エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第172話)

第172話:景気に配慮しながら増税・減税を

 各国国債の信任を左右するとされる4指標について国際比較をしてみると、日本の財政リスクは相対的に高くないことがわかる。具体的には、OECD諸国における「政府純債務/GDP」「経常収支/GDP」「対外純資産/GDP」「政府債務対外債務比率」の4四指標をリスクの度合いで並べ替えると、日本は政府純債務/GDPだけではイタリアに次いでリスクが高いが、それ以外の3指標で見れば圧倒的にリスクが低く、相対的に財政リスクが高い国ではないという結果になる。

 また、過去20年間の税収弾性値(2.9程度)を前提とすると、緊縮財政を実施しても名目成長率が下がってしまえば、税収がその分増えるとは限らない。つまり、経済成長と税収の関係を鶏と卵に例えれば、税収という卵を産む経済成長、すなわち鶏を殺すような緊縮財政をすれば、却って財政健全化は遠のきかねないことになる。

 したがって、日本経済が早期に正常化して消費税率が予定通り引き上げられるのがベストだが、2019年度後半は経済的なリスクが高いことからすると、予算編成後も消費税率引き上げの先送りが可能となるよう、景気条項を付帯することも有力な手段といえる。ただ、それが物理的に困難であり、予定通り消費税を上げざるを得ない場合は効果的な景気対策が必要と考えられる。

 具体的な補正予算のメニューとしては、公共事業が一般的だが、公共事業については足元でも問題になっている、いわゆる建設労働者の不足により需要が出現しにくいところもある。このため、公共事業のみに頼るのは危険である。

 効果的と考えられるのは投資減税で、短期で需要を出すためには時限措置的な、もしくは減税率を段階的に縮小していく減税措置にすると前倒しで需要が出現して悪影響を軽減しやすいと考えられる。

 また、今回の消費税率引き上げは逆進性の問題緩和のために、軽減税率が導入されることになっている。しかし、軽減税率は中小企業に対する負担も大きく、既に導入している欧州諸国では様々な問題が生じていることからすれば、景気対策を導入する代わりに軽減税率の導入を取りやめること等も検討に値しよう。

 更に、今期の企業業績は駆け込み需要等による押し上げが予想されることを考えると、来年10月からの消費増税の悪影響を最大限軽減するためには、来年の春闘も重要である。そうした意味では来年はさらなる春闘への働きかけや企業の賃上げに対するインセンティブを誘発させる政策も必要になってくると考えられる。

 結局、その後も消費税率の引き上げが必要であることを考えると、2014年4月の消費税率の引き上げが失敗したこともあり、今回の消費増税は非常に重要である。つまり、今回の消費増税でいかに景気への悪影響を軽微にできるかが証明できれば次の消費増税も実施しやすくなるが、逆に失敗してしまうと次の増税が困難になる。その意味でも、今回は非常に慎重な景気への配慮が必要ではないかと考えられる。(第173話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

さてこの度、永濱氏の書籍が出版となりましたので、ご案内させていただきます。何卒よろしくお願いします。

『エコノミストの父が子どもたちにこれだけは教えておきたい大切なお金の話』~自分の息子と娘のために語り下ろす「お金」の教科書~


〇教育現場でも中高生から経済学や投資の基礎知識などを教えるべき、という声が広がっているが、それ以前にもっと身近な「お金とのつきあいかた」を知るべきではないか、という思いを込めた1冊。

〇「クレジットカードの仕組み」「なぜカンタンにお金が借りられる?」「友だちとのお金の貸し借り」「ものの値段の決まり方」「バイト代や給料の仕組み」「お金がなくなったときどうすればいいのか」「お金を増やすことはできるのか」「無料はほんとうに得なのか?」「君たちもすでに税金を払っている」「修学旅行や部活にだって保険はある」など、中高生の日常に身近なことから「お金とのつきあいかた」を教える。

〇お金で不幸にならないために、お金で人を不幸にしないために、父親としての願いをまとめた一冊。

(ご購入はお近くの書店か上の「本の表紙」をクリックしてください。)

清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第143話)

第143話:状況を説明するには、実感を伴った「感字」の力も活用できる。

 ここ数年の夏は例年暑さが厳しい。そのような様子を表現するには、どのような言葉が似合うのでしょうか。既定の熟語では当てはまらない気がします。その時の想いを言い当てるならば、その時に浮かんでくる文字で表現するしかありません。幾つかを思いつくままに・・・。

 「酷暑連々」「湿潤飽和」「発汗辟易」「麦酒礼賛」「身体倦怠」「動作緩慢」「冷菓想起」「冷茶暴飲」「胃腸痛感」「早朝颯爽」「夕刻脱力」・・・さしたる重みも無い文字の羅列ですが、何となくそうか、と感じることはないでしょうか。

 更に暦の上では秋を告げる9月に入ってからも変わらぬ陽気で、夏の尻尾をひきずったままであれば、「残暑延々」「涼風恋慕」「秋日炎天」「疲労延伸」「回復遅延」「四季喪失」・・・等々が浮かびます。

 例年、その年の漢字一文字が年末に京都の清水寺で披瀝されます。漢字一文字から、そのときの様相が浮かび上がってくるといった経験をした人もいるでしょう。子どもの頃に何度も間違えて書いてしまい、今もなお間違ったままで覚えている漢字もあると思います。まさに個人的な想いがそのまま文字になった感字です。

 漢字はカタチ・意味・音とさまざまな要素を源として今に生きています。そこには、単なる音としての記号を超えた意味を持ち、コミュニケーションに力を与えています。ひらがなで記述すると平易な印象を与えはしますが、かといってその言葉の裏側にある書いた人の心までは言い表わしていないもの。文字そのものの誤記はほめられませんが、正確な文字で自分の心を表現してみると、語呂合わせではない本当の意味がわかってきます。

 マーケティングも「市場論」と置き換わった途端に、何やら古典的学問に出会ったような気分になってしまいます。(第144話に続きます)

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 2016年11月の九州生産性本部での授業風景
株式会社マップス 
代表取締役 清野 裕司

当ブログの寄稿記事を元に加筆編集しました新書が出ましたので是非お読みください。

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「清野裕司のマーケティング考 風を聴く」

今、経営に新たな思考力が求められています。市場にはどのような風が吹いているのでしょうか。風の音に耳を澄ませていると、次代に向けた風の通り道から、マーケティング思考で未来への道標が浮かんでくるかもしれません。それはまた、自分の心に吹く風の音を聴くことにも繋がるのではないか考えました。

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