エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第252話)

第252話:コロナショックに必要な経済対策メニュー

 コロナショックに必要な経済対策のメニューは、景気後退+消費増税+新型コロナウィルスに合わせ技で対応せざるを得ないことを考えるとリーマン級が必要になる可能性があるため、当時の麻生政権が2009年に打ち出した「経済危機対策」が参考になるだろう。

 具体的には、リーマンショック前後の4回に分けて打ち出された経済対策メニューでは、第一弾が「安心実現のための緊急総合対策」、第二弾が「生活対策」、第三弾が「生活防衛のための緊急対策」、第四弾が「経済危機対策」となっている。

 特に、個人消費向けには多くの対策が掲げられ、定額給付金や土日祝日の高速料金引き下げ、エコカー減税・補助、エコポイントなどの対策が実施された。そして、設備投資や住宅建設促進に向けた対策では、太陽光発電の導入加速のための住宅金融支援機構による低利融資や「スクール・ニューディール」構想等による太陽光導入支援補助金等が実施された。一方、公共投資では補正予算や当初予算の前倒し、雇用支援では雇用調整助成金などの拡充等が行われ、他に医療再生として介護機能強化や子育て支援強化が実施された。

 なお、当時の米国は、2008年時に緊急対策として銀行への公的資金注入や自動車メーカーへの資金支援などを目的に、当時のブッシュ政権が7000憶ドルの緊急予算を用意し、そして、翌2009年にオバマ政権がインフラ投資や失業保険の拡充などを目的に7,800憶ドル規模の景気対策を実施した。

 従って、今回も政府が景気後退+消費増税+新型コロナウィルスの三重苦に伴う景気の下振れに対応するため、一刻も早く政策のパッケージが打ち出されるべきだ。具体的には、昨年⒒月に打ち出された経済対策フレームに加え、当面の生活保障と個人消費や設備投資を喚起するような需要喚起策が2段階で盛り込まれることが期待される。

 まず、生活保障としては、他国でも実施されている現金給付が効果的だろう。ハーバード大学のマンキュー教授も「手始めにすべての米国人に1000ドルの小切手を可能な限り早急に送るべき」としている。所得制限をかける議論などもあるが、今回のショックで最も経済的被害の少ない年金生活者等に給付が集中してしまうため、迅速性を最優先し、所得制限をかけない一律給付の代わりに一時所得扱いにして年末調整で対応すべきだろう。

 ただし、現金補償はあくまで一時的な生活保障である。従って、ウィルス収束後には、個人消費を支える需要喚起策として、すでに予定されているマイナポイント事業に加えて、期間限定の全品目軽減税率導入が有効だろう。そもそも2019年10月の消費増税の際には「リーマン級のことがない限り消費増税を行う」と、政府は言っていた。「現状はリーマンショック以来の不況が来る可能性があり、したがって、例えば今年7月から年度末までの時限措置として全品目に8%軽減税率を導入することで、消費者の負担軽減と家計の購買意欲を高めることも検討に値する。その際、導入前の買い控えは、現金給付と6月に期限を迎えるキャッシュレスポイント還元で補い、来年4月の消費税率を戻す際の駆け込み反動策として、キャッシュレスポイント還元の拡充復活等で対応できるだろう。(第253話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

さてこの度、永濱氏の書籍が出版となりましたので、ご案内させていただきます。何卒よろしくお願いします。

MMTとケインズ経済学

21世紀版のケインズ革命は、今まさに起こっているのか?
例外的な環境下において、赤字財政を推進したケインズの学説は、経済学に大きな影響を与え、ケインズ革命と呼ばれた。MMTはインフレ率に注意さえすれば、赤字財政は際限なく出すべきと主張する。本理論は21世紀のケインズ革命となるのか?

第1章  ケインズ経済学の衝撃

第2章  MMTとは

第3章  ケインズ経済学とMMTの違い

第4章  MMTの考え方(MMTは日本で実現するのか?)

第5章 アベノミクスの検証

第6章 日本の財政の誤解

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第179話)

第179話:「探索力」を活かして「探求心」を発揮すること。

 ネット社会に生きる今、日常生活でふと忘れてしまったことや、どうしても思い出せない著名人の名前や施設などの名前。そのような折に便利さを感じるのが、スマホがもつ検索機能の活用です。その言葉自体が浮かばなくとも、周辺の情報や関連のありそうな言葉を入力すれば、まさに関連ありと思われる名前や状況等が一斉にリストとして並んで表記されます。その中から、「うんうん、これこれ」と思い出さなかったテーマや人名・地名を見つけると、うれしさ倍増といったことが何度もあるのではないでしょうか。

 まさに「探索」することは、さしたる労を要さずにできるようになったものです。今も私のワークデスクには、数種類の辞書が並んでいますが、昭和の時代では当たり前の風景でした。しかし、ネット社会の今、分厚い辞書は無用になってしまったようです。

 ただここで、私たちは重要なことを忘れてしまったのではないかと危惧することがあります。それは「探求心」の低減です。単語の検索をして、その意味がわかればその時点で分かったつもりになってしまい、その後の、さらなる探索やあるいは研究にまでの深みを求めなくなってきているように感じます。言葉の広がりはあるものの、深みを感じさせないままに、話が拡散してしまう場面に出会うことがあります。

 プロジェクトのテーマについて話しをしていても、一つの言葉の解釈についての議論はあったとしても、テーマそのものの本質を追求するには至らないということがあります。やはり、上辺の知の底の浅さがなせることでしょうか。今の時代の気になる場面です。

 探索だけの繰り返しでは、上辺の知識が広がっていくだけです。その中で気になったことを探求することで、今度は深みが増していくものです。広がりだけを求めていたのでは、あくまでも表層的なものに過ぎず、いずれ「知」の化けの皮がはがれてしまいます。もっと、「知」の深みを求める探求心を持っていたいと思います。(第180話に続きます)

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 2016年11月の九州生産性本部での授業風景
株式会社マップス 
代表取締役 清野 裕司

10冊目の新書が出ましたので是非お読みください。

清野裕司の「ビジネス心論」


今、マーケティング・スタッフには効率よく作業をこなすためのスキルを高めることよりも、幅広い視野で変化を敏感に捉える感度(センス)が問われています。起きている現象を見る目だけではなく、時にもう一つの目(心眼)を開いて、今迄と今を見直し、明日への道を切り拓いて行くように、自らの心に問う学びの志です。
学ぶこと考えることの楽しさを知った自らのビジネス体験を、次代へと歩み行く方々に伝承しておきたいと考えて「心論」と題しました。

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第251話)

第251話:コロナショックに必要な経済対策規模

 政府は新型コロナウィルスの感染拡大による景気悪化に対応すべく、4月に緊急経済対策をまとめることが期待されている。特に経済対策の規模については、景気後退+消費増税+新型コロナウィルスの3重苦に対して、大型の補正予算が組まれることが予想される。そこで以下では、まず必要な経済対策の規模から計測してみよう。

 経済対策の規模を設定する際に一般的に参考にされるのが、潜在GDPと実際の実質GDPのかい離を示すGDPギャップ率である。そして、直近の2019年10-12月期のGDPギャップ率は、内閣府の推計によれば▲1.4%とマイナスに転じている。

 しかし、直近の民間エコノミスト経済成長率平均予測(ESPフォーキャスト3月調査)に基づいてGDPギャップ率を延伸すると、2022年1-3月期時点で▲1.8%のデフレギャップが生じることになる。従って、このGDPギャップを解消するのに必要な規模の経済対策を前提とするだけでも10.0兆円規模の追加の経済対策が必要になる。

 ただし、3月以降に自粛や風評被害が拡大した新型コロナウィルスの影響によって、3月以降の予測でGDPギャップの予測がさらに拡大していることが予想される。実際、過去のGDP統計に基づけば、自粛や風評被害が2四半期にわたって続いた2011年3月の東日本大震災と、3年近くにわたって消費低迷が続いた2014年4月消費増税の時は、GDPの実績がトレンドからそれぞれ▲3.8兆円、▲3.7兆円程度下方に乖離している。

 また消費増税の影響も、前回はトレンドから▲0.9%の乖離にとどまったものの、今回は一昨年11月から景気後退期にあったこともあり、▲2.3%もトレンドから下方に乖離している。

 こうした状況に基づけば、すでに新型コロナウィルス緊急対応策として第一弾で153億円、第二弾で4,308憶円の財政措置を打ち出しているが、これに加えて需給ギャップの解消に必要な需要創出額10兆円以上の財政措置が必要となる。つまり、今回の影響規模からすれば、市場の不安を軽減するという意味でも、既に打ち出されている新型コロナウィルス緊急対応策を除いて、最低でもGDP比で2%近い規模が必要となろう。

 ただ、リーマンショック前後の経済対策は真水でトータル32.2兆円だった。こうしたことからすれば、リーマン級の対策をする場合は、昨年の真水13.2兆円規模の経済対策を除いても20兆円近く必要となろう。

 さらに、トランプ政権がまとめようとしている対策は総額1兆ドルである。そして主なメニューは、現金給付や給与税減免、新型コロナで売上高が急減する航空会社や宿泊業の資金支援が盛り込まれそうだ。従って、経済規模が米国の約四分の一である日本が同等の経済対策を実施するとすれば、25兆円規模の経済対策が必要となろう。(第252話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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MMTとケインズ経済学

21世紀版のケインズ革命は、今まさに起こっているのか?
例外的な環境下において、赤字財政を推進したケインズの学説は、経済学に大きな影響を与え、ケインズ革命と呼ばれた。MMTはインフレ率に注意さえすれば、赤字財政は際限なく出すべきと主張する。本理論は21世紀のケインズ革命となるのか?

第1章  ケインズ経済学の衝撃

第2章  MMTとは

第3章  ケインズ経済学とMMTの違い

第4章  MMTの考え方(MMTは日本で実現するのか?)

第5章 アベノミクスの検証

第6章 日本の財政の誤解

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第250話)

第250話:五輪中止による経済損失は3兆円以上か

 2019年までの建設投資をけん引したオリンピック特需は、過去の経験則を踏まえれば、その勢いのピークは過ぎている可能性がある。

 こうした中、東京オリパラが中止になった場合に最も注意しなければならないのは、日本人や外国人旅行客の特需が失われることだろう。事実、これからの経済効果として期待されていたのが、日本人と外国人旅行客の増加であった。政府は2020年に4000万人の誘致を目指して外国人が訪問しやすい環境を整えてきた。これまでもビザの発給要件緩和等により外国人観光客は増え、2019年には3200万人台に到達した。

 目標到達にはこれをさらに2割以上増やさなければならなかったわけだが、仮に東京オリパラが延期、もしくは中止になれば、過去の経験則に基づくと、開催年に期待される経済効果、GDPベースで+1.7兆円、経済波及効果ベースで+3.2兆円程度が失われることになる。

 ただ、仮に無観客であれ東京五輪が開催されれば、耐久消費財の買い替えサイクルに伴う需要効果は期待できるものと思われる。背景には、内閣府の消費動向調査によれば、テレビの平均使用年数が9.7年となっていることがある。

 テレビの販売は2019年9月や2014年4月の消費税率引き上げ前に駆け込み需要で盛り上がったが、さらに前にさかのぼると、2009~2011年にかけてはそれ以上に販売が盛り上がった。背景には、リーマンショック後の景気悪化を受けて、麻生太郎政権(内閣)下で家電エコポイントが打ち出されたことと、2011年7月の地デジ化に向けて多くの世帯で買い替えが進んだためである。これで、エコポイントの対象となったテレビの駆け込み需要が発生しており、2020年はそこから10年を経過していることから、その時に販売されたテレビの買い替え需要がかなりあることが期待できる。しかし、仮にテレビの国内出荷台数が2019年の486万台から700万台程度に増加したとしても、トータルの需要創出額は4000憶円程度にとどまるだろう。

 サッカーワールドカップと並び、世界の二大スポーツイベントであるオリパラの開催は、開催国のスポーツ活動の活発化、スポーツ施設を中心とした社会資本整備の促進、開催地の知名度やイメージの向上、市民参加やボランティアの育成、国民の国際交流の促進に寄与するだけでなく、建設・工業・商業・輸送・対個人サービスなどを中心とした産業部門の需要拡大を通じて国内に大きな経済活動をもたらすと期待されていた。仮にそれが中止となると、国民心理的にも失われるものは計り知れない。(第251話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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MMTとケインズ経済学

21世紀版のケインズ革命は、今まさに起こっているのか?
例外的な環境下において、赤字財政を推進したケインズの学説は、経済学に大きな影響を与え、ケインズ革命と呼ばれた。MMTはインフレ率に注意さえすれば、赤字財政は際限なく出すべきと主張する。本理論は21世紀のケインズ革命となるのか?

第1章  ケインズ経済学の衝撃

第2章  MMTとは

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第178話)

第178話:『と』の発想と実践が未来を描く力になる。

 マーケティングでよく耳にする言葉には、「と」がついていると思うことがあります。

 「モノ」と「コト」:人の消費行動では、モノの購入判断に、そのものを使用・消費する「コト」を思い浮かべている。

 「技」と「芸」:個々の技法として捉えることができる技。その技を体現して、その人らしさを感じさせる芸。

 「型」と「形」:形が生み出される背景としてある「型:カタ」と形式・外形・姿としてあらわされる「形:カタチ」。

 「送り手」と「受け手」:モノや情報を提供する側と、提供されるものを選別して購入・使用する側。

 「と」の発想は「あれもこれも」とは異なり、足りないものや専門性を要するものをお互いに支援し合いながら、新たなものを生み出そうとする考えです。

 昨今言われる「共感」「共振」「共働」「共創」といった「共」の考えに近いのではないかと思います。コラボレーション型ビジネスという考え方も、原義として捉えれば、「Co=共に」+「Labor=働き」+「Action=実行」が組み合わさったものであり、「共に力を合わせて実践する」ことを意味しています。

 「A『か』B」という発想ではなく、「A『と』B」をうまく融合させていくことが求められているのです。マーケティングは諸科学の融合によって新たな思考を体系化しています。対立ではなく両立のバランス感覚が今の時代には必要になっていると思います。

 日本を代表する経済人、渋沢栄一の「論語と算盤」を再読して、改めての想いでもあります。(第179話に続きます)

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 2016年11月の九州生産性本部での授業風景
株式会社マップス 
代表取締役 清野 裕司

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清野裕司の「ビジネス心論」


今、マーケティング・スタッフには効率よく作業をこなすためのスキルを高めることよりも、幅広い視野で変化を敏感に捉える感度(センス)が問われています。起きている現象を見る目だけではなく、時にもう一つの目(心眼)を開いて、今迄と今を見直し、明日への道を切り拓いて行くように、自らの心に問う学びの志です。
学ぶこと考えることの楽しさを知った自らのビジネス体験を、次代へと歩み行く方々に伝承しておきたいと考えて「心論」と題しました。

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