エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第121話)

第121話:7-9月期の平均気温+1℃上昇で家計消費が+3,200億円

 今回は、過去の気象の変化が家計消費全体にどのような影響を及ぼしたのかを見てみよう。内閣府『国民経済計算』を用いて、7‐9月期の実質家計消費の前年比と東京・大阪の平均気温や日照時間の前年差の関係を見ると、両者の関係は驚くほど連動性があり、7-9月期は気温上昇や日照時間が増加したときに、実質家計消費が増加するケースが多いことがわかる。したがって、単純に家計消費と気温や日照時間の関係だけを見れば、猛暑は家計消費全体にとっては押し上げ要因として作用することが示唆される。

 ただ、家計消費は所得や過去の消費などの要因にも大きく左右される。そこで、国民経済計算のデータを用いて、気象要因も含んだ7‐9月期の家計消費関数を推計してみると、7‐9月期の日照時間や平均気温が同時期の実質家計消費に統計的に有意な影響を及ぼす関係が認められる。

 そして、過去の関係から読み解くと、7-9月期の日照時間が+10%増加すると、同時期の家計消費支出が+0.38%程度押し上げられることになる。これを気温に換算すれば、7-9月期の平均気温が+1℃上昇すると、同時期の家計消費支出を約+3,212億円(+0.5%)押し上げることになる。

 したがって、この関係を用いて今年7-9月期の日照時間が記録的猛暑となった1994年および2010年と同程度となった場合の影響を試算すれば、日照時間が平年比でそれぞれ+30.5%、+22.2%増加することにより、今年7‐9月期の家計消費はそれぞれ前年に比べて+6,904億円(+1.2%)、+5,026億円(+0.9%)程度押し上げられることになる。

 また、家計消費が増加すると、同時に輸入の増加などももたらす傾向がある。このため、こうした影響も考慮し、最終的に猛暑が実質GDPに及ぼす影響を試算すれば、94年並となった場合は+4,220億円(+0.3%)、2010年並となった場合は+3,072億円(+0.2%)ほど実質GDPを押し上げることになる。このように、やはり猛暑の影響は経済全体で見ても無視できないものと言える。

 しかし、猛暑効果だけを見ても経済全体の正確なトレンドはわからない。猛暑の年は、夏が過ぎた後の10~12 月期に反動が予想されるからだ。過去の例では、1994年、2010 年とも7~9月期は大幅プラス成長を記録した後、翌10~12 月期は個人消費主導でマイナス成長に転じているという事実がある。

 つまり、猛暑特需は一時的に個人消費を実力以上に押し上げるが、むしろその後の反動減を大きくする姿がうかがえる。猛暑効果により売上を伸ばす財・サービスは暑さを凌ぐためにやむなく出費するものが多い。したがって、今年も猛暑効果で夏に過剰な出費がなされれば、秋口以降は家計が節約モードに入ることが予想されるため、秋以降は注意が必要だろう。(第122話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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第一生命経済研究所
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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第120話)

第120話:今夏は猛暑の見込み

 今夏は暑くなることが予想されている。気象庁が6月23日に発表した7‐9月の3ヵ月予報によると、太平洋高気圧の張り出しが強く、暖かい空気に覆われやすいため、気温は全国的に平年より高くなる見込みとされている。

 近年では、2010年が観測史上最も暑い夏と呼ばれている。当時の気象庁の発表によると、6~8月の全国の平均気温は平年より1.64℃高くなり、1898年の統計開始以来、最高の暑さとなった。この猛暑効果で、2010年6月、7月のビール系飲料の課税数量は前年比2ヵ月連続プラスとなった。同様に、コンビニ売上高も麺類や飲料など夏の主力商品が好調に推移したことから、既存店前年比で7月以降2ヵ月連続プラスとなった。

 また、小売業界全体を見ても猛暑効果は明確に現れた。7月の小売業界の既存店売上高伸び率は猛暑の影響で季節商材の動きが活発化し、百貨店、スーパーとも盛夏商材が伸長したことで回復が進んだ。家電量販店の販売動向もエアコンが牽引し、全体として好調に推移した。

 2010年は小売業界以外にも、猛暑の恩恵が及んだ。外食産業市場の全店売上高は7月以降の前年比で2ヵ月連続のプラスとなり、飲料向けを中心にダンボールの販売数量も大幅に増加した。また、ドリンク剤やスキンケアの売上好調により、製薬関連でも猛暑が追い風となった。

 さらに、乳製品やアイスクリームが好調に推移した乳業関連も、円高進行による輸入原材料の調達コストの減少も相俟って、好調に推移した。化粧品関連でも、ボディペーパーなど好調な季節商材が目立った。一方、ガス関連は猛暑で需要が減り、医療用医薬品はお年寄りの通院が遠のいたことなどにより、猛暑がマイナスに作用したようだ。

 以上の事実を勘案すると、仮に今年の夏も猛暑となれば、幅広い業界に恩恵が及ぶ可能性がある。

 事実、過去の実績によれば、猛暑で業績が左右される代表的な業界としてはエアコン関連や飲料関連がある。また、目薬や日焼け止め関連のほか、旅行や水不足関連も過去の猛暑では業績が大きく左右された。そのほか、冷菓関連や日傘・虫除け関連といった業界も、猛暑の年には業績が好調になることが多い。

さらに、飲料の販売比率の高いコンビニや猛暑による消費拡大効果で、広告代理店の受注も増加しやすい。缶・ペットボトルやそれらに貼るラベルを製造するメーカー、原材料となるアルミニウム圧延メーカー、それを包装するダンボールメーカーなどへの影響も目立つ。

 さらには、ファミレスなどの外食、消費拡大効果で荷動きが活発になる運輸、猛暑で外出しにくくなることにより販売が増える宅配関連なども、猛暑で業績が上がったことがある。一方、食料品関連やガス関連、テーマパーク関連、衣類関連などの業績には、過去に猛暑がマイナスに作用した経験が観測される。(第121話に続きます)

永濱 利廣 氏

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戦略を考える基本(BASICS)を知る。

第18回:戦略は「構想」→「構造」→「行動」の連繋を考える。

 戦略を考え組み立てるのは、現状を解析することに止まらず、未来への道を描くことが中心です。どうしても一人の発想だけでは、考え自体が狭い領域に止まってしまうことがあり、他者との議論を通じて、視点を多様に持つことが大切です。
 その際には、常に「構想」→「構造」→「行動」の連繋を心掛けておかなければなりません。
 また、戦略の組み立ての際の基本を押さえているかも見直したいものです。基本はBASICS。頭文字で覚えておくと、自分自身のチェックリストにもなります。

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 2016年11月の九州生産性本部での授業風景
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代表取締役 清野 裕司

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「清野裕司のマーケティング考 風を聴く」

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第119話)

第119話:実は増えてなかった2016年の一般労働者の所定内給与

 厚生労働省の賃金構造基本統計調査によれば、2016年の一般労働者の所定内給与は前年比横ばいにとどまった。

 これを性・年齢階級別にみると、45~54歳男性と60代女性の賃金が下落していることがわかる。労働者数のボリュームを勘案すれば、40代後半~50代前半の男性が最大の賃金押し下げ要因となっていることが推察される。背景には、バブル期前後の売り手市場で大量採用された世代であるがゆえに、昇進率の低下等により平均賃金が下がっている可能性が高い。

 また、学歴別にみると、中高学歴(大学・大学院卒や高専・短大卒)の中高年男性の賃金が押下げに効いていることがわかる。こうしたことから、学歴による賃金格差が縮小する傾向にあることが読み取れるが、相対的に人手不足感が低いホワイトカラーの賃金が上がりにくくなっていることを示唆している。

 一方、企業規模別にみると、大企業の男性賃金のみが全体を押し下げていることがわかる。これは、企業規模による賃金格差が縮小傾向にあることを意味し、相対的に人手不足感が強い中小企業の賃金が上がりやすくなっている可能性が高い。

 さらに雇用形態別にみると、45~54歳男性、60代前半男性、60代女性それぞれの正社員の賃金が全体を押し下げていることがわかる。これも、正社員と非正社員の賃金格差が縮小傾向にあることを意味するが、60代正社員については定年延長等による賃金低下が響いていることが示唆される。

 以上より、賃金上昇の足を引っ張っているのは45~54歳の大企業男性正社員であると考えられ、この世帯は消費支出額も大きいため、個人消費低迷の一因になっていると考えられる。この世代はバブル期の大量採用で出世率が低いことに加え、人手不足感が相対的に低いため、賃金が上がりにくくなっている可能性が高い。一方で、高卒・中小企業・非正社員の賃金がそれぞれキャッチアップ過程にあることからすれば、生産性に見合った賃金への調整過程にあるともいえよう。他方、シニアの賃金も平均賃金の足を引っ張っているが、これはむしろ労働力率上昇を通じて人手不足緩和に貢献している可能性があり、総賃金でみれば増加要因と前向きにとらえることができる。

 こうして見ると結局、日本で平均賃金の上昇を阻んでいるのは、人手不足感が低い企業や職種から人手不足感の高い企業や職種に人材が異動するような労働市場の流動化が乏しいことも一因と推察される。特に最も賃金上昇の足を引っ張っている45~54歳の大企業男性正社員の労働市場の流動化を阻んでいる背景には、同じ会社で長く働くほど賃金や退職金等の面で恩恵を受けやすくなる日本的雇用慣行があると考えられる。

 従って、日本の個人消費を本格的に回復させるために必要な恒常所得を引き上げるためには、正社員の解雇ルールの明確化や職業訓練なども含めた転職支援の充実が必要となってこよう。(第120話に続きます)

永濱 利廣 氏

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第117話)

第117話:生活者の「ご近所」を知ることは暮らしを知る糸口になります。

 現代の都会生活では、自分たちの生活は自分たちなりにデザインするものとして、身近にいる他者に対して、さほど関心を示さなくなったようです。長く隣り合わせにくらしていながら、その隣人の名前すら知らずに過ごしている場合もあるのですから、そこの家族構成は知るよしもありません。家路を急ぎながら、たまたま同じ方向に歩く普段見かけない人に出会ったと思えば、隣りに住む人であったなどという話を聞くことすらあります。

 そもそもわが国の文化には、近所との深い付き合いがあったはずですが、いつの間にか希薄になり、それ以外の分野での「5つの近所=ご近所」が出来てきてしまったようです。

 1つには「情報的近所」。一度も直接会ったこともなく、会話を交わしたこともないにもかかわらず、テレビを通して毎日のように顔を見ていると、いかにも自分の身近な友人の一人にでもなったように感じる近所感。吉本興業の芸人などは、近所の一人かもしれません。

 2つには「時間的近所」。デリバリーの拠点がどこにあるのかは承知しないにもかかわらず、頼んだピザは30分程度で自宅にまで届きます。時の短さは、個人的に近所の店です。

 3つには「空間的近所」。次々にオープンする開発された地域があります。丸の内、日本橋と旧来の街が様を変えました。そのような同質的地域に足を踏み入れると、同類の人種ばかり。何となく自分もその中の一員と信じて安心するのでしょうか。

 4つには「精神的近所」。距離的に離れて暮らしているが、常に身近な存在である田舎暮らしの両親や、学生時代の友人などは、この部類の近所でしょう。

 そして5つには「人間的近所」。年齢的には離れていても、その人の生き方や行動に共感を覚えるような、個人に対する近い意識です。

 こう見てくると、まさにさまざまな近所意識があるものです。敢えて5つの近所感から「5(ご)近所」とでも言えるでしょう。マーケティングを展開する企業は、生活者にどのような近所感を提供しようとしているのか、常に考慮しておきたい点のひとつです。(第118話に続きます)

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代表取締役 清野 裕司

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今、経営に新たな思考力が求められています。市場にはどのような風が吹いているのでしょうか。風の音に耳を澄ませていると、次代に向けた風の通り道から、マーケティング思考で未来への道標が浮かんでくるかもしれません。それはまた、自分の心に吹く風の音を聴くことにも繋がるのではないか考えました。

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