エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第219話)

第219話:夏場の個人消費に悪影響をもたらす冷夏

 冷夏の影響としては、93年の景気後退局面が有名だ。景気動向指数の一致指数が改善したことを根拠に、政府は93年6月に景気底入れを宣言したが、円高やエルニーニョ現象が引き起こした長雨・冷夏等の悪影響により、景気底入れ宣言を取り下げざるを得なくなったという経緯がある。93年と言えば、日本は全国的に記録的な冷夏に見舞われ、特に東京の7-9月期の日照時間は前年比▲46%も減少した。

 また、2015年10月に予定されていた消費税率の引き上げにおいても、2014年7-9月期の経済成長率をもとに判断するとしていたが、2014年4月の消費税率引き上げやエルニーニョ現象が引き起こした天候不順の影響により予想外のマイナス成長となり、消費税率引き上げを先送りせざるを得なくなった。2014年と言えば、日本は全国的に記録的な天候不順に見舞われ、特に大阪の日照時間は前年を21%も下回った。

 以上の事実を勘案すれば、今年の夏も天候不順が続けば、日本経済に悪影響が及ぶことも否定できない。

 そこで、長雨や冷夏といった天候不順が具体的に日本経済にどのような影響を及ぼすのかを見るべく、近年で最も日照不足の悪影響が大きかった93年と2003年の7-9月期前年比の平均値を基に日照不足が品目別に及ぼす影響を確認してみた。

 総務省「家計調査」への影響を見てみると、消費支出全体では前年比マイナスとなっており、消費全体には悪影響を及ぼしていることがわかる。特に足を引っ張っているのは、季節性の高い「被服及び履物」、交際費などが含まれる「諸雑費」、夏の行楽等を含む「教養娯楽」、ビールや清涼飲料の売上の影響を受ける「食料」、冷房の使用減等の影響を受ける「光熱・水道」となっている。

 従って、冷夏や長雨等の夏の天候不順は、外出の抑制を通じて「教養娯楽」や「諸雑費」といった支出に悪影響を及ぼす可能性がある。また、夏物衣料の影響を受ける「被服及び履物」や冷房器具の利用に関連した「光熱・水道費」、ビールや清涼飲料等の消費の影響を受ける「食料」といった季節性の高い品目に関する支出を押し下げるといえよう。

 そこで、過去の日照時間の変化が家計消費全体にどのような影響を及ぼしたのかを見るべく、国民経済計算を用いて7-9月期の実質家計消費の前年比と全国平均の日照時間の前年差の関係を見ると、両者の関係は驚くほど連動性があり、7-9月期は日照時間が低下したときに実質家計消費が減少するケースが多いことがわかる。従って、単純な家計消費と日照時間の関係だけを見れば、日照不足は家計消費全体にとっては押し下げ要因として作用することが示唆される。(第220話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第218話)

第218話:1993年以来の7月低温

 関東甲信から東北地方で気温の低い日が続いている。東京都心では全国的に冷夏となった1993年以来、7月に7日連続で最高気温が25度を下回っており、市場関係者の間では景気への悪影響を懸念する声も出始めている。

 この背景には、2018年秋から発生しているエルニーニョ現象の影響があるようだ。気象庁によれば、オホーツク海高気圧から流れ込む冷たく湿った風や梅雨前線の影響により関東を中心に日照時間が短くなっている一方で、暑さをもたらす太平洋高気圧がエルニーニョ現象の影響で本州に張り出せずにいるとしている。

 エルニーニョとは、南米沖から日付変更線付近にかけての太平洋赤道海域で、海面水温が平年より1~5度高くなる状況が、1年から1年半続く現象である。エルニーニョ現象が発生すると、地球全体の大気の流れが変わり、世界的に異常気象になる傾向がある。

 前回は、2015年夏から2016年春にかけて発生しており、6月と8月後半に冷夏となり、北海道および東日本~西日本で8-9月を中心とした長期的な豪雨となった。

 最も被害が拡大したのは93年夏から冬である。日本は39年ぶりの冷夏となり、大雨や日照不足もあって稲作を中心に農作物に被害が出た。

 気象庁の過去の事例からの分析では、エルニーニョの日本への影響として、気温は西日本を中心に平年より低い地域が目立つことや、降水量は平年より多い地域が多く、西日本の日本海側や東日本の太平洋側で顕著となること、更には、梅雨明けは沖縄を除き遅くなる傾向がある、ということ等が指摘されている。

 実際、エルニーニョの発生時期と我が国の景気局面の関係を見るべく、過去のエルニーニョ現象発生時期と景気後退局面を図にまとめてみた。すると、90年代以降全期間で景気後退期だった割合は25.4%に過ぎない。しかし驚くべき事に、エルニーニョ発生期間に限れば46.6%と通常の1.8倍の割合で景気後退局面にあった事がわかる。特に90年代以降で見てみれば、91~92年と93年のエルニーニョ現象は、91年3月~93年10月まで続いた景気後退局面に含まれる。また、97~98年のエルニーニョは、殆どの月が97年6月~99年1月まで続いた景気後退局面に含まれている。更に、2012~2013年のエルニーニョも多くの月が景気後退に含まれており、2018年秋以降のエルニーニョ局面でも、2018年11月から景気後退に入っている可能性がある。

 潜在成長率が4%程度あったとされる80年代までなら、気象要因が景気動向に大きな影響をもたらすことは想定しにくかった。しかし、90年代以降になると、バブル崩壊により潜在成長率が2%程度、最近では1%程度に下方屈折していると言われる状況では、気象要因により景気動向に大きなインパクトが生じることも十分に考えられよう。(第219話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第191話)

第191話:暖冬が各業界に及ぼす影響

 過去の経験によれば、暖冬で業績が左右される代表的な業界としては冬物衣料関連や百貨店関連がある。また、電力・ガス等のエネルギー関連のほか、製薬会社やドラッグストア等も過去の暖冬では業績が大きく左右されている。自動車や除雪関連といった業界も、暖冬の年には業績が不調になりがちとなる。鍋等、冬に好まれる食料品を提供する業界やスーパー、食品容器等の売り上げも減少しやすい。冬物販売を多く扱うホームセンターや暖房器具関連、冬のレジャー関連などへの悪影響も目立つ。一方、屋外娯楽関連サービスや鉄道、外食に加え、コールド系の飲食料品の販売比率が高いコンビニなどには恩恵が及ぶ可能性がある。

 そこで1990年以降のデータを用いて、10-12月期の全国平均気温を説明変数に加えた実質消費関数を推計し、冬場の気温がマクロの家計消費に及ぼす影響を試算してみた。これによると、10-12 月期の実質家計消費と気温との間には、気温が+1℃上昇する毎に同時期の家計消費支出が▲0.6%程度押し下げられるという関係が見られる。これを金額に換算すれば、10-12 月期の平均気温が+1℃上昇すると、同時期の家計消費支出を約▲3,784億円程度押し下げることになる。

 従って、この関係を用いて今年 10-12月期の気温が記録的高温となった2015年と同程度となった場合の影響を試算すれば、平均気温が平年比と前年比でそれぞれ+1.2℃、+1.8℃上昇することにより、今年10-12月期の家計消費は平年および前年に比べてそれぞれ▲4,521億円(▲0.7%)、▲6,772億円(▲1.1%)程度押し下げられることになる。このように、暖冬の影響は経済全体で見ても無視できないものといえる。

 なお、今回の試算では、エルニーニョで2015年並みの暖冬となったことを前提に試算しているが、これまでの歴史を見ても分かるように、エルニーニョが発生したからといって、必ず暖冬になるわけではない。しかし、実際に暖冬になれば、気象要因により家計の消費行動に大きな変化が及ぶことも十分に考えられる。2015 年の場合、前年の低温の反動や暖冬に加えて、チャイナショックに伴う株価の下落や消費マインドの低迷も手伝って、同年10-12月期の家計消費支出(除く帰属家賃)は前期比年率▲2.7%ととなり、同時期の経済成長率は前期比年率▲1.2%とマイナス成長に陥った。

 また、エルニーニョは世界的な現象であるため、エルニーニョが海外経済にも影響を及ぼすようなことになれば、日本からの輸出減を通じても日本経済に悪影響を及ぼしかねない。

 以上の事実を勘案すれば、今後の景気動向次第では、減速感が明確になりつつある日本経済に暖冬が思わぬダメージを与える可能性も否定できないだろう。特に足元の個人消費に関しては、自然災害や株価下落等のマイナスの材料が目立っているが、今後の個人消費の動向を見通す上では、エルニーニョによる暖冬といったリスク要因も潜んでいることには注意が必要であろう。(第192話に続きます)

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第190話)

第190話:暖冬をもたらすエルニーニョ

 世界的に異常気象を招く恐れのあるエルニーニョ現象が発生している。気象庁が11月9日に発表したエルニーニョ監視速報によると、ペルー沖の海面水温が高くなるエルニーニョ現象の影響等で暖冬となる見込みとされており、気象庁が11月21日に公表した向こう3か月の予報でも、全国的に気温が高くなりがちと予想している。

 エルニーニョ現象とは、南米沖から日付変更線付近にかけての太平洋赤道海域で、海面水温が平年より1~5度高くなる状況が1年から1年半続く現象である。エルニーニョ現象が発生すると、地球全体の大気の流れが変わり、世界的に異常気象になる傾向がある。

 近年では、2015夏から2016年春にかけて発生し、北海道を除く北日本で平年より10日-14日以上遅い初雪・初冠雪、沖縄では12月に長期的な高温を観測した。また12月は日本国内のみならず、国外の多くで北半球最大規模の大暖冬となった。

 気象庁の過去の事例からの分析では、エルニーニョ現象の日本への影響として、梅雨入りと梅雨明けが遅くなることで夏の気温は低めとなり、冬の気温は高めとなる傾向がある、ということ等が指摘されている。

 実際、エルニーニョ現象の発生時期と我が国の景気局面には関係がある。というのも、過去のエルニーニョ現象発生時期と景気後退局面を図にまとめると、90 年代以降全期間で景気回復期だった割合は26.1%となる。しかし驚くべき事に、エルニーニョ発生期間に限れば46.7%の割合で景気後退局面に重なっており、エルニーニョ発生時の景気後退確率は1.8倍となることがわかる。

 特に、2015年のエルニーニョ発生局面では記録的な暖冬に舞われた。気象庁の発表によると、10-12月期の全国平均の気温は前年より+1.2℃程度高くなった。この暖冬の影響で2015 年10-12 月期の消費支出(家計調査)は前年比▲3.2%の減少に転じた。特に、被服履物が冬物衣料の売り上げが不調となったことから、同▲11.5%の落ち込みを記録した。また、交通関連を見ても、暖冬の影響は明確に表れた。同時期の交通・通信支出は暖冬の影響で冬のレジャーやタクシー利用が落ち込み、車関連でもスタッドレスタイヤ等の冬物商材が落ち込んだことで売り上げが低迷した。保険医療の支出動向も製薬関連が落ち込み、全体として低調に推移した。

 国民経済計算ベースで見ても、暖冬の影響が及んだ。2015年10-12月期の実質国内家計最終消費支出は前年比+0.3%と伸びが急速に鈍化し、家計調査同様に被服履物の支出額が大幅に減少した。また、冬のレジャーの低迷により娯楽・レジャー関連でも暖冬がブレーキとなった。

 以上より、エルニーニョ現象により今年の冬も暖冬となれば、各業界に影響が及ぶ可能性があるといえよう。(第191話に続きます)

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