エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第152話)

第152話:消費者心理ウォッチ

 最も総合的な個人消費の月次指標である内閣府「消費総合指数」の動きを見ると、2013年から拡大が続き、特に消費税率の引き上げを控えていた2013年度末にかけては駆け込み需要で大きく盛り上がった後、2014年4月にその反動で減少に転じて以降は低迷傾向にあった。しかし2017年以降は、雇用・所得環境の改善や消費者心理の持ち直し等を背景に、少なくとも昨年末までは個人消費は回復していた。

 こうした個人消費を左右する最大の要因は、財布の中身に例えられる家計の可処分所得だが、財布の紐に例えられる消費者心理も個人消費を大きく左右する。

 消費者心理を表す統計としては、毎月中旬頃に前月分データが公表される内閣府の『消費動向調査』の消費者態度指数が代表的である。特に、約4900 世帯を調査対象とした2人以上の一般世帯の計数が注目される。同指数は「暮らし向き」「収入の増え方」「雇用環境」「耐久消費財の買い時判断」の4つの判断項目のDIの単純平均として算出され、各判断項目は「今後半年間」の変化の方向について5段階での回答を求め、50を中立とするDIとして集計される。

 また、消費者心理をより迅速に把握するには、毎月上旬頃に前月分が発表される内閣府の『景気ウォッチャー調査』を利用する方法もある。同調査は、景気動向を敏感に観察できる立場にある全国2050人を対象に3ヶ月前と比べた景気の現状について5段階で評価を求め、50を中立とするDIとして集計したものである。DIは、小売店、旅行代理店などの経営者・従業員、タクシー運転手等の調査から集計されており、消費者心理を映す。

 これまでの消費者心理の動きを見ると、昨年秋までは景気の拡大と共に改善してきたが、冬以降は悪化に転じている。昨秋までの改善は、消費者心理が株価などの水準感を反映しやすいことや、景気変動が残業時間の変化などを通じて勤労者の所得を左右するためである。しかし、2018年以降は特に景気ウォッチャー調査が大きく悪化している。この要因としては、寒波到来で経済活動が抑制されたことや、昨年夏以降の原油高により、ガソリンや光熱費、食料品など生活必需品の価格が上昇したことが考えられる。

 通常、物価の上昇は需給の逼迫を意味するため、家計の所得も拡大していることが多く、個人消費にプラスとされる。しかし、家計の所得が伸び悩む一方で、コストの上昇により需要に関係なく物価が上がる場合は、家計の購買力を低下させるため、消費にマイナスの影響を及ぼす。

 今後、春闘の賃上げなどにより家計の所得が回復し、購買力の低下が解消されれば消費は上向くだろう。ただし、一方で原材料価格の上昇や人手不足による値上げなど、物価に対する構造的な上昇圧力は根強く残るため、その出現の仕方次第では、個人消費が伸び悩む可能性があることにも注意が必要だろう。(第153話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第151話)

第151話:低迷する個人消費 これからさらに増える消費分野は?

 我が国の個人消費は2016年度の名目GDPで見て56.0%を占める最大の項目である。GDPの約7割を占める米国経済と比べれば、我が国の個人消費が景気に与える影響は小さい。しかし、その個人消費がここ数年低迷を続けており、日本経済の自律的な回復を阻害しているといわれている。このため、足元の日本経済を見る上で個人消費は最も注目を集める需要項目の一つとなっている。

 ただ、足元では高齢化が進む中で社会保障の効率化が当初の想定以上に進んでおり、先行きの所得不安や当面の社会保障負担の増大懸念が強まっていることも事実である。こうした構造的な抑制圧力は今後も根強く残るため、個人消費はしばらく伸び悩みが続く可能性が高い。

 個人消費が自律的に回復するには、所得や社会保障面などの将来不安を取り除き、それぞれの家計が安心して将来像を描けるような環境が整う必要があろう。

 四半期GDPでは、家計最終消費支出の内訳も公表される。そこで、2016年度の構成比を見てみると、自動車等の耐久財が8.5%、衣料等の半耐久財が5.3%、食料等の非耐久財が26.7%、交通、レジャー、家賃等のサービスが59.6%となっており、サービス支出が消費全体に占める割合が最大となっている。また、時系列で見ても消費の中身はこの10年で大きく変化しており、消費者の嗜好がモノの消費から携帯電話やインターネットなど情報通信を中心としたサービスの消費へシフトする中、個人消費におけるサービス支出の比率は高まる傾向にある。

 一方、人口構成の変化も重要性が高まっている。なぜなら、既に我が国では少子高齢化が急速に進んでおり、特に昨年から本格化している団塊世代の退職が消費構造をどう変化させるかが注目されているからだ。今後の個人消費を見る上では高齢者層の動きが一つの鍵を握っている。

 年代別の消費動向がわかる経済指標としては、総務省の「家計調査」が最も代表的だ。同統計は全国の約8000 世帯に対し、1ヶ月間の全ての収入と支出について家計簿を記入してもらい、金額を集計したものである。このため、世帯あたりの消費支出について詳細な品目や世帯主の年代をはじめ、様々な区分から網羅的に把握できる。

 そこで、2016年における世帯一人当たりの消費支出を費目別に世帯主の年代で比較すると、交通・通信費や教育費等では世帯主が60代の世帯が同50代の世帯を大きく下回っている一方で、保険医療費が50代世帯の約1.3倍の水準にあることがわかる。これは、高齢化によって病気や怪我をする可能性が高まるためだ。また、急増するのがリフォームなどの住居費で、50代世帯の約1.1倍となっている。

 従って、シニア世代は2040年まで増え続けることからすれば、今後は健康やリフォーム等の消費支出のシェアがより高まることが予想される。(第152話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第144話)

第144話:消費を抑制するシニア世代と若年層

 社会保障給付費を見るには3つの項目が重要となる。一つは高齢者比率が高まれば受給者が増加することから支給額が増加するとされていた「年金」である。しかし2015年度の年金給付額は56.5兆円と見通されていたが、実績はそこから1.6兆円減の54.9兆円にとどまった。また高齢化が進むほど医療機関にかかることが多くなると言われていた「医療」給付費は、2015年度見通しの39.5兆円から実績は1.8兆円減の37.7兆円まで減少した。更に、高齢化が進めば進むほど介護費用も必要になると言われ2015年度見通しの「介護」給付費は10.5兆円とされていたが、実際はそこから1.1兆円減の9.4兆円にとどまった。以上より、ただでさえ2014年の消費増税に伴い家計部門に8兆円以上の負担増がのしかかった上に、年金給付の特例水準の引き下げやマクロ経済スライド実施、経済好転による失業給付の減少等により、社会保障給付費は見通しより4.9兆円も下振れていることになる。

 ということは、特に社会保障給付の減少分は主に給付を受ける中心となるシニア世代の懐に大きな影響を及ぼしていることになる。そして、シニア世代を中心とした家計の可処分所得が減れば、個人消費も減ってしまう。個人消費はGDP最大の需要項目であるため、このように個人消費が抑制された状況が続くことは、経済成長の大きな障害となる。

 一方、米国では2009年の研究で、高校や大学を卒業してしばらくの間に不況を経験するかどうかが、その世代の価値観に大きな影響を与えることが明らかにされている。これが日本にも当てはまると考えるのが自然だろう。

 実際、各世代別の消費性向を比較すると、若い世代ほど消費性向が低くなる傾向が見て取れる。若年層ほど財布の紐が固いため、将来に亘って現役世代の消費は抑制され、今後は厳しい消費環境が予想される。そして、これ以上国内消費市場が縮小するとなれば、企業はこれまで以上に海外で収益機会を求める必要に迫られるだろう。これは我々の子どもや孫たちの国内での雇用機会が失われることを意味することにもなりかねない。

 特に40代前半以下の世代は、バブル期における大量の新卒採用後の企業業績の悪化により、就職氷河期で厳しい雇用情勢を経験した。経営が安定している大手企業に一旦正社員で就職すれば、日本では正社員を解雇しにくいという特有の雇用慣行があるため、後の世代にしわ寄せが行くというのが、この教訓だろう。この世代は「ロストジェネレーション」と呼ばれ、保守的な傾向が強く、消費性向が低い特徴がある。そして、今日に至るまで、景気が悪くなるたびに企業の新卒採用計画は縮小を繰り返してきた。

 多かれ少なかれ、今後の日本経済を担う30代以下の世代が、たとえ無意識にでもお金を使わないほう、使わないほうへの流れがちなのはこのためである。物心付いてからずっと平成不況だったことから、経済環境がこの世代の価値観に何らかの影響を及ぼしていると思われる。染み付いた価値観は簡単には替えられない、ということだろう。

 このことを考えれば、失われた20年を経験した我が国の個人消費は、当面厳しい状況が続くことを覚悟しなければならないだろう。(第145話に続きます)

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第143話)

第143話:家計支出が低迷する理由

 個人消費が順調に拡大することによって、景気は自律的に拡大し、安定した経済成長を実現することができる。しかし、誰が見ても日本の個人消費が低迷を続けていることは明らかである。しかも、日本のGDPの少なくとも6割弱は個人消費が占めており、最大の項目になっている。GDPの7割以上を個人消費が占める米国と比べれば、日本では個人消費が経済に与える影響は大きくないかもしれない。しかしGDPの最大項目ということは、日本経済を見る上で個人消費が最も注目度の高い需要項目の一つであることを意味している。

 ここで、これまでの我が国の個人消費を振り返ってみよう。GDPの個人消費は単純に金額を集計した名目値のほかに物価の変動分を調整した実質値があり、どちらを見るかで印象は異なるが、ここでは単純に名目個人消費の変化率を見る。80年代に年平均+6%の拡大をしていた個人消費は、90年代以降は年平均+1%台に低下した。これは、いわゆるバブル崩壊の影響によるものだが、それでも先行きの安定的な所得増加が期待されていたことから、90年代半ばまでの個人消費は安定的に増加し、景気を下支えしてきた。この背景には、終身雇用・年功賃金という日本的な雇用慣行があった。

 ところが、90年代後半から個人消費の拡大テンポは大きく鈍化し、98年には統計開始以来始めてマイナスに転じた。97年末に企業の大型倒産が相次ぎ、企業の大規模なリストラが断行されたためである。安定した雇用慣行が崩れ、家計の所得の伸びが鈍るという状況に直面すれば、家計が消費を減らすのも当然の成り行きと考えられる。つまり、家計の雇用・所得環境の将来の不確実性が高まったことが原因といえる。

 可処分所得の伸びが低下すれば、個人消費の伸びも低下することになる。なぜなら、可処分所得というのは、額面の収入から税金や社会保障費を除いた手取りの収入の合計で、家計が自由に使えるお金の基準となるからである。また、家計の額面収入は就業する企業の業績に左右されることから、企業業績が変動すると世の中の個人消費も影響を受ける。

 以上より、個人消費の動向は雇用と所得環境で決まることがわかる。また、先行きについても安定的な雇用や所得の増加が予想されれば個人消費は増える。このため、家計の可処分所得が増えると、個人消費も増えることになる。逆に言うと、可処分所得が減ると個人消費も減ることになる。つまり、家計の可処分所得と個人消費は正の相関関係にある。

 このように、家計の可処分所得が増加すれば、個人消費が増えやすくなることは理解しやすいだろう。しかし、同時に重視すべき問題は、将来の社会保障のための行き過ぎた消費増税や社会保障の効率化も消費を抑制するということである。(第144話に続きます)

永濱 利廣 氏

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第95話)

第95話:GDPの問題点と改革案

 多くの民間エコノミストは、GDP速報の問題点として1次速報から2次速報への改訂幅の大きさを挙げている。実際、一次速報から二次速報への改定幅の大きさを確認すると、実質GDP成長率のかい離幅は2002年以降の平均で0.8ポイントとなる。特に、2014年7-9月期は一次速報と二次速報で成長率の符号が逆転した。この時は2014年4-6月期がマイナス成長であったため、二期連続マイナス成長を景気後退の定義とするテクニカルリセッションとなるか否かのタイミングだった。その時点で成長率の符号が逆転したことが、市場関係者の不満をより高めている。現行の推計方法に基づくGDP速報は景気判断を行う指標として重大な欠陥を抱えているといわざるを得ない。

 こうしたかい離の主因は、2次速報で法人企業統計季報の情報が加わることで、設備投資と民間在庫の推計値が大幅に修正されることである。そもそも法人企業統計は、資本金一億円未満の抽出率が低く回答率にもばらつきがあるため、中堅・中小企業に関するデータが不安定であり、サンプル替えの際に調査結果に連続性が損なわれることや、公表時期が遅いという問題がある。この背景には、資本金1000万円以上の営利法人における財務諸表を広範に調査していることがあろう。

 家計調査の改善策としては、今後はよりマクロの消費動向をとらえやすくすべく、例えば調査項目を限定してサンプルを拡大した家計消費状況調査をメイン指標とし、家計調査をサブ指標として取り扱うことが考えられよう。総務省は2001年10月より約3万世帯を調査対象とした大サンプルの高額商品購入調査として『家計消費状況調査』を開始し、2002 年から公表している。これは、調査項目を高額商品・サービスへの支出やIT 関連消費支出に限定する代わりに調査世帯を拡充することにより、消費動向を安定的にとらえることを目的としている。市場での認知度は低いが、日本銀行等では個人消費の需要側の統計として家計調査よりも消費の実態を表していると見ており、家計消費状況調査を重視している。しかし、家計消費状況調査がGDPの個人消費の推計に反映されるのはごく一部であり、かなりの部分は家計調査が使われることからすれば、GDPの実態も統計から乖離している可能性があるといえる。従って、GDP速報の推計についても、もし需要側からの推計を継続するのであれば、統計精度の維持・向上を図る観点から可能な限り家計消費状況調査の結果を活用する等の改善策を検討すべきである。このように、個人消費の実勢を判断するには、家計調査よりもサンプル数が多く安定的な動きをする家計消費状況調査をメイン指標として見ることが重要といえる。ただ、問題なのは、調査対象世帯が多くデータ収集にも時間を要する等の理由から、速報の公表時期が当該月の翌々月上旬と遅い。このため、現在の当該月の翌月下旬となっている家計調査の公表時期を遅らせる等して、家計消費状況調査の公表を現在の家計調査並に早めるべきであろう。更に、家計消費状況調査については、実質値や季節調整値が無い等、データが充実しておらず、消費のメイン指標としては物足りない。従って、メイン指標とするにはデータを拡充することが求められよう。(第96話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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第一生命経済研究所
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