エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第29話)

第29話:幅広い猛暑効果

 今夏は冷夏予測から一転して、暑い夏になっている。気象庁は6月時点ではエルニーニョ現象により、日本の夏はほぼ全国的に気温が低くなる傾向があるため、平年に比べて曇りや雨の日が多くなると予測していた。しかし、同庁は7月に入って、8月にかけて東日本などで平年と同様に晴れの日が多くなる見込みと発表した。

 各業界においても、猛暑の影響が出そうだ。過去の経験によれば、猛暑で業績が左右される代表的な業界としてはエアコン関連や飲料関連がある。また、目薬や日焼け止め関連のほか、旅行や水不足関連も過去の猛暑では業績が大きく左右された。そのほか、冷菓関連や日傘・虫除け関連といった業界も猛暑の年には業績が好調になりがちとなる。更に、飲料の販売比率の高いコンビニや猛暑による消費拡大効果で広告代理店の受注も増加しやすい。缶・ペットボトルやそれらに貼るラベルを製造するメーカーや原材料となるアルミニウム圧延メーカー、それを包装するダンボールメーカーなどへの影響も目立つ。更には、ファミレスなどの外食、消費拡大効果で荷動きが活発になる運輸、猛暑で外出しにくくなることにより販売が増えるゲーム関連なども猛暑で業績が上がったことがある。

 一方、食料品関連やガス関連、テーマパーク関連、衣類関連などの業績には、過去に猛暑がマイナスに作用した経験が観測される。

 そこで、国民経済計算を用いて7-9月期の実質家計消費の前年比と東京・大阪平均の日照時間の前年差の関係を見ると、両者の関係は驚くほど連動性があり、7-9月期は日照時間が増加したときに実質家計消費が拡大するケースが多いことがわかる。従って、単純な家計消費と日照時間の関係だけを見れば、猛暑は家計消費全体にとっては押し上げ要因として作用することが示唆される。

 ただ、家計消費は所得や過去の消費などの要因にも大きく左右される。そこで、国民経済計算のデータを用いて気象要因も含んだ7-9月期の家計消費関数を推計すると、7-9月期の日照時間が同時期の実質家計消費に統計的に有意な影響を及ぼす関係が認められる。そして、過去の関係からすれば、7-9月期の日照時間が+10%増加すると、同時期の家計消費支出が+0.4%程度押し上げられる。

 従って、この関係を用いて今年7-9月期の日照時間が94年および2010年と同程度となった場合の影響を試算すれば、日照時間が平年比でそれぞれ+21.6%、+13.9%増加することにより、今年7-9月期の家計消費はそれぞれ+0.6兆円(+0.9%)、+0.4兆円(+0.6%)程度押し上げられることになる。

 ただし、家計消費が増加すれば、同時に輸入の増加等ももたらす。このため、こうした影響も考慮し、最終的に猛暑が実質GDPに及ぼす影響を試算すれば、94年並となった場合は+0.4兆円(+0.3%)、10年並となった場合は+0.3兆円(+0.2%)ほど実質GDPを押し上げることになる。このように、猛暑効果は経済全体で見ても無視できないものといえる。(第30話に続きます)

永濱 利廣 氏
永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所 経済調査部
主席エコノミスト 永濱利廣

エコノミスト永濱氏の書籍をご案内させていただきます。書店やネット(下の写真をクリックしてください)でお買い求めいただけます。

永濱利廣著
永濱利廣著

図解 ピケティの「21世紀の資本」

トマ・ピケティの『21世紀の資本』が世界的に注目を集めました。
しかし、原著(日本語版)は700ページを超え、完全に読みこなすのは難しいものとなっています。
本書では、難解な点を図にまとめたほか、ポイントを絞って原著に忠実に全体を解説しています。
あわせて、ピケティの著書や発言を参考にして、日本における格差問題やアベノミクスの評価について独自の解説を加えています。
800円+税 ()イーストプレス http://www.eastpress.co.jp/shosai.php?serial=2378

エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第28話)

第28話:欧州債務危機下のギリシャで起きたこと

 ギリシャでは、2009年10月に、それまでの5年間政権の座にあった新民主主義党が、ヨルゴス・パパンドレウ氏の率いる全ギリシャ社会主義運動に選挙で敗れ、政権交代が起きた。パパンドレウ首相率いる新政権は、旧政権の財政運営について疑念を抱き、調査を実施した。すると案の定、前政権が財政赤字を隠ぺいしていたことが明らかになった。

 それまで、ギリシャの財政赤字はGDPの4%程度と発表されていたが、実際には13%で、公表数字の3倍以上の赤字があった。更に、政府債務残高もGDP比で113%にもなっていることが明らかになった。ギリシャ政府がこのような隠ぺいを行っていた理由の1つに、ユーロ参加国に義務づけられているルールの存在があった。ギリシャも今ではユーロ参加国の1つだが、1999年のユーロ導入段階では参加基準を満たしておらず、参加することができなかった。その後、何とか参加基準を満たし、2001年にようやく晴れてユーロ参加国になれたという経緯があった。実は、ユーロ参加国は安定成長協定というものを結んでおり、「財政赤字額はGDP比3%以内」「政府債務残高はGDP比60%以内」という、財政規律を順守する義務を負わされている。ギリシャが財政赤字の隠ぺいを行ったのは、これらの財政規律の基準値をクリアできているようにみせかけるためだった。

 ギリシャで多額の債務が積み上がってしまった背景には、財政規律の緩さがある。当時のギリシャでは、働いている人の4分の1が公務員だったが、その待遇が非常に恵まれていた。更に年金制度も手厚く、社会保障費が非常にかかる歳出垂れ流しの財政構造になっていた。一方で歳入面では、商店がレシートを発行せず、払うべき税金を払わない等、脱税が横行しており、歳入が長期にわたって低迷していた。

 ギリシャ国債はその多くを外国人の投資家が保有していた。そのため、いったんギリシャの債務隠ぺいが明るみに出ると、一気に投げ売られて、国債価格が暴落した。このため、金利は急上昇し、最高で35%にまで達した。このような金利では、新しく国債を発行することはできない。最終的にギリシャ政府は、2010年4月23日にEUとIMFに正式に支援を要請することになった。IMF等に支援を要請すると、厳しい財政再建策を実施しなくてはいけなくなることになり、緊縮再建策を実施することになった。

 そのうちの1つが、付加価値税の引き上げで、他にも、年金の給付水準も引き下げられ、労働者の4分の1を占める公務員全員の給料も2割削減された。しかし、新たな問題も生じた。このように大ナタを振るった結果、ギリシャ国民の猛反発を招き、国内各地で連日のようにストライキや抗議デモが行われるようになった。政府の掲げる厳しい赤字削減策を簡単に受け入れることができないギリシャ国民は、石や火炎瓶を投げたり、銀行を襲撃したり、暴動が激化して、一時期は社会が混乱の極みに陥った。この間、国外に脱出できる人は国を捨てて海外へと出て行き、その結果、銀行の預金残高も大幅に減った。経済も大混乱に陥り、失業する人が続出した。近年のギリシャの失業率は全体で25%以上、若者だけに限ると約5割が失業しているといわれ、未だ本格回復には至っていない。(第29話に続きます)

永濱 利廣 氏
永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所 経済調査部
主席エコノミスト 永濱利廣

エコノミスト永濱氏の書籍をご案内させていただきます。書店やネット(下の写真をクリックしてください)でお買い求めいただけます。

永濱利廣著
永濱利廣著

図解 ピケティの「21世紀の資本」
トマ・ピケティの『21世紀の資本』が世界的に注目を集めました。
しかし、原著(日本語版)は700ページを超え、完全に読みこなすのは難しいものとなっています。
本書では、難解な点を図にまとめたほか、ポイントを絞って原著に忠実に全体を解説しています。
あわせて、ピケティの著書や発言を参考にして、日本における格差問題やアベノミクスの評価について独自の解説を加えています。
800円+税 ()イーストプレス http://www.eastpress.co.jp/shosai.php?serial=2378

エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第27話)

第27話:ピケティ理論は「アベノミクス批判」なのか

 日本の場合、ピケティが想定していなかったデフレによって格差が広がってきた側面も見逃せない。そこに経済のグローバル化が加わり、さらに格差が増幅されてきた。

 ピケティのいう「r>g」のrは資本収益率だが、一般的なマクロ経済学でいうrは長期金利である。rを長期金利とすれば、その金利はマイナスにならない。ところが、経済成長率はデフレになると、いくらでもマイナスになる。これが、デフレになると格差が広がるメカニズムである。

 デフレから脱却することは、gを上げようとしていることになる。デフレはrとgの差を広げ、デフレ脱却はrとgの格差を縮める。

 富の再分配や格差の是正は、これまでも政府の仕事だったが、経済がグローバル化したことによって、さらにその役割が強まっている。

 現在、日本ではアベノミクスと呼ばれる成長戦略が進められている。経済のパイを拡大するという意味では、非常に理にかなった政策を実行している。

 しかし、経済成長によってデフレを脱却しようとすると、そこに必ずひずみが出てくる。光が当たる部分と影になる部分があるため、そこについての再分配がもうひとつの政府の役割である。

 アベノミクスの象徴的なものは円安と株高である。適正な為替の水準は1ドル102円ぐらいであり、異常な円高の是正まではよかったのだが、2014年秋のサプライズ緩和以降は適正レート以上の円安になっている。そこからは円安対策が必要だったのではないか。そこが後手に回っているため、アベノミクスは円安対策を強化していく必要がある。

 ピケティを持ち出して、アベノミクスが格差を拡大すると批判している人たちがいるが、ピケティも経済成長が必要だといっているため、それは間違った解釈をしていることになる。

 ピケティはr>gのgを経済成長あるいは国民所得の成長率という見方をしているが、日本のデータを見ると、経済成長より雇用者報酬の上昇率のほうが低くなっている。したがって、gも国民所得と雇用者報酬に分けて考えなければいけない。

 これは働いているだけでは経済成長に見合った対価が得られない世の中になってきていることを意味している。つまり、資本市場にある程度アクセスしないと経済成長に見合った富は得られないことになる。

 しかし、これだけ株が上がっているのに、日本で株式投資をしている世帯は1割程度しか存在しない。日本が株式投資をアメリカのように4割まで増やすのは難しいが、ヨーロッパ並みの2割ぐらいまでは上げるべきではないだろうか。(第28話に続きます)

永濱 利廣 氏
永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所 経済調査部
主席エコノミスト 永濱利廣

エコノミスト永濱氏の書籍をご案内させていただきます。書店やネット(下の写真をクリックしてください)でお買い求めいただけます。

永濱利廣著
永濱利廣著

図解 ピケティの「21世紀の資本」
トマ・ピケティの『21世紀の資本』が世界的に注目を集めました。
しかし、原著(日本語版)は700ページを超え、完全に読みこなすのは難しいものとなっています。
本書では、難解な点を図にまとめたほか、ポイントを絞って原著に忠実に全体を解説しています。
あわせて、ピケティの著書や発言を参考にして、日本における格差問題やアベノミクスの評価について独自の解説を加えています。
800円+税 ()イーストプレス http://www.eastpress.co.jp/shosai.php?serial=2378

エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第26話)

第26話:「r>g」の本当の意味

 2000年代以降、経済のグローバル化が進み、先進国では富裕層と中間層以下の格差が広がってきた。そのきっかけは、東西冷戦の終結だった。

 東西冷戦の時代は、資本主義の国と社会主義の国で生活水準の格差が広がっていた。東西を分断していた垣根がなくなったことによって、先進国からすると安い労働力が使えることになった。先進国はこぞって新興国に工場を作る等、どんどん資本を新興国に移していった。

 一方、新興国は安い労働力を提供できるため、それによって新興国の人々は働く機会を得ることができ、かつ市場経済にアクセスできるようになった。そういう状況では、先進国と新興国の格差が縮小する圧力がかかる。

 先進国と新興国の市場が一体化すると、先進国の国内では格差が広がる。それまで先進国の労働者たちが担ってきた仕事は、新興国の安い賃金の労働者に委ねられるようになる。

 そうすると、先進国の労働者の賃金は下がってしまう。先進国と新興国の格差が縮まる一方、国内の格差が広がるのは、川が上から下に流れるのと同じ動きで、経済のグローバル化のなかでは必然となる。

 経済がグローバル化すると、企業は国境に関係なく最適なところに最適な立地をする。その際、できるだけ富を稼げる人や企業を引き寄せるような政策が重要性を増してくる。税制面では累進課税を下げ、法人税も下がる方向になる。その結果、富裕層と庶民の格差は広がることになる。

 経済のグローバル化は、金融市場にも様々な影響を与える。このご時世、資金さえあればM&Aで企業を買って、すぐにいろいろな分野に参入することができる。そうなると、マンパワーより株主から資金を調達することがより重要性を増してくる。

 その結果、企業は株主への分配により重きを置くため、人に対する分配の優先順位が低くなる。

 ピケティが危惧しているのは、富裕層に蓄積した資産が更に増えていき、富裕層と中間層以下の格差が更に拡大することである。それを「r>g」の数式で表現している。

 これは資本収益率が経済成長率より大きくなるという意味である。ある意味で資本から得る収入が労働から得られる対価より大きいのは当たり前である。そうでなければ資本家がリスクを負って投資をしなくなってしまう。

 ただし、それによる格差を是正することは必要なので、ピケティが累進所得課税の強化や、世界的な累進資本税の導入を提案していることは大きな意義がある。(第27話に続きます)

永濱 利廣 氏
永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所 経済調査部
主席エコノミスト 永濱利廣

エコノミスト永濱氏の書籍をご案内させていただきます。書店やネット(下の写真をクリックしてください)でお買い求めいただけます。

永濱利廣著
永濱利廣著

図解 ピケティの「21世紀の資本」
トマ・ピケティの『21世紀の資本』が世界的に注目を集めました。
しかし、原著(日本語版)は700ページを超え、完全に読みこなすのは難しいものとなっています。
本書では、難解な点を図にまとめたほか、ポイントを絞って原著に忠実に全体を解説しています。
あわせて、ピケティの著書や発言を参考にして、日本における格差問題やアベノミクスの評価について独自の解説を加えています。
800円+税 ()イーストプレス http://www.eastpress.co.jp/shosai.php?serial=2378