エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第169話)

第169話:カギは産業の立地競争力向上

 近年、第1次所得収支の拡大を受けてGDIとGNIの乖離(かいり)が目立っており、GNIがGDIに対して超過傾向にある。これは、日本人の海外での経済活動が活発化し、日本よりも海外の経済成長率が高いこともあって、日本が対外資産から得られる収入の方が、海外が対日投資から得る額よりも多いためである。

 少子高齢化が急速に進み、国内需要の減少が不可避な情勢では、国内の経済活動だけでは実質GDIの増加は困難とされている。それならば、企業が更に海外市場へ活路を見いだし、海外への投資で得た利益を日本国内に還流させるというグローバルな視点から、GNIを増やし、国民の所得を増やすべきという発想が生まれるだろう。

 しかし、第1次所得収支は海外で所得が生じた時点で計上されてしまい、海外で得た所得を日本国内に還流させなくてもGNIに含まれてしまう。したがって、純粋な日本国内の所得の増加を知るには、GNIよりもGDIで見る方が正確である。

 GDIを増やすには、第一に国内生産を増やすことに加えて交易損失を減らすという視点が重要である。国内生産を増やすためには、国内所得を生み出す源泉となる国内企業の雇用機会を増やす必要がある。そのためには、産業の立地競争力を高めることが不可欠だろう。

 極端な円高はすでに是正されているものの、近隣諸国並みの20%台半ばへの法人税率の引き下げは道半ば、経済連携協定は日EU・EPAや環太平洋パートナーシップ協定(TPP11)が大筋合意に至ったばかり、労働規制は正社員の解雇ルールの明確化が先送りされている。今後は、税制改正やTPPにとどまらない経済連携協定の推進による立地競争力の強化がカギとなろう。

 加えて、足元ではエネルギーコストが原油価格の上昇により上がっているため、交易損失を減らす取り組みも重要だ。日本の発電の主要化石燃料である天然ガスの輸入価格は、世界の天然ガス価格が下がる中でも、依然としてヨーロッパの価格よりもドル建てで1.3倍以上の高水準にある。経済連携協定をテコに調達先の多様化などを推進することで化石燃料の価格を更に引き下げられれば、より一層交易損失の減少につながる。それを実現するためにも積極的な通商政策が必要となろう。

 第二に、新分野での雇用の創出も重要である。そのためには、人口が減少する中でも市場の拡大が期待される医療・介護や教育・保育、農林水産業などの分野での規制改革が必要だろう。社会保障の効率化とともに待機児童や介護離職の解消、農地の集約と株式会社の農地取得自由化などの改革が進み、結果としてこれらの分野で需要喚起が実現すれば、農産品の輸出増加や女性の更なる労働参加も促されよう。(第170話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第168話)

第168話:日本経済の実力を反映しないGDP

 2018年1~3月期の実質GDPは2次速報で前期比年率▲0.6%となり、9四半期ぶりのマイナス成長となった。しかし、民間在庫品増加(民間企業の売れ残った在庫の増加分)を除いた最終需要ベースで見ると、前期比年率+0.1%とプラスとなり、少なくとも最終需要面から見た経済規模はそこまで悪化していないとする見方もある。しかしGDPは、必ずしも現在の日本経済の実力を反映しているとは言えない。

 GDPとは、期間内に国内で生み出された付加価値の合計である。「生産」「需要」「所得」という三つの側面のどこから見ても等しくなる「三面等価の原則」があり、通常は実質GDPに変化が生じれば、それと連動して実質所得にも変化が生じるはずである。

 しかし、現在の日本の所得から見た実質的な経済規模は、生産面や需要面からの変化に加え、実質GDPに反映されない交易条件(輸出品と輸入品の交換比率)の変化にも大きく左右されるため、「三面等価の原則」が働きにくいという、特有の経済構造となっている。

 輸出価格が輸入価格を上回ると、その国の交易条件は有利になるため所得(交易利得または損失)が増え、反対に不利になると所得は減る。2017年10~12月期以降、原油をはじめとする資源価格の高騰により、日本の交易条件は大きく悪化。GDPに交易利得(損失)を加えた、国内の実質的な所得を示す指標である実質国内総所得(GDI)を押し下げている。つまり、実質的な日本の経済規模を見るには、交易条件の変化を加えたGDIで見るべきであり、GDPだけを見ていると、現在の日本経済を過大評価してしまうことになる。

 交易条件を含む経済指標として、GDIの他に国民総所得(GNI)がある。交易条件を加えて見るのであれば、GNIで見ることもできるのではとの意見もある。

 二つの指標の大きな違いは、GDIは国内に落ちる所得を表し、GNIは国民を対象としている点だ。また、グローバルな経済活動の動向を示す経常収支は、貿易収支やサービス収支、第1次所得収支、第2次所得収支に分けられるが、GDIには貿易・サービス収支のみ計上されているのに対し、GNIは海外への投資で得た配当などの第1次所得収支も含む。従って、GDIは国内の所得規模を測る指標である一方で、第1次所得収支も含んだGNIは、国民全体の所得状況を見る指標となる。

 なお、第1次所得収支は「投資収益」と「雇用者報酬」に分けられ、現在、収支の99%以上を投資収益が占めている。これは海外の金融資産から生じる利子や配当の受け取りや、海外への支払いも含む、第1次所得収支や企業の海外展開を反映した投資収支が黒字となっているためである。(第169話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第167話)

第167話:「借金まみれの日本」の財政危機リスクが低いワケ

 プライマリーバランスを早期に黒字化しないと財政危機が訪れるという議論があるが、これはそのまま日本には当てはまらない。なぜなら、G7諸国のプライマリーバランスを見ると、黒字を達成しているのはドイツとイタリアのみであるが、赤字国はいずれも財政危機的な状況になっていない。

 プライマリーバランスの赤字では政府債務残高/GDPを悪化させることになるが、名目成長率が国債利回りを上回っていれば、プライマリーバランスが赤字でも政府債務残高/GDPが上昇するとは限らない。これは非常に重要なポイントである。

 更に筆者は、政府が前提としている長期金利>名目成長率には違和感があり、長期金利<名目成長率の可能性も十分にありうると考えている。その理由は、理論的に最適成長する場合は実質長期金利>実質経済成長率が必要とされるが、ここでいう実質長期金利は社債や株なども含めた実質資本収益率であり、国債利回りはリスクプレミアム分だけ低くなるためである。また、長期的な歴史的事実関係を見ても、多くの主要国で名目成長率>国債利回りを満たしていること等もあり、こうしたドーマー条件が満たされる可能性が高い。

 以上を踏まえて、各国国債の信任を左右するとされる4指標について国際比較をした。具体的には、OECD諸国における「政府純債務/GDP」「経常収支/GDP」「対外純資産/GDP」「政府債務対外債務比率」の4指標をリスクの度合いで並べた。結果は、日本は政府純債務/GDPだけではイタリアに次いでリスクが高いが、それ以外の3指標で]見れば圧倒的にリスクが低く、相対的に財政リスクが高い国ではないという結果になる。

 また、過去20年間の税収弾性値(2.9程度)を前提とすると、緊縮財政を実施しても名目成長率が下がってしまえば、税収がその分増えるとは限らない。つまり、経済成長と税収の関係を鶏と卵に例えれば、税収という卵を産む経済成長、すなわち鶏を殺すような緊縮財政をすれば、却って財政健全化は遠のきかねない。

 以上をまとめると、日本経済が早期に正常化し消費税率が予定通り引き上げられるのがベストだが、2019年度後半は経済的なリスクが高いことからすると、予算編成後も消費税率引き上げの先送りが可能となるよう、景気条項を付帯することも有力な手段といえる。ただ、それが物理的に困難であり、予定通り上げざるを得ない場合は効果的な景気対策が必要と考えられる。

 結局、今後も消費税率の引き上げが必要であることを考えると、2014年4月の消費税率の引き上げが失敗したこともあり、今回の消費増税は非常に重要である。つまり、今回の消費増税でいかに景気への悪影響を軽微にできるかが証明できれば次の消費増税も実施しやすくなるが、逆に失敗してしまうと次の増税は困難になろう。そういう意味でも、今回は非常に慎重な景気への配慮が必要ではないかと考えられる。(第168話に続きます)

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第166話)

第166話:重要な労働市場改革

 人手不足が深刻な状況になりつつある日本経済にとっては、短期的な需要サイドの政策だけではなく、サプライサイドの政策も重要である。日本の人口動態を考えると、特に2020年代後半以降は人口減少が加速し、労働参加率を更に引き上げなければ、経済成長率も非常に厳しくなる。

 実際に足下で、本当は働きたいが何がしかの理由で求職活動をしていないいわゆる就業希望の非労働力人口が360万人以上存在しており、これを考えると、出産、育児や介護等の対応が喫緊の課題になっている。

 このように、労働参加率を更に引き上げ、労働投入量を増加させる鍵は女性と高齢者の活躍が鍵となるが、個人的には外国人も重要と考えられる。

 そういう意味では、女性、高齢者、外国人の就業を阻害している最大の要因が日本特有の雇用慣行であり、同じ会社に長く勤めれば勤めるほど、恩恵が受けやすい就業構造を変えていくことが必要である。

 象徴は、正社員の賃金構造が年功序列となっていることであり、これを打破すべく一刻も早く踏み込みが必要な政策が、正社員の解雇ルールの明確化やホワイトカラー・エグゼンプション(ホワイトカラー労働者に対して労働時間規制の適用を免除する)のような労働市場の流動化を促し労働生産性を上げる政策である。実際にOECD諸国で、労働市場の流動化と潜在成長率の関係を見ると明確な関係がある。背景には成長分野に労働力が迅速に配分されること等により生産性が高まり、家計の収入も増えやすいことが推察される。ここは成長戦略の中でも最も踏み込みが期待される部分である。

 また、外国人の活躍については、全国各地の大学が外国人留学生を増やすことで地方創生にも結びつくと考えられる。諸外国との比較で見ても、日本が受け入れる外国人留学生の比率は低い。日本では留学生30万人計画という目標があるが、日本のインバウンドの消費だけで去年3.4兆円程度であることからすれば、我が国もオーストラリア等の政策を見習って、もっと外国人留学生の増加に力を入れるべきなのではないかと考えられる。(第167話に続きます)

永濱 利廣 氏

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第165話)

第165話:デフレギャップ解消に必要な財政規模は最低4兆円

 日本経済に求められる経済政策を考える上で、1つ目安となるのは足下の需要過不足の規模である。内閣府が計測した昨年のGDPギャップは+0.4%となっているため、既に日本経済は完全雇用の状況にあり、需要刺激策は不必要ということになる。しかし、国際比較が可能なIMFのエコノミックアウトルックに基づいた場合、今年の日本のGDPギャップの見通しを見ると、世界経済の拡大が織り込まれているため、昨年よりGDPギャップは縮小するも、依然として4.0兆円程度の需要不足が存在することになる。そうだとすると、次の消費増税も織り込んで日本経済を考えると、デフレ脱却は少なくとも2019年度一杯までは厳しいことになる。消費増税という選択は、デフレ脱却と財政再建のどちらを重視するかによって重要な決断になってくると思われる。

 また、これまでのマネタリーベースの増加ペースの変遷を見れば、日銀が国債購入量を減らしても金利水準は維持できている。さらにはイールドカーブ・コントロール下の財政政策は、長期金利の抑制を通じてより需要刺激効果が出る可能性が高く、マネタリーベースの増加ペース拡大に伴う円安も期待できるため、そういった意味では、景気対策の財源は国債発行が望ましいと考えられる。

 なお、景気対策の規模としては、消費増税を実際に行うのであれば、駆け込み需要が出てくるため、消費増税の前に財政の規模はそこまで大きくしなくても良いとする向きもある。しかしその場合は、消費増税後にはそれなりの規模の財政政策を組み合わせなければならなくなるだろう。ただし、足下の状況でも景気対策を十分行わなければ、経済成長は厳しいと予想され、そもそも消費税率を上げる決断をするに当たって相当ハードルが高くなるような経済状況になる可能性もある。このため、消費税率を上げるにしても上げないにしても、景気対策が必要だと思われる。

 ちなみに、財政は大丈夫なのか?という意見もあるが、財政の関連指標はアベノミクス後、軒並み予想以上の改善を示しているというところからすると、早期の財政危機のリスクは殆ど考えられない。懸念されるのは、格付機関による国債の格下げである。2015年の9月にスタンダード・アンド・プアーズが格下げしたが、きっかけはその前に公表された2015年4-6月期のGDP成長率がマイナスになったことであり、アベノミクスに伴う経済成長が期待できなくなったことが理由とされている。しかし、2018年4月13日には、名目経済成長率が2%を超え、実質実効金利がマイナスであることで、政府債務残高が従来の予想よりも早く安定化するとの見方を反映して、日本国債の格付けアウトルックを「安定的」から「ポジティブ」に変更した。こうした事例を踏まえると、財政再建を考えるうえでも経済成長重視の政策を進めていくべきと考えられる。(第166話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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