エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第133話)

第133話:消費増税の見直し度合いで異なる影響

 今回は、消費増税の見直しがマクロ経済に及ぼす影響を試算する。具体的には、消費増税見直しが実質GDPに与える影響を、借金返済の半分を社会保障充実に回す自民党案、消費税率引き上げを凍結する希望の党案についてそれぞれ先行き3年間の影響を試算した。

 まず自民党案についてみると、2019年度には実質GDPを▲0.12%程度押し下げるにとどまる。すなわち、現状との比較で見れば、2019年度には0.05%ポイント程度の実質GDP押し上げが期待できることになる。更に2020年度には実質GDPが0.17%、そして2021年度には駆け込み需要の反動減の影響が緩和することで実質GDPは0.05%程度の押し下げに止まることになる。こうした効果も加味すれば、自民党案のGDP押し上げ効果は2021年度時点で現状に比べて実質GDPを+0.14%ポイント押し上げる効果を持つ。

 一方、消費税率引き上げを凍結する希望の党の影響を試算すると、2019年度は+0.17%ポイント程度の実質GDP押し上げ効果となるが、2020年度には消費増税に伴う反動減がないこと等から実質GDPは+0.28%ポイント程度の押し上げ効果となる。そして2021年度には見直しなしのケースが駆け込み需要の反動減効果が剥落することから、その押し上げ効果は+0.18%ポイント程度にまで縮小することになる。

 しかし、増税使途見直しの効果は財政収支の動向と切り離して評価することはできない。そこで続いては、プライマリーバランスの見通しについて、内閣府マクロモデルの乗数を基に、増税使途見直しに伴う経済動向の変動を通じて事後的にプライマリーバランスに及ぼす影響を試算した。

 まず、自民党案の前提をもとに得られた推計結果によれば、増税使途見直しに伴うプライマリーバランスへの影響は、借金返済に回る財源が半減することから、GDP比で見て2019年度▲0.16%ポイント、2020年度▲0.32%ポイント、2021年度▲0.32%ポイントのプライマリーバランス拡大要因となる。一方の希望の党案では、2019年度以降の3年間でそれぞれ▲0.21%ポイント、▲0.48%ポイント、▲0.52%ポイントのプライマリーバランス/GDP悪化要因となる。すなわち、増税使途見直しはいずれも財政赤字の拡大要因となるが、増税を凍結する希望の党案よりも、借金返済分の半分を社会保障に回す自民党案の方が財政収支の悪化度合いが少ないことになる。

以上見てきたとおり、増税使途見直しは再分配政策として検討に値する効果があるといえよう。しかし、我が国が深刻なデフレ均衡にさらされていることも勘案すれば、2014年4月の消費増税で得られた恒久財源8.2兆円のうち、借金返済に回っている3.4兆円分の使途を見直すことも検討に値するのではないか。

 いずれにしても、増税の使途見直しが経済の各部門に様々な影響を及ぼすことを勘案すれば、増税の是非や使途見直しを国民に十分に納得させるには、実証的な政策議論が不可欠といえる。従って、各党は消費増税をめぐる議論において、定量的な影響分析についても議論し、そのうえで国民に審判を問うべきであろう。

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第132話)

第132話:消費増税使途見直しの影響

 2019年10月に予定する消費増税の使い道を巡って、増収分の一部を教育無償化・負担軽減に充当する自民党、10%への増税を凍結する希望の党で対立している。しかし、使途変更の効果についての実証的な政策議論は十分に行われていない。

 消費税率が8%から10%に引き上げられれば、5兆円の恒久財源が確保されることになっている。そこで、社会保障と税の一体改革に基づく財源の使途を確認すると、まず消費増税に伴う財源は、軽減税率を反映することで当初の6兆円から5兆円に引き下げられることになる。そして、総合合算分の4,000億円を見送ると想定すれば、社会保障の充実には1.05兆円の分配になる。

 また財源の使い道としては、消費税率引き上げによる社会保障費増に0.5兆円が、基礎年金国庫負担割合1/2化のために0.2兆円がそれぞれ分配されることになっている。

 以上より、借金返済に回る金額は、軽減税率導入ベースで見れば、3.3兆円の財政健全化効果があることになる。

 続いて、報道されている各政党の公約が使い道の変更に及ぼす影響について検証する。

 消費増税に伴う財源の使途変更は、公的部門から民間部門への所得移転を意味する。そこで、先に用いた消費増税財源の使い道を基に、各政党の使い道を推計すると、自民党は財政健全化分の半分を回すことによって社会保障の充実が1.7兆円増えることになる。

 一方、消費増税を凍結する希望の党の負担減額を試算すると、まず社会保障の充実分である1.05兆円が失われることになる。また財政健全化分では、増税自体を凍結する希望の党案では減少分が大きく、半分を社会保障の充実に回す自民党案では減少分が小さいといった特徴がみられる。このように、政党の違いによって社会保障の充実額や財政健全化に回る額が大きく変わってくることになる。

 そこで次回は、以上の推計結果をもとに、増税使途見直しがマクロ経済に及ぼす影響を試算してみたい。

(第133話に続きます)

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第131話)

第131話:望ましい消費増税の仕方

 マネーのグローバル化により世界の実質金利が収斂しやすくなっている。こうした側面から考えると、財政赤字の拡大はより金利が上昇しにくくなる方向に働くため、自国通貨の押し上げ効果は限定的となる可能性がある。将来が不安な上に、さらに国債発行が増えて政府の借金が増える、と市場が感じたら、自国通貨はむしろ増価しにくくなることも考えられよう。

 こうした中、財政再建にあたっては、歳出の徹底した効率化が不可欠となろう。ただ、日本は教育にかける予算が先進国中最低クラスであることからすれば、子供の教育のために国民に負担増を求めることへの批判は比較的少ないだろう。また、現在の安倍政権では経済成長を重視しているため、増税が可能となる経済環境が整う前には増税が実施されにくく、自ずと「景気配慮」が働くことが期待されている。

 この背景には、不況下で財政赤字を増税で賄い始めた場合、税収不足が拡大し続けてしまう可能性がある。不況下で増税を重ねれば、いずれ首が回らなくなるのは日本も海外も同じである。これが不況下での増税の最大の問題点である。

IMFの試算によれば、日本のGDPギャップはまだマイナスであり、デフレに完全に歯止めがかかっているとは言い難い。国内需要の回復による景気押し上げ圧力が弱い中で少子高齢化という課題もある。このような状況の下では、経済に対して緊縮財政によるショックを与えるのは適当ではないだろう。

 こうした中、消費税率の引き上げは、購入価格の上昇を通じて景気に悪影響を及ぼす。実際に行われなくても、そうした議論が盛り上がるだけで、個々の家計が将来の負担増に対する不安感を過度に高め、こうした不安は個人消費に悪影響を及ぼすことは、2014年4月の消費税率引き上げ後の状況からも実証済みである。もし、その結果として景気が低迷して税収が減少したら、いずれは財政再建の進展をも妨げる可能性もある。

 他の増税も同じである。従って、家計の負担増が個人消費や景気動向に大きな悪影響を及ぼすことのないように慎重に議論を進め、その結果、特定の時期を設定せずに、目標とする名目成長率や雇用者報酬の伸びが達成されたところで実施するのも一つの案だろう。 経済がこうなるまで増税しないというターゲットを示す方が国民の理解を得られやすい。具体的に、雇用者報酬の前年比が安定的(例えば3四半期連続)に2%を超えたら、例えば消費税率を2%上げる方針を掲げてもよいのではないだろうか。政局に左右されずにスムーズに消費税率の引き上げが可能になるものと思われる。

 ただ、日本経済がデフレに陥った90年代後半以降の名目GDPと雇用者報酬の前年比を見ると、2016年第1四半期から第4四半期まで4期連続で前年比2%を超えているが、2017年第1四半期で同1.0%にまで減速してしまっている。結局、消費税引き上げが可能となる経済環境を実現するには、先ずは完全なデフレ脱却が必要条件ということであろう。(第132話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
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〇「クレジットカードの仕組み」「なぜカンタンにお金が借りられる?」「友だちとのお金の貸し借り」「ものの値段の決まり方」「バイト代や給料の仕組み」「お金がなくなったときどうすればいいのか」「お金を増やすことはできるのか」「無料はほんとうに得なのか?」「君たちもすでに税金を払っている」「修学旅行や部活にだって保険はある」など、中高生の日常に身近なことから「お金とのつきあいかた」を教える。

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第130話)

第130話:必要となる金融政策との合わせ技

 欧米諸国で90年代に多くの国が財政赤字問題を概ね克服した中では、緩和的な金融政策も財政再建の鍵を握った。緊縮財政は歳出削減や増税により何がしかの景気下押しを伴う。そこで中央銀行が金融を緩和すれば、緊縮財政過程における景気下押し圧力を軽減することができる。中央銀行はまさに「政府のサポート役」となった。

 そうした景気下押し圧力を緩和したメカニズムとして、「インフレ目標」政策を採用したことで長期金利の上昇が抑制されたといわれている。この「インフレ目標」政策は、先進国で採用されている一般的な金融政策の枠組みであり、日本でも金融政策の核になっている。

 実際、90年代からインフレ目標政策を採用した国では経済成長率が高まる一方で、インフレ率低下が財政健全化にも大きく貢献している。仮にインフレ目標を導入していなければ、長期金利が景気の実勢以上に上昇し、それに伴う設備投資の下振れを通じて、経済成長率が押し下げられた可能性がある。従って日本でも、金融政策による金利や為替、資産価格等への働きかけを通じて、財政再建に導く経路が重要となる。しかし、我が国では15年以上にもわたってデフレ対策が不徹底であり、残念ながら金融政策が十分機能してこなかった。こうしたところに日本の停滞の大きな原因が潜んでおり、日本の財政に悪循環をもたらしてきたといえる。

 そして、名目成長率から長期金利を引いた差が政府の超過収益率、平易に言うと借金減らしに使えるお金である。つまり、名目成長率が高まれば税収、つまり政府が借金減らしに使うお金が増える。一方、長期金利が低下すれば、政府が利払い費に回すお金が減ることになる。従って、政府債務残高/GDPの上昇を食い止めるには、景気と金利に影響を与えることができる金融政策が鍵を握る。

 このように、緊縮財政や財政出動による効果は金融政策によって大きく異なるが、この関係はマクロ経済学の教科書で「マンデル=フレミング効果」と呼ばれている。これは、金融政策が不変の下で財政出動が行われれば、金利上昇を通じて自国通貨が増価し、設備投資や外需の抑制を通じて財政出動の効果が減殺されてしまう効果のことを示す。つまり、お金を使おうとしない民間からお金を借りて政府が使えば、国債発行が増える。国債発行が増えれば金利が上がり自国通貨が増価する。そうすると、外需が減ってGDPがさらに減って…財政政策の効果が相殺されるメカニズムが「マンデル=フレミング効果」である。

 ただし、今般の我が国のように、本格的なデフレ脱却のための財政出動を決断しなければならない場合には、同時に金融緩和策も行われることが多く、金融緩和により金利上昇や自国通貨の増価を抑制できれば、結果として、財政出動の効果が高まることにつながる。これが「マンデル=フレミング効果」の本当の意味である。(第131話に続きます)

永濱 利廣 氏

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第129話)

第129話:財政再建と景気回復の優先順位

 基礎的財政収支の赤字を解消して、名目金利を名目成長率以下に抑える条件は、「ドーマー条件」と呼ばれる。この『ドーマー条件』が実現すれば、財政の安定化は達成されることになる。長期的な関係を見ても、多くの主要国において、名目成長率が国債利回りを上回る「ドーマー条件」を満たしていた事実がある。このため、財政再建のシナリオを議論するときに、成長率が高くなればそれ以上に利回りが高くなってしまうと考えるのは誤りである。

 一方で、1990年代の欧米諸国における緊縮財政は景気回復につながるケースも多かった。欧米諸国では、90年代に多くの国が財政赤字問題を概ね克服している。その第一の特徴は、ドイツなど一部の国を除き歳出削減を中心とする財政再建策であったことである。ところが第二の特徴として、多くの国が財政バランスの改善と景気回復の両立に成功したとされている。つまり、国は多額の歳出を削減して財政再建策をとったのに、当時の欧州諸国の経済成長を見る限り、景気が大きな歳出削減の影響を受けたようにみえないのである。

 そこには、我が国には参考にならない経済のメカニズムがある。この議論でよく指摘されるのが「非ケインズ効果」である。『非ケインズ効果』とは、政府債務の削減が将来の増税観測を低め、消費を促進することで景気回復にプラスに働く効果のことを指す。1980年代のデンマークやアイルランド、1990年代のスウェーデンやイタリアなどでみられたとされる現象であるが、これらの国で緊縮財政が行われた背景には、財政赤字の拡大により金利が急騰して金融危機が発生したことがある。このため、財政赤字の削減が長期金利の低下をもたらし、これが民間設備投資などに好影響を及ぼしたことが実証される。つまり、直接的に消費を経路として景気が回復したわけではない。これは、財政再建が消費者の信頼感を高めて消費を促進する『非ケインズ効果』ではなく、金利低下による民間設備投資の増加等を経て回復に寄与した「クラウドイン効果」である。

 翻って日本の現状を考えると、長期金利は低水準にある。つまり低下余地は非常に乏しい。このため、日本が緊縮財政に取り組んだとしても、90年代初頭の欧米諸国のような金利低下による景気刺激効果は期待薄である。また、日本は貯蓄超過すなわち経常黒字国であるため、国債を国内で消化できることに加えて、日銀がイールドカーブコントロールにより長短金利を抑え込んでいることが低金利常態化の要因である。つまり、我が国のような経常黒字国で低金利が常態化している場合は、むしろ緊縮財政が景気に悪影響をもたらすのである。これは、国債が国民の貯蓄で賄われていることから「ケインズ効果」が働く可能性が高く、景気回復による財政再建効果が出やすい構造にあることを意味している。(第130話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
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