エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第3話)

第3話:実質賃金プラスへの期待

 個人消費については消費税率アップのダメージがまだ残っているが、家計に絡むデータを調べると、家計は確実に潤っていることが確認できる。アベノミクスが始まってからこの2年で、家計の金融資産は140兆円以上も増えている。中でも株価は2年で2倍になり、家計の株・出資金も50兆円以上増えている。一方で、現預金も30兆円以上増えているが、これは株で儲けたお金のほか、この2年で働く人が100万人以上増えたことが大きな要因となっている。非正規労働者しか増えていないという批判もあるが、マクロ経済全体では正規であれ非正規であれ、今まで給料を全くもらっていなかった100万人以上の人が給料をもらうようになったわけであるから、明らかにプラスである。

 更に言えば、実際に増えた雇用はさらにその人数を上回る可能性が高い。なぜなら、今の日本では15歳以上の人口は減っているため、労働参加率が変わらなければ雇用は減って当たり前だったはずである。それがネットで100万人以上増えているということからすれば、仮に労働参加率が変わらなかった場合と仮定すると、この2年で実質150万人以上雇用が増えていることになる。これはまさにアベノミクスのプロビジネス的な政策の効果であると言っても過言ではない。

 また、正社員についても増加の兆しが見えている。正社員の雇用に関してはどうしても時間を要するので、直近の7-9月の雇用者数でようやく前年比10万人増という状況だが、このまま景気回復が持続すれば今年は正社員の数が更に増えることが期待されるため、家計の収入も更なる増加が期待できる。

 今年の日本経済を予測する上で最大のポイントは、春闘でどれだけ賃上げが実現できるかであろう。報道を見る限り、組合は昨年以上の要求をしており、経営者側からも前向きな発言が相次いでいるため、最低でも昨年以上の賃上げが達成され、今年は実質賃金がプラスになると期待される。

 実質賃金は18か月連続でマイナスであることから、アベノミクスの効果が出ていないと批判する向きもあるが、今年度から1人当たり賃金は15年ぶりの勢いで増え始めている。正に近年稀に見る状況なのだが、それ以上に物価が上昇したために個人消費が落ちこみ、実質賃金もマイナスになってしまったのである。ただし、一時は4%を超えていた物価上昇率のうち2%分は消費増税分であるため、消費増税がなければ実質の雇用者報酬は昨年6月からプラスになっていたはずである。

 ただ、消費増税の影響を除いた物価の伸びは足元で鈍化してきているため、今年前半には一時的に物価がマイナスになる可能性がある。その一方で、1人当たり名目賃金は最低でも昨年程度は上がることが期待されるため、実質賃金も今年4月からは前年比でプラスに転じると予想される。(第4話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
第一生命経済研究所 
主席エコノミスト 永濱 利廣

清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第24話)

第24話:マーケティング能力の一つは「語彙」豊富になること。

 文字に限らず、画像のやり取りが手元でできるようになりました。確かに、自分の今の気分を伝えようとすれば、言葉で説明するよりも、表情や態度を見せた方が相手に素直に伝達できることもあります。その状況を文章に表現しようと思えば、何枚にもわたるレポートが必要でしょう。街並みや景観,その地における天候を知るのではなく、実感度を高めるのはやはり視覚情報の方が勝っていると考えられます。

 ただ、マーケティングを考えるときに忘れてならないことは、ある現象や事実をどのように読み解くかという発想です。同じことに出会ったとしても解釈はさまざまあります。異なる環境を見るのは、「個となる」事実を読むことに通じるもの。「見た」結果を「読む」こと、それは言語での表現の必要性を言っています。いかに言い表すかということです。文学的表現の必要性を問うているのではありません。さまざまな表現方法を問うているのです。

 マーケティング・スタッフに表現力が問われるのも、顧客の行動や店舗の動きを、動画像に限らず自らの言葉で他者と共有することで、次なる戦略展開糸口を発見する必要があるからです。しかし、これが難しい。言語を持たずに感覚論が横行する風潮があるからです。「~って言うか・・・○○的には・・・」の自己解釈。「マジっすか?」の疑問詞。何でも「超」のつく評価語。歳を重ねたので、このような表現についていけない、というのではなく、市場の事実に関して、共通の認識をもつことが困難になってしまうことへの危惧があります。

 ここ数年、日本語に関する書籍も多く出版されています。その意味するところは、学習する「国語」ではなく、この国にある文化や自らの意志を伝える根本にある「語彙」豊富な日本語への注目です。ある現象を、どのように読み解くのか。自らの心の奥底にある思いを、どう説明するのか。表出を言葉ですることの意味を、マーケティング・スタッフは常に考え、表現力を高めることを忘れずにいたいもの、と私は考えています。(第25話に続きます)

マーケティング・スタッフを志向する若者に清野先生が贈る言葉は、年々積み重なってきています。(画面をクリックすると拡大します)
マーケティング・スタッフを志向する若者に清野先生が贈る言葉は、年々積み重なってきています。(画面をクリックすると拡大します)

株式会社マップス 代表取締役 清野 裕司
Eメール: maps@mapscom.co.jp
URL: http://www.mapscom.co.jp

エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第2話)

第2話:生産が大きく戻った理由

 昨年4月の消費税率引き上げ以降、日本経済はマイナス成長となり、特に個人消費はいまだに影響を引きずっている。しかし、鉱工業生産指数等、先行きを占うデータは昨年末頃からかなり勢いよく持ち直し始めている。この指数は経済成長率と密接に関係しているため、少し割り引いて3月は生産が横ばいになると仮定しても、今後、経済成長率はかなりプラスに加速すると見込まれる。

 消費はともかく設備投資は非常に好調であり、設備投資より1四半期ほど先を行く機械受注は昨年7-9月からV字回復している。これがGDPに反映されれば、昨年10-12月の経済成長率は大きく上向くはずである。

 設備投資以上に期待されるのが、輸出の伸びである。輸出は昨年末あたりからアジア向けを中心に大きく戻している。背景には、アジア経済自体はさほど良くないが、アジアからアメリカへ向けての輸出が非常に増えていることがある。アメリカ経済が昨年後半から力強い回復を示す中で、アメリカの需要増がアジアの輸出を増やし、それが日本から部品等の輸出を増やしていると考えられる。

 今年も引き続きアメリカ経済の拡大による輸出増加が期待されるが、それに原油価格の下落が加わって、アジア経済も若干持ち直すことが期待される。原油価格があまりにも下がりすぎたために、資源国のデフォルトやエネルギー関連企業の経営破たん等を懸念してマーケットは過剰に反応しているが、世界の経済規模から見ると7割以上は原油の純輸入国になるため、原油安そのものは世界経済的にはプラス材料となる。特に原油を大量に輸入するアジア経済においては大きくプラスに効いてくるため、アジアを最大の輸出先とする日本では、さらに輸出の押上げ効果が高まるはずである。
 
 更に、異常な円高が是正されたことで、昨年後半あたりから日本の製造業に国内回帰の動きが活発になってきていることから、今年は輸出の伸びが相当増えるのではないかと期待される。

 また、財だけではなく、サービスも含めた輸出を見ると改善が明確となっている。企業の技術革新によって特許権の使用料収入が増加していることもあるが、円安や観光ビザの発給緩和により、外国人観光客が増加していることがその最大の理由である。昨年の訪日観光客数は1300万人を突破したが、昨年12月にはインドネシア人向け、今年1月には中国人向けの観光ビザの発給要件緩和も進んでいるため、今年は1500万人を突破しても不思議ではない。(第3話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
第一生命経済研究所 
主席エコノミスト 永濱 利廣

第一生命経済研究所 経済調査部
主席エコノミスト 永濱利廣

清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第23話)

第23話:現代は「情報交換」に限らず「情動交感」の時代です。

 動画も含めて、ビジュアル情報のやり取りが出来るスマホやケイタイを使う風景が当たり前になりました。自分の気持ちを伝える際に、全てを文字で表現するのは小説家であっても至難のことでしょう。しかし、今の自分の顔を見せれば、ある程度のことは読み取ってもらえることがあるもの。「目は口ほどにものを言い」ではありませんが、その瞬間の自分の気分は顔に出るものです。であるならば、感情のやり取りには画像の方がリアリティがあります。「情報交換」の時代ではなく、「情動交感」の時代と見ることが出来ます。

 この時代に適応するマーケティングでは、今までのモードを改めて見直さなければならなくなります。そのために多くのキーワードやコンセプトが発信されています。Webマーケティングやeマーケティングといった言葉は当たり前になりました。しかしそこでの論点は、主に顧客への「接近」を中心としており、情動の「読み込み」に関するものではないように思えます。

 かつてITがもてはやされ、ITを知らざる者は時代のビジネスを展開する資格すらないように言われました。しかし、これもInformation(情報)のTechnology(技術)であって、情報加工の技術が中心に語られ、言葉を変えればInformation Toolと読むことが出来ます。

 今問われているのは、情報を細密に加工・分析する術ではないのです。その事実から読み取れる背景や、あるいは顧客が発信している言葉の裏にある情景までを、具体的に描き出す力です。他人の話を文章で表現する能力を持っていると、高く能力評価をされるケースもあります。「情報交換型」のスキルに関して多くのマーケティング・モデルが紹介され発信されてきました。これからは、「情動交感型」のマーケティング・モデルの研究開発が待たれます。(第24話に続きます)

kiyonosense2015

株式会社マップス 代表取締役 清野 裕司
Eメール: maps@mapscom.co.jp
URL: http://www.mapscom.co.jp

エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第1話)

第1話:2015年は地方でも景気回復を実感

 地方経済の厳しさが報じられているが、その背景には、大胆な金融緩和に伴う円安でエネルギーコストが上がったこともある。エネルギーや燃料は地方の方がより生活必需であり、このダメージが大きかったからである。

 ただし、原油価格が下落していることが、今後相当プラスに効くことが期待される。足元の原油価格をみると、2014年夏から5割以上低下する一方で、円安が2割弱進んでいるため、円建てでは3割以上下落している。原油価格が下がれば天然ガスも下がるため、仮にこの状態が今年1年間続けば、10兆円単位の所得の海外流出を抑制することができる。

 加えて、今年度の補正予算で、政府の再分配政策として地方の低所得者層向けに商品券などの配布、住宅エコポイント、フラット35Sの優遇を増やすことなども検討されている。今後、地方でも景気回復が徐々に波及すると思われる。

 世界経済にとって原油価格が低下することのプラス効果は非常に大きい。特に日本の最大の輸出相手先であるアジア諸国ではネットで原油を輸入している国が多いため、原油価格の下落が相当プラスになる。原油価格の下落は日本の輸出にとっても相当な追い風となろう。

 一方、米国経済も順調に推移すると思われる。米国経済はリーマン・ショックで相当落ち込んだことから需給ギャップがあり、まだ水準的に上がる余地がある。このため利上げが実施されても当面は低金利が続き、米国経済にとって良い環境が続くと思われる。

 他方、中国は経済構造を考えると高度成長から安定成長への移行期であり、ゆるやかに減速する局面にある。不動産市場の調整が懸念材だが、政策のテコ入れが行われ始めていることからすれば、減速しながらも6%台後半の成長が期待できる。また、欧州でもデフレ懸念があるが、ようやく欧州中央銀行も量的緩和に舵を切らざるをえない状況になってきたため、2015年は若干持ち直すと思われる。

 外国人観光客の誘致も重要な成長戦略といえる。政府は2020年までに訪日外国人旅行者数2,000万人を目標に観光立国を目指し、観光ビザの発給要件を緩和している。外国人観光客も2012年は836万人、2013年は1,036万人、2014年は1,300万人に達した可能性が高い。

 外国人観光客の経済効果は大きく、1,000万人観光客が増えれば、現在の外国人観光客の消費額でみても1.5兆円以上消費が増えることになる。島国英国でも3,000万人以上の観光客があることからすれば、日本も3,000万人程度の外国人観光客が訪れてもおかしくない。地方でも観光資源を生かすことで、地域経済を活性化させることは可能なはずである。(第2話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
第一生命経済研究所 
主席エコノミスト 永濱 利廣

濱 利廣 (ながはま としひろ)
第一生命経済研究所 主席エコノミスト

95年早稲田大学理工学部卒、05年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。
95年4月第一生命保険入社。98年4月より日本経済研究センター出向。 00年4月より第一生命経済研究所経済調査部副主任研究員、04年4月より同主任エコノミストを経て、08年4月より現職。

著書

「経済指標はこう読む」(平凡社新書)、「中学生でもわかる経済学」(KKベストセラーズ)、「スクリューフレーション・ショック」(朝日新聞出版)、「男性不況」(東洋経済新報社)、「図解90分でわかる!日本で一番やさしい『アベノミクス』超入門」(東洋経済新報社)、「図解90分でわかる!日本で一番やさしい『財政危機』超入門」(東洋経済新報社)、「エコノミストが教える経済指標の本当の使い方」(平凡社)、「知識ゼロからの経済指標」(幻冬舎)等。

経済財政諮問会議政策コメンテーター、総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事兼事務局長、一橋大学大学院商学研究科非常勤講師、跡見学園女子大学非常勤講師、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、㈱あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使。