エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第111話)

第111話:アベノミクスの行方

 これまでのアベノミクスのけん引役は日銀の金融政策であったが、数年以内に日銀は試練のときを迎える可能性がある。リーマン・ショック以降、米国経済は8年以上、景気拡張を続けている。米国株式市場も多少の調整はあるとはいえ、同期間、ブル相場が続いている。しかし残念ながら、永遠に上昇し続ける相場はない。

 イールドカーブコントロール政策は、世界経済が好調なときは威力を発揮するが、反対にリセッションに陥ったときはどうするのか。米国が金融引き締めを行っているときは、大きくプラスに働くが、リセッションを迎えた米国が金融緩和に転じれば、今のスキームでは円高を抑え込めない可能性がある。そのときに何をやればいいのか。

 海外からの批判を度外視すれば、外債購入等の選択肢があると思われるが、現実的には難しい。となれば、緩和のために吸い上げる国債が足りないことになり、ヘリコプターマネーに近い政策を採る可能性も全くないわけではないと思われる。

 そうした意味では、米国経済が好調なうちに、いかに日本経済も正常に近づけることができるかが最大のポイントだと思われる。あと2〜3年のうちに米国経済がリセッションに陥れば、2019年10月に消費税を引き上げることは難しいだろう。

 2014年4月に消費税率は5%から8%に引き上げられたが、その後の内需低迷はご存知の通りである。いずれにせよ、増税後の消費低迷は想定以上となり、消費税増税は拙速だったことになっている。

 筆者は、アベノミクスが始動するより前に『男性不況』という本を執筆しているが、男性不況克服のためのマクロ政策の主張内容がたまたまアベノミクスと類似していた。このため、アベノミクスにはもちろん肯定的であり、言葉を選ばずに言えば、日本の政策当局が初めてグローバルスタンダードに近い政策を実行しただけである。つまり、海外では一般的な経済政策を体現しているのがアベノミクスである。

 リーマン・ショック後にFRBは大胆な金融緩和を実施した。しかし、日銀は平成バブル崩壊以降も大胆な金融緩和を行ってこなかった。つまり、デフレという異常な経済状況を長期間放置してしまったことが最大の罪だと思われる。

 このように、アベノミクス自体の方向性は正しいと思われるが、20年間デフレを放置してしまったがゆえに、企業・家計ともに、普通の国ではありえない心理的萎縮が続いてしまっている。すなわち、20年間デフレを放置した弊害がいまだに残っており、アベノミクスの効果を減退させていると考えられる。(第112話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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mainasu2016年1月29日に日銀の金融政策決定会合で決定され、2月16日から実施された「マイナス金利」。

プラスであることが当たり前の金利がマイナスになるとは、いったいどういうことなのか?

日本の経済を再生する原動力となるのか?

そして、私たちの生活にどのように関係するのか?

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第110話)

第110話:日米金融政策の注目点

 金融政策の変更以外でFRB(米連邦準備理事会)の動向やFOMC(連邦公開市場委員会)の最大の注目点はずばりドットチャート、つまりFOMCメンバーのFFレート見通しを点(ドット)で示したものである。ただ全体の見通し以上に注目されるのが25パーセンタイルである。

 3の倍数の月に開かれるFOMCではFFレートの見通しが公表される。多くの場合、メディアで報道されるのは「全体の中央値」である。しかし、全体の中央値以外にも「下位25%のメンバーの平均」も出る。それが25パーセンタイルである。

 なぜ注目されるかというと、その下位25%の中に、恐らくハト派のイエレン議長が含まれているからである。例えば2016年12月の利上げでドル円レートは118円台まで円安に振れた。しかし、筆者はあまり時間を置かずに円高に戻ってくるのではないかと予想していた。

 その理由は、2017年の利上げ回数について「全体の中央値」は2回から3回に引き上げられていたものの、25パーセンタイルでは2回のままだったからである。FOMCは合議制とはいえ、イエレン議長が2017年の利上げは年2回と考えているのであれば、急激なドル高はオーバーシュートであり、早晩アンワインドすると予想された。

 一方の日本銀行については、世界的に景気が上向いている状況では、イールドカーブコントロール政策は非常に効果を発揮する。原油価格が戻って期待インフレ率が上昇すれば、世界各国の長期金利に上昇圧力がかかり、ゼロ近辺にアンカリングしている日本の長期金利との金利差が拡大し、円安になりやすいためである。

 従って、しばらくはこのままで維持されると予想される。ただ、来年くらいに金融政策の変更を行う可能性がある。具体的には、長期金利ターゲットの引き上げである。なぜ引き上げるかというと、物価上昇で実質金利が下がった等の色々な理由付けはできるが、引き金を引くのは円安の進行だと思われる。

 トランプ氏のインフラ投資や減税の中でも特にレパトリ減税が相当効くと予想されるが、来年にかけてドル高円安が相当進む可能性がある。過去を振り返れば、1ドル125円を超えてくると、輸入物価の上昇で庶民から悲鳴が上がり、官邸もそれを気にして、黒田総裁にその気があったかなかったかは別にして黒田ラインが形成された経緯がある。

 FRBの利上げは今年2〜3回、来年は3~4回と想定している。そうすると、基本的にはドル高円安になる可能性があるが、1ドル120円台半ば程度まで円安が進む局面になると、日銀は長期金利ターゲットの引き上げも検討してくると考えられる。(第111話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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