エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第201話)

第201話:シャワーヘッド版新規事業展開の成功事例

 国内人口の減少や少子高齢化による国内需要の変容、さらにはグローバル化による国際競争の激化など、中小企業を取り巻く市場環境の変化は激しくなっている。そうなると、既存の製品やサービスに対する需要は時間とともに変化し、中には市場から淘汰される製品やサービスも存在する。

 こうした中、中小企業庁の「中小企業白書」でも、中小企業が継続して成長していくためには既存の事業にこだわらず、時代の変化に対応し、積極的に市場の開拓や新たな事業の展開に取り組んでいくことが重要であるとしている。一昨年秋の民放連続ドラマでも、老舗の足袋製造業者がランニングシューズの開発に挑戦する奮闘が描かれ話題となった。これは、新事業展開の成功事例といえるが、あくまでフィクションである。

 こうした中、中小企業白書では、外部リソースを活用したブランド戦略でニッチ市場を創出した新規事業展開の成功事例が紹介されている。この会社は岐阜県山県市にあり、伸銅やステンレス部品、シャワーヘッドの開発や製造をして販売する業者である。

 この企業は元来、下請けメーカーとして水栓バルブの部品を製造してきた。しかし、住宅着工の低迷による需要の停滞や価格競争の激化を受け、下請け取引に頼らない自社製品の開発と販路開拓を目指した。

 そして、新たな事業の柱を検討していたところ、関連する業界で節水効果を備えたシャワーヘッドが高価格帯で販売されていることに着目して新製品開発を進めたことにより、節水効果のみならずそこに美容作用という付加価値を兼ね備えたシャワーヘッドの開発に成功した。

 更にこの企業が優れていたのは、こうした消費者向けの新製品を売り出すにあたり、ブランディング戦略をアウトソーシングしたことである。アウトソーシングすることにより、中小企業が独自には取り組みにくい新商品のコンセプトやPRポイントを明確にし、顧客からの知名度を高めることに成功した。

 美容や健康志向に感度が高いとされる30歳代の女性をターゲットとし、自社ブランド製品の確立には3年近くかかったものの、結果的に売上高は2倍程度まで増加したとのことである。

 このように中小企業白書では、新事業展開に成功する企業はマーケティングに注力していると指摘している。そして、マーケティング活動の評価や検証まで実施する企業は、利益率の上昇や従業員の意欲向上といった効果を得ているとしている。

 また、新事業展開の課題として人材不足が挙げられているが、経営資源に限りがある中においては、今回の事例でもブランディング戦略をアウトソーシングしているように、今後の成長や新事業展開に向けて外部リソースの活用も視野に入れながら、新事業展開を積極的に実施していくことも重要となろう。(第202話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

さてこの度、永濱氏の書籍が出版となりましたので、ご案内させていただきます。何卒よろしくお願いします。

『エコノミストの父が子どもたちにこれだけは教えておきたい大切なお金の話』~自分の息子と娘のために語り下ろす「お金」の教科書~


〇教育現場でも中高生から経済学や投資の基礎知識などを教えるべき、という声が広がっているが、それ以前にもっと身近な「お金とのつきあいかた」を知るべきではないか、という思いを込めた1冊。

〇「クレジットカードの仕組み」「なぜカンタンにお金が借りられる?」「友だちとのお金の貸し借り」「ものの値段の決まり方」「バイト代や給料の仕組み」「お金がなくなったときどうすればいいのか」「お金を増やすことはできるのか」「無料はほんとうに得なのか?」「君たちもすでに税金を払っている」「修学旅行や部活にだって保険はある」など、中高生の日常に身近なことから「お金とのつきあいかた」を教える。

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第200話)

第200話:経営と資産の円滑な承継に向けて三代で取り組む企業の事例

 中小企業や小規模事業者においては、経営者の高齢化が進む中、多くの経営者がいずれ自身の引退と会社を次世代へ継承する場面に直面する。中小企業や小規模事業者にとっては、経営者の親族や役員・従業員に事業承継するといった選択肢もあれば、第三者に事業を譲渡や売却・統合(M&A)することで、次世代に引き継ぐといった選択肢もある。また、経営者の高齢化や後継者難を背景に、廃業を選択する中小企業・小規模事業も存在する。あの世界に誇る「痛くない注射針」で有名な岡野工業も後継者不在で黒字廃業となったという事態は、日本経済の深刻な先行きを暗示しているようにもとれる。

 こうした中、中小企業庁の「中小企業白書」は、中小企業や小規模事業者における事業継承の準備状況や課題について、規模や法人・個人事業者の違いを踏まえながら明らかにしている。中でも参考になるのが、経営と資産の円滑な承継に向けて三代で取り組む企業の事例である。この会社は、山梨県南アルプス市にある現会長が創業した自動組立機や自動検査装置等の設計や製造を行う製造業者である。この企業の優れたところは、同族経営にこだわらず、優秀な従業員を次の経営者として会社を継いで、長く会社が存続していく仕組みづくりを会長が意識してきたことである。

 具体的には、現会長がこうした考え方を経営理念として策定し、社内に経営の方向性を浸透させると同時に、現社長を従業員の中から40代で取締役に抜擢し、経営を引き継いだ。更に、現社長の次の経営者候補として、営業部長を40歳のときに取締役に抜擢し、現社長も40代で受講した外部の後継者育成研修に派遣するなどし、次の後継候補者の育成を進めている。

 この会長曰く「確かに大企業のように組織の規模が大きければ、早めに対応しなくても後継者を選ぶことも出来るが、中小企業では人材が限られているため、時間をかけて育てていかなければならない。このため、後継者候補は早期から経営者としての経験をつませていく必要がある」とのことである。

 また、この企業は堅実な経営を行っていたことから株価も高かったようだが、非同族への承継を円滑に進めるために、会長一族が保有していた株式を、時間をかけて現経営陣や従業員持株会に徐々に譲渡しているとのことである。

 こうした事例を元に中小企業白書では、経営者が事業承継の準備に着手する上では、周囲からの働きかけが必要としている。そして、経営者が早期に事業の承継に向けた意識を持ち、身近な相談相手である顧問の公認会計士や税理士、取引金融機関や商工会等が、経営者とともに最適な方法を探していくことが重要であるとしている。

 また、事業の譲渡や売却、統合(M&A)も、後継者候補がいないが事業を継続したい企業にとって重要な選択肢となるようだ。ただし、M&Aの検討に当たっては課題も多いため、経営者にとっての身近な相談相手がこうした潜在的なニーズを捉え、M&Aの専門家と連携しながら多様な課題に対応できる支援体制の構築が必要としている。(第201話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

さてこの度、永濱氏の書籍が出版となりましたので、ご案内させていただきます。何卒よろしくお願いします。

『エコノミストの父が子どもたちにこれだけは教えておきたい大切なお金の話』~自分の息子と娘のために語り下ろす「お金」の教科書~


〇教育現場でも中高生から経済学や投資の基礎知識などを教えるべき、という声が広がっているが、それ以前にもっと身近な「お金とのつきあいかた」を知るべきではないか、という思いを込めた1冊。

〇「クレジットカードの仕組み」「なぜカンタンにお金が借りられる?」「友だちとのお金の貸し借り」「ものの値段の決まり方」「バイト代や給料の仕組み」「お金がなくなったときどうすればいいのか」「お金を増やすことはできるのか」「無料はほんとうに得なのか?」「君たちもすでに税金を払っている」「修学旅行や部活にだって保険はある」など、中高生の日常に身近なことから「お金とのつきあいかた」を教える。

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