エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第236話)

第236話:世界との経済的な結びつき

 日本と中国の実体経済の結びつきがどの程度あるのかを見るべく、日本の国別輸出入を見てみよう。日本の主要国別輸出のウェイトを見ると、最大の輸出相手先は中国で2割弱を占める。2番目がアメリカで、次いでASEAN、EU、そして韓国が7%となっている。

 しかし、2017年までは、日本の最大の輸出相手国はアメリカだった。この背景の一つには、アメリカがトランプ政権になって保護主義に傾斜したことがある。輸送用機器を中心に、一般機械や電気機器等、いわゆる加工組み立て品をアメリカに大量に輸出してきた。特に、アメリカに最も輸出している品目は自動車である。それが、トランプ大統領誕生以降、保護主義が深刻化し、生産拠点がアメリカにシフトしたことによって、日本のアメリカ向け輸出が減ってしまった。

 一方、中国は世界の工場といわれてきたが、近年は国内需要が拡大している。このため、日本で作られた工業部品が生産拠点の中国に輸出され、これまでのように中国で作られた完成品が欧米に輸出されるだけでなく、中国国内でも消費されるという傾向が強まっている。

このため、保護主義で中国から米国向けの輸出が減少しても、日本から中国向けの工業部品の輸出等は減らず、むしろ中国内需の拡大により中国向け輸出のウェイトが拡大したのである。

もう一つは、米中摩擦の影響もあろう。古紙等のように、追加関税の掛け合い等により中国が米国から日本に調達先を変えたことも一部影響している可能性がある。

 こうしたことが重なって、2018年には中国が日本の最大の輸出相手国に返り咲いた。なお、輸入で見ると、元々中国が最大相手先である。ただし、安い人件費を梃子に完成品を大量に生産し、それを日本に輸入する役割はASEANにシフトしており、むしろ東南アジアでは作れない高付加価値な電気機器等の比率が上がっている。

 このように、2018年は輸出入とも中国が最大のウェイトを占めた。以前は、日本から輸出された部品は中国で完成品となり、それがアメリカに輸出されるため、アメリカ経済の影響のほうが大きいといわれてきたが、今はそうではない。最初の推計で示したとおり、日本の製造業は中国の製造業より非製造業のほうに影響を受けやすくなっている。むしろ近年は経済規模が拡大した中国内需に左右される要素が大きくなっている。そう考えると、経済規模の大きさだけでは単純には測れず、日本経済と中国経済との結びつきは、実際の経済規模以上に大きいといえる。(第237話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第235話)

第235話:強まる日本製造業に対する中国内需の影響

 中国経済の重要度を見るべく、日本の製造業PMI(購買担当者景気指数)に対する中国PMIの弾力性を製造業と非製造業に分けて計測してみた。すると、直近5年では中国の製造業よりも非製造業の弾力性の方が高いことがわかる。これは、特に中国内需と日本経済が密接に連動しており、日本経済の行方を探る上で、中国内需を知ることはこれまで以上に重要になっていることを示している。

 ただし、以前からここまで連動していたわけではない。今から6年以上前の2009~2013年における日本の製造業PMIに対する中国PMIの弾力性を計測すると、製造業のほうが高かった。背景には、当時は中国内需というよりも、中国の製造業を通じた最終需要地である米国経済の影響が大きかったことが推察される。

 当時は、あくまで日本から中国に輸出する製品の多くは中国で加工され、米国に輸出されていた。こうした中国国内の生産拠点としての機能が大きかった一方で、日本経済は中国内需の影響を現在ほど大きく受けることはなかったといえよう。

 また、直近5年程度で連動性が高まることとも関係してくるが、今から6年以上前はそれほどインバウンド需要が多くなかったという点も上げられる。このため、2000年代までであれば、日本経済の予測をするときには、ある意味では米国の状況さえ見ておけば良かったといえる。

 このように、最近の日本経済を予測する場合に中国経済の重要度が高まった背景には、中国経済の規模が大きくなったという要因がある。世界最大の経済大国は紛れも無くアメリカであり、世界のGDPの24%以上を占めている。このため、当然それだけ日本経済に及ぼす影響も大きい。それに対して、日本は世界第三位の経済規模だが、世界GDPの6%弱を占めているに過ぎない。2009年まで2位だったが、中国に抜かれたのは記憶に新しい。つまり、米国の次に大きい国は中国であり、中国の経済規模は2018年には世界GDPの約16%を占めるまでに大きくなっている。

 また、ドル建てで比較すると、日本のピーク時のGDPは6兆ドルを超えていたが、現時点では5兆ドル前後である。それに対してアメリカはGDPの規模が日本の4倍強の20兆ドル以上、中国は13兆ドル以上となる。

 つまり、米中二カ国だけで、世界経済の4割以上を占める。また2018年の世界経済規模の拡大で見れば、中国の寄与率が約3割と最も大きいため、やはり中国経済は世界経済を見る上で非常に重要ということになろう。(第236話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第175話)

第175話:2019年後半から世界の経済成長率は鈍化も21年に復調

 2008年9月に発生した「リーマンショック」以降、米国は負のGDPギャップの着実な縮小が続き、経済は正常化に向かっている。そうした正常化は今後も進展することが期待されるため、米国は経済の成長力を取り戻し、ユーロ圏経済も遅れながら正常化に向かうことが注目される。

 ただし、米国経済の景気回復が長期化していることは、米国の景気回復局面が終盤に差し掛かっていることも意味する。過去の経験則に基づけば、米国経済はGDPギャップがプラスになってから2~4年で景気後退になるため、米国経済は2020年前後の景気後退が想定される。その後は米国の迅速な金融・財政政策により1年程度で景気後退は脱し、平均2%程度の潜在成長率に見合った経済成長を取り戻すことを想定している。

 一方のユーロ圏は、中期的には1%台半ば程度の安定した経済成長が続く見込みである。2018年のユーロ圏経済は引き続き+1%台の潜在成長率を上回るペースで拡大しており、賃金上昇圧力が高まる中、インフレ率は緩やかに上昇することが予想される。欧州中央銀行(ECB)の量的緩和政策は年内に終了し、来年中にもECBは政策金利の引き上げを開始すると予想する。

 他方、これまで世界経済をけん引してきた中国は、人口動態の推移通り緩やかな減速過程が続く。中国の人口ボーナス指数はすでにピークアウトした。こうした人口動態の変化はすでに経済成長率の鈍化に表れている。しかし、中国の経済成長率は、依然として6%台を上回っている。従って、中国経済のけん引力は低下するものの、2020年代後半でも4%台の経済成長を維持するだろう。

 この関係を念頭に、今後の主要地域の経済成長率の中期展望を示すと、2010年代後半は先進国が停滞を脱して正常化に向かう傾向を見て取ることができる。一方、新常態を標榜する中国の経済成長率は低下傾向を辿り、2020年代後半は4%台に低下する。こうしたことから、2020年代後半には、経済大国での生産年齢人口の伸び鈍化などから世界経済全体の成長率もやや鈍化する可能性が高い。

 また、今後も先進国と新興国の経済成長率見通しについて、IMFデータを元にした筆者の予測では、2019年後半以降に先進国は米国の景気後退局面入りで成長率が減速に向かい、新興国も先進国向けの輸出減速等により減速することになる。

 しかし、2020年以降は先進国が金融緩和に転じることなどにより、比較的早期に世界経済の減速は収束することになろう。このため、2021年以降は新興国経済の持ち直しも相俟って、世界経済も緩やかに正常化路線に復帰することが予想される。(第176話に続きます)

永濱 利廣 氏

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第50話)

第50話:原油価格下落の功罪

 2015年に中国経済が減速した最大の理由は、リーマン・ショック後の4兆元の景気対策が発端で、公共事業をやりすぎた結果、過剰設備、過剰債務となり、製造業を中心に冷え込んだことだ。人口動態をみても、中国の生産年齢人口は2012年にピークアウトし、高度成長から安定成長に減速する中で景気対策をやりすぎた結果、今、調整しているところである。中国はかつてのような世界の工場ではなくなり、人件費も上昇、生産拠点も東南アジア諸国に移行している。1人当たりのGDPも、日本の10分の1程度から5分の1程度にまで向上し、個人消費が増えサービス業などが好調になっている。最近、マーケットも気がついているが、中国経済を製造業だけでみると過小評価になる。

 2016年の中国経済は6%程度の成長で、トレンド的には減速するが、引き続き世界経済の牽引役となる。経済規模をみても、5年前に日本を上回ったばかりだが、2016年にはユーロ圏を上回る見通しとなる。中国経済が6%しか成長しなかったとしても、世界経済の15%以上のウエイトを占めていることから、その影響はアメリカよりも大きくなる可能性がある。

 ユーロ経済を見ると、2016年後半にギリシャで債務問題が再燃する可能性はないとは言えない。ただ、ギリシャの債務問題で、株が大きく下がったわけではなく、ギリシャ国債はほとんど公的部門がもっていることもあって、ギリシャの破綻に対する実態経済の影響は抑え込まれている。こうしたことを考えると、ユーロ圏での金融危機的なものはそこまで心配する必要はないと思われる。

 今、世界経済で起きている大きな変化は原油価格の下落である。原油価格が下がった理由の一つはアメリカのシェールオイル問題である。原油価格の上昇によって、シェールオイルの開発が促進されることから中東諸国、特にサウジアラビアがシェアを確保するために減産していない。また、イランの核開発協議の進捗もあって、イランも増産していることから原油価格は少なくとも2014年夏のような1バレル100ドルには戻らず、上昇しても50~60ドル程度と考えている。この程度の原油価格であれば、日本経済にとっても好条件で、原油安と円安によって2015年だけでも8兆円程度の所得の海外流出が抑えられている。8兆円といえば3%の消費税額と同じであり、2016年も交易条件の安定は期待できそうである。

 その一方で、原油価格の下落によって、産油国経済は非常に厳しい状況となっている。中東諸国は2011年春頃にアラブの春で政情不安定となったが、その後落ち着きを取り戻した。その背景には、原油価格の上昇による潤沢な財政を使ったばらまき的な政策があった。しかし、原油価格がここまで下がってしまうと、ばらまき政策が実行不可能となる。2015年11月13日のIS(イスラム国)によるパリ同時多発テロなどが起こった背景には空爆の影響もあるが、根底には原油の闇取引などによって資金調達を行っていたものが、相当厳しくなっていることもある。

 原油安は先進国を中心に、原油輸入国にとってはプラスで、世界経済にとってもプラスだが、産油国の政情の不安定さを通じたリスク、例えば、テロ活動などには2016年も注視すべきである。(第51話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所

経済調査部 主席エコノミスト

永濱利廣

 

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第49話)

第49話:2015年は中国経済の失速と所得低迷が予想外

 2015年の経済状況を振り返ると、予想通りとなったのは米国の利上げである。利上げ時期までは予想通りではなかったが、2015年末に利上げが行われた。全般的には、ある程度の円安水準が維持される一方で、原油価格が低水準で推移したこともあり、企業業績が最高益を更新する可能性が高まっている。株価も2014年末の1万8,000円弱から4月に15年ぶりに2万円を超え、世界同時株安もありその後下回ったが、2015年末には1万9000円程度にまで回復している。この部分はほぼ想定通りといえる。

 その一方、経済成長率が4-6月期にマイナス成長となったことは予想外であった。これだけ企業業績が良ければ、成長率はもう少し上がると考えていた。

 この背景には大きな誤算が2つある。1つは中国経済の減速である。中国経済の減速は予想以上となり、それに伴って輸出が弱くなり、いわゆる生産調整的な動きもあって、4-6月期にマイナス成長となった。2つめは賃金が思った以上に伸びなかったことである。企業業績も良く、2015年春闘も良い結果となったわりには、ボーナスを含めて賃金が期待ほど増えず、それが個人消費の抑制につながった。加えて、企業側をみても設備投資計画は強いわりに設備投資が増加しなかった。企業業績が良いわりには企業マインドが好転しなかったことも予想と異なった。

 ただし、その後をみると7-9月期はプラス成長に転じ、在庫がマイナス寄与となったことから、在庫調整が進んだことで10-12月期もプラス成長が持続する可能性が高い。

 そういった意味では景気後退とはいえないものの、7-9期までの状況をみれば回復とはいえない。2015年度としては1%程度成長すると予想されるが、当初はもう少し高い成長率になると思っていた。やや期待外れである。

 単純に賃金・所得が増えない以上に、2014年4月の消費税率の3%引上げの影響が大きかったと考えられる。賃金が本格的に回復しない中での消費税率3%の引上げが、単純な駆け込み需要と反動だけでは説明できない家計への重石となったことをあらためて実感した。

 消費税率は2017年4月に10%への引上げが予定されているが、消費税率引上げの前までに、経済活動をいかに力強くするかが重要になる。

 2016年の日本経済で最大のカギを握るのは賃上げであり、GDPの約6割を占める個人消費の回復が重要課題で、黒田日銀総裁も春闘の動向には非常に注目していると発言している。

 懸念しているのは、中国発の世界同時株安もあって、足元の設備投資、機械受注も一時的に冷え込んでいることもあり、2016年の春闘はあまりいい結果とならない可能性がある。そうなった場合、2017年4月の消費税率引上げに耐えうる経済環境が整わない可能性がある。安倍首相のこれまでの発言を聞く限りでは、2017年4月の消費税率の引上げはよほどのことがない限り、実施される可能性が高いことから、2017年の景気はさらに心配になるだろう。(第50話に続きます)

 

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所

経済調査部 主席エコノミスト

永濱利廣

 

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