エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第6話)

第6話:国内の企業立地環境を整備したドイツ

 ドイツは2000年以降に、経済連携協定を活用、かつ法人税率を引き下げて、ドイツへの対内直接投資を誘致した。経済連携協定に関しては、2004年、それまで15ケ国だった EU加盟国に、ポーランドやチェコなど中東欧他10ケ国が一気に加わり、25ケ国に増加したことが大きい。ドイツは、モノ・ヒト・カネの自由な域内移動が出来るEUの仕組みを、EU拡大後に一層活かし、経済を活性化した。ドイツに企業立地すれば、EU25ケ国に無関税で輸出できるとして、対内直接投資を誘致した。またドイツは、50%以上だった法人税実効税率を、2000年以降に段階的に30%まで引き下げ、立地競争力の強化を図った。1999年1月の統合通貨ユーロの発足も有利に働いた。ドイツに立地すればユーロ圏との間の輸出入ならば為替リスクがなくなるからである。EUやユーロ圏の他国へ立地しても、無関税や統一通貨の利点は同じだが、ドイツは元々、高い技術力を持ち、他国よりも製造業の競争力があり、優良な人材と部品会社を持っていた。この点で特に製造業の企業立地上、優位となった。

 EU市場統合は、関税撤廃だけでなく、非関税障壁の撤廃も目指してきた。これはドイツの内外直接投資の中身にも反映されており、直近の2012年・2013年の業種別の直接投資を見ると、対外・対内共に専門サービスや情報通信などのサービス業が大きく伸びている。ドイツが市場開放や規制改革を進めて非関税障壁を下げ、競争を促し、結果として立地競争力・国際競争力を高めて来たことが分かる。金額を見ると、ドイツは2012年・2013年の対外直接投資が年6~9兆円規模(ユーロ相場@145換算)、対内直接投資が年1.5~3兆円規模(同@145)であり、対外よりは少ないが、対内直接投資も対外の4分の1ないし3分の1の規模に達している。

 日本の2012年・2013年の対外直接投資が年14~16兆円規模(米ドル相場@120換算)、対内直接投資が年2,100~2,800億円規模(同@120)であり、対内は対外の50から60分の1に留まる。対内直接投資を業種別でみると、ここ2年、日本では卸小売、金融・保険、サービス業などでの外資の撤退が目立つ。日本は、非関税障壁の撤廃や規制緩和を進めないと、このように外資の流出が続くことになりかねない。

 日本向けの対内直接投資が少ない理由を探るため、外資系企業動向調査(経済産業省、2012年度)において、在日外資系企業が日本で事業展開する上で挙げた阻害要因を見ると、最大の理由は「ビジネスコストの高さ」であった。この「ビジネスコスト」の上位は、人件費、税負担、事務所賃料である。ただし円安はこうしたコストの外貨換算上、割安に見せる効果がある。阻害要因の他の項目には、「日本市場の閉鎖性、特殊性」「製品・サービスに対する要求水準の高さ」「人材確保の難しさ」「規制・許認可制度の厳しさ」などが挙げられた。「人材確保難」の中身としては、英語力ある人材の採用難が大きい。非関税障壁撤廃、規制緩和、法人税率引き下げ、英語教育充実などを進めて、こうした阻害要因を減らしていくことが、対内直接投資の拡大のために必要である。(第7話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
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主席エコノミスト 永濱 利廣

清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第27話)

第27話:価値への対価は「渡す」もので「ほうる」ものではありません。

 お金は「渡す」ものであり、「ほうる(抛る)」ものだとは思いませんでした。

 最近のファストフードでよく体験することです。〇〇バリューのセットを頼む。バリューというからには価値あるものが登場するはず。胸躍らせながら待つことしばし。余り重みのないトレイに、紙にうやうやしく包まれたハンバーガーと熱々のポテト(時折冷めているのにあたることもある)、そして好みのドリンクが乗っている。「なるほど、これがバリューか」と納得顔で支払いの準備をします。あいにくと小銭の持ち合わせがない。バリュー(価値)あるものを頼んだのだからと理屈をこねて、おもむろに1万円札を渡す。「1万円入りま~す。」と元気な声。つり銭の準備です。「では、大きい方から・・・1千、2千・・・」先にお札が渡される。さてこれからだ。「細かな方、○○円」と言うが早いか、コインが私の手のひらにほうり込まれます。

 その行為は、決して金銭の授受をしているといったものではありません。小石をほうり投げている行為です。これでバリューか。底が浅いものだと、これまた納得してしまいます。

 お金をほうり投げるのは、私は正月の初詣やその他の機会に、神社仏閣での賽銭の時にしか体験しません。投げ銭は銭形平次の専売特許。金銭は、やり取りされて初めて、その価値を感じるものです。

 バリューを売り物にするのなら、対価をほうるのは避けた方が価値(バリュー)がある、と私は思うのですが。(第28話に続きます)

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株式会社マップス 代表取締役 清野 裕司
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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第5話)

第5話:日本企業が直面する六重苦とドイツの比較

 日本経済が長期停滞した大きな原因のひとつは、ビジネスを巡る環境が、外国に比べると悪かったことにある。ドイツは日本と同様、人口は減少傾向にあるが、近年着実な経済成長を実現している。ドイツは2000年代以降、プロビジネスの視点から政府当局が積極的な政策を講じてきた。経済成長の源泉は企業活動にあるゆえ、プロビジネス政策のドイツは成長し、日本は停滞する結果になった。

 ドイツの経常黒字は2000年以降に急拡大したが、その大半を占めるのは、2000年以降に順調に拡大した貿易黒字である。2004年に実現したEUへの中東欧10ケ国加入後、ドイツの貿易黒字基調は定着した。また、ドイツでは2004年以降、対外直接投資が急拡大した。2001~2004年の間、GDP比 30%程度で不変だった対外直接投資残高は、2013年には60%近くまで増加した。この間に中東欧や新興国への投資が増加し、このような直接投資先の現地法人に対して、ドイツから部品・部材や生産機械・設備の輸出が増え、これがドイツの貿易黒字を増やした。

 日本の貿易収支は2011年以降、赤字に転じた。要因には、原発停止に伴う化石燃料の輸入増加に加え、例えば携帯電話機など電気製品の輸入の急増がある。最近の日本の経常収支黒字を支えるのは、海外から受け取る金利や配当などの所得収支黒字である。

 ドイツの直接投資は1990年代までは少なかったが2000年代に急増した。しかも、対外・対内直接投資のいずれもが増加した。

 日本の対外直接投資は2005年以降、順調に増加しているが、対GDP比の累積残高はドイツよりはるかに少ない。また、ドイツと大きく異なるのは、対内直接投資が著しく少ない点であり、しかもここ5年ほどは残高自体が減少している。G7の中で、日本の対外証券投資残高が英独仏より少ないにも関わらず、所得収支黒字が3ケ国を上回る理由は、対内証券投資残高が少なく、外国に支払う配当・金利が少ないためである。

 こうした中、安倍政権の経済政策はプロビジネス的にシフトしている。日本企業の六重苦のうち第1の円高は、日銀の金融緩和により是正された。第2の高すぎる法人税率は、20%台に下げる方向で準備が進んでいる。第3の経済連携協定の遅れに対しては、成長戦略の柱でもあるTPP実現を掲げたが、日米交渉での隔たりがあり、実現時期は見えていない。第4の厳しい労働規制は、解雇ルール明確化などに踏み込めず進展は少ない。第5の厳しい環境規制は、2020年の温室効果ガス排出を1990年比 3%増加との現実的な目標に改めた。第6の高いエネルギーコストに対しては、一部の原発再稼働が年内に実現見込みとなり、少なからずコスト減につながりそうだ。産業の六重苦の解消は道半ばであるといえよう。(第6話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
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主席エコノミスト 永濱 利廣

清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第26話)

第26話:食べ物への「感動」は、出会いの大切さを教えてくれます。

 人それぞれに、思い出の中の食べ物があるのではないでしょうか。家庭内での食事の思い出もあります。私にとっては、母がつくってくれた「巻き寿司」「ばら寿司」「いなり寿司」の味が、郷愁の世界へと誘ってくれます。それ以上に外食での思い出が、今も鮮明に浮かんでくることがあります。

 5歳の頃、親の転勤で上京した折、初めて旅館で「卵焼き」を食べたこと。鶏卵自体が高級な食材で、めったに食卓に乗るような時代ではなかったからでしょう。その甘さと共に、味わい深い風味が体中を駆け巡っていった感動が残っています。今も出張時の朝食に「卵焼き」を食べている自分がいます。同じく卵にかかわるものですが「オムライス」があります。浅草に現在もあるセキネという食堂で、食べさせて貰ったもの。ふんわりした焼卵で、程よく炒められたチキンライスが包まれている。しかもその上にケチャップが彩りを添えている。味わいと共に、はじめて見る美しさは、7歳の自分にとって衝撃でした。「カツ丼」の甘辛いしょうゆ味に出会ったのは、その後しばらくたった時。「牡蠣フライ」は、小学4年生のとき。「天津麺」は、小学6年生。そして、中学生の時に初めてカウンターの前に座って寿司を食する機会を得ました。

 でも最近は、ついぞ感動の食に出会うことがなくなってしまいました。自分自身の食体験が深まったからでしょうか。いや、それ以上に、余りにも準備され尽くした食が、日常の食卓に出回ってしまっているからではないかと思います。人の感性を高める教育の一つに「食育」があると言われます。今の小学生たちは、20年後、30年後にどのような「感動」を食にもって、語っているのだろうかと思います。(第27話に続きます)

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株式会社マップス 代表取締役 清野 裕司
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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第4話)

第4話:四半世紀に一度の好環境

 今後の物価の伸びが鈍化する理由の一つに、原油価格の下落がある。日本のような原油の大量輸入国は、円建ての原油価格が下落すると、所得の海外流出が急激に減ることになる。仮に年末にかけて原油価格が60~70ドル/バレルまで戻ったとしても、今年は所得の海外流出が年間9~10兆円抑制されることになり、家計への影響を計測するだけでも消費税率を1%程度引き下げるのと同等の効果となる。

 さらに春先以降は、今年度の補正予算3.5兆円の効果が出てくることが期待される。昨年度の補正予算ではかなりの部分が公共事業に回され、家計向けの減税は6000億円ほどにとどまったが、今回はアベノミクスの副作用で割を食っている家計や中小企業、地方に半分程度割り当てられることになっている。

 更に、4月以降は実質賃金がプラスになることで個人消費も力強さを増すことが予想されるため、今年の景気は年半ば頃から勢いを増すことになりそうである。

 以前も指摘したことがあるが、2014年は1986年と状況が非常によく似ている。1986年の日本は、前年のプラザ合意によって円高不況に陥った。そこで、それまでの輸出主導ではなく内需主導の経済成長を目指すべきだということで、金融・財政政策が積極的に打ち出された。これに対し、今回も消費税率アップによる景気後退を受け、さらなる引き上げを先送りして経済対策を打ち出し、日銀もサプライズ緩和といった形で金融・財政政策を積極的に行っている。

 更に似ているのが、原油価格の暴落とその背景である。86年当時は原子力発電の台頭により産油国が意図的に増産して価格を下げたといわれているが、今回もシェールオイルの台頭により産油国がシェアを確保するために価格を下げているといわれている。シェア確保が目的であれば、1980年代後半がそうだったように当面原油価格が元の水準に戻ることはないだろう。

 また、自民党が選挙で大勝したという点も同じである。このような経済の好環境を受けて、80年代後半にはバブルが起こった。しかし、今回は土地神話がなく人口オーナス期に転じているため、バブルになる可能性は低いと考えている。

 このように、少なくとも国内の経済面でいえば四半世紀ぶりの好環境が整っているといえる。一方で2017年4月に消費税率の引き上げが控えていることからすれば、こうした好環境は来年頃までは続くと期待される。その間に、岩盤規制の打破や人口対策を中心とした成長戦略、痛みを伴う社会保障の効率化等をいかに進められるかが、アベノミクスの命運を握っていると言えよう。(第5話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
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