エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第165話)

第165話:デフレギャップ解消に必要な財政規模は最低4兆円

 日本経済に求められる経済政策を考える上で、1つ目安となるのは足下の需要過不足の規模である。内閣府が計測した昨年のGDPギャップは+0.4%となっているため、既に日本経済は完全雇用の状況にあり、需要刺激策は不必要ということになる。しかし、国際比較が可能なIMFのエコノミックアウトルックに基づいた場合、今年の日本のGDPギャップの見通しを見ると、世界経済の拡大が織り込まれているため、昨年よりGDPギャップは縮小するも、依然として4.0兆円程度の需要不足が存在することになる。そうだとすると、次の消費増税も織り込んで日本経済を考えると、デフレ脱却は少なくとも2019年度一杯までは厳しいことになる。消費増税という選択は、デフレ脱却と財政再建のどちらを重視するかによって重要な決断になってくると思われる。

 また、これまでのマネタリーベースの増加ペースの変遷を見れば、日銀が国債購入量を減らしても金利水準は維持できている。さらにはイールドカーブ・コントロール下の財政政策は、長期金利の抑制を通じてより需要刺激効果が出る可能性が高く、マネタリーベースの増加ペース拡大に伴う円安も期待できるため、そういった意味では、景気対策の財源は国債発行が望ましいと考えられる。

 なお、景気対策の規模としては、消費増税を実際に行うのであれば、駆け込み需要が出てくるため、消費増税の前に財政の規模はそこまで大きくしなくても良いとする向きもある。しかしその場合は、消費増税後にはそれなりの規模の財政政策を組み合わせなければならなくなるだろう。ただし、足下の状況でも景気対策を十分行わなければ、経済成長は厳しいと予想され、そもそも消費税率を上げる決断をするに当たって相当ハードルが高くなるような経済状況になる可能性もある。このため、消費税率を上げるにしても上げないにしても、景気対策が必要だと思われる。

 ちなみに、財政は大丈夫なのか?という意見もあるが、財政の関連指標はアベノミクス後、軒並み予想以上の改善を示しているというところからすると、早期の財政危機のリスクは殆ど考えられない。懸念されるのは、格付機関による国債の格下げである。2015年の9月にスタンダード・アンド・プアーズが格下げしたが、きっかけはその前に公表された2015年4-6月期のGDP成長率がマイナスになったことであり、アベノミクスに伴う経済成長が期待できなくなったことが理由とされている。しかし、2018年4月13日には、名目経済成長率が2%を超え、実質実効金利がマイナスであることで、政府債務残高が従来の予想よりも早く安定化するとの見方を反映して、日本国債の格付けアウトルックを「安定的」から「ポジティブ」に変更した。こうした事例を踏まえると、財政再建を考えるうえでも経済成長重視の政策を進めていくべきと考えられる。

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第140話)

第140話:店の予約対応にサービスの意味を知りました。

 渋谷の百貨店食品売り場での体験談から、顧客の声をどう解釈して対応するかが、サービス品質の差につながることを知りました。

 翌週に開催予定の月例勉強会用に、私の秘書が弁当の予約に出向きました。「カツサンド」で著名なとんかつ屋です。軽食なのですが、値段との関係で見れば、程よい量と彩りで今までも評判の良かったものを11個オーダーするのが目的です。

 2日後の夕刻受け取りに来る旨を告げて予約の依頼をしました。途端に販売員の目つきが変わったと言います。明らかに「めんどう」と思わせる顔つきになる。早々に彼女の後ろでサンドイッチをつくっている年長の男性と一言二言。振り返りざま、おもむろに口を開いて、「ご予約の場合は3日前までとなっております」との発声。もし、店でそのように決まっているのであれば、後ろの人との密談は何だったのかと首を傾げます。店頭には、そのようなガイドラインを示す案内一つあるわけではありません。

 秘書は止む無しと考え、同じ百貨店内の「のれん街」にある同じ店へと向かい、同じことを告げたそうです。そこにいた販売員の女性が申し訳なさそうな顔をして、「ご予約は3日前までになっているのですが、2日後の夕刻であればご準備できるかもしれません。ちょっと電話で確認をしてみます」との言葉。早速に電話をとり、なにやら頭を下げている姿。

 待つこと約2分。「ただいま確認を致しまして、準備が出来るとのことです。改めましてお客様のお名前とご連絡先を・・・」と無事にオーダーすることが出来たとのこと。

 同じ店である。同じブランドである。同じ商品である。つくっている所が違うのでしょうか。老舗名店の文字が、混迷した文字に見えてしまう予約対応の一コマです。

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 2016年11月の九州生産性本部での授業風景
株式会社マップス 
代表取締役 清野 裕司

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「清野裕司のマーケティング考 風を聴く」

今、経営に新たな思考力が求められています。市場にはどのような風が吹いているのでしょうか。風の音に耳を澄ませていると、次代に向けた風の通り道から、マーケティング思考で未来への道標が浮かんでくるかもしれません。それはまた、自分の心に吹く風の音を聴くことにも繋がるのではないか考えました。

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第164話)

第164話:実質賃金をプラスに持っていくには

 そもそもマクロ経済学上には「完全雇用」という概念があり、経済全体で非自発的な失業者が存在しない状態を示すとされている。そして、その状態における失業率を下回ると賃金上昇率が加速するということで「完全雇用失業率」と呼ばれている。従って、我が国でも非自発的失業者が存在しない失業率の水準が完全雇用失業率の目安となる。そこで、総務省「労働力調査」を用いて非自発的離職が存在しない場合の失業率を求めると、2010年頃までは3%程度で安定していたが、2017 年以降は2.1%まで下がっている。従って、完全雇用失業率の水準自体がここ7年で1%近く下がっており、賃金上昇率が加速するまで労働需給がひっ迫していない可能性が指摘できる。非自発的な離職者が多数存在しているということは、まだ労働供給の余地があることを示している。これが、失業率が下がっても賃金が上がりにくい理由の一つである。

 したがって、実質賃金をプラスに持っていくには、まず低下している完全雇用(非自発的離職者がいない)失業率水準にさらに近づけるべく、金融・財政政策の強化が必要となろう。

 また、日本で平均賃金の上昇を阻んでいるのは、人手不足感が低い企業や職種から人手不足感の高い企業や職種に人材が異動するような労働市場の流動化が乏しいことも一因と推察される。

 実際、厚労省「労働経済動向調査」の職種別過不足DIを見ると、管理や事務以外の職種で不足感が強いことがわかる。

 特に、労働市場の流動化を阻んでいる背景には、同じ会社で長く働くほど賃金や退職金等の面で恩恵を受けやすくなる日本的雇用慣行があると考えられる。

 また、特に就職氷河期世代では非正規で雇われた労働者も多い。そして、こうした非正規化が職場内訓練(OJT)の機会を減らし、若手で経験し、身につけるべきスキルを身に着けられなかったことで生産性低下を招き、結果として賃金を上がりにくくしている可能性もあろう。また、労使協調のもと、苦境でも賃下げしないことが、逆に賃上げを抑制してしまう日本企業独特の慣行もある。

 従って、職業訓練や支援金等を通じた転職支援の充実は、労働市場の流動化を高める経済対策としても有効である。また、労働市場の流動化を妨げている賃金や退職金制度における年功序列体系の改革を進めるためにも、正社員の解雇規制緩和も必要となってこよう。更に、賃金を柔軟に変動させる仕組みの導入や、経営戦略上必要な人材育成に企業が取り組みやすくなる環境を整備することも求められよう。(第165話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第163話)

第163話:脱デフレ宣言の幻想

 安倍政権は2012年の政権発足以来、デフレ脱却を政権の最優先課題としてきた。そして、安倍政権はデフレ脱却の目安として4指標を重視しているとされており、2018年1-3月期時点では3四半期連続でこの4指標が揃ってプラスとなった。具体的には、小売り段階の物価動向を示す①消費者物価指数に加えて、国内付加価値の単価を示す②GDP(国内総生産)デフレーター、国内付加価値あたりの労働コストを映す③単位労働コストの3つが前年同期比プラスとなった。また、国内経済の需要と供給のバランスを示す④GDPギャップも、需要超過を示すプラス幅が縮小するもののプラスは維持された。こうしたこともあり、政府は物価が持続的に下落する環境ではなくなっているとしている。

 ただ、2018年1-3月のGDPデフレーターは前年比ではプラスになったものの、前期比ではマイナスとなっており、低下トレンドが続いた格好となっている。背景には、原油価格など輸入価格の上昇で国内付加価値の単価が下がったこと等がある。従って脱デフレ宣言には、原油価格の上昇にも耐えうる購買力を確保するためにも、賃金が持続的に物価上昇率を上回って上昇する、すなわち実質賃金がプラスを維持できるかがカギを握る。

 そうした意味では、脱デフレ宣言に向けて最大の注目イベントが春闘であった。しかし、今年の春闘はやや期待はずれの結果となった。というのも、日本経済新聞社がまとめた2018年の賃金動向調査(一次集計:4月3日時点)によれば、平均の賃上げ率は2.41%と1998年以来20年ぶりの高い水準になったものの、政府の目指す3%には達していない。また、過去の賃上げ率実績と連動性の高い毎月勤労統計の所定内給与(一般)によれば、1998年度の上昇率は+0.8%にとどまっている。そうなると、過去の春闘賃上げ率と一般労働者の所定内給与の関係に基づけば、今年の名目賃金は+1%程度上昇すれば御の字といった状況だろう。

 つまり、今年の消費者物価上昇率が+1%程度の範囲内に収まれば、昨年2年ぶりに減少に転じた実質賃金は今年上昇に転じることになる。しかし、タイミングの悪いことに、昨年の夏から足元にかけて原油価格が上昇した。このため、直近となる2018年1-3月期の名目賃金は前年比で+1.4%の増加となったが、名目賃金を実質化する際に用いられる消費者物価指数(帰属家賃を除く総合)の上昇率がそれを上回る同+1.6%に達したため、実質賃金は同▲0.2%まで下落していることになる。

 過去の春闘賃上げ率と名目賃金の関係を見ると、少なくとも名目賃金が前年比+1%程度伸びるためには、春闘賃上げ率が2.6%近くまで到達しないと困難といえる。しかし、先の通り今年の春闘賃上げ率が最終的には2.4%程度に落ち着く可能性が高い。そうなると、恐らく今年も2年連続で実質賃金がマイナスになる可能性が高いだろう。従って、実質賃金がマイナスの状況が続く中では、年内に政府が脱デフレ宣言することは困難と言えよう。(第164話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
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