エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第104話)

第104話:医療・介護の岩盤規制

 医療における岩盤規制としては、こちらも長く議論の俎上に上がっている混合診療の問題にケリをつけることが期待されている。

 混合診療というのは、保険適用の診療と保険適用外の診療を一箇所の病院で受けることである。現行の日本の制度では、仮に保険適用外の診療を受けると、その病院で受けた保険適用の診療まで、患者が全額自己負担しなくてはいけないことになっており、保険外の高度医療の普及の大きな妨げとなっている。

 しかし、歯科の世界では既に患者の希望により、保険適用外の治療を受けても、それ以外の保険適用の診療に関しては、患者負担が増えることはない。

 歯科では既にできていることが、その他の医療まで広がっていかない背景には、混合診療ができるようになってしまうと、病院間の診療レベルに格差ができてしまい、都市部の大きい病院にばかり患者が集まる一方、町の開業医の存続が危うくなることが指摘されている。

 具体的には、混合診療を解禁して、医者が自由競争になると、混合診療のできる都市部の設備の整ったところにだけ医者が集まってしまい、先進医療を実施している病院に患者が殺到し、迅速な診療も受けられなくなるとの指摘がある。

 ただ一方で、混合診療が解禁されれば最先端の治療が受けやすくなるという側面もあり、患者の立場から考えると複雑な判断にならざるをえない。

 しかし、何事にも共通して言えることだが、イノベーションを生み出すためには、ある程度のレベル以上の競争が不可欠で、医療においても例外ではないため、ある程度の規制緩和は進めざるをえないだろう。

 医療と同じように、介護も規制によって競争が阻害され、成長が押さえ込まれている分野だと言える。

 今、介護の世界は極端な二極化が進んでいる。飛行機の座席に例えればファーストクラスのような、いたれりつくせりのサービスを提供する高級施設がある一方、規制にしばられ、従業員の賃金を低く抑えざるをえず、最低限のサービスしか提供できない施設のどちらかしかない。

 利用者の立場からいうと、中間にあたるビジネスクラス的な施設もあればより多くの人のニーズに応えられるはずなのだが、残念ながら現在の規制の下ではそれもままならない。

 日本は既に人口が減少するステージに入っている中でも、60歳以上のシニアの人口は2040年代まで増加し続けると予測されている。つまり、増え続けるお年寄りをメインの顧客とする医療や介護は、日本では立派な成長分野なのである。今の規制は、そんな成長分野の需要を抑制しているだけであり、一刻も早い緩和がこれらの分野では求められるのである。(第105話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第103話)

第103話:雇用の岩盤規制は発破できるのか?

 日本の将来の成長を阻む大きな障害が、雇用、医療、農業におけるいわゆる岩盤規制である。

 「日本は成長の余地がせっかくあるのに、規制によって成長が押さえ込まれている」といわれて久しく、安倍政権にはこの岩盤規制に大きな穴をあける大胆な改革が期待される。

 まずは雇用だが、2014年に打ち出された成長戦略の中では、ホワイトカラーエグゼンプションが注目されてきたが、実は市場が最も注目しているのは、「正社員の解雇ルールの明確化」に安倍政権が踏み込めるかどうかである。

 特に外国人投資家の目には、日本の労働市場が流動化していないことが、日本経済発展の妨げの権化のように写っている。

 例えば、人口の減少が日本経済発展を妨げる諸悪の根源のひとつだが、そもそもその人口減少をもたらす最大の問題が労働市場の流動化が進んでいないことにあると考えられている。

 正社員の解雇ルールが明確化されていないことによって、日本企業はデフレの最中、若年労働者の雇用、特に正社員としての採用を必要以上に抑えてしまった。その結果、非正規労働者など経済的にゆとりのもてない若者層を大量に生み出すことになり、若年層世代の雇用・所得環境が著しく悪化してしまった。

 そのため、本来であれば結婚して家庭を持ち、子を産み育てるはずだった若年層に、経済的な余裕のない人が増えてしまい、少子化に拍車をかけてしまったと考えられている。

 現在の日本では、一度雇用した正社員は滅多やたらなことでは解雇することはできない。そのため、多くの企業では、景気の先行きが見通せない段階では、正社員を増やすことに二の足を踏む一方、雇用の調整弁として非正規雇用を増やして対応してきた。その結果、経済的にゆとりのもてない若者層が増えてしまったのは、残念な現実として存在する。

 そこで、例えば金銭を支払うことにより、企業側の都合で正社員が解雇できる仕組みができれば、企業が正社員の雇用に過度に慎重になることが避けられ、労働市場自体も流動化するという考えのもと、検討が進められている。

 日本人の場合、長く終身雇用が当たり前だと信じてきたため、企業都合で解雇されるということ自体にアレルギーを感じて抵抗する人も少なくないのだが、欧米では当たり前のことである。

 日本の企業もグローバルな競争に勝ち抜くことが求められている現在、雇用に関しても世界と同じレベルの効率性の高い雇用の仕組みが求められてしかるべきである。(第104話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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