エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第234話)

第234話:五輪特需の反動減緩和が期待される経済対策

 10月4日に開会となった臨時国会中にまとめることが期待される経済対策のメニューについては、豪雨や台風、地震といった天変地異が相次いだ昨年度の補正予算が参考になろう。

 具体的には、西日本豪雨が発生した2018年度において2回に分けて打ち出された補正予算である。このメニューでは、第一次が災害からの復旧・復興予算、第二次では国土強靭化策が柱となった。

 特に、一次補正の経済対策では2つの柱が掲げられ、一つ目の柱が「災害からの復旧・復興」であり、西日本豪雨や北海道胆振東部地震、台風21号、大阪北部地震等への対応が挙げられていた。そして二つ目の柱が「学校の緊急重点安全確保対策」であり、エアコン設置など熱中症対策や倒壊の危険性のあるブロック塀対応、等が挙げられていた。

 一方、二次補正の柱が「重要インフラの防災対策」であり、防災・減災・国土強靭化、TPPに備えた農林水産業強化、中小企業支援、等であった。

 以上より、10月4日から開催されている臨時国会において、一刻も早く台風19号対応の補正が提出されることが期待される。具体的には、台風19号の復旧対応に加え、被災地の耐久財買い替え支援等の歳出も含まれよう。

 ただし、こうしたメニューだけでは事業規模は、来年度のGDPギャップの解消に必要な5兆円に届かない可能性もある。従って、実際に打ち出される補正予算については、災害対策に加えて安倍首相が予てから防災・減災の緊急対策を3年間で集中実施するとしている国土強靭化関連の歳出が上乗せされる可能性もあろう。実際、民主党政権により事業が一旦中止となった後に建設事業再開となった八ッ場ダムは、今月1日に試験湛水が開始されたばかりだが、今回の台風19号により満水になり被害の軽減に貢献した。こうしたことで、国土強靭化へのニーズがより高まることになろう。

 なお、公共事業に関しては、建設業界の人手不足の深刻化により工事が予定通り進まないと懸念する向きもある。しかし、国土交通省の建設労働需給調査によれば、建設技能労働者の過不足率は2014年度以降急速に不足率が縮小して以降は安定している。従って、東日本大震災からアベノミクスの初期段階における補正予算に比べれば、GDPの押し上げ効果は顕在化しやすい可能性がある。

 過去のオリンピック開催国のパターンを参考にすると、関連する建設投資は2019年度後半にピークアウトしている可能性があり、この反動減の部分を今年度補正予算における景気対策により緩和することが期待されよう。

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第233話)

第233話:臨時国会中に打ち出される観測の経済対策

 政府は自然災害の復旧作業に対応すべく、10月4日に開会となった臨時国会中に経済対策をまとめることが期待される。特に経済対策の規模については、台風19号の復旧・復興に対して、大型の補正予算が組まれることが予想される。

 そこで以下では、必要な経済対策の規模から計測してみよう。

 経済対策の規模を設定する際に一般的に参考にされるのが、潜在GDPと実際の実質GDPのかい離を示すGDPギャップ率である。直近の2018年のGDPギャップ率は、内閣府の推計によれば+0.4%とプラスを維持している。

 しかし、直近の民間エコノミスト経済成長率平均予測(ESPフォーキャスト10月調査)に基づいてGDPギャップ率を延伸すると、2021年1-3月期時点で▲0.9%のデフレギャップが生じることになる。従って、このGDPギャップを解消するのに必要な規模の経済対策を前提とするだけで5兆円規模の追加の経済対策が必要になる。

 ただし、今回発生した台風、豪雨によって、巨額な資本ストックの被害が発生していることが予想される。実際、国土交通省によれば、西日本豪雨などがあった昨年の水害被害額を1.35兆円(うち西日本豪雨で1.16兆円)と試算しており、発生年度に打ち出された補正予算の規模は3.9兆円となっている。これに対し、総務省消防庁によれば、台風19号に伴う住宅被害は全体で5.6万棟となり、2018年の西日本豪雨の5.1万棟を越えている。また国土交通省によると、今回の台風による浸水被害は2.5万haを超え、西日本豪雨の1.85万haを上回っている。こうした状況に基づけば、すでに国土強靭化関係3か年緊急対策として今年度予算で1.3兆円強の予算を計上しているが、これに加えて需給ギャップの解消に必要な需要創出額5兆円規模の補正予算が必要となる。

 つまり、今回の被害規模からすれば、国土強靭化関係の予算の上乗せを加味しても、災害の復旧・復興の費用に需要不足解消を加えることで、最低でも5兆円程度の規模が必要となろう。(第234話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第232話)

第232話:開催後に判断されるラグビーW杯の成否

 ラグビーW杯が盛り上がった背景には、ラグビー強豪国の訪日客一人当たり旅行支出の効果も大きかったものと思われる。観光庁によれば、昨年の訪日客一人当たり旅行消費額は、イングランド、スコットランド、ウェールズ、一部アイルランドを含む英国が約22万円、オーストラリアが約24万円と、平均の約15万円を大きく上回っていることがわかる。

 また、2009年度からの家電エコポイントの対象となったテレビの駆け込み需要が2009~2011年にかけて発生しており、2019年はそこから9年を経過していることに加え、10月に消費税率の引き上げを控えていたことから、その時に販売されたテレビの買い替え需要も出現したようだ。

 特にテレビに関しては、2011年7月の地デジ化に向けて多くの世帯で買い替えが進んだため、買い替えの潜在需要はかなりあったことが想定される。ラグビーワールドカップのみならず、2020年に東京五輪が控えていることも、買い替え需要の顕在化を後押しした可能性があるだろう。

 しかし、地方のスタジアム等のインフラ整備等に貢献したラグビーワールドカップ特需の勢いは、既に大会開催前の2018年中にピークアウトしている可能性が高い。

 このため、最も注意しなければならないのは、開催後の開催都市経済の反動減だろう。2次利用できない施設は、負の遺産となる可能性もある。消費増税に伴う需要の先食いと実需の減少も相まって、開催後の開催都市の経済には反動減が生じることが予測され、その対策が求められよう。

 また、インフラ整備の名を借りて、無駄なものを作りすぎてしまっている場合には、財政の健全化にマイナスに働くことも考えられることには注意が必要だろう。

 こうしたことから、興行的に成功で終わるかどうかは、国際的な注目が集まったことで、大会後にも世界各国からの旅行者や企業を呼び込むきっかけになったかどうかで判断すべきだろう。

 政府は2020年に訪日外客数4000万人の誘致を目指している。このため、今回のラグビーワールドカップ開催により、開催都市を中心に外国人が訪問しやすい環境が進捗したことが期待される。

 こうした課題の進捗は、実は外国企業の誘致にもつながる可能性がある。日本に進出希望の企業にアンケート調査を行うと、ビジネス環境に求める改善点と観光客の不満点は共通している。「世界で最もビジネスをしやすい国をつくる」ことはアベノミクスの目標の一つであるため、ラグビーワールドカップ開催を契機にどれだけビジネス環境が整うかが成否を左右するだろう。

 来年に東京五輪開催を控え、食や農産物等にもビジネスチャンスがあり、各地域は情報発信の仕組みづくりに更なる重点を置くべきである。東京五輪開催後も反動減の少ない分野を狙い、今から市場開拓を進める取り組みも期待されよう。(第233話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第231話)

第231話:予想以上に盛り上がるラグビーW杯

 開催前は赤字が懸念されていたラグビーワールドカップだが、テレビドラマによるラグビーの認知度向上や日本代表の活躍等もあり、予想を覆してチケットの売れ行きは好調となっている。ラグビー発祥国であるイギリスの文化的な背景から、会場でのビール消費も好調となる等、かなりの経済効果が出現している可能性のあるラグビーワールドカップ特需。また、インバウンド需要も相まって、大会収支の黒字決算も見込まれる。

 ラグビーワールドカップは最大規模の世界的スポーツイベントの一つであることから、様々な経済効果が出現しており、今回も例外ではないだろう。その経済効果は、組織委員会の試算によると4,300億円を超える規模となっている。しかし、その直接効果の内訳は「スタジアム等インフラ整備費用」「大会運営費用」「国内客による消費」「訪日外国人による消費」であり、開催に向けて行われた道路や鉄道などのインフラ整備は含まれていない。このため、組織委員会が試算した4,372億円にプラスアルファの経済効果が上乗せされる可能性があるだろう。

 ただし、これはあくまで経済波及効果ベースの金額であり、GDP増加分に換算すれば2,166億円程度になると試算されている。中でも「訪日外国人客による消費」は大きな経済効果がありそうだ。大会を目的とした訪日外国人客によるスタジアムやファンゾーン、ホスピタリティプログラムをはじめ、市街地や観光地での消費による経済効果として1,057億円(GDP増加分522億円)、国内客による消費の経済波及効果も160億円(GDP増加分78億円)見込まれていたが、スタジアム等インフラ整備費用の経済波及効果も400億円(GDP増加分181億円)が見込まれている。更に民間では、ホテルや商業施設の建設や改修、さらにラグビーワールドカップ終了後の再開発にも設備投資が行われる可能性があろう。

 2020年東京五輪では、開催期間は17日間となる。それに対して、ラグビーワールドカップの開催期間は44日間で東京五輪の倍以上となり、試合が行われない日も18日もあることから、飲食やレジャーなどの消費が増えている可能性が高い。特に、北海道から九州までの全国12都市12会場で開催され、見込まれている訪日客は50万人である。こうしたことから、経済効果の影響が広く共有されていることが予想される。

 また、大会では1000人規模のボランティアスタッフがスタジアムでの試合運営補助役や市街地でのサポーターガイド役を務めている。こうしたスタジアム等の会場運営、大会出場チーム、大会ゲスト、メディアなどに提供するサービスに伴う支出などによる経済波及効果も300億円(GDP増加分208億円)が見込まれている。

 実際に新聞報道では、神戸市内のあるホテルでは、開幕直前から外国人客が増加し、特に欧州からの宿泊客の予約は、神戸での試合開催直前となる24日から神戸での最終戦となる10月8日までで前年同期比2.6倍と急増したようだ。また、開催期間が長く、試合会場が点在していたこともあり、地方発の日帰りツアーやキャンピングカーのレンタルも増え、W杯特需が各地で高まったことも報告されている。(第232話につづきます)

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第230話)

第230話:消費増税後の課題

 今後の消費税率引き上げにおける課題としては、まずデフレ脱却への影響が指摘できる。理由としては、既に内閣府が試算するGDPギャップはプラスだが、ESPフォーキャスト調査に基づけば、フォーキャスターのコンセンサス通りに成長した場合は、2019年10月から消費税率を引き上げることで再度デフレギャップが生じてしまうためである。特に、2014年4月に消費税率を引き上げた際も、引き上げ直前にデフレギャップが一時的に解消したものの、消費税率引き上げ直後に安倍政権発足以前の水準までデフレギャップが逆戻りしてしまった経緯がある。

 また、前回の消費税率引き上げの影響を勘案すると、安定的な財源が確保されることにより税収増が期待できる一方で、家計の恒常的な購買力低下で内需への影響が大きいという声もある。従って、更なる家計向けの支援策等、ある程度の規模の予算を配分した対策は不可欠であると思われる。一方で、将来のさらなる消費税率引き上げ幅を抑制する意味でも、社会保障の効率化も必要な策といえる。

 なお、諸外国においては、標準税率が平均15%を超えているにもかかわらず、食料品の軽減税率が5%以下になっていることからすれば、日本も2023年10月からのインボイスの導入を前提に、標準税率を引き上げる際には軽減税率を引き下げることも検討に値するだろう。ちなみに、今回の酒類・外食を除く食料品を軽減税率の対象とすれば、軽減税率1%引き下げに際して0.5兆円の財源が必要となる一方、標準税率1%引き上げで税収が2.3兆円増えることになる。つまり、8%の軽減税率を0%にするには4兆円の財源が必要となる。あくまで筆者の考えだか、軽減税率を0%にしても標準税率を12%以上に引き上げれば、ネットで消費税収はプラスとなる。従って、将来的にはインボイス導入で益税問題を解消するとともに、標準税率の引き上げと軽減税率の引き下げをすることが検討に値しよう。将来的にも、更なる消費増税を実施しても生活必需性の高い軽減税率の引き下げを併用すれば、その後の消費増税も実施しやすくなるが、逆に負担軽減策をおろそかにして国民の不満を高めてしまうとその後の消費増税が政治的に困難になるだろう。将来の消費税率引き上げを確実なものにするという意味でも、家計負担軽減策は不可決であると考えられる。(第231話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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