エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第222話)

第222話:IoT積極導入で成長する地域密着企業の事例

 技術革新による製品ライフサイクルの短縮化や情報技術の発展による消費者行動の変化等、中小企業の市場環境は大きく変化している。特に、IoT(Internet of Things)、ビッグデータ、AI(人工知能)、ロボット等といった新技術が発展しつつあり、これにより産業構造が急激に変化する可能性がある。

 このような状況の中で、官邸に設置された「ロボット革命実現会議」を元に、中堅・中小企業へのIoT導入の促進を図るため、ロボット革命イニシアティブ協議会に「中堅・中小企業アクショングループ」が立ち上げられた。実際にIoTの実装に取り組む中小企業の経営者、ITベンダー、各種の支援機関等の様々な関係者で構成されている。そして、中小企業のIoT実装やIoTツール導入を促進するための対象方針を整理し、具体的なアクションを定め、実行に移している。

 こうした中、中小企業白書でも、IoTを積極導入することで顧客満足度を高め、成長する地域密着企業の成功事例が紹介されている。この会社は北海道帯広市にあり、1926年創業のバス事業者である。

 この企業は元来、北海道十勝管内の1市13町村にてバス事業者を運営してきた。人口減少による需要の停滞や他の運輸業界との競争激化を受けるも、バス利用者の減少を自然減とあきらめず、利用者の増加を目指した。

 まずこの事業者が取り組んだのは、2008年にバスの沿線世帯への個別訪問により営業を開始し、なぜバスの利用者が減っているのかその理由を探った。そうしたところ、最寄の停留所や経路がわからないという利用者の不安があることがわかり、その不安を解消すべく、ITベンダーと共同でバスの乗り換え案内サービスを開発した。

 これにより、停留所名がわからなくても、目的地のみで経路検索が出来るシステムをアプリで提供することに成功した。更にこの企業が取り組んだのが、IoT技術を活用してバスのロケーションが利用者にリアルタイムでわかるようなシステムを導入したことである。これにより、アプリ上で運行状況が見えるようになり、利用者に到着時刻を通知するサービスを提供することに成功した。

 結果として、特に寒冷地の北海道で問題になる冬季のバスの到着時刻のばらつきというバス利用者の不安が解消され、顧客満足度が高まったとのことである。

 こうした各種取り組みが功を奏し、この事業者は3年後の2011年に増収を達成した。また、今後はバスに取り付けたセンサーで乗降客数を計測し、ダイヤ改正に生かすことを検討しているほか、アプリ上で十勝管内の観光地情報やその目的地までのバス経路を紹介する等、観光地の増加による地域活性化にも取り組んでいる。

 このような、IoT等の技術革新による新たな仕組みについて、現時点での中小企業における活用度合いはまだ低い。しかし、活用している企業は売上高の増加や業務コストの削減等の効果を感じており、中小企業にとっても成長に機会につながる可能性がある。(第223話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第200話)

第200話:経営と資産の円滑な承継に向けて三代で取り組む企業の事例

 中小企業や小規模事業者においては、経営者の高齢化が進む中、多くの経営者がいずれ自身の引退と会社を次世代へ継承する場面に直面する。中小企業や小規模事業者にとっては、経営者の親族や役員・従業員に事業承継するといった選択肢もあれば、第三者に事業を譲渡や売却・統合(M&A)することで、次世代に引き継ぐといった選択肢もある。また、経営者の高齢化や後継者難を背景に、廃業を選択する中小企業・小規模事業も存在する。あの世界に誇る「痛くない注射針」で有名な岡野工業も後継者不在で黒字廃業となったという事態は、日本経済の深刻な先行きを暗示しているようにもとれる。

 こうした中、中小企業庁の「中小企業白書」は、中小企業や小規模事業者における事業継承の準備状況や課題について、規模や法人・個人事業者の違いを踏まえながら明らかにしている。中でも参考になるのが、経営と資産の円滑な承継に向けて三代で取り組む企業の事例である。この会社は、山梨県南アルプス市にある現会長が創業した自動組立機や自動検査装置等の設計や製造を行う製造業者である。この企業の優れたところは、同族経営にこだわらず、優秀な従業員を次の経営者として会社を継いで、長く会社が存続していく仕組みづくりを会長が意識してきたことである。

 具体的には、現会長がこうした考え方を経営理念として策定し、社内に経営の方向性を浸透させると同時に、現社長を従業員の中から40代で取締役に抜擢し、経営を引き継いだ。更に、現社長の次の経営者候補として、営業部長を40歳のときに取締役に抜擢し、現社長も40代で受講した外部の後継者育成研修に派遣するなどし、次の後継候補者の育成を進めている。

 この会長曰く「確かに大企業のように組織の規模が大きければ、早めに対応しなくても後継者を選ぶことも出来るが、中小企業では人材が限られているため、時間をかけて育てていかなければならない。このため、後継者候補は早期から経営者としての経験をつませていく必要がある」とのことである。

 また、この企業は堅実な経営を行っていたことから株価も高かったようだが、非同族への承継を円滑に進めるために、会長一族が保有していた株式を、時間をかけて現経営陣や従業員持株会に徐々に譲渡しているとのことである。

 こうした事例を元に中小企業白書では、経営者が事業承継の準備に着手する上では、周囲からの働きかけが必要としている。そして、経営者が早期に事業の承継に向けた意識を持ち、身近な相談相手である顧問の公認会計士や税理士、取引金融機関や商工会等が、経営者とともに最適な方法を探していくことが重要であるとしている。

 また、事業の譲渡や売却、統合(M&A)も、後継者候補がいないが事業を継続したい企業にとって重要な選択肢となるようだ。ただし、M&Aの検討に当たっては課題も多いため、経営者にとっての身近な相談相手がこうした潜在的なニーズを捉え、M&Aの専門家と連携しながら多様な課題に対応できる支援体制の構築が必要としている。(第201話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第159話)

第159話:景気回復しても恩恵少ない「中小企業」 なぜ、所得は増えないのか?

 財務省の法人企業計季報によると、全産業の経常利益は2012年度から増加が続いており、2016年度までに63%近く拡大した。ただ企業規模別に見ると、資本金10億円以上の大企業ではバブル期の2.3倍にまで経常利益が拡大した一方、資本金1千万円以上1億円未満の中小企業では同1.5倍程度にとどまっている。

 こうした収益格差拡大には、経済のグローバル化が大きく関係している。特に、新興国や資源国の台頭は世界経済の成長拡大をもたらし、海外需要の増加を通じて日本経済への追い風となった。大企業を中心に国際分業体制や販売市場のグローバル化が進んだことにより、大企業の業績に恩恵が及んだ一方で、国内需要に対する収益依存度が高い中小企業はグローバル化の恩恵を大企業ほど受けていない。

 さらに、原材料価格や人件費の上昇が中小企業により大きなダメージを及ぼした可能性がある。一般に中小企業は大企業より価格交渉力が劣り、原材料や人件費上昇に伴うコスト増を製品価格に転嫁することが難しい。また、大量一括仕入れや下請けへのコスト削減要求ができる大企業に比べ、中小は仕入れコストの抑制も困難である。経済のグローバル化や労働需給のひっ迫等による様々な要因が、大企業と中小企業の収益格差を拡大させている。

 こうした中、企業活動によって生み出された付加価値のうち、賃金などの人件費に回った割合を示す「労働分配率」を見ると、全産業の労働分配率は、2008年度をピークに低下に転じ、2016年度時点まで低下傾向にある。

 しかし、これを企業規模別に見ると、大企業では労働分配率が2008年度から8%ポイント程度低下する一方、中小企業では同6%ポイント程度の低下にとどまっている。特に大企業の低下は、新興国の安価な労働力との競争や配当の増加等により、業績の伸びに対して人件費が上昇しにくくなっていることが指摘されている。

 一方、中小企業の低下幅が少ないのは、中小企業の付加価値の伸びが相対的に低いことや、人手不足による人件費の圧迫等によるものとみられる。付加価値が大企業ほど伸びない中で、労働需給のひっ迫により人件費の抑制が困難となり、企業業績が拡大している割に中小企業の人件費負担感が低下していないことを意味している。

 他方、企業規模別に労働者の人員構成を見ると、大・中堅企業が占める割合が上昇する一方、中小企業の割合が低下傾向にある。それでも2016年度時点で、資本金1千万円以上の企業(金融機関を除く)のうち、中小企業が総人員の61.2%を占める。したがって、大企業を中心に業績が回復しても、家計の所得が増えにくい構造になっている。

 所得を増やすには、多くの雇用の受け皿となっている中小企業が業績を向上させ、多くの働き手の賃金を増やすことで国内需要を活性化することが必要だろう。現在のような大企業と中小企業の二極化が今後も進行すれば、景気回復が持続しても、その恩恵は大企業中心となり、結局は景気の実感が伴いにくいことが懸念される。(第160話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第90話)

第90話:日本経済の懸念材料と中小企業の成功事例

 来年の春闘が、このままだと結構厳しい可能性があるとの見方がある。春闘の賃上げ率は、①前年の企業業績、②人手不足感、③物価上昇率に影響を受ける。特に物価上昇率が、大きな決定要因になっており、物価が上がっていれば、それだけ従業員の生活水準を維持するために賃上げの要請がしやすい、ということになる。実際の物価はこれまでの円高の影響で今期のインフレ率や業績はそこまで期待できない。労働需給だけは、失業率が3%まで下がって逼迫しているが、再度為替レートが円高に転じてしまえば、来年の賃上げ率が下がる可能性もある。

 一方、これまでのように消費が減り続けていくという局面は脱し始めてきている。従って、いかに個人消費の耐久財買い替えサイクルが持続している間に、円高がある程度是正されて、企業マインドが戻ってくるかというところにかかっている状況だといえる。

 こうした中、日銀短観によると、特に製造業で業況が良いと答える企業の割合を見ると、大企業よりも中小企業の方が多いことがわかる。これは、中小でも好業績を上げている企業が多いということを示している。

 こうした中小企業成功のトレンドには大きく二つある。一つ目がITの導入である。大企業はIT導入済で改善の余地は少ないが、中小企業はクラウドサービスを導入して業務効率化することにより、収益拡大に繋げる成功事例もある。

 二つ目が、特に中小企業であれば単独だとなかなか厳しい中で、企業間ネットワークを形成して、成功をしているというのが最近のトレンドである。例えば大阪のネジ卸の会社は、中小企業4社でネットワークを形成し、受注から出荷まで、部品の一貫生産を可能にし、完成部品を短期で納品できる仕組みを作って、事業化に成功している。

 また、イノベーションまで行かなくても、端的に販路開拓で成功しているケースも最近目立つ。ここには、①グローバル展開、②ITの有効活用、③デザイナーの有効活用、とポイントが三つある。

 大阪にある土鍋を作っている会社では、デザイナーと連携した新しいデザインの商品を開発して、フランスの見本市に出展して評価され、それがネットで広がり、他の海外や国内でもネット通販で販路獲得に成功している。デザイナーがポイントになっている背景としては、日本特有の文化風潮もあり、デザイン性や芸術性とか他には真似できないものがあるため、こうした部分をいかに有効活用できるかが勝負の分かれ目だと考えられる。

 最後に、日本でも地方に行けば地方に行くほど、人材不足や定着の問題があり、それに対する決定打はない。しかし、面白い取り組み事例もある。広島では、NPO法人や自治体や商工団体で組織し、中小企業間で人材のローテーションを行っている。人手の過不足を補完するだけではなく、様々な経験をさせて将来を担う人材を育成する取り組みであり、参考になるのではないだろうか。(第91話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

エコノミスト永濱氏の新刊も是非お読みください。
60分でわかる「マイナス金利」
第一生命経済研究所
首席エコノミスト:永濱利廣(監修)

mainasu2016年1月29日に日銀の金融政策決定会合で決定され、2月16日から実施された「マイナス金利」。

プラスであることが当たり前の金利がマイナスになるとは、いったいどういうことなのか?

日本の経済を再生する原動力となるのか?

そして、私たちの生活にどのように関係するのか?

誰もが疑問に思うことを、Q&A方式を用いて簡潔に解説していきます。
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ヒーローの時代は終わる

 

 今回の米大統領選の一つの焦点は、グローバル化の反省である。日本でも89年に冷戦が終焉すると、一転してグローバル化の中で苦労した。グローバル化は先進国にとって格差を生むんだ。しかし、一方発展途上国はこの4半世紀で先進国との差を大きく改善した。後進国が中産階級層を持つまでになったのはグローバリズムの成果だろう。

 先進国の格差はビジネススタイルでの格差になった。それは知識労働とマニュアル的作業のマックジョブの所得差の拡大を意味する。以前はマックジョブスタイルでも、家が買えたが今は買えない。一方知識労働につける者の数もあまりにも限定的になった。通信・IT、データ解析などの一握りのエリートだけで数万人、数十万人の雇用を作れるから、ヒーローとなる少数のエリートがいれば、それで十分事足りるのだ。また世界の新中産階級層市場の拡大が少数のエリートをさらにヒーローにした。

 しかし、これはグローバル化の第1期の出来事だったかもしれない。

 2020年あたり以降、第2期のグローバル化は大きく変化するのではないだろうか。

 第2期のグローバル化のキーワードは、多様化だろうと思う。そしてこの多様化によって、一人のヒーローが数万人の雇用を作ることはもはやできなくなるかもしれない。ヒーローは人工知能に代わるだけか。

 新中産階級層は、成功の自信と生活の余裕によって急速に多様化が進むかもしれない。

 先進国では大きな変化が出てくるか。グローバル化によって辛酸をなめた敗者たちの反乱とでも言わんばかりに、これまでのビジネス中心の考えを捨て自らのライフスタイルを中心におく人々が出現するかもしれない。ライフスタイルを人生の中心に置くとは、モダンに見切りをつけた「新古代主義者」を大量に生むことを意味するのかもしれない。また一時話題になったゆとり世代が活躍するかもしれない。彼らは組織人間としては多少もろいが、高い感性を持った人たちだ。ひょっとすると世界の新中産階級層は、ヒーローよりもこのような些末な人々により共感するかもしれない。

 ならばビジネス・スタイルは変わるだろう。多様化は一人のヒーローが何万人の雇用を作ることを困難にさせるからだ。多様化の中では、一人の企業家やアイディアマンが作る雇用はたかが知れているし、当たる確率はさらに小さく、当たったとしてもすぐ飽きられるかもしれない。

 何万人と雇用を生むヒーローが生まれにくい時代になるだろう。大企業は思うように利益を上げられず、解体されるかいくつもの小組織に分割され、緩い関係で組織形態を継続するようになるかもしれない。グローバル第2期では今の中小企業のサイズが最適になるのかもしれない。

 もし、本当に大企業の値打ちが急落する時代が来るならば、マス・メディアは未来を暗黒の時代だと書き立てるだろう。

 しかし、いつの時代でも重要なことは、暗黒は夢を描けないことではない。また希望とは夢を描くことでもないということを知るべきだ。希望とは踏ん張って、踏ん張った先に、何かしら見えてくるものだからだ。

ジパング・ジャパン
代表 吉野晋吾