エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第167話)

第167話:「借金まみれの日本」の財政危機リスクが低いワケ

 プライマリーバランスを早期に黒字化しないと財政危機が訪れるという議論があるが、これはそのまま日本には当てはまらない。なぜなら、G7諸国のプライマリーバランスを見ると、黒字を達成しているのはドイツとイタリアのみであるが、赤字国はいずれも財政危機的な状況になっていない。

 プライマリーバランスの赤字では政府債務残高/GDPを悪化させることになるが、名目成長率が国債利回りを上回っていれば、プライマリーバランスが赤字でも政府債務残高/GDPが上昇するとは限らない。これは非常に重要なポイントである。

 更に筆者は、政府が前提としている長期金利>名目成長率には違和感があり、長期金利<名目成長率の可能性も十分にありうると考えている。その理由は、理論的に最適成長する場合は実質長期金利>実質経済成長率が必要とされるが、ここでいう実質長期金利は社債や株なども含めた実質資本収益率であり、国債利回りはリスクプレミアム分だけ低くなるためである。また、長期的な歴史的事実関係を見ても、多くの主要国で名目成長率>国債利回りを満たしていること等もあり、こうしたドーマー条件が満たされる可能性が高い。

 以上を踏まえて、各国国債の信任を左右するとされる4指標について国際比較をした。具体的には、OECD諸国における「政府純債務/GDP」「経常収支/GDP」「対外純資産/GDP」「政府債務対外債務比率」の4指標をリスクの度合いで並べた。結果は、日本は政府純債務/GDPだけではイタリアに次いでリスクが高いが、それ以外の3指標で]見れば圧倒的にリスクが低く、相対的に財政リスクが高い国ではないという結果になる。

 また、過去20年間の税収弾性値(2.9程度)を前提とすると、緊縮財政を実施しても名目成長率が下がってしまえば、税収がその分増えるとは限らない。つまり、経済成長と税収の関係を鶏と卵に例えれば、税収という卵を産む経済成長、すなわち鶏を殺すような緊縮財政をすれば、却って財政健全化は遠のきかねない。

 以上をまとめると、日本経済が早期に正常化し消費税率が予定通り引き上げられるのがベストだが、2019年度後半は経済的なリスクが高いことからすると、予算編成後も消費税率引き上げの先送りが可能となるよう、景気条項を付帯することも有力な手段といえる。ただ、それが物理的に困難であり、予定通り上げざるを得ない場合は効果的な景気対策が必要と考えられる。

 結局、今後も消費税率の引き上げが必要であることを考えると、2014年4月の消費税率の引き上げが失敗したこともあり、今回の消費増税は非常に重要である。つまり、今回の消費増税でいかに景気への悪影響を軽微にできるかが証明できれば次の消費増税も実施しやすくなるが、逆に失敗してしまうと次の増税は困難になろう。そういう意味でも、今回は非常に慎重な景気への配慮が必要ではないかと考えられる。(第168話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第100話)

第100話:財政リスクは2020年に顕在化の可能性

 2020年はオリンピックの開催だけでなく、プライマリーバランスを黒字化させるという、国が掲げている大きな目標を達成させる期限の年でもある。内閣府では、ベースラインケースと、経済再生ケースという2つのシナリオを使って将来の基礎的財政収支を計算している。ベースラインケースでは、名目経済成長率を1%台前半、経済再生ケースでは3%台後半で計算している。しかし、見通しでは3%台後半の名目経済成長を繰り返しても、2020年までにはプライマリーバランスはプラスにはならない。

 これには、ひとつからくりがあり、今紹介した内閣府の試算では税収弾性値が極端に低く見積もられていることがある。税収弾性値というのは、名目GDPが1%増えると、税収が何%増えるかを示すもので、政府の試算では1%程度とされている。しかし、例えば2015年度の場合、日本での税収弾性値は1.5%であったため、内閣府の試算は少し厳しすぎる。ただし、税収弾性値を適正なものにしても、2020年のプライマリーバランスの黒字化が厳しいことには変わりない。

 その最大の理由は、膨張し続ける社会保障費である。日本の社会保障費は少子高齢化の影響で、2012年から2025年の13年の間に約39兆円増えると見込まれている。そのうち半分を占める医療費を中心にした社会保障の効率化は避けて通ることができない。

 そのため、納税者番号制度を利用し、国民一人ひとりの所得、将来的には資産状況を把握し、経済的に余裕のある高齢者には応分の負担を求めていく方向に制度を変更することになると見込まれている。

 この制度の変更は、国民の痛みを伴い、反対の声が上がることが必至で、すんなりと実現できるか、極めて疑わしいと言わざるをえない。しかし、先程も説明したように、社会保障の効率化は2020年プライマリーバランス黒字化のためには欠くことができない。

 このように、2020年のプライマリーバランスの黒字化は余談を許さない状態にある。しかし、一方で、日本国債の金利は低位で安定している。その理由の一つが日銀自ら国債を大量に購入していることである。改めていうまでもないが、日銀による国債保有額を永遠に増やし続けることはできないため、いずれは日銀も量的緩和を終了させて、「出口」に向かわなければならない。もし、日銀が出口に向かっているタイミングで2020年のプライマリーバランスの黒字化ができないことが判明したら、金利が跳ね上がってしまうリスクが全くないとは言えない。

 つまり、そもそも経済成長率が停滞しやすい五輪が終わる時期と、世界中が注目しているプライマリーバランスの黒字化に答えがでるタイミングがちょうど重なる可能性が高いため、もし社会保障改革が上手く進まなかった場合は、2020年台後半の日本経済には暗雲が立ち込めてしまう可能性があることには注意が必要だ。(第101話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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第一生命経済研究所
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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第61話)

第61話:社会保障改革に伴うリスク

 日本は世界最大の債務国で、すでに国債発行残高は1000兆円の大台を超え、早期の財政健全化が求められている。

 このまま、借金のGDPに対する比率が上がり続けてしまうと、いずれは信任を失い、国債が暴落。最悪の場合、国家として財政破綻を迎えるといわれている。

 この増え続ける国の借金に歯止めをかけるため、民主党政権下の2010年6月「財政運営戦略」が閣議決定され、基礎的財政収支(プライマリーバランス)の赤字を2015年度までに2010年度の水準から半減し、更に2020年度までには黒字化させることを明記した財政健全化目標が定められた。

 この目標は、政権が自民公明の連立政権に戻ってからも撤回されることなく、堅持されており、実際、政府もこの目標の達成に向けて様々な策を講じている。

 アベノミクスの効果もあり、2015年度の赤字半減はなんとか達成のめどがついたため、次に政府は2020年のプライマリーバランスの黒字化を達成するために、策を講じてくることが考えられる。

 この2020年プライマリーバランス黒字化を達成するために採られる方策が、景気の腰を折りかねないリスクとなる可能性がある。

 1990年以降、国債残高が増加した要因を、経年でグラフにすると、ここ数年の国債残高の増加要因は、その大半が社会保障費と不足していた税収の補填分で占められている。

 但し、税収の補填分に関しては、2014年度は6.1兆円と、ピークに比べて大幅に縮小された。これはアベノミクスにより景気が良くなり、税収が増えたためである。今後、更に景気が良くなれば、税収の補填分はゼロになることもありえる。

 一方の社会保障費は、いくら景気が良くなっても減ることはないため、何らかの方策を講じて、効率化していかなくてはならない。

 社会保障費の構成要因は大きく年金、医療、介護である。これらが、今後どのように増えていくのか政府が予想値を発表している。

 これによれば2025年の社会保障費は、2012年に比べて全体で39兆円も増えると予想されているが、実にその約半分の19兆円が医療費の増加分で占めている。

 つまり、医療費にメスを入れることが、財政健全化にとって必須条件となっている。医療費削減のために、一番てっとり早いのは医療費の自己負担比率を引き上げ、診療報酬を下げることだが、診療報酬の抑制については医療の高度化等の要因も加味しなければならないため、実現するには相当な困難を伴うだろう。(第62話に続きます)

 

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所

経済調査部 首席エコノミスト

永濱利廣

 

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nagahama20161011企画提案、事後報告、業界予測──。自分のやりたい仕事を通すには、わかりやすさと説得力を兼ね備えたレポートをつくる力が欠かせません。でも、多くは「表やグラフを多用しすぎ」「論旨が脱線」「とにかく長い……」など、“残念なレポート”になってしまっています。長年、業界のプロや一般読者を対象に“読ませるレポート”を作成してきたエコノミストが、どんなレポートも見違える大原則を公開します。