エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第212話)

第212話:新硬貨・紙幣発行に伴う付加価値誘発額は1.3兆円

 前回の、①新紙幣・硬貨の発行に伴う紙幣・硬貨の発行コスト、②新紙幣・硬貨に対応するため金融機関のATM、CDの改修、買い替えコストに加えて、③自動販売機もATM/CDと同様に、買い換えまたは改修を加えなければならないだろう。そして、以上3つのコストを合計すれば、新紙幣発行による直接的な特需は約1.6兆円程度が見込める計算となる。

以上のように算出された直接波及額(約1.6兆円)から、総務省の産業連関表(2011年)を用いて、関連のある産業への間接波及額も含めた生産誘発額を試算(新札発行は印刷・製版・製本、ATM/CDと自販機はサービス用機器の生産誘発係数をそれぞれ使用)してみると、その額は約3.5兆円と計算される。また、同様に産業連関表を用いて、部門別の粗付加価額/国内生産額をもとに付加価値誘発額を試算すると、その額は約1.3兆円程度となる。この額は、名目GDP比では約0.2%程度に相当する。新紙幣発行への切り替えは2024年から予定されており、前回の新札特需は直近2年程度で発生したことから、この特需が次回も直近2年間に同程度出現すると仮定すれば、直近2年間の経済成長率を約+0.1%ポイント程度押し上げる可能性がある。

 以上の試算については幅を持ってみる必要がある。上振れリスクとしては、紙幣や硬貨の単価が想定以上に上昇すること、あるいはATM/CDや自販機の買い換えが予想以上に起こることが考えられる(前々回の84年の時にはATM/CDが普及する初期段階だったこともあり、新規需要が相当数あった)。また、今回は効果が不透明なため考慮していないが、タンス預金がはき出される効果や、新札・硬貨発行を記念して、百貨店、スーパー等がセール等を行うといったイベント効果も考えられ、これも上振れリスクとなろう。一方、下振れリスクとしては、キャッシュレス化の進展に伴い、紙幣や通貨の流通量が減少する可能性がある。また、金融機関や飲料メーカー、中小企業等は突然のコスト負担を強いられることになるため、こうしたところが他の設備投資を縮小することも考えられる。さらに金融機関では、このコスト負担で収益性が落ちることが予想されるため、金融仲介機能低下のパスを通じて実体経済に悪影響を及ぼすことも否定できないものと思われる。なお、キャッシュレス進展の弊害になる可能性もある。

 しかし、いずれにしても新紙幣・硬貨発行の特需に景気の方向性を左右するほどのインパクトはないだろう。上述の通り、一定の需要拡大効果は見込めるものの、直近2年程度で経済成長率を+0.1%ポイント程度押し上げる程度だ。経済成長率の変動を見れば、年度直近の2017年度が+1.9%であったのに対して、消費税率引き上げが行われた2014年度が▲0.4%と、景気が循環する中での成長率は大きく変動することが想定される。したがって、仮に経済成長率が+0.1%ポイント程度押し上げられたとしても、景気局面に大きな影響を与えるようなインパクトはないものと思われる。(第213話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第211話)

第211話:新紙幣・硬貨発行で期待される特需(その1)

 500円硬貨が2021年、千円、5千円、1万円紙幣が2024年を目処にそれぞれ一新されることになった。現在の紙幣は2024年までに20年間使用されることとなり、その後変更する運びとなりそうだが、この変更に伴って様々な需要が発生することが予想される。

 特に、紙幣識別機メーカー各社の2004年3月期決算では、日米の新札特需を追い風に、軒並み売上高、純利益とも過去最高を記録した。こうした新札特需は今回も発生しそうだ。

 経済効果を試算するに当たって、発生するだろうと思われる直接的なコスト(需要)として3つの視点から分析した。具体的には、①新紙幣・硬貨の発行に伴う紙幣・硬貨の発行コスト、②新紙幣・硬貨に対応するため金融機関のATM、CDの改修、買い替えコスト、③自動販売機における改修、買い替えコスト、の以上3点である。

 まず、日本銀行の通貨流通高のデータを元にして、各紙幣がどのくらい発行されているか算出した。それによると、現在、1万円札の発行枚数が約99.7億枚、5千円札が約6.6億枚、千円札が約42.0億枚、500円硬貨が約46.6億枚発行済み(2019年3月時点)となっている。

 これに1枚当りの発行コストを乗じれば、紙幣発行による直接需要が計算できるが、単価は参考文献(末尾参照)をもとに、現在の紙幣と500円硬貨の1枚当たりの平均コストとして1万円札25.5円、五千円札19.5円、千円札10.4円、500円硬貨64.5円をそれぞれ使用した。次回の新紙幣および硬貨は単価が変わる可能性があるが、現時点では正確に算出できないため、上述の通りとした。以上より、新紙幣・硬貨製造には6,114億円程度の需要が見込まれる。

 紙幣の変更を受けて、ATM/CDも改修や買い替え等の対応が必要となってこよう。ATM/CDにおける直接波及に関しては、改修で済ませる場合と新規に買い換える場合の2パターンが考えられる。しかし、ATM/CDの1台当りの値段は単機能なコンビニ向けで平均200万円程度、高機能の銀行向けは500~800万円程度と高価であり、低金利環境にある金融機関としては出来るだけコストを抑制するだろう。そこで、今回の試算ではATM/CDの3割程度を買い替えで対応するという前提で試算した。

 一方、ATM/CDの総数は、金融機関で約13.7万台(出所:平成31年版「金融情報システム白書」(財)金融情報システムセンター)あり、これに2019年2月時点のコンビニ店舗数約5.6万店(出所:日本フランチャイズチェーン協会)にATMが一台あると仮定すると、約19.3万台に上る。このATM/CDの改修費用には幅があるが、今回は、センサーの改造、ソフトの変更、その他事務費等を含め、単価は前回のメーカーからのヒアリング等を勘案し、買い替え金額1割程度(金融機関65万円・コンビニ20万円)を想定した。以上より、ATM/CDの買い替え、改修費用は約3,709億円と計算される。

 次回は、③自動販売機の改良に伴う需要について試算する。

*「1万年の製造コストは20円?額面以上の通貨は「○円」」ZUUonline編集部2016年7月(第212話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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