エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第174話)

第174話:サマータイムを導入しても労働時間が伸びれば意味はない

 サマータイムの経済波及効果としては、社会経済生産性本部が2004年3月に「レジャーや観光産業に対する余暇需要の増加は6471億円で経済波及効果は9673億円になる」との試算を公表している。ちなみにこの付加価値の増加は、GDP比で約0.1%に相当する。

 また、政府や民間部門におけるコンピューターやソフトウェアの対応等でも約1000億円レベルの初期投資が必要となり、システムの面でも経済効果が期待できるとの向きもある。

 なお、2009年7月の1ヶ月間、札幌市で行われたサマータイム導入の実験をもとにした試算では、レジャーおよび観光産業に対する個人消費の増加を通じて北海道のGDPを0.4%押し上げる効果が確認されている。

 しかしこの他にも、例えばシステム変更等の導入コストがかかること等により企業の設備投資が押し上げられる可能性もあり、想定以上の特需が発生する可能性も否定できない。ただ、サマータイムを導入してもその分だけ勤務時間が増えれば、当然のことながらこうした経済効果は縮減される。事実、我が国が1948年に当時のGHQの指導で取り入れたサマータイムでは、朝鮮戦争特需の好景気により長時間労働を余儀なくされ、食糧不足とも相俟って結局4年で廃止となった経緯がある。

 従って、想定する程の経済効果が発生しない可能性も十分考えられるだろう。また、こうした中小企業等で労働時間の延長につながる労働強化の可能性以外にもサマータイム導入に伴う問題点は多い。たとえば。人体の体内時計が狂うことで睡眠不足になり、労働者の生産性が低下する可能性もある。また、早く帰宅して自宅や娯楽施設で電気を使用するなどでエネルギー節約効果が削減されるとの指摘もある。そして何よりも、時計の針を動かすことに伴う余分な導入コスト負担の増加や、システムを中心とした混乱といった大きなリスクが伴う。

 以上より、サマータイム導入の選択基準としてトータルの便益を定量的に算出することには限界があり、問題点の完全解決にも課題が残るといえよう。そもそも、先進国の殆どが導入していることへの対応や、明確に交通安全や防犯効果等を目的としたものであれば理解できる側面もある。しかし、そもそも東京五輪に向けた暑さ対策が目的なのであれば、効果が不透明でシステム等のトラブルリスクの伴うサマータイムを導入するよりも、競技時間の変更等で対応するほうが国民の理解を得やすいものと思われる。したがって、環境や経済、防犯面での不確実なメリットだけでなく、労働強化や生産性低下、システムトラブル等のテールリスクについても活発に議論され、良い方向に進むことを期待したい。(第175話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第173話)

第173話:政界で活発になるサマータイム導入の動き

 夏の間、時計の針を進めるサマータイム制の導入を目指す動きが出ている。その中で、サマータイムの導入に伴って我々の生活活動時間内に明るい時間が増加すれば、娯楽・レジャー・外食等への出費増を通じて経済効果をもたらす可能性があることが指摘されている。事実、既に(財)社会経済生産性本部がサマータイムの経済社会に与えるインパクトを調査しており、短期的な直接効果と長期的な間接効果の両面から報告している。ただし、こうした効果の中には省エネやライフスタイル変化による効果が含まれており、必ずしも短期的にGDPに影響を及ぼすとは限らない。また、経済波及効果についても、余暇需要の増加といった切り口から産業連関表を用いて産業毎の生産および付加価値誘発額を試算している。しかし、サマータイムの導入で増加するのは余暇時間そのものではなく、余暇時間に占める日照時間である。

 そもそもサマータイム(夏時間)の定義としては、日照時間が増加する時期に時計の針を早めて早起きをし、その明るい時間を有効に活用しようとするものである。

 世界では、欧州40カ国をはじめ、60カ国がサマータイム制を実施しており、特にOECD加盟国では35か国中31カ国がサマータイムを実施している。そして、未実施国としては日本、韓国、アイスランド、トルコと少数派である。

 こうした導入国では、ライフスタイルの改善や余暇の充実、省エネ・環境保護の推進、観光の振興、治安などの面で評価されており、市民生活に根付いた制度となっている。

 ただ、日本でも戦後にGHQの指令によりサマータイム制度を実施したが、国民の理解を得られず4年で廃止となった。そして、その後に何度も省エネ目的で検討されたが、結果的に見送られている。

 一般的なサマータイム導入の効果としては、電気などの使用を控えることでエネルギーの節約や温暖化ガスの削減に役立つことのほか、退社後の明るい余暇の時間ができることで、小売店などの売り上げ増や仕事のあとの時間を楽しむことができるなどが指摘されている。ただ海外の事例では、もっとも明確な効果として交通安全・防犯効果が指摘されている。

 なお省エネ効果としては、チームマイナス6%(地球温暖化の一因とされる温室効果ガスを抑制するために2005年〜2009年12月まで日本国政府が主導したプロジェクト)が、4-9月までの6ヶ月において1時間サマータイムを実施しても、原油換算の節約量は政府の省エネ対策目標の1%に満たないが、約25万世帯の1年分のエネルギー消費量に相当すると指摘していた。また、サマータイムに伴う年2回の時計変更により、少なくとも年2回サマータイムの意義や環境問題についてPRすることで、更なる省エネに寄与するとの指摘もある。(第174話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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