サービスや不動産といった非製造業の増収が目立ったが、17 年度は景気対策効果による公共事業に加えて、五輪等による建設投資の恩恵を受けやすい金属や機械関連の増収が期待される。

 続いて、3月短観の経常利益計画から17年度の業績を牽引することが期待される業種を見通してみよう。

 結果を見ると、増益率が最も大きいのは「鉄鋼」の+91.0%となる。それに続くのが高い増収計画を立てている「はん用機械」の+12.2%、「宿泊・飲食サービス」の+10.9%、「生産用機械」の10.8%、「木材・木製品」の+10.0%となる。

 このように、今期の経常利益計画では、全産業の増益幅を牽引する業種として、売上高と同様に経済対策などに伴う公共事業やインバウンド増加の恩恵を受けやすい鉄鋼や機械、宿泊・飲食サービス、木材等に関連する企業がけん引役として注目される。ただし、これらの業種は商品市況や為替の影響も受けやすいことには注意が必要だろう。(第116話に続きます)

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第114話)

第114話:最も裾野の広い自動車産業

 世界一に上り詰めた国内の自動車産業に危機感が見えている。トランプ政権誕生の煽りを受け、各自動車メーカーは米通商政策の見直しを固唾を飲んで見守っているが、もし輸出立国である日本経済を牽引する自動車産業に打撃が及べば、他の産業にも波及し、国内経済の屋台骨を揺るがすことになりかねない。

 事実、我が国の自動車産業は日本経済を牽引してきた。先進国の経済が比較的好調だったことに加え、新興国の持ち直しが輸送用機械の輸出を促進させ、その結果、名目GDPにおける輸送用機械産業のシェアは大きく拡大した。

 このように、世界の景気回復が続く中で世界的な大型製品である自動車の生産や出荷販売の増加は、生産工場等の設備投資、海外への輸出等の増加を通じて、日本の景気回復の牽引役の一つとなり、自動車部品をはじめとして鉄鋼、ガラス、電子部品など関連する幅広い産業を中心に好影響をもたらすことが期待されている。

 2016年には日本国内で871万台の自動車が生産された。しかし、米国発の通商政策の見直しによって各社が減産に踏み切れば、自動車部品をはじめとして鉄鋼、ガラス、電子部品など関連する産業が多い。従って、裾野の広い自動車産業は、いわゆる経済波及効果が大きくなることから、国内での自動車生産の縮小を通じて国内企業の生産を押し下げることが懸念される。

 事実、2011年の産業連関表(総務省)に基づけば、乗用車に対する需要額が1単位増加すると、関連産業も含めた生産額が3.0単位増えることになり、鉄鋼の2.8単位、広告やパルプ・紙加工品、金属製品、化学基礎製品の2.3単位に比べて生産誘発効果が大きいことが確認される。

 自動車産業の波及効果が大きい理由は、その生産構造を見ることで明らかになる。産業連関表で乗用車の生産構造をみると、100万円の「乗用車」を生産するために86.7万円の原材料が必要になるのだが、その内訳をみると、「自動車部品・付属品」が53.7万円、「鉄鋼」が4.7万円、「プラスチック・ゴム」が4.2万円、「教育・研究」が4.1万円、「商業」が2.9万円等となる。

 また、自動車産業を起点とした波及効果はこれらの原材料である「非鉄金属」や「産業用電気機械」といった多種多様な部門にも及ぶ。こうした波及経路が存在することが自動車産業の裾野の広さになっており、他の産業への影響力を高める要因となっている。(第115話に続きます)

永濱 利廣 氏

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第113話)

第113話:平均消費性向低下の背景

 平均消費性向が低下している。この背景としては、①原油価格の下落などによるガソリンを含む「自動車等維持」や「電気代」の支出減、②2014年4月の消費税率引き上げに伴う需要の先食いを通じた「自動車等購入」やリフォームなどの「設備修繕・維持」の支出減‐‐が主因となっている。

 しかし、昨秋以降は循環的に景気が回復しつつあり、原油価格が昨年以降の減産合意等から持ち直し傾向で推移する一方、主要国のインフレ率上昇を受けて、市場の期待インフレ率も上昇している。こうなると、世界のマネーの流れは、安全資産の国債からリスク資産の株やコモディティーに流れやすくなることに加え、為替もリスク回避通貨とされる円が買われにくくなり、今後も昨年より高水準のガソリンや電気代の価格が維持される可能性が高い。したがって、今後のガソリン等を含む「自動車等維持」や「電気代」の支出は昨年よりも増加すると見ておいたほうが良い。

 一方、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減も永遠に続かない。需要の先食いといっても、5年も10年も先の需要まで前倒しできないためだ。事実、経済産業省「商業動態統計」によれば、自動車や機械器具小売業の販売額指数は、いずれも昨年中に底打ちをして、持ち直し基調にある。従って、ガソリンや光熱費が上昇する中で消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動が軽減すると、特に車や家電、リフォーム等の支出を中心に全体の消費支出の拡大要因となる。

 更に重要なのは、耐久財の買い替えサイクルも到来しつつあることがある。事実、経産省の商業販売統計で自動車や機械器具小売業の販売額指数を見ると、2009~2010年にかけたエコカー補助金や減税、地デジ化、家電エコポイント等により指数が盛り上がっており、その後反動減となっている。こうした耐久消費財の中でも、新車やカラーテレビについては平均使用年数が9年程度となっており、2017年以降に買い替えサイクルが本格化することを表していると言えよう。そして、こうした買い替えサイクルの到来は平均消費性向のさらなる上昇を招くと言える。

 こうした状況に対し、世間では2015年以降の平均消費性向の急低下について「節約志向」との見方がされている。しかし、原油価格の下落に伴う余分なエネルギー出費の減少により平均消費性向が低下しても、それは節約とは言えず、駆け込み需要の反動による一時的な平均消費性向の低下も割り引いて考える必要がある。

 つまり、本当の意味での節約には、単純な消費支出の減少だけでなく、家計の実収入の減少や増税等による非消費支出の増加等を通じた可処分所得の減少により消費支出がやむなく減少することが不可欠といえよう。従って、消費者心理を評価する場合は、単純な可処分所得と消費支出の関係だけではなく、その背景にある要因を分解して慎重に判断すべきではないだろうか。(第114話に続きます)

永濱 利廣 氏

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