エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第131話)

第131話:望ましい消費増税の仕方

 マネーのグローバル化により世界の実質金利が収斂しやすくなっている。こうした側面から考えると、財政赤字の拡大はより金利が上昇しにくくなる方向に働くため、自国通貨の押し上げ効果は限定的となる可能性がある。将来が不安な上に、さらに国債発行が増えて政府の借金が増える、と市場が感じたら、自国通貨はむしろ増価しにくくなることも考えられよう。

 こうした中、財政再建にあたっては、歳出の徹底した効率化が不可欠となろう。ただ、日本は教育にかける予算が先進国中最低クラスであることからすれば、子供の教育のために国民に負担増を求めることへの批判は比較的少ないだろう。また、現在の安倍政権では経済成長を重視しているため、増税が可能となる経済環境が整う前には増税が実施されにくく、自ずと「景気配慮」が働くことが期待されている。

 この背景には、不況下で財政赤字を増税で賄い始めた場合、税収不足が拡大し続けてしまう可能性がある。不況下で増税を重ねれば、いずれ首が回らなくなるのは日本も海外も同じである。これが不況下での増税の最大の問題点である。

IMFの試算によれば、日本のGDPギャップはまだマイナスであり、デフレに完全に歯止めがかかっているとは言い難い。国内需要の回復による景気押し上げ圧力が弱い中で少子高齢化という課題もある。このような状況の下では、経済に対して緊縮財政によるショックを与えるのは適当ではないだろう。

 こうした中、消費税率の引き上げは、購入価格の上昇を通じて景気に悪影響を及ぼす。実際に行われなくても、そうした議論が盛り上がるだけで、個々の家計が将来の負担増に対する不安感を過度に高め、こうした不安は個人消費に悪影響を及ぼすことは、2014年4月の消費税率引き上げ後の状況からも実証済みである。もし、その結果として景気が低迷して税収が減少したら、いずれは財政再建の進展をも妨げる可能性もある。

 他の増税も同じである。従って、家計の負担増が個人消費や景気動向に大きな悪影響を及ぼすことのないように慎重に議論を進め、その結果、特定の時期を設定せずに、目標とする名目成長率や雇用者報酬の伸びが達成されたところで実施するのも一つの案だろう。 経済がこうなるまで増税しないというターゲットを示す方が国民の理解を得られやすい。具体的に、雇用者報酬の前年比が安定的(例えば3四半期連続)に2%を超えたら、例えば消費税率を2%上げる方針を掲げてもよいのではないだろうか。政局に左右されずにスムーズに消費税率の引き上げが可能になるものと思われる。

 ただ、日本経済がデフレに陥った90年代後半以降の名目GDPと雇用者報酬の前年比を見ると、2016年第1四半期から第4四半期まで4期連続で前年比2%を超えているが、2017年第1四半期で同1.0%にまで減速してしまっている。結局、消費税引き上げが可能となる経済環境を実現するには、先ずは完全なデフレ脱却が必要条件ということであろう。(第132話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

さてこの度、永濱氏の書籍が出版となりましたので、ご案内させていただきます。何卒よろしくお願いします。

『エコノミストの父が子どもたちにこれだけは教えておきたい大切なお金の話』~自分の息子と娘のために語り下ろす「お金」の教科書~


〇教育現場でも中高生から経済学や投資の基礎知識などを教えるべき、という声が広がっているが、それ以前にもっと身近な「お金とのつきあいかた」を知るべきではないか、という思いを込めた1冊。

〇「クレジットカードの仕組み」「なぜカンタンにお金が借りられる?」「友だちとのお金の貸し借り」「ものの値段の決まり方」「バイト代や給料の仕組み」「お金がなくなったときどうすればいいのか」「お金を増やすことはできるのか」「無料はほんとうに得なのか?」「君たちもすでに税金を払っている」「修学旅行や部活にだって保険はある」など、中高生の日常に身近なことから「お金とのつきあいかた」を教える。

〇お金で不幸にならないために、お金で人を不幸にしないために、父親としての願いをまとめた一冊。

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第122話)

第122話:社会的な口伝(くでん)が常識心を育むと思うのですが。

 最近は「しゅうかつ」に二種類の漢字が当てはまるようです。「就職活動」の「就活」。そして人生終盤期の「終末活動」を言う「終活」です。歳重ねた身としては、個人的には後者を心すべきことかと思いますが、未来をつくり行く前者の「就活」をしている若者のことが気になります。

 社会人と呼ばれて数十年も経過すると、ふと思い起こすことがあります。幼い頃、誰言うことなく「口伝:くでん=口頭で伝えること」で染み付いた幾つかの習慣のことです。

 「“ハイ”と返事の良い子供」「嘘つきは泥棒の始まり」「ハンカチ,ちり紙忘れずに」「今日も頑張って・・・」「ご飯を残すのはもったいない・・・」「生き物をいじめると罰(バチ)が当たる」「今日出来ることは明日まで延ばすな」・・・

 一つひとつの言葉を、どこで誰から聞いたのかは定かではありません。小学校の折の担任の先生からであったか、家で父か母からか、または3歳まで存命であった祖母からであったのか、それぞれの場面の記憶はありません。あるのは、その言葉の持っている意味です。

 社会生活を営む上で必須の要件の幾つかです。R.フルガムの著した「人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ」(河出出版)を思い起こします。幼い頃の刷り込みは、半世紀以上の生を受けた今になっても忘れることはないもの。特に「ハイ」の返事です。

 最近の若いビジネスパーソンと話をしていて気になることは、返事が聞こえないことと、単語の言いっ放しにあります。ファストフード店でのオーダーで「ハンバーガーとポテト」と、単語だけでのコミュニケーションの類です。

 社会的な口伝が乏しくなったのでしょうか。また、孔子が子どもに教え伝えた「庭訓:ていきん=家庭の教訓」が薄くなったからでしょうか。(第123話に続きます)

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 2016年11月の九州生産性本部での授業風景
株式会社マップス 
代表取締役 清野 裕司

当ブログの寄稿記事を元に加筆編集しました新書が出ましたので是非お読みください。

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「清野裕司のマーケティング考 風を聴く」

今、経営に新たな思考力が求められています。市場にはどのような風が吹いているのでしょうか。風の音に耳を澄ませていると、次代に向けた風の通り道から、マーケティング思考で未来への道標が浮かんでくるかもしれません。それはまた、自分の心に吹く風の音を聴くことにも繋がるのではないか考えました。

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第130話)

第130話:必要となる金融政策との合わせ技

 欧米諸国で90年代に多くの国が財政赤字問題を概ね克服した中では、緩和的な金融政策も財政再建の鍵を握った。緊縮財政は歳出削減や増税により何がしかの景気下押しを伴う。そこで中央銀行が金融を緩和すれば、緊縮財政過程における景気下押し圧力を軽減することができる。中央銀行はまさに「政府のサポート役」となった。

 そうした景気下押し圧力を緩和したメカニズムとして、「インフレ目標」政策を採用したことで長期金利の上昇が抑制されたといわれている。この「インフレ目標」政策は、先進国で採用されている一般的な金融政策の枠組みであり、日本でも金融政策の核になっている。

 実際、90年代からインフレ目標政策を採用した国では経済成長率が高まる一方で、インフレ率低下が財政健全化にも大きく貢献している。仮にインフレ目標を導入していなければ、長期金利が景気の実勢以上に上昇し、それに伴う設備投資の下振れを通じて、経済成長率が押し下げられた可能性がある。従って日本でも、金融政策による金利や為替、資産価格等への働きかけを通じて、財政再建に導く経路が重要となる。しかし、我が国では15年以上にもわたってデフレ対策が不徹底であり、残念ながら金融政策が十分機能してこなかった。こうしたところに日本の停滞の大きな原因が潜んでおり、日本の財政に悪循環をもたらしてきたといえる。

 そして、名目成長率から長期金利を引いた差が政府の超過収益率、平易に言うと借金減らしに使えるお金である。つまり、名目成長率が高まれば税収、つまり政府が借金減らしに使うお金が増える。一方、長期金利が低下すれば、政府が利払い費に回すお金が減ることになる。従って、政府債務残高/GDPの上昇を食い止めるには、景気と金利に影響を与えることができる金融政策が鍵を握る。

 このように、緊縮財政や財政出動による効果は金融政策によって大きく異なるが、この関係はマクロ経済学の教科書で「マンデル=フレミング効果」と呼ばれている。これは、金融政策が不変の下で財政出動が行われれば、金利上昇を通じて自国通貨が増価し、設備投資や外需の抑制を通じて財政出動の効果が減殺されてしまう効果のことを示す。つまり、お金を使おうとしない民間からお金を借りて政府が使えば、国債発行が増える。国債発行が増えれば金利が上がり自国通貨が増価する。そうすると、外需が減ってGDPがさらに減って…財政政策の効果が相殺されるメカニズムが「マンデル=フレミング効果」である。

 ただし、今般の我が国のように、本格的なデフレ脱却のための財政出動を決断しなければならない場合には、同時に金融緩和策も行われることが多く、金融緩和により金利上昇や自国通貨の増価を抑制できれば、結果として、財政出動の効果が高まることにつながる。これが「マンデル=フレミング効果」の本当の意味である。(第131話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

エコノミスト永濱氏の新刊も是非お読みください。
60分でわかる「マイナス金利」
第一生命経済研究所
首席エコノミスト:永濱利廣(監修)

mainasu2016年1月29日に日銀の金融政策決定会合で決定され、2月16日から実施された「マイナス金利」。

プラスであることが当たり前の金利がマイナスになるとは、いったいどういうことなのか?

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第129話)

第129話:財政再建と景気回復の優先順位

 基礎的財政収支の赤字を解消して、名目金利を名目成長率以下に抑える条件は、「ドーマー条件」と呼ばれる。この『ドーマー条件』が実現すれば、財政の安定化は達成されることになる。長期的な関係を見ても、多くの主要国において、名目成長率が国債利回りを上回る「ドーマー条件」を満たしていた事実がある。このため、財政再建のシナリオを議論するときに、成長率が高くなればそれ以上に利回りが高くなってしまうと考えるのは誤りである。

 一方で、1990年代の欧米諸国における緊縮財政は景気回復につながるケースも多かった。欧米諸国では、90年代に多くの国が財政赤字問題を概ね克服している。その第一の特徴は、ドイツなど一部の国を除き歳出削減を中心とする財政再建策であったことである。ところが第二の特徴として、多くの国が財政バランスの改善と景気回復の両立に成功したとされている。つまり、国は多額の歳出を削減して財政再建策をとったのに、当時の欧州諸国の経済成長を見る限り、景気が大きな歳出削減の影響を受けたようにみえないのである。

 そこには、我が国には参考にならない経済のメカニズムがある。この議論でよく指摘されるのが「非ケインズ効果」である。『非ケインズ効果』とは、政府債務の削減が将来の増税観測を低め、消費を促進することで景気回復にプラスに働く効果のことを指す。1980年代のデンマークやアイルランド、1990年代のスウェーデンやイタリアなどでみられたとされる現象であるが、これらの国で緊縮財政が行われた背景には、財政赤字の拡大により金利が急騰して金融危機が発生したことがある。このため、財政赤字の削減が長期金利の低下をもたらし、これが民間設備投資などに好影響を及ぼしたことが実証される。つまり、直接的に消費を経路として景気が回復したわけではない。これは、財政再建が消費者の信頼感を高めて消費を促進する『非ケインズ効果』ではなく、金利低下による民間設備投資の増加等を経て回復に寄与した「クラウドイン効果」である。

 翻って日本の現状を考えると、長期金利は低水準にある。つまり低下余地は非常に乏しい。このため、日本が緊縮財政に取り組んだとしても、90年代初頭の欧米諸国のような金利低下による景気刺激効果は期待薄である。また、日本は貯蓄超過すなわち経常黒字国であるため、国債を国内で消化できることに加えて、日銀がイールドカーブコントロールにより長短金利を抑え込んでいることが低金利常態化の要因である。つまり、我が国のような経常黒字国で低金利が常態化している場合は、むしろ緊縮財政が景気に悪影響をもたらすのである。これは、国債が国民の貯蓄で賄われていることから「ケインズ効果」が働く可能性が高く、景気回復による財政再建効果が出やすい構造にあることを意味している。(第130話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
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永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第128話)

第128話:財政再建による景気回復は望み薄

 日本政府の借金がどれだけ深刻な状況にあるかを考えてみよう。国際通貨基金(IMF)によれば、日本における一般政府(国と地方自治体等)の借金残高は、2016年に名目国内総生産(GDP)の2.5倍に上り、主要先進国中で最大である。しかし、2015年には一時的に低下しており、アベノミクス以降の債務残高/GDPは、実は上昇ペースが急速に低下している。

 財政赤字は政府の借金の増加分を示すが、これも2016年時点で名目GDP比4.5%まで縮小し、米国の同5.0%を上回ることでG7諸国の中で最悪のポジションから脱出している。これは、政府の財政問題は景気が良い時に改善しやすいということを示している。

 まず、なぜ財政赤字が減ったかを見ていこう。2016年における政府の財政赤字/GDPは4.5%であった。アベノミクス始動前の2012年は8.1%であったことからすれば、この4年間で財政赤字/GDPは45%近く減っていたことがわかる。

 背景には、2014年4月の消費税率引き上げにより消費税収が増加したこともあったが、それ以上に異常な円高・株安の是正に伴う企業収益の拡大により法人税収が増えたことや、資産価格の上昇を背景とする金融・土地取引関連の税収増による影響が大きかった。

 つまり、財政赤字/GDPが改善したのは、アベノミクスによる景気回復により歳入が増えた要因が大きい。また、税収がより顕著に増えた裏側には、税務上の損失繰り延べ期限を迎えた企業が多かったこと等により、企業が利益に見合った税金を払うようになったこともある。これが、この時期に税収が大きく押し上げられた理由である。

財政危機を回避するためには、政府債務/GDPの上昇を食い止める必要がある。つまり、政府債務/GDPの持続的上昇を食い止めれば、財政の安定化が進むことになる。そして、この問題については、基礎的財政(プライマリー)収支、つまり財政赤字から純利払い費を除いた考え方が必要となる。要するに、債務返済や利払い費を除いた歳出と、国債などの借金を除いた歳入との収支が重要である。

 基礎的財政収支が均衡すれば、その年の政策に必要な経費を税収で賄え、必要な公債発行は過去の債務の元利払いに充てる分だけになる。そして、名目GDP成長率と債務の利回りの水準が等しくなれば、債務残高はGDP比で一定となる。こうした理論的背景もあり、政府は2020年度初頭に国と地方の基礎的財政収支を黒字に転換することを目標にしてきたのである。従って、債務の利回りの水準が名目GDP成長率を下回れば、基礎的財政収支を必ずしも黒字にしなくても、債務残高/GDPの上昇は食い止められるといえよう。

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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