エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第218話)

第218話:1993年以来の7月低温

 関東甲信から東北地方で気温の低い日が続いている。東京都心では全国的に冷夏となった1993年以来、7月に7日連続で最高気温が25度を下回っており、市場関係者の間では景気への悪影響を懸念する声も出始めている。

 この背景には、2018年秋から発生しているエルニーニョ現象の影響があるようだ。気象庁によれば、オホーツク海高気圧から流れ込む冷たく湿った風や梅雨前線の影響により関東を中心に日照時間が短くなっている一方で、暑さをもたらす太平洋高気圧がエルニーニョ現象の影響で本州に張り出せずにいるとしている。

 エルニーニョとは、南米沖から日付変更線付近にかけての太平洋赤道海域で、海面水温が平年より1~5度高くなる状況が、1年から1年半続く現象である。エルニーニョ現象が発生すると、地球全体の大気の流れが変わり、世界的に異常気象になる傾向がある。

 前回は、2015年夏から2016年春にかけて発生しており、6月と8月後半に冷夏となり、北海道および東日本~西日本で8-9月を中心とした長期的な豪雨となった。

 最も被害が拡大したのは93年夏から冬である。日本は39年ぶりの冷夏となり、大雨や日照不足もあって稲作を中心に農作物に被害が出た。

 気象庁の過去の事例からの分析では、エルニーニョの日本への影響として、気温は西日本を中心に平年より低い地域が目立つことや、降水量は平年より多い地域が多く、西日本の日本海側や東日本の太平洋側で顕著となること、更には、梅雨明けは沖縄を除き遅くなる傾向がある、ということ等が指摘されている。

 実際、エルニーニョの発生時期と我が国の景気局面の関係を見るべく、過去のエルニーニョ現象発生時期と景気後退局面を図にまとめてみた。すると、90年代以降全期間で景気後退期だった割合は25.4%に過ぎない。しかし驚くべき事に、エルニーニョ発生期間に限れば46.6%と通常の1.8倍の割合で景気後退局面にあった事がわかる。特に90年代以降で見てみれば、91~92年と93年のエルニーニョ現象は、91年3月~93年10月まで続いた景気後退局面に含まれる。また、97~98年のエルニーニョは、殆どの月が97年6月~99年1月まで続いた景気後退局面に含まれている。更に、2012~2013年のエルニーニョも多くの月が景気後退に含まれており、2018年秋以降のエルニーニョ局面でも、2018年11月から景気後退に入っている可能性がある。

 潜在成長率が4%程度あったとされる80年代までなら、気象要因が景気動向に大きな影響をもたらすことは想定しにくかった。しかし、90年代以降になると、バブル崩壊により潜在成長率が2%程度、最近では1%程度に下方屈折していると言われる状況では、気象要因により景気動向に大きなインパクトが生じることも十分に考えられよう。

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第217話)

第217話:6月短観から見た19年度業績見通し

 7月1~2日にかけて公表された6月短観の大企業調査は、6月下旬にかけて金融・保険を除く資本金10億円以上の大企業約1900社に対して行った調査であり、先月公表された法人企業景気予測調査に続いて、今期業績予想の先行指標として注目される。

 まず売上高を見ると、19年度は下期にかけて伸び鈍化となるものの、前回調査からは上期下期とも+0.5%ポイントの上方修正となっている。一方、経常利益は19年度上期で減益率が大幅に拡大しており、前回調査からの修正率も▲5.8%ポイントとなっている。ただし、下期に関しては前年比で+1.6%と増益に転じる見込みは変わってない。このことから、企業は業績の底を今年度前半と見ており、今年度後半は持ち直すと予想している。

 つまり、産業全体で見れば、売上高の半期ごとの伸び率は19年度下期に伸び鈍化に転じるものの、経常利益については19年度下期に増収増益を計画する姿に変わりは無い。特に、年度後半に向けて半導体電子部品を含む情報関連財の在庫循環の底打ちが見え始め、収益回復への市場の期待が高まれば、株式相場の押し上げ要因となることも期待されるだろう。

 続いて、6月短観の売上高計画を基に、上方修正が見込まれる業種を選定してみたい。結果を見ると、製造業では「鉄鋼」「生産用機械」、非製造業では「物品賃貸」を除く全ての業種で増収計画となる中で、前回調査から最大の上方修正率となっているのが「鉄鋼」の+28.5%である。それに続くのが「木材・木製品」の同+8.1%、「通信」の同+2.7%であり、素材業種の上方修正が目立つ。

 従って、19年度の業績見通しにおいては、こうした業種に関連する企業について売上高計画が注目されよう。特に今回は、昨年度に設備老朽化に伴う操業トラブルが相次いだ「鉄鋼」に加え、「情報通信」も引き続き旺盛な日本企業のIT投資意欲の恩恵を受けそうだ。

 続いて、6月短観の経常利益計画から上方修正が期待される業種を見通してみよう。結果を見ると、上方修正幅が最も大きいのは燃料価格や原料の古紙調達価格が落ち着いた「紙・パルプ」の+11.5%となる。それに続くのが、インバウンドに加えて10連休や改元の恩恵を大きく受けた可能性がある「宿泊・飲食サービス」の+8.6%、鉄鉱石や原油価格上昇の恩恵を受けやすい商社を含む「卸売」の+7.5%となる。

 このように、今期の経常利益見通しでは、上方修正が期待される業種として、インバウンドや改元・10連休の恩恵を受けたサービス関連に加えて、昨年度に原油をはじめとした市況価格急変動の悪影響を受けた紙・パルプや、資源メジャー減産に伴う鉄鉱石価格の高止まりの恩恵を受けやすい商社を含む卸売関連が期待される。

 これら以外の業種でも、既存ビルの稼働率改善に伴う賃料増加等により、オフィス市況が好調な不動産も上方修正となっていることにも注目だろう。
 
永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第216話)

第216話:今年度は増収減益の見込み

 6月13日に公表された4-6月期法人企業景気予測調査は、5月下旬にかけて金融・保険を除く資本金10億円以上の大企業約4千社に対して行った景気予測調査であり、今期業績計画の修正度合いを予想するための先行指標として注目される。

 そこで今回は、7月下旬からの四半期決算発表で堅調な今年度計画が見込まれる業種を予想してみたい。

 まず売上高を見ると、19年度は前回調査から上方修正となるものの、直近2年間の同時期計画よりも増収率が低い計画となっている。このことから、四半期決算でも売上高が上方修正となる業種には注目が集まるものと推察される。

 一方、経常利益は前回調査でも前年比▲0.4%の減益計画となっていたものの、減益率は同▲3.3%と前回調査から大幅に下方修正されている。このことから、7月下旬からの四半期決算発表では、経常利益計画の下方修正も出てくることが予想される中、上方修正となる業種には注目が集まるものと推察される。

 以下では、7月下旬からの四半期決算で売上高の上方修正が期待される業種を見通してみたい。19年度の業種別売上高計画前年比を前回1-3月調査と今回4-6月調査で比較し、この3ヶ月の修正状況を見ると、増収業種の中で最も上方修正幅が大きいのは、自動車賃貸業やスポーツ・娯楽用品賃貸業等を含む「その他の物品賃貸」であり、前年比+1.4%→+12.7%と+11.3ptの上方修正となっている。それに続くのが、洗濯・理容・美容・浴場業や旅行・家事サービス・衣類裁縫修理・物品預り・火葬墓地管理・冠婚葬祭業を含む「生活関連サービス」の同▲1.1%→+4.6%、「建設」の同▲3.3%→+1.2%と、いずれもこの3ヶ月間で大幅に上方修正されている。

 従って、特にサービス業の中でも企業の人手不足等に伴う所得の増加や働き方改革などに伴う余暇時間の拡大を取り込んだ企業では、四半期決算でも上方修正の可能性が高い業種として注目されよう。また、不動産も人手不足に伴うオフィス需要が旺盛のようだ。一方、足元の原油価格の下落に伴い、燃料調整費単価が下がる電気・ガス・水道業等では売上高が下方修正となることが予想される。

 続いて、経常利益計画から19 年度の業績を牽引することが期待される業種を見通してみると、増益率が最も大きいのは、原油急落に伴うマージン悪化や在庫評価損で昨年度が大幅減益となった「石油・石炭製品」の+59.2%ptとなる。それに続くのが、燃料価格や原料の古紙調達価格が落ち着いた「紙・パルプ」の+36.2%pt、昨年度に設備老朽化に伴う操業トラブルが相次いだ「鉄鋼」の+15.9%ptとなる。

 このように、今期の経常利益見通しでは、増益幅の大きい業種として、昨年度に原油をはじめとした市況価格急変動の悪影響を受けた紙・パルプや石油・石炭製品、電気・ガス、鉄鋼に関連する企業が期待される。これら以外の業種でも、人手不足の恩恵を受けやすい職業紹介・労働者派遣業が二けた増益計画を立てていることにも注目だろう。(第217話に続きます)

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第215話)

第215話:他の景気指標と乖離するGDP

 今年1-3月期において、日本の代表的な景気指標であるGDPと日銀短観や景気動向指数が逆の動きをしている。これまで短観の業況判断指数(全規模全産業、以下DI)や景気動向指数(一致CI)が悪化するときは、おおむね実質GDPも縮小してきた。しかし、今年1-3月期は日銀短観の業況判断指数や景気動向指数の一致CIが大幅に悪化したのに対して、実質GDPは拡大した。

 このように、経済成長率が他の景気指標と反対の動きをすることから、GDPによる景気判断が困難になっている。

 この背景には、GDP統計の、①国内需要の悪化に伴う輸入の落ち込みがGDPの押し上げ要因になる、②国内需要の悪化による在庫の積み上がりもGDPの押上げ要因になる、等の点が景気実感との乖離をもたらすからだ。

 GDP速報では、国内で生み出された付加価値を把握するために、最終需要から輸入を控除して計算される。

 こうした輸入の割合は、米国GDPではこの10年間で▲2.0%ポイントも低下し、影響は縮小している。逆に日本では、その割合が1.2ポイントも拡大している。特に、東日本大震災の原発事故で化石燃料の輸入拡大を余儀なくされた2011年と、アベノミクスで極端な円高が是正された2013年に大きく拡大していることがわかる。さらに長期に見れば、2000年代後半以降のGDPは生産拠点の海外移転などに伴う輸入の増加により抑制されており、これがGDPによる景気判断を困難にしている。

 また、国内で生み出された付加価値を集計したGDPから在庫変動を除いたものが最終需要であるが、こうした生産と需要の乖離もGDPによる景気判断を困難にしている。在庫変動とは、例えば企業が製品を作りすぎて売れない場合でも、在庫として積みあがれば国内で付加価値が生み出されたとみなす項目である。従って、景気が悪くてその製品が売れなくても、GDPにはその分付加価値額として計上される。

 しかし、現実には売れない製品の生産が増加して景気が良いと認識する国民はどれだけいるだろうか。それどころか、その期に製品が売れ残った製品は、翌期以降の生産を抑制する要因となる。従って、在庫変動も含んだGDPは最終需要と乖離が生じ、景気実感と合わない一因となっている。内閣府も、GDP速報の中で、参考として最終需要の動向も示しているが、利用者の注目度は低いままだ。

 以上の理由から、GDP統計で示される経済成長率と景気動向には大きなギャップがある。実際、1-3月期の実質GDPは2次速報段階で年率+2.2%成長となっているが、輸入と在庫変動を除去すると、年率▲1.2%と大幅マイナス成長に転じる。つまり、輸入と在庫変動を除いた方が他の景気指標と連動性が高まることになる。(第216話に続きます)

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第214話)

第214話:米中摩擦が国民生活に及ぼす悪影響

 米中摩擦で様々な貿易構造が変化することによる日本国民の生活への影響も無視できない。

 まず、米中間の貿易量が減れば、その商品がだぶついて米中からの輸入品が安くなる可能性がある。既に米国産の大豆や牛肉がすでに国際的な市況の低下から安くなっていること等を考慮すれば、米中摩擦が日本経済に及ぼす影響はマイナス面だけでないことがわかる。

 また、米中間の貿易活動が低下すれば、代替需要として日本製品の引き合いが強まる可能性がある。特に産業機械や電子部品、プラスチック製品や集積回路のような中国製品と競合するような製品を製造している企業にとっては恩恵を受ける可能性がある。

 しかし、こうした代替需要の影響として懸念されるのは、その代替品の値上がりが様々な製品に波及することであろう。既に、代替品として中国からの引き合いが強まった古紙の値上がりにより、段ボール価格の値上がりを通じて各種飲食料品の値上がりに結びついている。米中関税引き上げの負担は日本の消費者も被る可能性があるといえよう。

 また、株式や金融市場への影響にも警戒が必要だろう。実際、10連休後の日経平均株価は大きく下落し、ドル円レートも円高に振れた。
背景には、米中摩擦が激化する観測が強まったため、世界の金融市場がリスク回避に動き、リスク資産の株式から安全資産の国債に資金がシフトしたことがある。特に、為替市場では経常黒字で低インフレ国の通貨が逃避先となり、円が選好されている。しかし、円高となれば、グローバル企業の業績見通しに悪影響を及ぼし、それが家計の収入の悪化にも反映される可能がある。

 というのも、米中摩擦の激化で先行きの経営環境に不透明感が出れば、日本企業の経営者が経営に慎重になり、収益悪化のリスクを軽減すべく設備投資や賃上げ、採用等に慎重になり、結果として家計の収入環境に悪影響をもたらすことも懸念される。

 以上のように、貿易面や金融市場を中心に、米中摩擦がもたらす日本経済への影響は様々な分野に波及することになろう。

 この他にも、世界経済の先行き不透明感の高まりにより原油価格の下落が進めば、円高と相まって国内のガソリン・軽油・灯油や電気・ガス等の燃料コストが下がるといったプラスの側面もある。逆に、米国では米中摩擦が激化することで中国向けの輸出が抑制され、そのしわ寄せを日本や欧州に対して市場開放を求めるようなことになれば、想定以上の農産品の関税引き下げや日本車に対する追加関税が強いられる可能性もあるだろう。

 尚、既に日本経済は昨年秋から景気後退に入った可能性があることや、6月に大阪で開催されるG20で世界経済の先行き不透明感の払しょくに向けて財政政策を機動的に実施することが求められる可能性がある。従って、米中摩擦激化が追加の財政政策の判断に影響を及ぼす可能性がある点についても十分な注意が必要であろう。(第215話に続きます)

永濱 利廣 氏

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