エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第106話)

第106話:今年と来年で日本経済の将来が決まる可能性

 2017年は昨年秋から引き続き、日本の景気にとって非常に良好な状況が続いている。事実、昨年12月には日経平均株価が1万9千円台を回復し、今年は更に高値をつけていくのではないかと期待されている。企業業績も好調で、法人企業統計の経常利益では2016年7-9月期から2桁増益に転じている。

 こうした中、2019年の10月には、消費税率が8%から10%に引き上げられる予定である。政府としては、この大きなイベントを無事通過するため、景気に関しては、以下のようなシナリオを描いているのではないかと考えられる。

 今年2017年度の後半には、トランプ政権の拡張的財政政策のプラス効果が顕在化し、景気は年度後半から、誰の目から見ても好調な状態に上向いていく。

 そして、次の解散総選挙の前には、アベノミクスの成果として、デフレ脱却宣言をしたい。そのためには、それまでは株式市場を上昇基調のまま維持させ、物価も2%には達しなくても、はっきりとプラスになっている状況を作りたい。

 また、2019年10月の消費税率の引き上げでは、景気が多少下ブレするのは避けられないが、2014年4月の時のように冷水をかけるようなことは避けたい。可能な限り、1989年4月の消費税導入時のように消費税率を上げるマイナスの影響を受けても、景気が下向きにならないように景気に勢いを持たせておきたい。

 更に、黒田日銀総裁の任期が切れる2018年3月までには、出口戦略も模索できる状況に景気を持ち上げつつ、バブルにはならないようにコントロールしながら、2020年のオリンピックを迎えることができればベストとの青写真を描いているだろう。

 とはいえ、国内外に様々なリスクを抱えながらの経済運営となるため、綱渡り的ではあるが、全く実現不可能という訳でもないと、筆者は考えている。

 経済に関しては、旧民主党政権から安倍政権に変わったことによって、少なくとも綱渡りができる状況にまではなったのは事実であり、その点に関しては、素直に評価し、これからに関しても期待したいというのが本音である。

 確かに、デフレを脱却し、その後、東京オリンピックをつつがなく開催して、更にオリンピック後も景気を落ち込ませることなく、成長を続けるとなると、綱渡りにならざるを得ないのが現実だろう。

 しかし、少なくとも今年から来年にかけての綱はかなり太い可能性があるため、まずはこの間を利用して、しっかりとデフレ脱却と経済の好循環を図ることが、政策当局の出来ることなのではないかと考えられる。(第107話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第51話)

第51話:日本経済にとって、ここ2~3年が最重要

 失われた20年の影響もあって、企業経営者にデフレマインドがしみつき、なかなか楽観的にはなりにくい状況にある。売上が増えて利益が増える場合と売上はそれほど増えないものの、原材料などのコストが下がって利益が増える場合では、企業経営者の受け止め方が異なり、原材料コストの低下による利益増では前向きに考えにくい状況になっている。

 政府がデフレ脱却のために必要な指標として、消費者物価の上昇率、GDPデフレーターの上昇率、単位労働コストの伸び率、GDPギャップの4つを定義しているが、GDPギャップがまだマイナスであり、デフレではないもののデフレ脱却といえる状況ではない。

 2016年の経済成長が民間エコノミストの予測並みであれば、2016年度半にはGDPギャップが解消される可能性がある。デフレ脱却を確かなものにするという観点からみると2017年4月の消費増税はタイミングが悪い。ベストシナリオは消費税率を10%に引き上げても、経済の勢いが弱まらないように2016年中に景気を良くすることだろう。2016年夏の参議院選挙、2017年4月の消費税率の引上げなどを考えると、2016年夏までに景気をどの程度良くできるかが重要となる。

 現在の日本経済が一番避けなければならないことは財政破綻である。今、国の借金が増えながらも国債の信任が落ちない理由は、日銀が買っていることもあるが、間接的には政府の債務残高を家計の純金融資産が上回っていることもある。ただ、安倍政権以前はその幅が縮小傾向で、逆転してしまう可能性があった。それがアベノミクスによって、格差拡大などの問題はあるものの、経済全体を考えれば、株価が上昇し家計の金融資産も1,400兆円から1,700兆円に増え、政府債務は増えているものの家計の純金融資産との差は拡大し、財政危機は遠のいている。財政のプライマリーバランスも黒字化はしていないものの改善し、問題はあるもののマクロ経済政策という意味では成功している。直接的な経済政策で大切なのは、雇用環境をいかに改善させるかで、雇用も100万人以上増加し、完全雇用までには至っていないものの、失業率も低下している。あとは影の部分をいかに手当するかという意味でも、再分配を行う必要がある。

 2020年代半ば以降を考えると、団塊世代が後期高齢者となり、社会保障費のさらなる増加、生産年齢人口の減少幅が拡大することなど、様々な課題がある。社会保障費の削減が必要だが、急激な削減には問題がある。2014年はシニア層の消費が好調だったが、2015年はシニア層の消費が弱く、個人消費の落ち込みの一つの要因となっている。ある程度の金融資産を持つシニア層には社会保障も応分の負担を求めることや2021年をめどに預金口座へのマイナンバー適用の義務付けといった報道があり、将来の社会保障の姿を懸念して、消費を抑制した可能性もある。

 日本経済にとって、これからの2~3年が非常に重要な時期で、2018年3月に黒田日銀総裁の任期、さらに2018年秋には安倍首相の自民党総裁任期が終わる。2018年以降の金融・経済政策がどうなるかは日本経済にとって大きなカギを握るかもしれない。同じ方向であればいいが、政策が大きく変われば、日本経済の先行きも大きく変わる。好条件の揃っている間にしっかりとした成長戦略を実行すると共に緩やかに社会保障の効率化をはかっていくことが大切である。(第52話に続きます)

 

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所

経済調査部 主席エコノミスト

永濱利廣

 

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nagahama20161011企画提案、事後報告、業界予測──。自分のやりたい仕事を通すには、わかりやすさと説得力を兼ね備えたレポートをつくる力が欠かせません。でも、多くは「表やグラフを多用しすぎ」「論旨が脱線」「とにかく長い……」など、“残念なレポート”になってしまっています。長年、業界のプロや一般読者を対象に“読ませるレポート”を作成してきたエコノミストが、どんなレポートも見違える大原則を公開します。