エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第77話)

第77話:重要な労働市場改革

 日本では8%の消費増税による8.1兆円の税収増以外にもアベノミクスによる税収は当初の予想より増えており、実は財政状況は良くなっている。日本国債のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の値段が下がっているのもその証拠である。「2020年にプライマリーバランス黒字化」の目標を安倍政権も掲げているが、過去の海外の事例を踏まえれば、黒字にしさえすれば良いというものでもない。事実、アルゼンチンはプライマリーバランスを黒字化した年に財政破たんしており、ギリシャでも緊縮財政でプライマリーバランスを黒字化した翌年に事実上の財政破たんをしていることからすれば、経済成長する中で自然にプライマリーバランスが改善することが最も望ましい姿といえよう。

 一方、日本経済の構造問題としては「供給」の低下がある。具体的には、生産年齢人口が伸びないことである。これをどう解決するかが日本経済の最大の課題であり、移民政策が手っ取り早いが、安倍政権は移民政策には否定的なスタンスをとっている。このため、安倍政権では女性と高齢者に活躍してもらうことでこれを補おうとしており、これが「1億総活躍」ということである。実際、アベノミクスの成果の一つとして女性就業者の大幅増加がある。しかし、一方でこれが待機児童の増加にも結びついてしまっている。従って、いかに待機児童の問題を解消するかがアベノミクスの大きな課題となろう。

 また、日本の労働市場の流動化の低さも大きな課題となっている。この背景には、年功序列・新卒一括採用・定年制等を通じて長く同一会社で就労するほど有利となる雇用慣行がネックとなっていることがある。しかし、OECD諸国で見ると、労働市場の流動化と経済成長率には明確な正の相関関係があり、特に流動化の低いワースト4カ国が欧州の重債務国であるギリシャ、イタリア、ポルトガルと日本となっている。この背景には、労働市場の流動性の高い国は適材適所の人材の移動が迅速に生じて経済成長に貢献することが指摘できる。しかし、労働市場改革は国民受けが悪いこともあり、夏の参議院選挙の公約からは外されていたが、与党が大勝して政権基盤がより安定したことからすれば、今後の進展が期待される。

 今後の日本経済の最大の課題は「移民」の受容であろう。こうした点では、オーストラリアが外国人留学生で地方創生に成果を挙げていることは注目に値する。豪州は外国人留学生を25万人受け入れており、175億豪ドル(約1.3兆円)のサービス輸出の効果をもたらしている。この背景には、地方の学校に行く留学生には移住ビザの制限を緩和させたことがあり、これがオーストラリアの地方創生に貢献している。このため、将来的には日本も、若いうちに留学生として受け入れて、日本の文化や言葉を十分に学んでもらい、一定の要件を満たした優秀な外国人留学生を受け容れるといったことを検討すべきだろう。(第78話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第68話)

第68話:重要な労働市場改革

 日本経済には、短期的な政策だけではなくサプライサイドの政策も重要である。日本の人口動態を考えると、特に2020年代後半以降は、このままいくと生産年齢人口の減少幅が拡大に転じて経済成長率も非常に厳しくなることからすると、一億総活躍社会の打ち出しは理に適っているといえる。

 実際に総務省の労働力調査を基に、足下で本当は働きたいが何がしかの理由で求職活動をしていないいわゆる就業希望の非労働力人口を確認すると、2015年10-12月期時点で400万人以上存在している。そして理由別にみると、出産・育児のためが95万人、介護看護のためが20万人存在しており、これを考えると、出産、育児や介護等の対応が喫緊の課題になっている。

 一億総活躍社会の鍵は女性と高齢者の活躍が鍵となるが、個人的には外国人も重要と考えられる。そういう意味では、女性、高齢者、外国人の就業を阻害している最大の要因が日本特有の雇用慣行であり、同じ会社に長く勤めれば勤めるほど、恩恵が受けやすい就業構造を変えていくことが必要である。これが変わらない限り、なかなか女性、高齢者、外国人就業は厳しい状況だと思われる。

 象徴なのが、正社員の賃金構造が年功序列となっていることであり、これを打破すべく一刻も早く踏み込みが必要な政策が、産業の六重苦の一角を担う厳しい労働規制の中でも、正社員の解雇ルールの明確化やホワイトカラー・エグゼンプションのような労働市場の流動化を促し労働生産性を上げる政策である。

 実際にOECD諸国の経済成長率と勤続10年以上の男性社員割合の関係を見ると、明確な負の相関がある。従って、労働市場の流動化と経済成長の関係を見ても明確な関係があり、ここは成長戦略の中でも最も踏み込みが期待される部分である。

 また、外国人の活躍については、全国各地の大学が外国人留学生を増やすことで地方創生に結びつくと考えられる。諸外国との比較で見ても、日本が受け入れる外国人留学生はそこまで多くない。実際にオーストラリアは2013年時点で約25万人と米国、英国に次ぐ世界第三位となっており、2014年のオーストラリアの財・サービスの輸出額の中では、鉄鉱石、石炭、天然ガスに次ぐ4位となっている。そして、日本では留学生30万人計画という目標があるが、オーストラリアはそこまでいっていなくても2014年の輸出額で170億オーストラリアドル、日本円で換算して1.4兆円程度ある。日本のインバウンドの消費だけで去年3.4兆円程度であることからすれば、我が国もオーストラリアの政策を見習って、もっと外国人留学生の増加に力を入れるべきなのではないかと考えられる。(第69話に続きます)

永濱氏レポート

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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