エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第140話)

第140話:戦後2番目の景気も2019年は岐路に

 家計部門の低迷はGDPを所得(分配)面から見ると分かる。実際、国民所得に占める雇用者報酬の比率を示す労働分配率は2008年度の72.1%から2015年度に67.8%に下がっており、企業が儲けを家計に分配する度合いが低下していることがわかる。

 この背景には、デフレマインドの蔓延と新興国の台頭を契機とする経済のグローバル化がある。つまり、①過去20年以上のデフレのトラウマで企業経営者が賃上げに臆病になっている、②企業の生産拠点や販売市場の国際化、③株主構成の国際化、といった要因によって企業がグローバル化によって景気回復を主導しても賃金が伸び悩み、政府が財政健全化を急ぐことから内需が盛り上がらない構造になっている。経済のグローバル化は止まらないため、今後も政府が財政健全化を急ぐことが続けば、企業主導で景気が拡大しても家計が低迷する構造は続く可能性が高いだろう。

 一方、一国の経済成長を見る場合、物価変動や性能向上分を調整した実質GDPで見るのが一般的である。

 1960年代の日本は高度成長期と呼ばれ、平均して10.4%成長を遂げた。この時期は、現在の中国のように豊富な家計貯蓄を企業が借り入れて積極的に設備投資を行っていた。また、農村から都市部への人口移動によって第一次から第二次産業へ労働力がシフトし、製鉄や石油化学などの重化学工業にけん引されて経済が急成長した。

 しかし、その後は二度の石油危機で1970年代が5.0%、1980年代が4.4%と大きく減速した。原油高でけん引役だった重化学工業が打撃を受けたほか、都市部への人口移動が一段落したこと、先進国への技術面のキャッチアップ余地が限られてきたこともあり、設備投資の伸びが大きく鈍化したためである。

 ただ、1980年代後半にはバブル経済により一時的に成長率が高まった。株価や地価の上昇による資産効果を背景に民間需要が大きく拡大したためである。しかし、経済の実態からかけ離れた資産価格の上昇は長続きせず、バブル経済が崩壊した1990年代以降は日本経済が設備、雇用、債務の「三つの過剰」の処理に苦しみ、日本経済の成長率は平均1.6%に落ち込んだ。その後、2000年代の経済成長率は平均0.5%まで落ち込んだ後、2010年代以降の成長率は2016年度までの平均で1.3%と改善した。背景には、リーマンショックからの持ち直しによる海外経済の好調に支えられたことや、アベノミクスの始動により過度な円高・株安が是正され、ビジネス環境の改善が進んだことがある。

 しかし、足元の日本経済は、景気回復が8年以上続いている米国の金融正常化の影響もあり、2012年末から始まった戦後二番目の景気回復が終盤を迎えつつある可能性がある。こうしたことから、足元の日本経済は、特に東京五輪特需のピークアウトと消費税率引き上げが重なるかもしれない2019年10月以降は景気回復が持続できるかの重要な局面に近づいているかもしれない。

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第126話)

第126話:「ご迷惑をお掛け致します」の相手は誰でしょうか。

 人それぞれに生活のリズムがあるものです。自分にとっての通常時間に家を出て、いつもの時間の電車に乗ります。朝の通勤時間が通学時間と一緒になり、交通機関もそれなりの混み具合です。土曜日はタイミングが良いと席を確保できることもあり、しばしの書斎空間で読書の時間と決め込んでいます。でも普段はなかなかそうはいきません。

 その混みあった車両の中で大きく空間をとり、新聞を開いている者がいます。ひたすら黙って携帯メールを操作している者もいます。はたまた、他人と肩を接しそうになる空間で、眼の周りの化粧を整えている者。声高に視聴率の高い番組への評論家的な会話も聞こえてきます。自分の高校時代の通学時に携帯はありませんが、同じようにその時々のTV番組の話をしていたのかと思い起すことがあります。

 程なくして、ターミナル駅に到着。出口のドアに人が溜まります。その混乱の中で自分のペースで歩いていくのは至難の業。何となく今日一日の予定などが頭に浮かんでくる時に、車内放送で「車内混雑、大変ご迷惑をお掛け致しました」のアナウンスが流れます。ほぼ毎日耳にしているフレーズですが、不思議に思うときでもあります。

 迷惑をかけたのは、誰でしょうか。迷惑をこうむった人は、どのような迷惑を受けたのでしょうか。その電車に乗っていた乗客全てに向けたメッセージなのでしょうか。とすれば、私はどのような迷惑を受けたか。しいて言えば、大声で担当教諭の悪口を言い合う無礼な話か、二人分の空間を占有して新聞を読む女性。長くもない足を投げ出して座る若いビジネスマン。降りる駅が近づくと、一言の声を発することもなく目一杯ヒジに力を入れて人を押しのけていく者。彼らは確かに迷惑でした。

 とすれば、先ほど聞いたアナウンスは、彼らに代わって車掌が発したお詫びの言葉だったのでしょうか。

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 2016年11月の九州生産性本部での授業風景
株式会社マップス 
代表取締役 清野 裕司

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第139話)

第139話:国内総生産からみた日本経済

 一国の経済活動を観察する上で最も総合的な経済指標として、国内総生産(GDP)がある。GDPは一国の経済規模を示したもので、国内でどれだけの財やサービスが生み出されたかを示す。このため、経済活動が活発になればGDPは拡大し、逆に後退すればGDPは縮小する。このことから、景気判断の際にも重要な経済指標の一つとなっている。

 また、国内で生み出された生産の合計を示すGDPは、国内で分配された所得の合計、国内で発生した需要の合計にもなる。このように、国内の経済活動や海外との取引によって生み出されたいわゆる付加価値を集計したGDPは、生産、所得、需要といった三つの側面から測ることができ、この関係を「三面等価の原則」という。

 日本のGDPは内閣府が公式に推計・公表しており、2016年度の名目GDPは538兆円と5年連続で増加している。また、我が国のGDPを国際比較してみると、ドル換算ベースで2016年は4兆9386億ドルとなり、米国と中国に次ぐ世界第3位を維持している。しかし、世界のGDPに占める日本の比率を見ると、1994年時点では17.7%だったが、長期の景気低迷や中国をはじめ巨大な新興国の台頭や円安などの影響により縮小を続けた。そして2016年時点では拡大に転じたものの、依然としてその水準は6.6%にとどまっている。更に、2016年時点で38,917ドル(円換算で約423万円)となった日本の一人当たり名目GDPに至っては、中国の約4.8倍の水準にあるが、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中では93年の2位から22位にまで低下している。

 このように、日本のGDPは、これまでの国内経済の停滞と世界経済に占める新興国シェア拡大等により、地盤沈下から抜け出し切れていないことを示している。

 続いて、日本経済の現状をとらえるため、我が国の国内総生産(GDP)を需要(支出)側から見てみよう。2016年度の速報値に基づいて名目GDPの主要項目を見ると、構成比は個人消費が56.0%、住宅投資が3.1%、設備投資が15.3%、公共投資が4.8%、輸出が16.5%、控除項目である輸入が15.5%となっており、米国に比べて個人消費が小さく設備投資が大きい構造になっていることがわかる。これをアベノミクス以前の2012年度と比較すると、最も構成比が上がっているのが輸出であり、アベノミクス以降の景気回復局面では輸出がけん引していることがわかる。ただ、もう一つの特徴として、戦後二番目の景気回復が続く中で、個人消費と政府消費の抑制度合いが強いとの見方もできる。

 一方、2015年の名目GDPを生産面から見ると、主要産業のシェアは農林水産業で1.1%、製造業で20.4%、建設業で5.5%、卸売・小売業で13.9%、金融・保険業で4.4%となっている。これをアベノミクス以降の時系列で見ると、東日本大震災で大きく落ち込んだ電気業や、輸出の影響を受けやすい製造業、公共投資の影響を受けやすい建設業のシェアが拡大基調にあるのに対し、個人消費の影響を受けやすい卸売・小売業やその他サービスのシェアが縮小しており、消費税率引き上げや社会保障の効率化が産業構造にも影響を及ぼしていることが分かる。(第140話に続きます)

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第138話)

第138話:著しい日本株と日本経済のかい離

 国内すなわち国境の内側での経済活動がどのくらいあるかによって、その国で生み出される付加価値、つまりGDPを生み出せるかが決まる。この付加価値が毎年どのくらい増えそうかを見れば、この先どのくらいの速度でGDPが大きくなるかが分かる。これがその国の経済成長率となる。

 このため、日本経済と日本の株価の乖離は大きなものになる。なぜなら、総じてグローバル企業の時価総額が大きいのは、在外子会社で利益の多くを生み出しており、連結ベースで見た場合の利益成長が期待されているからである。更に株式市場において、外国人投資家の存在感が高まっていることも影響している。例えば、世界経済に良い見通しが立てば、外国人投資家のリスク許容度が高まることから日本株買いも活発化し、逆に世界経済の雲行きが怪しくなれば、外国人投資家のリスク許容度が低下することから、日本株投資は手控えられることになる。

 このように、日本企業の業績や株価は日本経済の動向のみでは決まらなくなっている。つまり、企業業績や日本株が好調だからといって、日本経済が好調とは決めつけられない。逆に、日本経済が悪いからといって、日本企業や日本株が同じように悪いとも決めつけられないだろう。

 人口減少と経済のグローバル化が不可逆的となっている状況下において、日本企業はより一層経営のグローバル化を進めており、それに伴って企業業績は日本経済から乖離していくことになる。最早、グローバル経営を図る日本企業の『企業業績』と、国内の経済活動を示す『GDP』は明確に分けて考えなければならない状況といえる。

 更に、日本企業がグローバル経営を志向して企業業績を高めると、日本における経済活動が空洞化してしまう恐れもある。企業が海外に現地法人を設立して海外進出しても、国内の雇用は増えず、国内の雇用が海外に奪われることになる。それは、すなわち国内の雇用機会が失われることを意味する。連結ベースで日本企業が儲かっていても、それに伴って日本の雇用環境も良くなる訳ではない。より良い事業環境を求めることはグローバル競争をする企業にとって当然のことだが、日本経済にとってはダメージとなる可能性もある。

 前回から見てきたとおり、昔は日本経済と日本企業の業績は極めて強い関係にあった。しかし最近では、グローバル企業の連結収益のかなりの部分は海外拠点での実績であり、日本経済との連動性は乏しくなりつつある。すなわち、『日本企業』と『日本経済』は明確に分けて考えなければならなくなっていると言えるだろう。(第139話に続きます)

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第125話)

第125話:日常生活には「慣らされたルール」があるようです。

 いつ頃からでしょうか、当たり前のように慣らされてしまっている行動があります。エスカレーターに乗る時に、つい左側に立つこと。但しこれは東京にいる場合。大阪ではこれが右に立つことになります。混雑した人込みを逸早く抜け出したいと、気持ちだけが先走る時があります。目の前をゆったりと歩かれると、何となく腹立たしさを感じることもあります。人それぞれのペースがあることを承知していながらも、自分のことを中心に考えてしまうからです。そのような人のためでしょうか、かつて「急ぐ人のために右側を空けて下さい」のサインがあったように記憶しています。最近はそのガイドなしで、何となく自然に人は片側に寄っています。そして通行に目詰まりが起きます。

 東京での動きに慣れて、夕刻大阪に入る。大阪では左右逆です。新大阪駅改札を出てすぐのエスカレーターに乗っていて、後方から押されたことがあります。舌打ちの音すら聞こえてくることも。ふと思い起こして、大阪では右に寄らねばならなかったかと、急遽立ち位置を変える瞬間です。

 大勢の人が黙々と前を見て進む。その先にエスカレーターがある。その途端に二筋あった通行路が一本になってしまう。当然、流れが滞るという悪循環が起きてしまいます。一方の筋では、大きな荷物を持ち上げるようにして、さながら階段を駆け上る雰囲気の人に出逢うことがあります。それほど急ぐのだから、新幹線の発車時間に間に合わないのかと見ている側があせってしまいます。しかし、どうやらそうではないようで、上りきったところから今度は、ゆっくりとした歩調になります。慣らされているだけなのでしょうか。

 習慣とは恐ろしいものです。デパートのエスカレーターでも同じ現象に出会います。最上階で開催中のバーゲンセールに急ぐのだろうかと思わせる集団。それほど急ぐのであれば、階段を駆け上ってはどうかと思います。買い物をゆっくりとしたペースで楽しむことはないのでしょうか。

 かつてこんなメッセージが流れたことがある。「せまい日本。そんなに急いでどこへ行く」。一方に寄る集団的な行動に、飼い慣らされた現代社会のルールを見る想いがあります。(第126話に続きます)

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「清野裕司のマーケティング考 風を聴く」

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