エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第160話)

第160話:求められる機動的な財政政策

 足下の経済動向について、筆者は非常に危機感を抱いている。背景には、2月以降の株価の下落速度がアベノミクス以降で見ると非常に大きかったことがある。実際、2012年12月のアベノミクス以降の日経平均(月平均)の下落幅を大きい順に並べると、過去最大の下落幅を記録したのがチャイナショック第二弾であり、その次がチャイナショック第一弾となっている。実にその次が2013年6月のバーナンキショック後と今回の株価下落であり、非常に大きなマーケットの調整が起こったことがわかる。

 こうした状況は、既に実体経済にも影響が出ている。アベノミクスの根幹はいかに好循環で賃金を上げるかというところだが、そこに赤信号がともっている。今年の春闘の賃上げ率を見ると、金融システム不安で経済が大きく混乱した1998年以来の水準となりそうである。しかし、1998年度の名目賃金上昇率は一般労働者の所定内給与で+0.8%にとどまった。一方で、原油価格の上昇などにより今年の消費者物価指数の上昇率が1%程度となる可能性があることに加えて、働き方改革の影響もあり残業代収入が減っていることからすれば、今年の実質賃金は2年連続のマイナスの可能性もある。つまり、このまま放置しておくと、今年の日本経済は相当厳しいことになることが想定される。

 以上を勘案すると、日本経済が取り組むべき課題としては、需要刺激策が非常に重要だと考えられる。既に2017年度の補正予算という形で政策がまとめられているが、事業総額を見ると2.7兆円とアベノミクス以降最小規模にとどまっている。相対的に財政規律への配慮が見られる予算となっているが、2016度補正に比べて公共事業費は少なく、非常に力不足である。

 一方、公共事業について、よく建設現場で人手不足ということを言われてきたが、建設労働者の労働需給判断DIを見ると、不足感は緩和の方向にある。また、日銀がイールドカーブ・コントロールを導入している面からも、今、安倍政権始まって以来、最も機動的な財政政策の効果が出やすい時期になっていると考えられる。

 このため、公共事業も一定割合は増やす必要があろう。具体的には、特に介護施設や保育所の増設については昨年度の補正予算では不十分であるため、そうした方向性の増額も考えられるだろう。また、国内の空港整備や港湾インフラといった日本全体の国際競争力が増すような公共投資であれば、国民にも理解される可能性が高いと考えられる。

 さらには、数年前にトンネルが崩落した事故もあったように、老朽化インフラの整備も重要である。日本のインフラは50年以上前に建設されたものが多くを占めるため、老朽化インフラ整備については、本気で取り組めば甚大な需要が存在する。こうしたメニューを上手く取捨選択して、いかにワイズスペンディングという形ができるかが重要であろう。(第161話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第67話)

第67話:求められる財政政策②

 財政政策については、既に昨年度の補正予算という形で政策がまとめられており、このメニューについて全般的な方向性は一定の評価ができよう。ただ、事業総額を見ると3.5兆円にとどまっており、これは内閣府の試算によれば今年度のGDPを+0.4%程度押し上げるということになっているが、当研究所の計算によれば同+0.3%程度であり、非常に力不足である。このため、今後の財政政策の方向性としては、これをさらに拡充するという方向が良いのではないかと考えられる。

 一方、公共事業について、よく建設現場で人手不足ということを言われてきたが、建設労働者の労働需給判断DIを見ると、不足感は解消してきており、マイナス金利の面でも、今、安倍政権始まって以来、最も機動的な財政政策の効果が出やすい時期になっていると考えられる。

 このため、公共事業も一定割合は増やす必要があろう。具体的には、熊本地震復興を筆頭に、介護施設や保育所の増設の部分については昨年度の補正予算では不十分であるため、そうした方向性の増額も考えられるだろう。また、国内の空港整備や港湾インフラといった日本全体の国際競争力が増すような公共投資であれば、国民にも理解される可能性が高いと考えられる。

 さらには、数年前にトンネルが崩落した事故もあったように老朽化インフラの整備も重要である。日本のインフラは50年以上前に建っているものが多くを占めるため、老朽化インフラ整備については、本気で取り組めば甚大な需要が存在する。こうしたメニューを上手く取捨選択して、いかにワイズスペンディングという形ができるかが重要であろう。

 具体的に必要な規模については、1つ目安となるのは足下の需要不足である。去年の10-12月期時点で年換算8.6兆円となっているため、昨年の補正予算の規模も加味すれば最低でも5兆円規模は必要と考えられる。さらに、ESPフォーキャスト調査に基づくエコノミストの予測の平均成長率が実現した場合、今後の日本のGDPギャップがどうなるかを予測すると、消費増税が織り込まれているため一旦は駆け込み需要で縮小するも、その後は反動減でマイナス7兆円のデフレギャップに逆戻りすることになる。デフレ脱却を重視するのであれば、次の消費増税も織り込んだ形で日本経済を考えると、デフレ脱却は2017年度一杯までは厳しいことになる。逆にデフレ脱却よりも財政再建ということを前向きに打ち出すのであれば、消費増税という選択肢もある。このため、ここはどちらを重視するかによって消費増税を予定通り実施するか先送りするかの重要な決断になってくるのかと思われる。(第68話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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第一生命経済研究所
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