エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第138話)

第138話:著しい日本株と日本経済のかい離

 国内すなわち国境の内側での経済活動がどのくらいあるかによって、その国で生み出される付加価値、つまりGDPを生み出せるかが決まる。この付加価値が毎年どのくらい増えそうかを見れば、この先どのくらいの速度でGDPが大きくなるかが分かる。これがその国の経済成長率となる。

 このため、日本経済と日本の株価の乖離は大きなものになる。なぜなら、総じてグローバル企業の時価総額が大きいのは、在外子会社で利益の多くを生み出しており、連結ベースで見た場合の利益成長が期待されているからである。更に株式市場において、外国人投資家の存在感が高まっていることも影響している。例えば、世界経済に良い見通しが立てば、外国人投資家のリスク許容度が高まることから日本株買いも活発化し、逆に世界経済の雲行きが怪しくなれば、外国人投資家のリスク許容度が低下することから、日本株投資は手控えられることになる。

 このように、日本企業の業績や株価は日本経済の動向のみでは決まらなくなっている。つまり、企業業績や日本株が好調だからといって、日本経済が好調とは決めつけられない。逆に、日本経済が悪いからといって、日本企業や日本株が同じように悪いとも決めつけられないだろう。

 人口減少と経済のグローバル化が不可逆的となっている状況下において、日本企業はより一層経営のグローバル化を進めており、それに伴って企業業績は日本経済から乖離していくことになる。最早、グローバル経営を図る日本企業の『企業業績』と、国内の経済活動を示す『GDP』は明確に分けて考えなければならない状況といえる。

 更に、日本企業がグローバル経営を志向して企業業績を高めると、日本における経済活動が空洞化してしまう恐れもある。企業が海外に現地法人を設立して海外進出しても、国内の雇用は増えず、国内の雇用が海外に奪われることになる。それは、すなわち国内の雇用機会が失われることを意味する。連結ベースで日本企業が儲かっていても、それに伴って日本の雇用環境も良くなる訳ではない。より良い事業環境を求めることはグローバル競争をする企業にとって当然のことだが、日本経済にとってはダメージとなる可能性もある。

 前回から見てきたとおり、昔は日本経済と日本企業の業績は極めて強い関係にあった。しかし最近では、グローバル企業の連結収益のかなりの部分は海外拠点での実績であり、日本経済との連動性は乏しくなりつつある。すなわち、『日本企業』と『日本経済』は明確に分けて考えなければならなくなっていると言えるだろう。(第139話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第125話)

第125話:日常生活には「慣らされたルール」があるようです。

 いつ頃からでしょうか、当たり前のように慣らされてしまっている行動があります。エスカレーターに乗る時に、つい左側に立つこと。但しこれは東京にいる場合。大阪ではこれが右に立つことになります。混雑した人込みを逸早く抜け出したいと、気持ちだけが先走る時があります。目の前をゆったりと歩かれると、何となく腹立たしさを感じることもあります。人それぞれのペースがあることを承知していながらも、自分のことを中心に考えてしまうからです。そのような人のためでしょうか、かつて「急ぐ人のために右側を空けて下さい」のサインがあったように記憶しています。最近はそのガイドなしで、何となく自然に人は片側に寄っています。そして通行に目詰まりが起きます。

 東京での動きに慣れて、夕刻大阪に入る。大阪では左右逆です。新大阪駅改札を出てすぐのエスカレーターに乗っていて、後方から押されたことがあります。舌打ちの音すら聞こえてくることも。ふと思い起こして、大阪では右に寄らねばならなかったかと、急遽立ち位置を変える瞬間です。

 大勢の人が黙々と前を見て進む。その先にエスカレーターがある。その途端に二筋あった通行路が一本になってしまう。当然、流れが滞るという悪循環が起きてしまいます。一方の筋では、大きな荷物を持ち上げるようにして、さながら階段を駆け上る雰囲気の人に出逢うことがあります。それほど急ぐのだから、新幹線の発車時間に間に合わないのかと見ている側があせってしまいます。しかし、どうやらそうではないようで、上りきったところから今度は、ゆっくりとした歩調になります。慣らされているだけなのでしょうか。

 習慣とは恐ろしいものです。デパートのエスカレーターでも同じ現象に出会います。最上階で開催中のバーゲンセールに急ぐのだろうかと思わせる集団。それほど急ぐのであれば、階段を駆け上ってはどうかと思います。買い物をゆっくりとしたペースで楽しむことはないのでしょうか。

 かつてこんなメッセージが流れたことがある。「せまい日本。そんなに急いでどこへ行く」。一方に寄る集団的な行動に、飼い慣らされた現代社会のルールを見る想いがあります。(第126話に続きます)

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 2016年11月の九州生産性本部での授業風景
株式会社マップス 
代表取締役 清野 裕司

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「清野裕司のマーケティング考 風を聴く」

今、経営に新たな思考力が求められています。市場にはどのような風が吹いているのでしょうか。風の音に耳を澄ませていると、次代に向けた風の通り道から、マーケティング思考で未来への道標が浮かんでくるかもしれません。それはまた、自分の心に吹く風の音を聴くことにも繋がるのではないか考えました。

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第137話)

第137話:企業業績≠日本経済の実力は当たり前

 21年ぶりの高値、史上初の16連騰――。記録的な上昇を演じる日経平均株価だが、その底流にあるのは、2013年度から最高益を続ける日本企業の好調な業績である。しかし、日本経済の実力を示すと言われる名目GDPは、企業業績ほどは伸びていない。これは、企業業績の拡大が海外経済によってもたらされていることが背景にある。一方、企業が獲得した儲けを国内設備投資や人件費に使う割合も低下傾向にある。この背景には、いわゆるキャッシュフローの使い道が海外投資や内外のM&A優先になっていることがある。

 実は、こうした構造変化が、企業の利益からも見えてくる。財務省『法人企業統計季報』では、二種類の利益が公表されている。一つは、企業の本業から生み出した利益を示す『営業利益』であり、売上高から売上原価や販売費、一般管理費を差し引いて算出される。一方、ここでは本業以外の日常的に発生する損益は含まれていない。企業経営では本業以外にも、支払利息や受取利息、その他の営業外損益などの損益が発生する。そこで、営業利益にこれら本業以外の損益を加えた利益が『経常利益』であり、日常的な企業活動から生まれる利益として重視されている。これが、法人企業統計季報で公表される利益である。

 利益獲得を目指す企業活動が経済環境に大きく左右されるということは、当たり前の話である。例えば、海外需要が拡大すれば、輸出産業の利益は増加する。また、資源価格が上昇すれば、原材料コストが上昇して多くの企業で利益悪化要因となるが、資源高は資源国に対する輸出などで恩恵を受けることもある。一方、所得環境が悪化すれば、内需関連の商品やサービスを取り扱う業種の利益は低迷することが多くなる。為替相場の変動も、輸出入金額の変化を通じて利益に影響を及ぼす。

 実は、このように日本企業の利益構造にも、2000年代半ば以降、特徴的な変化が起きている。財務省の「法人企業統計季報」を見ると、統計が開始された1955年度以降は常に営業利益は経常利益を上回っていた。それが、2004年度から法人企業の経常利益(除く金融)が営業利益を上回っている。

 この背景には、金利の低下や債務削減による支払利息の減少もある。しかし、それ以上に海外子会社からの配当や特許権使用料の増加が影響している。このことは、日本企業の海外事業の収益性が向上し、海外現地法人で稼いだ利益の国内への還流が拡大していることに他ならない。

 国内で人口減少や少子高齢化が続くことを考えると、将来的にも日本企業がグローバル化を進めることは避けられず、今後も経常利益が営業利益を上回る関係は続く可能性が高い。これが、日本企業の単体で見たときの収益構造の変化である。(第138話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第136話)

第136話:米景気と五輪効果の持続性

 2017年は欧米経済が好調だったといえる。特にユーロ圏は、フランス大統領選で親EU派マクロン氏当選等による政治的不安の後退で製造業の景況感が6年ぶりの水準まで上昇している。米国の製造業景況感指数も6年ぶりの水準まで上昇しており、景気は底堅いと言える。これを受けて、日本も欧米に比べてペースが緩いが、景気は拡大している。不動産市場を中心に警戒された中国経済も、金融市場は引き締め方向に進んでおり、バブル崩壊リスクの軽減や、商品市況の安定などにより、実体経済も今のところ安定している。

 ただ、これまで世界経済が好調だったのも、アメリカ経済が長く拡大してきたからこそ続いてきた部分も大きい。アメリカ経済は景気が拡大を始めてから8年以上が経過している。しかし、過去のアメリカの景気回復期間の平均は5年程度であることからすれば、そろそろアメリカ経済も景気回復の終盤に差し掛かっている可能性がある。当然、アメリカも景気後退期に入れば金融緩和の方向に向かうため、ドル安円高により株価が下落し、日本経済の足かせになる可能性があるだろう。

 実は、近年のアメリカの景気循環には法則がある。アメリカのGDPギャップのデータによれば、需要が供給能力を上振れすると物価が上がるため、FRBがインフレの加速を抑えるために金融引締めを強化することにより景気後退に入っている。リーマンショックで大変な需要不足が生じたため、8年間景気回復が続いてもGDPギャップは依然としてマイナスである。しかし、2018年に減税やインフラ投資の効果が出現すれば、需要が刺激されることになるため、需要が供給を上回ることになり、その後の金融引き締めにより、早ければ2019年頃にアメリカ経済が景気後退に入ってもおかしくないという見方もできる。

 日本経済を考えても、オリンピック効果は主に建設投資であり、ピークは開催年の1年前の2019年に訪れる可能性が高い。更に、2019年10月に消費増税も予定されているが、本当に上げられるのか分からない。ただ、景気に関係なく消費税を上げてしまう可能性もあり、これが目先の日本経済の最大のリスクだと思われる。

 また、安倍政権の政権基盤の揺らぎがマーケットを通じて日本経済に悪影響を及ぼす可能性もある。日本株の売買は7割が外国人投資家であり、安倍政権の政権基盤が盤石なほど、外国人投資家が日本株を買い、基盤が揺らぐほど日本株は売られる。従って、2018年9月の自民党総裁選の行方次第では、アベノミクスが終了する可能性があり、そうなれば日本経済も後退を余儀なくされる可能性がある。

 アメリカ経済のリスクは引き続きトランプ政権の政策運営だろう。減税やインフラ投資により経済が良くなれば金利が上がってドル高になり、レパトリ(海外に投資されていた資金が本国に還流すること)により経常赤字の新興国が経済危機、通貨危機に陥る可能性もあろう。また、北朝鮮とアメリカの関係もリスクである。特に北朝鮮と日本は地理的に近いため、万一ミサイルにより国内で被害が出るようなことがあれは、経済へのマイナス影響が大きくなろう。(第137話に続きます)

永濱 利廣 氏

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第124話)

第124話:内(家)と外の区分けがぼんやりしてきているように思います。

 歳を重ねたことだけが理由ではなさそうです。最近の高校生と思しき若者の歩くスピード感の無さには、ほとほと嫌になることがあります。何も先を急ごうとあせって歩いているわけではありません。狭い地下鉄の階段を、すり抜けようとしているわけでもないのです。普通のペースで歩きたいと思っているだけです。しかし、それが思うに任せません。前をさえぎる集団がいるからです。しかもゆったりと、引きずるような歩み。

 ふと目を足元にやると、靴のかかとが踏み潰されています。スリッパを履いて、家の中を歩くスタイルです。無目的的で、無感動的なスタイルに見えます。日常の生活変化を体現することなく、ただ思うに任せて動いている印象さえ与えます。今自分がどこに居るのか、この環境ではどのような振る舞いをすべきなのかを意識せずにいるようです。家の中から一歩でた世界は外界であり、決して内包された囲いの中に居るのではないといった意識が欠落しているのでしょう。内側と外側といった対極的な区分け意識がなくなってきたのでしょうか。自分を中心とした内にこもってしまったのでしょうか。

 「自分探し」という言葉があります。自分の内面にある力が、どのような分野、どのような世界で活かされるのかを考ると言われます。であるならば、内的な思考回路ではなく、外界との接点を多く持つことが、自らの可能性の発見に繋がると思うのですが、決してそうではなく内的な思考に陥るようです。「内」と「外」との仕訳があいまいになっているのでしょうか。

 東京メトロのマナーポスターに、「家でやろう。Please do it at home.」の文字がおどったことがありました。家は「うち」です。自らの生活空間の外にある「世間」という存在が、いつの間にかこの国の風土から消えていってしまったように思えます。

 今日もまた、「内(家)」にいたまま「外」に出てきた通学・通勤スタイルを見る朝です。(第125話に続きます)

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 2016年11月の九州生産性本部での授業風景
株式会社マップス 
代表取締役 清野 裕司

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「清野裕司のマーケティング考 風を聴く」

今、経営に新たな思考力が求められています。市場にはどのような風が吹いているのでしょうか。風の音に耳を澄ませていると、次代に向けた風の通り道から、マーケティング思考で未来への道標が浮かんでくるかもしれません。それはまた、自分の心に吹く風の音を聴くことにも繋がるのではないか考えました。

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