エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第11話)

第11話:日本経済は地盤沈下脱却の兆し

 GDPは、一国の経済活動を観察する上で最も総合的な経済指標である。GDPは国の経済規模を示したもので、国内でどれだけの財やサービスが生み出されたかを示す。このため、経済活動が活発になればGDPは拡大し、逆に後退すればGDPは縮小する。このことから、景気判断の際にも重要な経済指標の一つとなる。

 日本のGDPは内閣府が公式に推計・公表しており、2007年には名目GDPで513兆円に達した。しかし、その後はリーマン・ショックや東日本大震災により2009年と2011年には471兆円と1991年の水準まで落ち込んだ。2014年にはそこから若干盛り返して488兆円となったものの、依然としてピークの1997年から▲7%近くも低い水準に留まっている。

 国際比較をすると、地盤沈下はさらに深刻だ。世界のGDPに占める日本の比率を見ると、1994年時点では17.8%であったが、長期の景気低迷や中国をはじめとした巨大な新興国の台頭、更には円安などの影響により、14年時点で6.1%にまで縮小している。

 なお、国民の豊かさを示すとされる一人当たりGDPで見れば、日本は2013年時点で38,468ドルとなり、依然として中国の約5.5倍の水準にある。しかし、一人当たりGDPで見ても、日本は93年の世界第2位の水準から2013年には24位まで低下している。

 だが、各国の実質的な国民の豊かさを比較するには、各国の物価水準を考慮する必要があるため、為替レートで換算するのは正確な比較にならない。すなわち、各国の商品やサービスの価格から構成された為替レートである「購買力平価」で比較するのがより適切である。より実態に近いとされる購買力平価で換算した場合には、日本の一人当たりGDPは順位が最高となった91、92年でも6位に甘んじており、その後は順位を落とし、2013年にはアベノミクス効果で順位をひとつ改善させたものの27位にとどまっている。

 この背景には、世界経済が今世紀以降、大きな構造変化を起こしてきたことがある。振り返れば、経済のグローバル化が進む中で、世界の国際分業の進展や生産性の向上により、2003年頃から急激に世界経済は拡大した。しかし、07年に米国の住宅バブル崩壊に端を発した経済の不安定化は2008年9月のリーマン・ショックでピークに達し、世界経済は第二次大戦以降で最大の景気後退に直面した。

 IMFによれば、名目GDPで見た13年の世界経済の規模は75兆ドル前後となっている。00年の名目GDPが32兆ドル台であることからすれば、世界経済の経済規模はこの10年あまりで2倍以上に拡大してきたことになる。こうした状況では、日本経済の地盤沈下は仕方のないことだろう。(第12話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
第一生命経済研究所 
主席エコノミスト 永濱 利廣

清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第32話)

第32話:「未知」を「無知」とせずに気づかせることもマーケティングです。

 「おバカキャラ」という言葉を時に耳にすることがあります。雑学という名の常識を問うテレビ番組で、「知らない」ことをはやし立てるような場面に遭遇することもあります。知らないままにやり過ごしてしまう、そんな社会の風潮が気になります。

 マーケティングは、その存在自体を知らない人々や、存在は知っていても使い方や効率性を承知していない人々に、より良い方法や考え方を提示・導く役割も持っています。少なくとも、商品やサービスを説明する立場にある者は、その内容を勿論知らなければ話になりません。この商品はどのような場面で使うことが良いのか、このサービスはどのような状況の際に利用すればよいのか。答えは、使用者・利用者の学習によって高まってはいきますが、その前提として、提供者サイドが何か仮説をもっていなければ議論は始まらないですし、「どうぞご勝手に・・・」では、利用者側は何をどうすればよいのかすらわからぬままに終わってしまいます。

 「知らない」「聞いていない」の「未知」のままで済ませてしまうのではなく、知ろうとする行動を起こすきっかけを提供するのも、マーケティングの大きな役割のひとつです。広告“Advertising”は、広く知らせることに意味があるのではなく、その原義(元の意味)は、「気づいて振り返させる」ことを言います。闇雲に商品名や企業名を連呼することだけが広告ではないのです。はっと気づかせ、受けた本人が学習するきっかけを与えるものです。

 「未知」を「無知」と言って片付けてしまったのでは、未来に向けた道も未知のままで終わってしまわないかと、気になってしまいます。(第33話に続きます)

清野 裕司 氏
清野 裕司 氏

株式会社マップス 代表取締役 清野 裕司
Eメール: maps@mapscom.co.jp
URL: http://www.mapscom.co.jp

エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第10話)

第10話:エネルギー負担増解決の糸口

 化石燃料を安い値段で調達できるようになれば、企業業績の改善や消費者の消費拡大のみならず、中期的に企業の立地選択や雇用にも大きな効果が及ぶ。そして、海外移転を抑制して深刻な産業空洞化に歯止めをかける期待もあるといえよう。

 日本のLNGの割高感が今後解消に向かえば、コストや環境性の高さから、日本の火力発電は競争力の高い電源となり、発電業が有望な成長産業となる可能性がある。特に、我が国での発電市場を再建するに当たっては、電力制度改革を通じて自由化に耐えうる強い発電市場を日本に築く取り組みも必要である。

 なお、我が国のLNGは電力・ガス会社が個別に調達しており、これが日本のバーゲニングパワーを弱める大きな要因になっている。従って、業界の垣根を越えてLNG調達を一元化することが求められ、一刻も早く購入を一本化することを検討すべきである。すでに、中国や韓国は国を挙げて産ガス国と交渉している。従って、優位に価格交渉を進めるには需要を取りまとめる必要があり、そのためにも共同購入の実施やLNG火力の代替手段の確保をしつつ、日本近海に眠るメタンハイドレートの開発や効率の良い石炭火力の利用も検討すべきであろう。

 特に、石炭のクリーンな活用を目指す技術開発においては、高効率化と共にCO2の分離回収や貯蔵技術の実証研究も進められており、日本は世界の最先端を維持している。中でも、磯子火力発電所の発電端効率は低位発熱量基準で約45%と世界最高水準を誇るのに対して、発電電力量の8割近くを石炭に頼る中国やインドでは同3割程度という水準にとどまる。そして、もし仮に米・中・インドの全石炭火力発電所にこの水準を適用されれば、CO2削減効果は3カ国合計で日本全体のCO2排出量を上回るという試算もある。これは、世界のCO2排出量との関係で見れば、日本の最先端技術を適用することを通じて、世界のCO2排出量の5%分を削減できることになる。

 世界における電力の使用量は今後も増大することが予想されている。従って、世界的に環境問題が叫ばれている観点からも、日本の最先端技術やノウハウを海外に移転することが求められ、今こそオールジャパンで発電効率の向上を図ることを検討すべきであろう。既に、国内では環境への負担が全くない排出量ゼロの石炭火力発電も技術的に不可能ではなくなってきている。これは、CO2排出量を地球規模で削減させるにあたって、日本が果たすべき重要な国際貢献があることを意味する。それを実現するためにも、政府は排ガスからCO2を取り出して地中や海底に埋める技術と合わせつつ、石炭火力発電技術の世界への売込みを今以上に進めるべきであろう。(第11話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
第一生命経済研究所 
主席エコノミスト 永濱 利廣

清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第31話)

第31話:「四季」を感じる感性が、暮らしの文化を育んできたのですが。

 わが国の文化を言い表わす言葉に「四季折々の・・・」「四季が織りなす・・・」といった言葉があります。というよりも「ありました」と過去形で語る方が正しいかもしれません。漫然と過ぎ去るような時の流れにあってもなお、時々の季候の移り変わりを通して、きめ細やかな感性を育んできました。消費購買行動においても、暑さ、寒さに備えることで、生活の知恵を高めてきました。その時々の享楽のための消費は昔からもありましたが、そうした目の前のことよりも、これから起こることへの対応であり備えです。季節の変化が、消費行動を規定するひとつの要因として存在していました。しかし、このような変節が成り立たなくなって来たように思われます。

 凍える手に、はぁはぁと息を吹きかけながら、身体を丸めて歩く姿を全く見ることのない冬になってしまいました。マスクをかけている人の姿を見かけますが、防寒というよりも、花粉症対策のことがあります。暖冬の影響で花粉も早く舞い散ってしまうのでしょうか。暖かい日が続けば防寒用の衣料を買う必然性がなくなってしまいます。

 衣料品の分野での季節感は、女性の場合には非常に細やかに分かれていました。春夏秋冬は勿論、これに加えて「梅春」といった言葉で、何となく冬と春の感覚をブリッジしたものです。女性の繊細なファッション感覚に呼応するような細分化です。一方男性の方はといえば、あっさりしたもので、春夏物と秋冬物といった分類で、暑い時と寒い時の二分割です。それでもなお、春らしいモノとか秋を感じるモノといった評価語がありました。

 ここ数年は、一年の季節を「二季」で語ってしまう陽気です。冬は冬らしく寒く、夏は夏らしく暑い。その変化に細やかに対応することで暮らしの知恵が育まれてきたのですが・・・。一年が「二季」では、大雑把な感性がわが国に蔓延してしまいそうで、気になってしまいます。(第32話に続きます)

清野 裕司 氏
清野 裕司 氏

株式会社マップス 代表取締役 清野 裕司
Eメール: maps@mapscom.co.jp
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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第9話)

第9話:エネルギー政策がマクロ経済に与える影響

 2011年3月の原発事故以降、火力発電の燃料であるLNG(液化天然ガス)の輸入が急増し、貿易赤字の主因となっている。この背景には、日本がLNGを「ジャパンプレミアム」と呼ばれる高値で購入していることがある。事実、原発事故前は3兆円台だったLNG輸入額が2013年以降は7兆円を超えている。

 こうした中、日本のLNG輸入価格に影響を与える可能性があるのが、米国のシェールガス革命である。近年、米国では天然ガスへのシフトが進行している。硬い頁岩(けつがん)中のガスや石油を採取できる技術により生産量が飛躍的に伸びており、米国の天然ガス価格は100万BTU(英熱量単位)当たり3ドル程度である。仮に、液化と日本への輸送単価6ドルを足したとしても、日本が輸入している天然ガス単価の約16ドルよりも7ドル程度も安くなる。

 このため、米国で増産が進むシェールガスの存在からLNGの価格が下がる期待があり、価格面でも注目すべき材料となろう。将来、日本が北米等から直接買い付けることができれば、シェールガスの生産急増により化石燃料全体の価格を抑制する効果が期待される。更に、世界レベルで見て十分な供給があれば、原子力発電所の停止によって高い価格でLNGを買わざるを得ないジャパンプレミアムのような事態も解消されやすくなる。

 一方、日本の最先端技術によって脚光を浴びているのが、石炭火力発電である。石炭は北米や欧州など政情安定国を中心に世界中に広く分布しており、安価で安定的に入手可能なことから、未だに世界全体の発電量の4割を占めている。また、日本の石炭火力発電効率は平均4割以上の効率があるのに対して、新興国等では3割を下回っている国もある。こうした世界トップレベルにある日本の技術と共に、安定供給で安価なこともあり、日本経済の成長力に貢献することが期待されている。将来、日本が電気料金を安く抑えることができれば、電気代や安くなった分を他の投資に回すことにより経済成長につながる効果が期待される。更に、石炭は様々な地域から調達できることから、LNGのジャパンプレミアム事態も解消されやすくなる。

 2013年度実績においても、日本が1キロワットの発電をする場合、石炭では5円程度かかるが、それでも現在のLNG燃料単価の約13円に比べて6割ほど安くて済む。石炭は世界全体で産出でき、安定調達しやすいため、コストの高い原油に代わって常時稼動する主力電源として期待されている。

 日本でLNG価格を引き下げるには、LNGの輸入源と調達方法を多様化する必要があろう。現状、日本がシェールガスを輸入する場合、ガスを液化する費用や関税がかかるが、それでも現在のLNG価格に比べて2~4割ほど安くて済む。

 一方、日本で燃料費を抑制する策の一つとして、石炭火力発電の推進も有効といえる。石炭火力の新増設が可能となれば、LNG火力への集中を避けることが出来、貿易収支の改善にも繋がることは確かである。(第10話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
第一生命経済研究所 
主席エコノミスト 永濱 利廣