エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第20話)

第20話:日本の将来世代の負担

 日本で特に大きい問題として世代間格差がある。少子高齢化、社会保障といった社会問題が絡んでくるため、これからの対応が非常に難しい課題と言っても過言ではない。

 世代間格差でよく言われるのが年金問題である。現在の高齢者は、自分たちが払った金額よりもかなり高い年金をもらっている。ところが、今の若い世代は自分が払った金額よりも少ない年金しかもらえない、将来は年金自体がなくなるという不安があり、それが若い人たちの国民年金加入率を下げるという負のスパイラルに陥っている。

 事実、1995年時点での0歳世代の生涯負担に対する将来世代の生涯負担の比率を計算すると、米国が51%、ドイツが92%、フランスが47%、スウェーデンがマイナス22%、ノルウェーが63%、カナダが0%、オーストラリアが35%なのに対して、日本は169%という突出した数字になっている。日本の将来世代は、生涯所得の48.4%もの負担を背負わなければならなくなるというデータも出ている。

 この背景には、国民年金や厚生年金が積み立て方式ではなく、現役世代が年金受給者を支える賦課方式であることが大きな要因としてある。人口分布がピラミッド型の構造の時代は、年金受給者を支える現役世代が多いため、1人当たりの年金支払額は少なくて済むが、これが逆転して逆ピラミッド型になると、現役世代に大きな負担がかかってしまう。厚生年金の場合、1940年生まれと2010年生まれでは、6000万円も受益・負担の格差があると試算されている。このようなアンバランスな受益者負担構造の背景には、急速な少子高齢化、膨れ上がった公共債務、長引いたデフレ経済、若い世代の雇用不安などがある。

 世代間格差は医療・介護の分野にも及ぶ。高齢者が増えれば医療費や介護費が増加し、それに伴い現役世代の保険料負担は増えていく。年金・医療・介護の全体における生涯純受給率を見ると、1950年生まれまではプラスだが、1955年生まれは3.1%のマイナスとなり、1965年生まれは▲6.7%、1975年生まれは▲8.8%、1985年生まれは▲10.7%、1995年生まれは▲12%、2005年生まれは▲12.7%、2015年生まれは▲13.2%と試算されている。現役世代の負担が将来的に増加していくのは、紛れもない事実と言える。

 年金に関しては、年金受給開始年齢の引き上げ、年金額の物価スライドの一時凍結など、さまざまな方策がとられてきた。また、医療保険や介護保険の分野でも、高齢者が受診する際、あるいは介護を受ける際の負担を引き上げるなどの工夫が凝らされている。しかし、高齢者の負担を引き上げるのは、そろそろ限界に達してきている。

 消費税を増税する際、政府はそれを社会保障に利用するとしているが、消費税を10%に上げても将来的には保険料が不足すると言われている。消費税は全ての消費者に同じ比率で課税するため逆進性の高い税制である。消費税をさらに上げるのは、低所得者層の生活を圧迫するものになる。そういった面を考慮すると、ピケティが提案する累進資本税の導入は難しいにしても、将来的に資産を多く持っている人に相応の負担をしてもらうことは避けられないのではないだろうか。(第21話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
第一生命経済研究所 
主席エコノミスト 永濱 利廣

 

第一生命経済研究所 経済調査部

主首席エコノミスト 永濱利廣

 

 

さて、このたびエコノミスト永濱氏の書籍が出版されましたので、ご案内させていただきます。書店やネット(下の写真をクリックしてください)でお買い求めいただけます。

永濱利廣著
永濱利廣著

図解 ピケティの「21世紀の資本」

トマ・ピケティの『21世紀の資本』が世界的に注目を集めました。

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第42話)

第42話:長期的に考える「ゆとり」が次代を描き創っていきます。

 産地を偽ったり、「そんなことは絶対にない・・・」と強く言い張っていた社長が、社員からの指摘で、渋々「実は・・・、自分が・・・、つい・・・。」と聞き取れぬほどのか細い声で記者会見場で下を向く姿。「一年後には手元のお金が倍になる」と言っていた人が、実は虚妄な行為であったとか。もう見たくないと思っていたものが、今も横行しています。何が嘘なのか。自分の暮らしの中に登場してくるのは、何をもって「真」と言えるものなのか。混乱が起きてしまいそうです。

 加えて生活必需品の多くが、値上げラッシュです。暮らしを防衛しようとする身を縮めたスタイルが蔓延してしまうのでしょうか。決して闊達な動きとは言えません。映画「ALWAYS 三丁目の夕日」に登場する昭和30年代をリアルに体験した者としては、当時の質素倹約とは次元が違うように感じます。

 当時は、次に来る世界への予感は明るいものでした。いつか自分にも、多くのものを手に入れた生活が来るはず。そのための今がある、と今日を励ます力が社会に溢れていたと思います。半世紀以上の時は流れましたが、今の耐乏感には、明日を描けない力のなさを感じざるを得ません

 そうした時代環境のなせることなのでしょうか、今の社会に「ゆとり」を感じさせません。眼前にあることに、直ぐに答を求めようとしてしまう風潮です。ゆっくりと考え、じっくりと育てて、といった感覚が乏しいのです。

 暮らしの中では、全てきちっとした答えが出るとは限りません。「まあまあ」とか「ぼちぼち」という、日本の伝統的な文化が薄くなってしまったようです。長期にわたって思考する力すら無くなってしまったのでしょうか。ふと、問題意識が浮かんできます。(第43話に続きます)

清野 裕司 氏
清野 裕司 氏

株式会社マップス 代表取締役 清野 裕司
Eメール: maps@mapscom.co.jp
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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第19話)

第19話:非正規雇用の問題は教育格差と密接に関係

 学歴社会という言葉が叫ばれ、庶民も高い学歴があれば豊かな生活ができるということで、日本の大学進学率は大きく伸びてきた。

 ピケティは、「かつて小学校しか卒業しなかった最下位グループが教育というはしごを一段ずつ上がって、まずは中学を卒業し、次に高卒資格を持つようになった。でもかつて高卒だったグループも、今度は大学や大学院にまで進学するようになった。言い換えれば、教育システムが民主化されても教育格差は廃絶されておらず、よって賃金格差も縮小されていないのだ」と述べているが、日本においても同じ状況が見られる。大学さえ出れば高い収入が得られるのではなく、レベルの高い大学を出なければ高い収入を得られる職業に就くのは難しいのが実態である。

 かつて国立大学は学費が安く、所得の少ない低所得層の受け皿という側面があった。ところが、現在は初年度の納付金が81万7800円という高額になっている。私立大学は文系の平均が約120万円、理系の平均が約150万円とさらに高額なため、低所得層の子供が大学に進学するのは非常に厳しい環境になっている。

 奨学金制度も大きく変わってきた。日本には給付型の奨学金はほとんどなく、その多くが貸与型の奨学金だった。日本育英会の時代は無利子で奨学金を貸与していたが、現在は日本学生支援機構という組織に変わり、利子が必要な奨学金が増えてきた。特定の仕事に就けば奨学金が免除される制度もなくなった。日本学生支援機構が独立採算制になり、奨学金が金融事業と位置づけられたことがその要因である。奨学金を受けて大学に進学しても、卒業後は多額の返済に追われることになる。

 一方、最近の調査では東京大学などの名門大学に入学する学生は、平均すると親の年収がかなり高いことが明らかになっている。大学への進学は、頭脳レベルや本人の努力という要素が大きいことも事実だが、教育にお金をかけることができる富裕層の子供が、より高い学歴を得ることができる構造になりつつある。

 企業が非正規雇用を増やすようになったことで、新卒の採用もかなり落ち込んだが、アベノミクス以降の就職率は回復している。就職率が上昇してきたのは、企業の業績回復によるところが大きいと考えられる。一般的に企業は、業績が改善してくるとまず残業を増やして対応する。さらに業績が上がってくると、人員整理が比較的容易な非正規雇用を増やす。終身雇用を原則とする正社員を増やすのは、さらに景気がよくなり、業績が安定してからのこととなる。

 このように就職率は上昇しているものの、2013年の調査によると非正規雇用の割合は依然として高い水準にある。非正規雇用の割合を男女別に見ると男性が20・3%、女性が44%、学歴別にみると大卒が20・4%なのに対して、高卒は42・8%、専修学校卒は35・7%となっており、男女格差、学歴格差の大きさがわかる。非正規雇用の問題も、教育格差と密接に関係していることがわかるといえよう。(第20話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
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主席エコノミスト 永濱 利廣

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永濱利廣著
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図解 ピケティの「21世紀の資本」

トマ・ピケティの『21世紀の資本』が世界的に注目を集めました。
しかし、原著(日本語版)は700ページを超え、完全に読みこなすのは難しいものとなっています。
本書では、難解な点を図にまとめたほか、ポイントを絞って原著に忠実に全体を解説しています。
あわせて、ピケティの著書や発言を参考にして、日本における格差問題やアベノミクスの評価について独自の解説を加えています。

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第41話)

第41話:「ひと味」の違いが結果を左右します。まさに「決定力」の差。

 2020年は東京オリンピック。世界が注目するスポーツイベントでは、どうしても日本選手の活躍を期待します。しかし団体競技でよく聞こえてくる言葉に「決定力不足」という声があります。

 同様のことは、ビジネスの現場でも良くあることです。「考え方はうまく決まったのだが、最終的にお客様に納得を得られなかった。」「そこそこの評価はあるものの決定するまでには至らなかった。」といった声です。当人は精一杯の努力をしたとの思いはあるのですが、結果が出ないケースです。「ビジネスは結果が全て」とは思いませんが、それなりの成果が出ないのであれば、企画し実行したこと自体がビジネスとして成立しなくなってしまいます。

 例え事前の準備で、どれ程の時間的な頑張りを見せたとしても、その「時間」に対しては「ご苦労様でした」の声しか得られません。「ありがとう」と握手を求められることはないでしょう。決定力は、そのプロセスの評価ではなく、結果に対する評価です。としたならば、プロセス自体を組み替え、見直していくことが必要になります。何も、日々の仕事全てに結果を求めているわけではありません。しかし、営業であれば「成約」、企画のスタッフであれば「採用」、企業全体で見れば「(目標)達成」が決定すべきことです。その一つひとつに、どのように取り組むのかが問われます。決め手になる「ひと味」を生み出す力です。

 決めるべき場面を想定して、日々120%の力を出すことを実行しなければ、決定の場においては100の答えが出ないと思います。スポーツでもビジネスでも、蓄えた120%の力が噴出する「ひと味」の場面を大切にしたいものです。(第42話に続きます)

清野 裕司 氏
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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第18話)

第18話:非正規雇用の増加の背景

 日本において、富裕層と中間層以下の格差問題よりも騒がれているのが、正規雇用と非正規雇用の格差問題である。かつて企業は単純労働者も正社員として雇用していたが、現在は単純労働者の多くが期間雇用や契約社員という形の非正規雇用となっている。単純労働ではない高度な技術を必要とする職種についても、非正規雇用が広がっている。

 一般的に非正規雇用の時給は、正社員の6割程度と言われており、非正規雇用が増えれば低所得の労働者が増える。非正規雇用の増加と同じようなカーブを描いていることから、その要因は非正規雇用の増加であることは明らかである。

 女性の場合は、非正規雇用の割合が6割弱と非常に高くなっている。ただし、年収100万円以下の労働者は、配偶者控除を受けようとする主婦がパートタイマーとして働いているケースがほとんどであるため、その分は差し引いて考えなければいけない。

 非正規雇用の増加は、経済がグローバル化して以降、その速度が加速している。新興国が台頭してきたことによって、安い労働力が供給されたことが主な要因である。言い換えれば、先進国と新興国の市場が一体化したことによって、企業における経済資源の「人」「物」「金」のうち、相対的に「人」の価値が下がってしまったのである。

 この一方で、介護分野や一部のサービス業など人手不足が深刻な職種も少なくない。いわゆる3Kと言われる仕事で、仕事がきつい割に給料が安いことから、正社員の離職率も非常に高くなっている。こういった分野に人が集まらないのは労働力のミスマッチが原因だと言われるが、それだけではない。また、就職しようとしている若者が最も気にしているブラック企業の存在も見逃すことはできない。こういった企業を離職した人が非正規雇用の道を歩むことも多い。

 また、最近の若者の働き方が多様化していることも指摘されている。正社員として拘束されることを嫌い、趣味や芸術など自分のやりたいことを続けながら、最低限の収入を確保するために非正規雇用を選んでいる人も少なくない。非正規雇用は企業の論理で生まれたものであるが、それをうまく利用して自分の働き方を見つけている人がいることも事実である。しかし、同じ仕事をするならボーナスや退職金をもらうことができ、終身雇用が保証されている正社員になりたいと思っている非正規社員もいるはずである。安倍政権になって導入された地域限定社員の制度には批判的な意見もあるが、そういった人たちの受け皿として機能する可能性も高い。

 もうひとつの問題は、日本では同一労働同一賃金のルールがきちんと定まっていないため、正社員と非正規雇用の賃金格差が大きいことである。欧米は同一労働同一賃金のルールが明確化されている国が多く、基本的に正社員と非正規雇用の時給は同じである。安倍政権の指導によって、一部の企業で非正規雇用のベースアップが実施されたが、まだ十分とは言えない。同一労働同一賃金がルール化されれば、ボーナスや退職金がなくても、正社員と非正規雇用の格差はかなり縮まるはずである。(第19話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
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主席エコノミスト 永濱 利廣

さて、このたびエコノミスト永濱氏の書籍が出版されましたので、ご案内させていただきます。書店やネット(下の写真をクリックしてください)でお買い求めいただけます。

永濱利廣著
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図解 ピケティの「21世紀の資本」
トマ・ピケティの『21世紀の資本』が世界的に注目を集めました。
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