清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く(第11話)

第11話:表現の違いは顧客が判別する尺度になります

 月に一度のペースで床屋に行きます。床屋の主人は、私と同世代。手を動かしながら、いつとはなしに昔話をしていることが多くなります。幼い頃に見た映画の話であったり、互いの記憶を辿った街並みのことであったり、約1時間の会話があっと言う間に過ぎていきます。

 その間に、店をのぞく人が何人もいます。床屋の場合には作業の段取り手順があるので、どこかの手順を抜くでもしない限り、人によって圧倒的に早く終わるということはありません。どうしても順番が来るのを待つことになります。子どもの頃は、漫画雑誌を読む絶好の時間でもあったのですが、今はどうも落ち着かない時間になってしまいます。そのような折、床屋の主人は待ち時間を、表現の違いでさりげなく伝えています。

 現在整髪中の客が最終工程に入っている場合には、「少しお待ち頂けますか」と、「少し」を使った疑問形で投げかけます。中間工程くらいの場合には、「少々お待ち頂くことになります」と、「少々」をつけた説明文。さらに数人が待っている場合には、「かなりお待ち頂くことになります」と、「かなり」を使って謝罪的な物言いになります。その使い分けには、明解な時間は一言も言っていません。しかし、言葉を聞く客の方が、自分なりに段取りを予測して時間計算をしているのです。

 短時間作業を売りにする床屋も、街角には多く見かけるようになりました。時を売ることも一つのサービス・マーケティングの要因です。ただ個人的には、床屋の主人のような「言葉の時間」が尺度になった空間で、しばしの時を過ごしたいと思います。そんな折は、人間性を持ったマーケティングを感じる時でもあります。(第12話に続きます)
kiyono 1005

株式会社マップス
代表取締役 清野 裕司

Eメール: maps@mapscom.co.jp
株式会社マップスURL: http://www.mapscom.co.jp

清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第10話)

第10話:顧客が驚くことを提供しよう

 日々繰り返される暮らしの時が積み重なって、自分の人生時間としてさまざまな事実が刻み込まれていきます。何事も無いという日は、実はないのですが、これといった驚きや未知との遭遇でもない限りは、やはり平凡に時は流れるのかと無意識の内に予定をこなすことが多いような気がします。そうした日常の繰り返しの中でも、ちょっとした喜びには出逢えるもの。その人なりの感性の濃淡が、事にあたっての驚きの様子を変えているのかもしれません。それは、今まで何ごともなく通り過ぎていた景色や情景のちょっとした違いに対するものなのです。

 同じことが、同じように繰り返されるだけでは、人は特段の驚きすら感じなくなってしまうもの。慣れてしまうと、価値も逓減してしまいます。驚きを感じるというのは、実はちょっとした変化に対するものです。しかし、そのちょっとしたことが、なかなか思い浮かばず、実行にも移されないことがあります。

 仕事柄、新幹線を利用して移動することが多くあります。その都度無感動なアナウンスに出会います。関西からの帰路、ほぼ決まって小田原近辺で「只今、この新幹線は時間通りに小田原駅を通過致しました」と誇らしげに告げるもの。乗客にしてみれば、時間通りというのは当然のことであって、その保証の元に新幹線に乗車をしているのです。いまさらのことを聞かされても、感動はありません。それよりも、小田原を通過した途端に、名物の蒲鉾を売りにこられた方が、驚きの感動を覚えるのではないかと思います(今までに体験したことはありませんが)。

 マーケティングを実践する人には、顧客が驚きを覚える手段や仕組みは何かを、常に自問自答することが望まれているのです。(第11話に続きます)
kiyono 1005

株式会社マップス
代表取締役 清野 裕司

Eメール: maps@mapscom.co.jp
株式会社マップスURL: http://www.mapscom.co.jp

グローバルなブランドづくり(第3話)

元フォーチュン誌日本代表清水氏の最後の第3話は、北九州にありますシャボン玉石けんさんの事例です。

Shabondama-1Shabondama-2

2011年11月21日発行号Fortune誌掲載の「シャボン玉石けん」PR記事です。

日本語訳はここをクリックしてご覧ください。

 マスターストーリーが明確になっている企業は規模の大小に関わらず、ブランドイメージが明確になり、企業ブランドが強力になります。フォーチュン誌で九州特集を何度か掲載しましたが、その中でシャボン玉さんという北九州にある石鹸の会社が参加してくれました。シャボン玉さんは昔、合成洗剤を売っておりましたが、ある時に無添加石鹸の注文があり、先代の森田社長が使ってみると長年患っていた湿疹が治り、その原因が合成洗剤にあることを知り、身体に悪い商品を売るわけには行かないと決心をして無添加石鹸の製造・販売に経営を切り替えました。そのために売り上げが1%に激減して社員も半分以上を失いました。それから17年間も赤字でしたが、ご自分の信念を貫き通し、合成洗剤の問題を指摘した本を出版し啓蒙活動を続けられていました。90年代に入りアトピーなどアレルギー疾患で悩む患者が多くなり無添加石鹸が一躍脚光を浴び、今では年商60億円の優秀な企業になっております。

 このように森田社長が金儲けの道を捨て「身体に良い石鹸しか売らない」という信念を持ち、想像を絶する苦労も厭わずにその信念を貫き通し、その結果、今ではアレルギーに困っている多くの人達の役に立っているというストーリーはそのままシャボン玉さんのブランドイメージになっているのです。フォーチュン誌の多くの読者もこのストーリーに共感してくれました。残念なことはシャボン玉さんの石鹸がまだあまり海外で売られていないので、読者がそれを手にすることができなった点です。私も知ってから友の会に入会しずっと愛用をさせていただいています。それはブランドストーリーの影響も大きいし、実際に製品が素晴らしいからです。

 このようにグローバルブランド構築にもいろいろと方法がありますが、雑誌を通じてのブランドづくりはストーリーテリングが一番だと思いますし、それは特別なストーリーでなく、自社物語で良いのです。私たち個人もアイデンティティは自己物語を他者と共有してそれを承認され、あるいは訂正されるという関係性の中でつくられるものなのです。つまり、「わたし」という認識は自分で勝手に頭の中でつくりあげるものなのではなく、場との相互作用でつくられるのです。機会がございましたら次は「場の理論」について触れたいと思います。

清水良胤氏
清水良胤氏

グローバルなブランドづくり (第2話)

タイムインク フォーチュン誌元日本代表の清水氏は第2話で「企業ブランドをストーリーで語る」ということがどういうことなのかをオリンパスさんの例で説明します。

olimpas1olompas22

2010年7月26日発行号オリンパスPR記事

 フォーチュン誌の日本特集に20年以上参加していただいた企業にオリンパスさんがおります。オリンパスさんは「胃の中を見ることができたら胃がんの患者を救うことができるのに」というお医者さんの話しを聞いて、胃カメラをつくることを決意するのです。当時は胃の中に入る小さなカメラをつくることは至難の業でした。しかも胃の中といっても一回の撮影で撮れるのは一部でしかないので、胃の中全部を撮るためには何枚も撮影できる必要があり、しかも胃の中は真っ暗なのでフラッシュも必要となります。そのフラッシュも何度も点灯するものでなければなりません。オリンパスの開発者は大学と協力して、非常な苦労の末に世界で初めて胃カメラを製造することに成功しました。このストーリーは4ページの記事広告として2004年にフォーチュン誌75周年号で掲載されましたが、500ページにも及ぶ記録的な厚さの号でしたが、その中にある広告の中で最も記憶に残るものとして選ばれました。つまりこういうストーリーは一回聞くと忘れられないのです。

 オリンパスさんはカメラメーカーとして有名ですが、現在は内視鏡のシェアが世界で70%を占める医療機器のトップメーカーです。オリンパスさんのカメラは世界中で販売しておりますので、フォーチュン誌読者の多くはオリンパスのカメラを所有している人が多いのです。記事広告で医療関連のストーリーを紹介すると、カメラの話しは何もしていないのに、「だからウチにあるオリンパスのカメラは素晴らしいんだ」と、多くの読者が勝手に連想してくれるのです。ストーリーで語るとどういうところが素晴らしいのかは読んだ読者の主観的判断になりますから、百人百葉のイメージが生まれます。そしてそれは読者が自分で主体的に判断したことになりますので、それを信じようとします。それでその企業に対するブランドイメージが固まっていくのです。

 もしオリンパスさんが自分達の優れているところを言葉に表して読者にアピールしたらどうでしょうか。例えば、企業イメージとして、「革新的な会社です」「技術力があります」何故ならば、世界で初めて胃カメラを開発しましたと読者に伝えたらどうでしょうか。確かにその通りかも知れませんが、あまり読者にはアピールしないでしょう。そこには共感するようなストーリーはないし、「革新的な会社」と言われてもそれは会社からの押しつけであり、読者が選択して判断したものではないのです。逆にストーリーから創られるイメージはいくらでもでてくるのです。「医学の発展に貢献している会社だな」「社員が本当に社会のために働いている会社だ」「人々の夢を実現する会社だ」などと本当に幅広いポジティブな強みや優れているイメージがその会社の生き方に共感する形で生まれるのです。

 このようにストーリーテリングで伝えることは読者に読む楽しみを与え、その企業への共感を呼び、読者が自分で感じたポジティブなイメージをつくりあげることができるのです。もちろんそのイメージもストーリーによって変わりますので、そのストーリーでどのようなブランドイメージになるのかは予め考えておいてストーリーを選ぶと良いでしょう。オリンパスさんのように会社のブランドをそのまま表現できるようなマスターストーリーはとても大切です。(第3話はシャボン玉石けんさんの例に続きます。)

清水良胤氏
清水良胤氏

Institutional Investor誌 9月号 「JAPAN特集」

image-ii201409coverimage-000

世界にとって日本は「型にはまらない経済学を研究するうってつけの場所」であると締めくくる2014年9月号Institutional Investor誌の「JAPAN特集」はアベノミクスの現状と今後を予想しています。結論は「第3の矢」のインパクトはまだまだ見えず、安倍首相は防衛問題に時間を割いている場合ではないと書いています。

「第1第2の矢」である金融政策、財政政策はそれぞれ海外からA評価、B評価をもらっていますが、「第3の矢」はE評価にとどまっています。

日銀がお札を刷り続けるうちに、インパクトのある政策を実現できなければ、時間切れになるだろう予想しています。実際債券市場はまだまだアベノミクスに対し懐疑的であるため、長期国債利回りが目標インフレ率の2%を目指す動きにはなっていないのが現状です。一番怖いのはこのマーケットがアベノミクスに対する信用を失墜させた時です。今のところ為替が円安安定に触れたのは評価できますが、これまで海外に生産拠点を移してきた輸出企業にとってまだ大きなインパクトはまだ出ていません。アベノミクスは為替だけで終わるという辛辣な海外エコノミストもいるぐらいです。

一方日銀当局が懸念するのは行き過ぎたインフレです。円安のコスト高に加え、建設業界の人手不足が拍車をかける可能性がありますし、全体の賃金上昇によって確実に消費も復活しているとみています。

同誌はインフレが実現してからでは、もはや第1、第2の矢は打てなくなるといっています。そのため「第3の矢」を急がなければなりませんが、インフレは思った以上早く達成される可能性が見えてきました。

サプライサイドにフォーカスした規制緩和の「第3の矢」がいつ効き出すかが今後の大きな課題です。IMF関係者には5年かかるとみている筋もあります。実際「第3の矢」のタイムテーブルをちゃんと安倍首相は公表していません。

高齢化が進む中、社会保障の増大で、思い切った財政政策が難しくなる一方ですし、日銀が不意な金利変動にどれくらい耐えられかも不透明です。

成功するか失敗するかは、今後の「第3の矢」の進捗状況にかかっていると言えるでしょう。

原文はこちらをクリックしてください。

 

Institutional Investor誌日本代表

ジパング・ジャパン

吉野晋吾