エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第13話)

第13話:農産物市場開放問題も関係してきた日本の地盤沈下

 日本経済の地盤沈下の裏には、企業の分配構造の変化により、従業員や支払利息への分配率低下と、海外を中心とした設備投資への分配率上昇がみられる中で、内需が低迷してきたという側面もある。

 この背景にも、新興国の台頭を契機とする経済のグローバル化がある。つまり、①製造業の生産拠点や販売市場の国際化、②マネーの国際化による資源高、③株主構成の国際化、といった要因によって輸出企業が景気回復を主導しても賃金が伸び悩み、内需が盛り上がらない構造が影響しているといえる。

 今世紀以降は、先進国と新興国、資源国が相互に依存する形で世界経済が変動してきており、日本経済も海外経済に影響されやすくなっている。そして、日本企業が新たに生産拠点の海外移転や委託、販売市場のグローバル化を進めてきたことも内需低迷の一因となってきた。また、販売の面でも人口減少で伸び悩む国内市場を補うため、企業の海外市場の開拓が進み、企業業績の海外依存度が高まってきた。

 更に海外進出の理由となってきたのが、新興国の人件費の安さや市場の成長期待だけではなく、関税や法人税といった税制面で日本が遅れをとってきたことである。

 近年では、各国のFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)による貿易や投資の自由化の進展により、人・物・金・サービス・情報のすべてにわたって、国境を超える移動を妨げる障壁が低くなっている。

 こうした中、日本企業はFTA締結に積極的なASEAN諸国などの生産拠点から輸出を拡張し、日本政府が自由貿易圏の構築に遅れを取る中で製造業の空洞化が着実に進んできた。日本がFTAやEPA交渉で他国に後れを取ってきた原因の一つに、農産品の市場開放問題がある。すなわち、農業従事者の雇用維持や食料自給率低下を防ぐ目的で、一部の品目に高い課税が課されている。しかし、農業では従事者の6割が65歳以上であり、新たな担い手が必要とされているにもかかわらず、他産業に比べて著しく所得が低く、雇用の受け皿としての期待にこたえる将来像が描けていない。一方で、所得向上の一役を担うと期待される大規模で効率的な経営を行う法人の数は増加しているが、その進展は不十分であり、数々の制度問題が農業の効率化を抑制している。このように、日本経済の地盤沈下の背景には、農産物市場開放問題も関係しているといえる。

 従って、一刻も早くJA全中の権限縮小やJA全農の株式会社化等の農業改革を進めるとともに、企業の農地所有の解禁の検討が求められよう。(第14話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
第一生命経済研究所 
主席エコノミスト 永濱 利廣

清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第34話)

第34話:"Excuse me”の心で相手を思い遣ることがMarketing心です。

 朝夕の通勤時には、否が応でも人とぶつかってしまいます。流れに乗って歩いていても、つい肩が触れ合うことがあります。そのときの状況のなせることなので、当事者相互は無言のままに目的方面へと向かっていきます。でも、なかには意識的に前に進み行こうとする人がいるもの。「自分の目的地はこの先にある。何とか前の壁をタックルで壊して、少しでも前に行かねば・・・」との想いが働くのでしょうか、猛烈な圧力を人の背中にかけてきます。だが、ひとつの壁を破っても、その先にまた壁がある。再アタックです。それ程急ぐ様子を見ると、今日は何よりも大切なミーティングの約束でもあるのだろうか、と思ってしまいます。

 人は自分ひとりで生きているわけではありません。多くの人との関係があってはじめて、人間の生活が成り立つもの。だからこそ、人の間に存在する「人間」なのです。自分の目的を達成するために、周りの様子を見なくても構わないという考えは成り立ちません。

 自分が何がしかの行為をすることで、他者に迷惑がかかってしまう時には、時に一歩控えめな対応が必要なことがあります。謝るというより、許容して貰うことです。マーケティングでも「パーミッション(許認可)」がキーワードとして語られています。出来上がったものをただ提示して、販売完了にするのではなく、次の段階に進むたび毎に許可を得るスタイルです。

 英語では“Excuse me”だが、日本語には多様な言い回しがあります。「すみません」「ちょっと失礼」「ご無礼致します」「ごめんなさい」。表現よりもその心。この国にあった“Excuse me”の精神は、いつから薄くなってしまったのでしょうか。(第35話に続きます)

kiyonosense2015

株式会社マップス 代表取締役 清野 裕司
Eメール: maps@mapscom.co.jp
URL: http://www.mapscom.co.jp

エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第12話)

第12話:世界経済の鍵を握る中国経済

 今世紀以降の高成長の背景には、グローバル化に伴い国境を越えた経済活動が活発化し、新興国や資源国の経済発展が促されてきたことがある。特に、新興国の台頭を加速させたのが、97年のアジア通貨危機以降拡大した先進国から新興国への直接投資の拡大である。すなわち、先進国が進めた国際分業が新興国の生産能力を大きく拡大させた。また、新興国における実体経済の成長を受けて、資源需要の高まりから資源価格が高騰する形で資源国への資金流入が拡大した。

 こうした資源価格上昇は金融的要因でも増幅された。投資銀行や機関投資家、ヘッジファンド等が資源関連投資を本格化させたためである。また、2000年のITバブル崩壊に端を発した先進国のデフレ懸念への対応で先進国の中央銀行が強力な金融緩和策を採用したことも、新興国の資産の収益率が高まる中で一段と新興国や資源関連への投資を活発化させた。

 安価な労働力を大量に供給する新興国の台頭により、世界的に工業製品の価格や人件費に低下圧力がかかる中、新興国や資源国の経常黒字が先進国の金融市場へ流入した。こうして、先進国、新興国、資源国における経済の相互依存関係が深まり、資源高と物価・金利の安定が共存したことが、世界経済が高成長を実現した大きな要因となった。

 先進国では金融バブル的な様相を呈し、アジアをはじめとする新興国や資源国の経済においても、景気拡大や世界的な金融緩和の恩恵が広がった。一方、日本のGDPは国内経済の停滞と世界経済に占める新興国シェア拡大等により、地盤沈下が進んできたといえる。

 2000年代後半までは、こうした新興国の安い労働力が世界的な分業体制に組み込まれ、そのための生産設備やインフラ投資の活発化は、新興国の余剰労働力が世界的な分業体制に全て組み込まれる所まで続くと想定されていた。

 しかし、足元では中国経済の減速やグローバル化のテンポ鈍化、金融市場の混乱に直面し、成長の動きは減速せざるを得なくなっている。背景には、世界金融危機後の中国が、大型の景気刺激先や金融緩和により投資に依存して景気回復を図ったため、過剰投資や信用の状況が一層悪化したことがある。その結果として生じた習近平政権による成長の質を重視した政策運営が、過剰生産や設備、信用の過剰解消等を通じて成長率の低下をもたらすことになっている。従って、今後の世界経済の成長率も中国経済が鍵を握っているといえよう。(第13話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
第一生命経済研究所 
主席エコノミスト 永濱 利廣

清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第33話)

第33話:「勝ち負け」「貸し借り」のバランス感覚が大切です。

 最近は「勝ち組/負け組」に代表される二者択一的な判断基準が横行しているように思うことがあります。どちらを選ぶかと言われれば、多くは「負」の状況よりも「勝」の状況を選択したくなるのも人情ではないでしょうか。しかし、一方の極があればその対極が必ずあるもの。両者のバランスによって人生は創り出されています。一方の極にのみ身を置いていると、どうしても思考の回路や、何よりも暮らしの姿勢自身が偏ったものになってしまいます。偏見、偏狭、偏食、偏屈・・・ほめられた言葉は並びません。

 ビジネスの世界も、経済的な対価のやり取りに限らず、業務上の貸し借りは常に存在するものです。なぜ自分だけがこんな思いをしなければならないのか、と苦渋に満ちた顔で現在の仕事を語る人がいます。しかし、終生そのような状況が続くわけではないのです。その仕事は多くの人に貸しを作っているはず。いつか利息がついて返ってくることがあります。ただ、その返済に気づかぬままでいることに注意しなければなりません。そうすると自分は貸しばかり作っていると思い込んでしまうからです。

 借りを作るよりも貸しを作った方が、将来が楽しみだと私は思っています。借りると返さなくてはなりません。それよりも、今の仕事がいつか廻って戻ってくることを楽しみにしていたいもの。マーケティングは、顧客への一方的な貸付ではありません。顧客から「ありがとう」の言葉が返ってくる、貸し借りのバランス行動なのです。まさに「情けは人の為ならず」を知ることです。(第34話に続きます)

清野 裕司 氏
清野 裕司 氏

株式会社マップス 代表取締役 清野 裕司
Eメール: maps@mapscom.co.jp
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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第11話)

第11話:日本経済は地盤沈下脱却の兆し

 GDPは、一国の経済活動を観察する上で最も総合的な経済指標である。GDPは国の経済規模を示したもので、国内でどれだけの財やサービスが生み出されたかを示す。このため、経済活動が活発になればGDPは拡大し、逆に後退すればGDPは縮小する。このことから、景気判断の際にも重要な経済指標の一つとなる。

 日本のGDPは内閣府が公式に推計・公表しており、2007年には名目GDPで513兆円に達した。しかし、その後はリーマン・ショックや東日本大震災により2009年と2011年には471兆円と1991年の水準まで落ち込んだ。2014年にはそこから若干盛り返して488兆円となったものの、依然としてピークの1997年から▲7%近くも低い水準に留まっている。

 国際比較をすると、地盤沈下はさらに深刻だ。世界のGDPに占める日本の比率を見ると、1994年時点では17.8%であったが、長期の景気低迷や中国をはじめとした巨大な新興国の台頭、更には円安などの影響により、14年時点で6.1%にまで縮小している。

 なお、国民の豊かさを示すとされる一人当たりGDPで見れば、日本は2013年時点で38,468ドルとなり、依然として中国の約5.5倍の水準にある。しかし、一人当たりGDPで見ても、日本は93年の世界第2位の水準から2013年には24位まで低下している。

 だが、各国の実質的な国民の豊かさを比較するには、各国の物価水準を考慮する必要があるため、為替レートで換算するのは正確な比較にならない。すなわち、各国の商品やサービスの価格から構成された為替レートである「購買力平価」で比較するのがより適切である。より実態に近いとされる購買力平価で換算した場合には、日本の一人当たりGDPは順位が最高となった91、92年でも6位に甘んじており、その後は順位を落とし、2013年にはアベノミクス効果で順位をひとつ改善させたものの27位にとどまっている。

 この背景には、世界経済が今世紀以降、大きな構造変化を起こしてきたことがある。振り返れば、経済のグローバル化が進む中で、世界の国際分業の進展や生産性の向上により、2003年頃から急激に世界経済は拡大した。しかし、07年に米国の住宅バブル崩壊に端を発した経済の不安定化は2008年9月のリーマン・ショックでピークに達し、世界経済は第二次大戦以降で最大の景気後退に直面した。

 IMFによれば、名目GDPで見た13年の世界経済の規模は75兆ドル前後となっている。00年の名目GDPが32兆ドル台であることからすれば、世界経済の経済規模はこの10年あまりで2倍以上に拡大してきたことになる。こうした状況では、日本経済の地盤沈下は仕方のないことだろう。(第12話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
第一生命経済研究所 
主席エコノミスト 永濱 利廣