エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第154話)

第154話:対外取引から読み解く「国民所得を拡大」させる一つの鍵

 近年の経済活動の中では、対外取引の重要性が増している。こうした対外取引は、財やサービスを対象とする輸出入と金融資産を売買する資本取引に分けられる。中でも、海外とのモノやサービスのやり取りを対象とする輸出はGDPの需要項目であり、海外への国内需要の漏れを示す輸入も控除項目としてGDPに影響する。

 特に、近年の輸出の変調は景気の転換点になっており、2012年1-3月期を山とした景気後退および2012年10-12月期を谷とした景気回復は、世界的なIT関連製品の在庫調整による輸出の変動がきっかけとなっている。このように、景気動向を見る上で輸出動向は重要な判断材料となる。

 こうした輸出入の動向を決める最大の要因は、海外や自国の経済動向であり、これを所得要因と呼ぶ。例えば、海外経済が好調で所得が増加すれば日本からの輸出が増え、逆に海外経済が悪化すると日本からの輸出が減る。同様に、日本経済が好調で所得が増加すれば輸入が増え、日本の景気が悪化すると輸入が減る要因となる。

 また、輸出入品の相対的な価格も輸出入の動向を大きく左右し、これを価格要因と呼ぶ。円安等による輸出品の価格低下や性能向上等により輸出品の競争力が増すと輸出量が増加し、円高等により輸入品の相対的な価格が低下すれば輸入量が増加する要因となる。

 この点から見ると、輸出入の先行きについては不透明な要素が多い。中国で金融規制が強化される中、海外経済の行方は予断を許さない状況にある。また、2017年は比較的安定していた為替相場の動きも要注意だ。為替が変動すれば、海外から見た日本製品の価格が変化し、国際競争力に影響する。当面、我が国の貿易、ひいては景気動向を判断するには、世界経済の動向や為替相場から目が離せない。

 日本の貿易動向を見る上で、最も代表的な統計が財務省の『貿易統計』である。毎月下旬に前月分が発表され、品目・地域別の輸出入金額や、金額、数量、価格面からみた各貿易指数が公表される。

 貿易統計をもとに、2016年度における輸出の地域別構成比を見ると、米国向けが19.7%、欧州向けが11.2%、中国向けが17.9%、NIES(韓国、 台湾等4か国)向けが22.0%、ASEAN(インドネシア、タイ等10か国)向けが14.9%、中東やロシアを含むその他地域向けが15.4%となっており、地域別で見れば依然としてNIESが日本最大の輸出先であることがわかる。

 しかし、これを時系列で見ると、2011年度までは中国の比重が米国を上回っていたが、2012年以降は代わって米国の比率が上昇している。更に2013年度頃からは、中東やロシアを含んだその他地域の比率も急激に低下していることがわかる。こうしたことから、日本からの輸出比率の変化は輸出相手先の経済状況を如実に反映していると言えよう。(第155話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第134話)

第134話:「科学」と「技術」が結びつくと新しい時代が拓かれます。

 「科学技術の進化が、私たちの暮らしを豊かにしてきた」とは良く聞く言葉です。確かに、幼かった頃の自分の生活空間と現在を比較すれば、その違いは眼を見張るものがあります。子どもの頃に本を通じて見ていたハイウエイ。アメリカのTVドラマで見た大型冷蔵庫。映画で見た小型の電話(携帯電話)や位置確認のシステム(GPS)は、誰も「007ジェームスボンド」にならなくとも、普段の暮らしで使用することが出来るようになりました。飽くなき探究心の賜物と、その研究開発努力には頭が下がる思いがあります。

 しかし、技術力を駆使して利便性を追求するあまり、結果として同質的な商品が氾濫し、却って消費行動を惑わすようなこともあります。企業は何のために、誰のために存在するのかの問いに対して、社会発展のために、顧客のために・・・と言いつつも、無益な競争環境を自ら生み出してしまい、顧客の学習過程とマッチしない開発の速度を競う場面もみられることがあります。

 企業は競争環境の中で自らの技を磨くという宿命を背負っています。ただ時として、自らの技を商品化する技術優先で捉えすぎてしまうことが見られます。技術は作り出すものですが、その前に現象や社会変化を読み解く科学が必要です。科学と技術の一体化こそが、企業に求められるマーケティング行動です。

 科学的に見れば、人にとって画像は「記憶」の再現。これを技術的に見れば、画像は「記録」の保存ということになります。どうも最近の競争は、科学と技術の一面にのみ偏っているように見えてしまいます。

 そこで必要になるのは、企業自らが「自分のコアとなる強みは何か」をカタチに現す技術の面だけではなく、意志の面での再確認です。相手を知り、状況を読み解く。そこには科学的な検証が必要です。社会のために、顧客のために・・・と堂々と発信できるのは、「科学」に裏打ちされた「技術」の力だからです。(第135話に続きます)

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 2016年11月の九州生産性本部での授業風景
株式会社マップス 
代表取締役 清野 裕司

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第153話)

第153話:景気動向を占う上で重要性が高い設備投資

 設備投資の動向をいち早くとらえようとする経済指標は多数存在するが、中でも内閣府が発表する『機械受注統計』が、月次の設備投資先行指標として最も注目されている。

 受注額には民間需要以外にも外需や官公需、代理店経由の受注が含まれている。その中でも設備投資の先行指標として最も注目されるのが「船舶・電力を除く民需」である。船舶と電力が除かれるのは、それらの受注が大口であることが多く、変動を極端に大きくすることでデータのかく乱要因となるためである。

 ただ、それでも受注統計は季節調整値の前月比が大きく振れやすいことから、3ヶ月移動平均などを用いて判断することが一般的である。また、機械受注はGDPベースの民間設備投資に1~2四半期先行する性質を持つ。これは、機械の受注から生産、納品段階までに時間を要するためである。

 こうした設備投資の変動を規定する最大の要因は、投資する資本のコストを上回る収益が得られるかどうかを示す投資の採算性である。そして、その判断は企業が投資による期待収益とコストの関係をどう見るかに依存する。

 つまり、企業が投資コストに見あう収益が期待できると判断すれば設備投資を増やして生産能力を増強するが、景気の悪化期待などにより設備が過剰になると判断すれば、設備投資は抑制されることになる。一方、市中金利が高ければそれだけ企業の資金調達コストが増えることを意味することから、金利の低下は設備投資の刺激要因となり、逆に企業の期待収益率を上回る金利上昇は投資採算の低下を通じて設備投資の抑制要因となる。こうした投資採算に基づく企業行動が行われることで設備投資の循環が作られている。

 このため、調達コストがかからない企業の手持ち資金(キャッシュフロー)と設備投資は関係が深く、この関係を見るために財務省の「法人企業統計季報」がよく用いられる。同統計は、金融・保険業を除く資本金1千万円以上の法人企業の四半期決算を業種・規模別に集計したものであり、GDP2次速報の推計にも用いられるため、市場の注目も高い。

 実際にこの関係を見ると、設備投資はバブル経済を追い風に80年代後半から90年代前半にかけて手持ち資金を上回った後、94年以降はキャッシュフロー(簡便的に経常利益/2+減価償却費で計算)に連動して推移した。しかし、98年以降はキャッシュフローと設備投資の差が拡大している。この背景には、過剰設備や過剰債務の処理に追われる企業が多く、手持ち資金からの有利子負債返済を優先していたことがある。

 その後、2013年以降は国内設備投資も拡大基調にあるが、キャッシュフロー対比で見れば相変わらず抑制傾向にある。この背景としては、企業における生産・販売拠点のグローバル化等により、日本企業が国内設備投資のみならず、海外向けの投資やM&Aといった資金の使い道も視野に入れていることが影響している。

こうした経済のグローバル化は今後も進展する可能性が高いことからすれば、国内設備投資がキャッシュフローの範囲内で行われる状況は今後も継続しよう。(154話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第152話)

第152話:消費者心理ウォッチ

 最も総合的な個人消費の月次指標である内閣府「消費総合指数」の動きを見ると、2013年から拡大が続き、特に消費税率の引き上げを控えていた2013年度末にかけては駆け込み需要で大きく盛り上がった後、2014年4月にその反動で減少に転じて以降は低迷傾向にあった。しかし2017年以降は、雇用・所得環境の改善や消費者心理の持ち直し等を背景に、少なくとも昨年末までは個人消費は回復していた。

 こうした個人消費を左右する最大の要因は、財布の中身に例えられる家計の可処分所得だが、財布の紐に例えられる消費者心理も個人消費を大きく左右する。

 消費者心理を表す統計としては、毎月中旬頃に前月分データが公表される内閣府の『消費動向調査』の消費者態度指数が代表的である。特に、約4900 世帯を調査対象とした2人以上の一般世帯の計数が注目される。同指数は「暮らし向き」「収入の増え方」「雇用環境」「耐久消費財の買い時判断」の4つの判断項目のDIの単純平均として算出され、各判断項目は「今後半年間」の変化の方向について5段階での回答を求め、50を中立とするDIとして集計される。

 また、消費者心理をより迅速に把握するには、毎月上旬頃に前月分が発表される内閣府の『景気ウォッチャー調査』を利用する方法もある。同調査は、景気動向を敏感に観察できる立場にある全国2050人を対象に3ヶ月前と比べた景気の現状について5段階で評価を求め、50を中立とするDIとして集計したものである。DIは、小売店、旅行代理店などの経営者・従業員、タクシー運転手等の調査から集計されており、消費者心理を映す。

 これまでの消費者心理の動きを見ると、昨年秋までは景気の拡大と共に改善してきたが、冬以降は悪化に転じている。昨秋までの改善は、消費者心理が株価などの水準感を反映しやすいことや、景気変動が残業時間の変化などを通じて勤労者の所得を左右するためである。しかし、2018年以降は特に景気ウォッチャー調査が大きく悪化している。この要因としては、寒波到来で経済活動が抑制されたことや、昨年夏以降の原油高により、ガソリンや光熱費、食料品など生活必需品の価格が上昇したことが考えられる。

 通常、物価の上昇は需給の逼迫を意味するため、家計の所得も拡大していることが多く、個人消費にプラスとされる。しかし、家計の所得が伸び悩む一方で、コストの上昇により需要に関係なく物価が上がる場合は、家計の購買力を低下させるため、消費にマイナスの影響を及ぼす。

 今後、春闘の賃上げなどにより家計の所得が回復し、購買力の低下が解消されれば消費は上向くだろう。ただし、一方で原材料価格の上昇や人手不足による値上げなど、物価に対する構造的な上昇圧力は根強く残るため、その出現の仕方次第では、個人消費が伸び悩む可能性があることにも注意が必要だろう。(第153話に続きます)

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第133話)

第133話:ビジネス「のうりょく」向上に「3S」を組み込むこと②

 ビジネスの世界では、人間関係に悩むこともあります。実は悩んで考えるのも「悩力(のうりょく)」です。でも一般的に「のうりょく」と言えば「能力」の文字が浮かびます。これは、何かを能率的に「こなす」ための力を言います。対応の方法を理解して実践することですから、Skill(技術・技能)の向上がものを言います。しかし、悩みは単純に解決されるものではなく、個人の想いの深さや広がりによって解決の糸口を考えていく「取り組む」力が必要になります。そのような力は、ある現象をこなす「能力」ではなく、個人が自らの道を拓くやり方を考える「脳力」と捉えることができます。
 
 ある現象や事象を見て、何故そのようなことが起きるのか、あり得るのかを考えることも「のうりょく」のひとつです。自分の体験と照らしながら、考えを巡らせます。そしてある時ひらめく。自分自身は体験していないことであったとしても、解決の筋道が思い浮かぶ瞬間です。決して文献から得た頭の中に蓄積された知識だけではない力が働いているようです。ですから、技術的な方法を知るSkillではなく、個人の考える感度Senseを高めることに繋がります。

 Skill&Senseアップに取り組んだならば、未来に向けて進むべき方向を考えてみたいと思いませんか。自らの心が、どちらの方向を向いているのかの確認です。心が指す、まさに「こころざし=志」を持つことです。

 「思う」だけならば脳を働かせる力でも可能でしょうが、高みに立って先を見るのは「想う」志が必要です。木に登って遠くに目をやる「想う力」をもてるかどうかによって、思考のレベルも異なってきます。言い換えれば「気」の力と捉えることもできます。すると、その人らしさや会社らしさを他の人が感じてくれるものです。

 元気な振る舞いは個人や会社の活力を感じさせ、どこか特有のStyleをかもしだすものです。高い木に登り、はるか先に広がる原野を見ながら、未来をデザインし続けていくことこそが、企業の戦略を考え生み出す行動なのです。(第134話に続きます)

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代表取締役 清野 裕司

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「清野裕司のマーケティング考 風を聴く」

今、経営に新たな思考力が求められています。市場にはどのような風が吹いているのでしょうか。風の音に耳を澄ませていると、次代に向けた風の通り道から、マーケティング思考で未来への道標が浮かんでくるかもしれません。それはまた、自分の心に吹く風の音を聴くことにも繋がるのではないか考えました。

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