エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第199話)

第199話:期待される訪日外国人の増加

 少子高齢化、人口減少という重石を背負った日本にとって、海外需要は重要性を増しており、外需を取り込む手段の一つとして観光需要が注目を集めている。政府は2020年に訪日外国人を4,000万人、2030年には6,000万人を目指すとしており、直近2018年の約3,119万人との比較では、12年間で1.9倍以上に増加させるという意欲的な目標を掲げている。

 訪日外国人は2010年代前半から堅調に増加しており、主要国・地域別にみると、アジアからの訪日者の増加が目立つ。訪日外国人の国・地域別内訳を見ると、韓国、台湾、中国、香港で全体の73%、その他アジア地域も含めると86%に及び、アジアからの訪日者は日本にとって重要な存在であることがわかる。

 また、訪日外国人の旅行消費額も2018年は過去最高の4.5兆円と7年連続で増加していることがわかる。2018年の国・地域別内訳を確認すると、中国・香港・台湾・韓国の4カ国・地域で全体の約68%を占めており、訪日観光需要における東アジア地域の存在感の大きさがわかる。

 以上より、政府目標を達成するためには、圧倒的に潜在需要の大きいアジアの需要を確実に取り込むことと、欧米からの訪日者を伸ばす必要があるといえよう。

 まず、アジア需要の取り込みだが、第一に訪日に対する価格面でのハードルを下げる必要がある。中国をはじめとするアジア諸国では所得水準が上昇し、海外旅行へ出かける人が増加しているが、現在海外旅行に出かけているのはまだ富裕層が中心となっている。実際、中国の人口に占める出国者の割合は2017年時点で10.3%に過ぎない。更に、中国人旅行者の一人当たりの消費額は、2018年に22.4万円となり、日本への旅行は依然として高価なものとなっている。現在はまだ富裕層中心の訪日観光客層を中間所得層に更に広げていくためには、手頃なサービスの拡充などの努力が欠かせないだろう。

 第二に、現在日本を訪れている訪日客をリピーター化する必要もあろう。海外旅行先として、日本は欧米等とも競合すると考えられる。従って、リピーターとして日本を訪れる人を増やすには、日本の自然や歴史のアピールのみならず、海外で人気のあるサブカルチャーを売りにする等、観光資源の訴求力を高める取組が引き続き必要だろう。

 第三に、近隣諸国との旅行客獲得競争で遅れをとらないことである。観光客受け入れ振興の体制面でも政府の観光局の職員数、海外事務所数、国からの交付金とも韓国が日本を上回り、他の諸外国との比較においても日本の取組は大きく見劣りしている。アジアの海外旅行需要の獲得競争で打ち勝つためには、より踏み込んだ政策対応が求められよう。

 一方の欧米諸国だが、すでに所得水準が高いため、アジアのように出国率が上昇していくことは期待できず、受身では観光客を大きく伸ばすことは難しいだろう。しかし、観光客誘致に対する体制は依然として他国に見劣りすることから、日本の観光資源の魅力を充分に伝えきれていない可能性がある。従って、欧米からの観光客を更に増加させるために、引き続き日本の魅力をPRするための体制拡充が必要となろう。

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第154話)

第154話:夜の繁華街を朝歩くと異邦人に出逢います。

 日々の通勤路の途中に渋谷があります。改札を抜けて、ほんのわずかの距離を、昨夜はさぞ賑わったであろうと思われる小さな店々の横を抜けて歩いて行きます。その一隅から、けたたましい笑い声が聞こえてきます。朝から酒盛りとは、何事が起きたのかと目と耳を疑うことがあります。いつから飲み始め、飲み続けているのか。既に朝の7時を過ぎています。コーヒーを飲んできた匂いの残る鼻に、焼き鳥の香ばしい臭いが鼻を突きます。夜感じるにおいとは異なる感じです。既に、夜を越えて朝を向かえ、感覚器官の働きも異なっているようです。

 その先に歩を進めます。20名近い男性がたむろしています。パチンコ屋の前です。店が開くのは何時でしょうか。今から待つのは、さぞつらかろうと要らぬ心配をしてしまいます。彼らは、この時間に出勤なのか、既にマインド自体が満開モードです。そうすることが日常であって、非日常空間での遊技場の前に並ぶスタイルではありません。日常の中に組み込まれたスタイルと思われます。どこか人種の違いを実感してしまいます。

 一杯のコーヒーを飲みに、コーヒーショップに立ち寄ります。知らぬ人種にまた出会う時です。多分昨夜は、そのテンションであったと思われる若い女性数名の集団が、髪の乱れも気にせず、椅子にもたれかかっています。身体に芯がない座り方です。時折目が覚めるのか、突然のバカ声。大きい。聞くではなく、聞こえてきてしまいます。一緒にいる仲間との会話かと思えば、相手は寝ています。どうやら携帯電話での会話のようです。夜の雑踏の中では、大声を出さなければ相手に自分の声が届かないのでしょう。しかし今は違います。比較的時の流れは早いものの、空気は澄んで音の通り具合も良い朝です。耳をつんざく声とはこのことかと耳を塞ぎます。

 朝は人種の坩堝(るつぼ)。澄んだ空気、整然と進む時の中で、不釣合いと思われる集団、異邦人との出会いのときです。朝の異邦人の合間を縫って、また今日も私は、昼の人種とマーケティングを語る一日が始まります。

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 2016年11月の九州生産性本部での授業風景
株式会社マップス 
代表取締役 清野 裕司

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清野裕司の「ビジネス心論」


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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第198話)

第198話:生涯未婚増加が日本経済に及ぼす影響

 総務省が2017年に公表した「平成27年国勢調査」によると、生涯未婚率は男性23.4%、女性14.1%まで上昇しており、それを基に内閣府が公表した「平成30年版少子化対策白書」によれば、生涯未婚率は2040年までに男性29.5%、女性18.7%まで上昇が続くと推計されている。このため、今後「生涯未婚増加に伴う人口減少」は、日本の経済社会へ多くの影響を及ぼすことが予想される。

 政府の「中長期の経済財政に関する試算」の基となる「平成27年度雇用政策研究会報告書」の労働需給推計によれば、2014年に6,351万人だった就業者は、経済成長と労働参加が適切に進むケースでも2030年に6,169万人(2014年比▲3%)、経済成長と労働参加が適切に進まないケースに至っては同5,561万人(同▲12%)まで落ち込む計算となっている。

 つまり、生涯未婚増加に伴う労働力人口の減少を高齢者、女性、若者の労働参加だけで補うことは難しく、最終的には積極的な少子化対策により出生数を増やすか外国人労働者の受け入れを増やすことが必要となる。特に外国人労働者については、都道府県・職種別のデータを見ると、日本の労働者と代替的関係ではなく、むしろ補完的関係にあり、労働需給のミスマッチを埋める形で就労していることが裏付けられている。外国人労働者により労働需給ミスマッチの解消が期待できるのであれば、人口減少下で経済活力の維持のために受け入れを強化することは有用となる。従って、生涯未婚増加は、社会的受け皿をしっかりと整備しつつ、職種・産業別に労働需給を慎重に勘案することで外国人材の就労機会の更なる拡大が検討されることを促すことになろう。

 一方、生涯未婚増加に伴う少子高齢化の進展を背景に、我が国の社会保障関係費は年々増大しており、2019度予算では33兆円を突破、一般歳出に占める割合も44.8%まで達している。近年、年金・医療・介護と一連の社会保障制度改革がなされてきているが、改革後も社会保障給付費の増加は避けられず、政府が昨年5月に公表した社会保障給付費の見通しによると、2040年度の社会保障給付費はGDP23.8~24.0%(名目額188.2~190兆円)と2018年度の同21.5%(121.3兆円)から増加する見通しである。

 また、年金における世代別の給付と負担の関係を見てもと、依然として世代間格差が存在すると試算されている。今後、生涯未婚増加に伴う少子高齢化の更なる進展により現役世代への負担が一層高まることで、世代間の不公平が大きな問題となる恐れがある。

 このため、我が国の社会保障制度を持続可能なものにするために、生涯未婚増加に伴う人口減少・少子高齢化を所与とした制度に転換し、給付と負担のバランスの取れた制度に作り直す圧力がかかることになろう。つまり、膨張する社会保障費を、現役世代や将来世代の負担となる財政赤字だけで賄うのではなく、社会保障費の増加を出来るだけ抑える努力も求められてくることになる。特に、社会保障制度の持続可能性を探るために、現役世代から高齢者世代への分配という「世代間扶養」の仕組みから、高齢者同士の「世代内移転」を進める政策によりシフトしていく動きが出てくることになろう。(第199話に続きます)

永濱 利廣 氏

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第197話)

第197話:原油安で抑制される所得の海外流出

 原油価格と我が国の交易利得(損失)には強い相関がある。交易利得(損失)とは、一国の財貨と他国の財貨との数量的交換比率である交易条件が変化することによって生じる貿易の利得もしくは損失のことであり、輸出入価格の変化によって生じる国内と海外における所得の流出を示す。

 そしてこの関係に基づけば、原油先物価格が10ドル/バレル下がると、年換算で1.6兆円の所得の国外流出が減ることになる。一方、2018年10-12月期の原油先物価格は2018年7-9月期の平均より約5.7ドル/バレル低下しているため、2018年10-12月期の交易利得は年換算で+0.9兆円程度増加する可能性がある。これは、原油先物価格の下落により、2018年10-12月期の3カ月間で約2,335億円の所得の海外流出が抑制されたことを意味する。

 またこの関係から、今年の原油先物価格が70ドル/バレル程度で推移すると仮定すれば、今年の所得の海外流出は昨年とほぼ変わらないことになる。しかし、今年の原油先物価格が平均60もしくは50ドル/バレル程度で推移すると、今年はそれぞれ+1.6兆円、+3.2兆円も国内所得の増加が生じることになる。

 近年は経済のグローバル化や市場の寡占化が進展しており、物価がこれまでと比較して世界の需給条件を反映した水準で決まりやすくなっている。特に新興諸国の経済成長率における寄与度が高まった2003年頃から、経済のグローバル化が実体・金融両面を通じて商品市況の大きな変動要因として作用している。このため、今後も世界経済の低迷が持続すれば、世界の商品市況は上がりにくい環境が続くことになろう。特に今後は、米国の減税効果が一巡することが予想され、世界の原油需要はさらに減少する可能性もある。従って、今後もしばらくは原油先物価格が低水準で推移する可能性もある。

 これは、日本のように原油をはじめとした資源の多くを海外に依存する国々とって、資源国への所得流出が抑制されやすい環境にあることを意味する。特に人口減少等により国内市場の拡大が望みにくい我が国では、今年は消費増税も控えていることもあり、こうした所得の海外流出の減少が、地方や寒冷地の経済を中心に思わぬ恩恵となる可能性がある。従って、世界経済が低迷を続ける限り、資源の海外依存度が高い日本経済が資源価格下落の恩恵を相対的に受けやすく、日本経済はこうしたビルトインスタビライザー機能を有しているといえよう。(第198話に続きます)

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第153話)

第153話:新たな専用車両が欲しいと思うことがあります。

 私鉄主要各線の殆どに「女性専用車両」があります。私が通勤に利用する、東京メトロも1両が女性専用です。その場所は、今まで乗り慣れていた最後尾車両が停車する予定の場所。無意識にたたずんでいると、駅のスタッフにキッとにらまれます。止む無くそそくさと、一両先まで歩を早めます。

 車両に乗り込むと、そこもかつては見ることのなかった風景に出逢います。女性が二人乗り合わせている以外、全員が男性です。夫婦での通勤や、恋人同士の通勤風景があまり見られなくなったように思います。勿論、人の振りを毎日細やかに観察しているわけではありません。ひとり考えごとをしたり、当日の自分の行動予定を考える時間と空間。それが朝の通勤スタイルです。確かに、不逞の輩がいるのであれば、女性にとっては専用車両の空間は、今までにない心の安定が通勤時間でも得ることが出来るでしょう。専用というからには、その人たちだけが利用できる、いわば特定属性限定の囲い込みです。であるならば、日常の通勤時間ではない領域で、同じような発想がもてないだろうかと思います。新幹線でのこと。

 仕事柄、出張での新幹線利用の頻度は高いものがあります。その折に見えてくる車内風景は、実にさまざま。旅行に行くと思われる集団の元気な笑い声。眉間にしわを寄せてレポートを読むビジネスパーソン。この両者は同一の空間で衝突を起こしています。前者は弾む会話のにぎやかさを、後者は一人考える静寂を求めているからです。であるならば、この両者を分けるべく「ビジネス専用車両」があっても良いのではないかと考えてしまいます。

 じっくりと、周りに邪魔されることなく思考の回路を深め、インターネットで情報の幅を広げる。疲れた身体を窮屈なシートに押し込むよりも、ビジネス専用空間の方が、仕事で新幹線を利用する者にとっては自分専門の車両として活用されるのではないでしょうか。

 「専用」とは、限定です。出張の折に、新幹線の限定に期待を寄せることがあります。(第154話にに続きます)

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代表取締役 清野 裕司

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今、マーケティング・スタッフには効率よく作業をこなすためのスキルを高めることよりも、幅広い視野で変化を敏感に捉える感度(センス)が問われています。起きている現象を見る目だけではなく、時にもう一つの目(心眼)を開いて、今迄と今を見直し、明日への道を切り拓いて行くように、自らの心に問う学びの志です。
学ぶこと考えることの楽しさを知った自らのビジネス体験を、次代へと歩み行く方々に伝承しておきたいと考えて「心論」と題しました。

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