エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第243話)

第243話:原油高が消費増税後の泣きっ面に蜂となる可能性

 原油高が経済全体へ及ぼす影響について、内閣府「短期日本経済マクロ計量モデル(2018年版)」の乗数を用いて試算すれば、今後の原油先物価格が60ドル/バレル程度まで低下した場合には、今後2年間の経済成長率を1年目に+0.02%pt、2年目に+0.01%pt程度押し上げる要因となる。しかし、今後の原油先物価格が70ドル/バレルもしくは80ドル/バレル程度で推移したとすれば、今後2年間の経済成長率を1年目にそれぞれ▲0.03%pt、▲0.08%pt、2年目にそれぞれ▲0.02%pt、▲0.04%pt程度も押し下げることになる。このように、原油価格の上昇はマクロ経済的に見ても、無視できない悪影響を及ぼす可能性がある。

 また、原油価格とわが国の交易利得(損失)には強い相関がある。交易利得(損失)とは、一国の財貨と他国の財貨との数量的交換比率である交易条件が変化することによって生じる貿易の利得もしくは損失のことであり、輸出入価格の変化によって生じる国内と海外における所得の流出入の損失を示す。

 そして、この関係に基づけば、原油先物価格が10ドル/バレル上昇すると年換算で1.6兆円の所得の国外流出が生じることになる。そこで、この関係から今後の原油先物価格が60ドル/バレル程度で落ち着くと仮定すれば、今年の所得は約0.5兆円の海外流入となる。しかし、今後の原油価格が平均70もしくは80ドル程度で推移すると、今年はそれぞれ約1.0兆円、約2.6兆円も所得の海外流出が生じることになる。

 近年は経済のグローバル化や市場の寡占化が進展しており、物価がこれまでと比較して世界の需給条件を反映した水準で決まりやすくなっている。特に、新興諸国が経済成長率を高めた2003年頃から、経済のグローバル化が実体・金融両面を通じて商品市況の大きな変動要因として作用している。このため、今後も世界経済の拡大が持続すれば、世界の商品市況は下がりにくい環境が続くことになろう。特に今後は、中東情勢の緊迫化が持続することが予想され、世界の原油先物需要はさらに拡大する可能性もある。従って、しばらくは原油先物価格が高水準で推移し、中長期的に見ても原油価格が高止まる可能性があろう。

 これは、日本のように原油をはじめとした資源の多くを海外に依存する国々とって所得が資源国へ流出しやすい環境にあることを意味する。特に人口減少等により国内市場の拡大が望みにくいわが国では、内需主導の景気回復は困難であり、所得の大幅な拡大も困難な状況が続く可能性が高い。従って、資源の海外依存度が高い日本経済は資源価格上昇の悪影響を相対的に受けやすく、日本経済は構造的に苦境に立たされやすい環境にあるといえよう。(第244話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第175話)

第175話:見方を「変える」と、見える世界が「変わる」もの。

 新しい年を迎えると、何事にも気分一新したくなるのが人の常なのかもしれません。しかし最近は、必ずしもそうではないケースに多く出逢います。正月気分を感じない、といった声はよく聞くことですが、街の動き自身が日常とさして変わらぬ動きを見せているからでしょう。かつて(昭和の時代)の正月は、多くの店はシャッターを閉め、少なくとも元旦には、家の物干しに洗濯物がぶら下がる光景が殆どなかったもの。日常の時の流れや作業を止めて、過ぎた年を省みて、合わせてこの年への想いを馳せるのが通常であったように思います。

 しかし今、街は通常の時の流れで動いているように見えます。店もいくつかは開いています。コンビニエンスストアは大晦日も元旦もなく、煌々と電気がつき、日常の食品が、何事も無いように平然と並んでいます。何も普段と違うことをしなくてもいいではないかと言われているようです。街角で晴れ着姿の女性に出会うと、普段とは違うと思うのですが、街の景観が一気に変わるわけではありません。日常の延長線上に正月があるようです。

 時の流れをたまに止めてみるのも良いもの。今までとは違った世界が見えてくることがあります。通常の生活では殆ど縁のない神社仏閣に足を運ぶ。改めて、清新な気が宿るような気分になる。お参りの帰りに、普段立ち寄る店が閉まったままの街並みを歩く。今まで見過ごしていた店の看板や案内が、ふと眼に留まることもある。新しさの発見とは、相手が変わるのではなく、自分のモノの見方を変えることから始まるものです。

 今まで、営々と続いていたことを無理に変えることもないと思います。多くの人が受容していたものを、一方的な考えで壊してしまう必要もありません。重要なことは、見方を変えることです。すると、今までとは変わった世界が見えてくるもの。

 正月とは、自分自身のモノの見方や考え方の偏りを是正するための、日常とは異なる時の流れなのかもしれない、と思ってはや一か月。(第176話に続きます)

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 2016年11月の九州生産性本部での授業風景
株式会社マップス 
代表取締役 清野 裕司

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清野裕司の「ビジネス心論」


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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第242話)

第242話:原油高が日本経済に及ぼす影響

 米国とイランの対立激化により、原油価格が上昇している。昨年9月のフーシ派によるサウジアラビアの石油施設攻撃や、イスラエルがパレスチナやイランへ強硬姿勢を示していたこと等から中東情勢に対する懸念がくすぶる中、1月3日に米軍がイランの総司令官を殺害したことをきっかけに、ドバイ原油は年明け以降1バレル=60ドル台後半で推移し、前年比で2割近く上昇した。

 その後、1月8日にイラクの米軍駐留基地がイランから数十発の弾道ミサイル攻撃を受けたが、米国側に死傷者が出なかったこと等により、トランプ大統領はイランの抑制姿勢を指摘し、追加の武力行使を示唆しなかった。このため、更なる事態の悪化は避けられそうだが、これまでの原油価格上昇が経済活動に及ぼす影響が懸念される。

 原油価格が上昇すれば、企業の投入コストが上昇し、その一部が産出価格に転嫁されるため、変動費の増分が売上高の増分に対して大きいほど利益に対する悪影響が大きくなる。また、価格上昇が最終製品やサービスまで転嫁されれば、家計にとっても消費者物価の上昇を通じて実質購買力の低下をもたらす。そうすると、企業収益の売上面へも悪影響が及び、個人消費や設備投資を通じて経済成長率にも悪影響を及ぼす可能性がある。

 そこで、ドル建ての原油先物価格をみると、月平均のドバイ原油先物は昨年8月を大底に上昇基調にあり、今年1月までに+16.6%上昇している。一方、円も対ドルで昨年8月から1月までに▲1.8%減価(円安)しており、交差項の影響も含めれば、円建てドバイ原油先物価格はこの約5か月で+18.6%程度上昇したことになる。

 続いて、家計への影響を見ると、タイムラグを伴って消費者物価へ押し上げ圧力が強まることがわかる。事実、2006 年1月以降の原油価格と消費者物価の相関関係を調べると、円建てドバイ原油価格の+1%上昇は4か月後の消費者物価を約0.012%押し上げる関係がある。

 従って、円建てドバイ原油先物価格+18.6%上昇の影響としては、消費者物価を4か月後に18.6%×0.012%≒0.23%pt 程度押し上げる圧力となり、家計に負担が及ぶことになる。

 具体的な家計への負担額として、2018年度における二人以上世帯の月平均支出額約28.9万円(総務省「家計調査」)を基にすれば、0.23%pt の消費者物価の上昇は4ヵ月後の家計負担を28.9万円×0.23%≒651円/月程度、年額に換算すると7,810円以上増加させる計算になる。

 特に足元の個人消費に関しては、消費増税や冬のボーナス減等の影響により消費者心理は大きく低下しているが、東京五輪関連の特需発生等に伴い、夏場にかけて一時的に回復するかもしれない。しかし、今後の個人消費の動向を見通す上では、原油価格の高騰といったリスクが顕在化してきたことには注意が必要であろう。(第243話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
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永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第241話)

第241話:悪化が明確化する日本経済に暖冬が思わぬダメージ

 過去の冬場の気象の変化が家計消費全体にどのような影響を及ぼしたのかを見るべく、国民経済計算を用いて 10-12 月期の実質家計消費の前年比と全国平均の気温の前年差の関係を見ると、10-12 月期は気温が上昇した時に実質家計消費が減少するケースが多いことがわかる。従って、単純に家計消費と気温の関係だけを見れば、暖冬は家計消費全体にとっては押し下げ要因として作用することが示唆される。

 そこで1990年以降のデータを用いて、10-12月期の全国平均気温を説明変数に加えた実質消費関数を推計し、冬場の気温がマクロの家計消費に及ぼす影響を試算してみた。これによると、10-12 月期の実質家計消費と気温との間には、気温が+1℃上昇する毎に同時期の家計消費支出が▲0.6%程度押し下げられるという関係が見られる。これを金額に換算すれば、10-12 月期の平均気温が+1℃上昇すると、同時期の家計消費支出を約▲3,604億円(▲0.6%)、実質GDPを約▲2,514憶円(▲0.2%)程度それぞれ押し下げることになる。

 従って、この関係を用いて今年 10-12月期の気温が記録的高温となった2015年と同程度となった場合の影響を試算すれば、平均気温が平年比で+1.2℃上昇することにより、今年10-12月期の家計消費は平年並みだった時に比べて約▲4,306億円(▲0.7%)、実質GDPは約▲3,004億円(▲0.2%)程度それぞれ押し下げられることになる。このように、暖冬の影響は経済全体で見ても無視できないものといえる。

 なお、今回の試算では2015年並みの暖冬となったことを前提に試算しているが、今後も暖冬が続くとは限らない。しかし、実際に暖冬になれば、気象要因により家計の消費行動に大きな変化が及ぶことも十分に考えられる。

 2015 年の場合、前年の低温の反動や暖冬に加えて、チャイナショックに伴う株価の下落や消費マインドの低迷も手伝って、同年10-12月期の家計消費支出(除く帰属家賃)は前期比年率▲2.7%となり、同時期の経済成長率は前期比年率▲1.2%とマイナス成長に陥った。

 今回も、10-12月期は既に消費増税と台風の影響等により、経済成長率と関連が深い鉱工業生産指数は予測指数などを加味すると前期比▲4.6%となる。したがって、2月に公表となる2019年10-12月期の経済成長率も大幅なマイナス成長になる可能性が高い。

 以上の事実を勘案すれば、今後の気象動向次第では、悪化が明確になりつつある日本経済に暖冬が思わぬダメージを与える可能性も否定できないだろう。特に足元の個人消費に関しては、消費増税や自然災害等のマイナスの材料が目立っているが、今後の個人消費の動向を見通す上では、さらに暖冬といったリスク要因も潜んでいることには注意が必要であろう。(第242話に続きます)
 

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第174話)

第174話:伝えることは自らの意志の発信です。わかりやすく。

 自分自身が言葉を使って、さまざまな「論理」を組み立てる仕事をしているからでしょうか。口をついて表現される一言一句にこだわりを持って発信しています。時にその「こだわり」が、表現上「かたくな」な印象を与えてしまうこともあると思っています。自分の肉体の一部から発せられた表現は、内容を含めて発信者自身の責任に帰するものという覚悟をもって、話したり書いたりしているのが日常です。

 そのような認識でいるからだろうと思います。時にTVで見、新聞で読み、SNSを介して垣間見る政治家(先生)諸氏の発する言葉の軽さには、目を覆い、耳を塞ぎたくなってしまうことがあります。人の質問に対して、質問内容から外れた答えをしながらも、延々と自説を語る方。そこに本来的な問題を解決しようとする姿勢が見えてきません。誰に対して発信しているのかも不鮮明な印象があります。聞いて貰うべき人が存在しない独り言に聞こえてしまいます。

 また、慣用句のように聞こえてくるのが、「丁寧な・・・説明/対応をしたい」という「丁寧」ということ。「しっかりと対応する」という「しっかり」の裏付け。「説明責任がある」「任命責任がある」という「責任」の取り方。

 口をついて出る言葉は、本来、自分の想いが表出されたもののはず。だからこそ、言葉を言霊(ことだま)と言いました。言ったことに対する責任をとろうとせずにいる姿勢では、人はいつかその発信者を「オオカミ少年」のように信じなくなってしまうでしょう。言葉は責任の所在を明示していることにも繋がるのです。

 マーケティングの分野でも、時に言葉をもてあそぶような場面に遭遇することがあります。ちょっとした違いにしか過ぎないものを、さも大きな差があるようにメッセージを流す広告も見られます。本来、自らの顧客に向かって発信すべきは、木の葉のような川に浮かび流れる軽さではなく、自らの想いを表明した「言葉」であり、提供者自身の心の端にある「想い」であるはずです。政治の世界に身を置かれる先生方の言葉には、どれほどの重みがあるでしょうか。(第175話に続きます)

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 2016年11月の九州生産性本部での授業風景
株式会社マップス 
代表取締役 清野 裕司

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清野裕司の「ビジネス心論」


今、マーケティング・スタッフには効率よく作業をこなすためのスキルを高めることよりも、幅広い視野で変化を敏感に捉える感度(センス)が問われています。起きている現象を見る目だけではなく、時にもう一つの目(心眼)を開いて、今迄と今を見直し、明日への道を切り拓いて行くように、自らの心に問う学びの志です。
学ぶこと考えることの楽しさを知った自らのビジネス体験を、次代へと歩み行く方々に伝承しておきたいと考えて「心論」と題しました。

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