エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第60話)

第60話:憲法改正を優先し、経済を軽視し始めるリスク

 消費増税以外に考えられる国内のリスクは、安倍首相が在任中に是が非でも成し遂げたいと切望していると噂されている安全保障強化のための憲法改正を優先してしまうことである。

 今年2016年の夏には参議院選挙が予定されている。安倍政権は、発足当初からデフレからの脱却を政権の第一の目標に掲げているため、おそらく、安倍首相も参議院選挙までは経済に軸足を置かざるを得ない状況が続くのではないかと考えられる。

 今年の参議院議員選は、既に衆議院を解散して衆参ダブル選挙になるのではないかと噂が出ているが、もしそこで衆参両院で圧勝すると、いよいよもって、自身の念願だった憲法改正に進んでいく可能性が出てくる。

 そうなると、経済政策が後手に回り、株価も下落という、起こっては欲しくないシナリオの懸念が高まる。

 また、夏に参議院選挙を控えている安倍首相にしても、この段階までには何としても景気を浮揚させ、かつ物価が上昇気流に乗るように何らかの策を講じてくることが大いに考えられる。

 では、現状の日本経済は、デフレ脱却にどこまで近づいてきているのか。データを確認すると、国際通貨基金(IMF)は、デフレを「少なくとも2年間継続的に物価が下落する状態」と定義している一方、デフレ脱却に関しては明確な定義を示していない。

 そこで、日本政府は独自に、消費者物価、GDPデフレーター、需給ギャップ、単位労働コスト(ユニット・レーバー・コスト)の4つの指標全てが、前年比プラスになることをデフレ脱却の定義として置いている。

 現状では、消費者物価とGDPデフレーターに関してはすでにプラスに転じているが、需給ギャップはまだ明確にマイナスのままとなっている。

 微妙なのが単位労働コストで、これは日本の家計が受け取っている雇用者報酬を実質GDPで割ったものであり、現段階ではプラスだが、今後景気が良くなって実質GDPが増えれば、マイナスになってしまう可能性もあるため、まだ判断はしかねる状況である。実は、この指標は分母である実質GDPが下がる、つまり景気が悪くなっても指標自体はプラスになってしまうので、私の個人的な意見としては、デフレ脱却を判断する材料としてはあまりふさわしくないと考えている。

 そもそも、安倍首相が掲げたアベノミクスの最大の目的がデフレからの脱却である。しかし、仮に参議院選挙で大勝利を収め、経済よりも憲法改正を優先的に取り組むとなってしまうと、いろいろと難しい局面を迎えることになるだろう。(第61話に続きます)

 

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所

経済調査部 主席エコノミスト

永濱利廣

 

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第59話)

第59話:時の政権が影響する景気回復期の長さ

 今の景気回復期(第16循環)が、これまでの回復期の平均だとすると、前回説明したように、ちょうど消費税率引き上げ時期と景気の谷が重なってしまうため、景気の腰折れが懸念されるが、景気の循環はそんなに杓子定規に動くものではない。

 むしろ時の政権がどういう状態にあったかによって、景気回復時期の長短に大きく影響していることが、過去の事例から明らかになっている。

 1951年以降、観察された景気循環の中で、過去に50ヶ月を超えた景気回復期が3回だけ記録されている。

 一回目が、第6循環(1965年10月~1970年7月)の57ヶ月。二回目が、第11循環(1986年11月~1991年2月)の51ヶ月。そして、3回目が第14循環(2002年1月~2008年10月)の73ヶ月である。

 この3回の景気回復期は、いずれも戦後の長期政権の上位にランクされる安定政権の下で達成されている。

 第6循環は、正に佐藤栄作元首相が政権の座にあった期間に景気回復期を迎えており、第11循環にも中曽根政権の後半に景気が上向き、後の政権にバトンタッチされている。また、第14循環は小泉政権の元で、景気回復が始まり在任中ずっと好景気を維持し続けた。

 このように、政権が長期に安定すると、景気回復の期間が長く続く傾向があるのは、間違いのない事実である。

 背景には、長期政権であれば思い切った政策が実行しやすくなり、そのような政策を実行することで、経済が活性化し、国民の支持も獲得しやすくなるという好循環が生まれることがある。

 現在の第二次安倍内閣が発足したのは、2012年12月26日であり、すでに発足してから3年以上経っているため、長期政権と呼べる。

 現安倍政権は2014年12月に衆議院の解散総選挙で、大勝利を果たした上、その後も比較的高い国民の支持率を維持し、昨秋には自民党総裁として再任されている。

 また、今年2016年の夏には参議院選挙が予定されている。もし、安倍総理が現状並みの支持率を維持しながら、経済に軸足をおいて政権運営を続け、参議院選挙を大過なく戦い抜くことができれば、先に紹介した諸先輩方に並ぶ長期政権になる可能性が大きくなる。

 その場合、景気回復の期間も平均の3年を超えた長期のものとなる可能性が高くなる。そうすれば、消費税率の引き上げ時期が、景気後退の時期と重なり、景気後退局面を長期化させてしまうという最悪の事態は避けられる可能性もある。(第60話に続きます)

 

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所

経済調査部 主席エコノミスト

永濱利廣

 

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