エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第135話)

第135話:景気に左右される消費増税の影響

 財政再建計画を作成する際に、意図的に高い成長率や税収弾性値を前提とすることもできる。必要な歳出削減策や増税額を小さく見せかけることもできる。しかしこのような計画では、財政政策運営への国民や金融市場の信頼感を損なうことになろう。同時に、妥当な水準を明確に下回る税収弾性値を想定しても、今度は必要以上の歳出削減や増税を実施することが必要になる。

 仮に、公共サービスを過度に削減して国民に負担を強いれば、国民生活は足を引っ張られることになろう。従って、財政構造改革は、妥当な税収弾性値の議論を深めた上で進めるべきである。そうしないと2014年度の消費増税時の二の舞を演じることになりかねない。

 2015年度時点でも、基礎的財政収支は15兆円以上の赤字である。日本の財政は、赤字解消のために歳出削減や増税が必要であることは明らかである。しかし、景気が不況期にある中で増税をやりすぎれば、税の大幅な自然減収につながりかねない。また、消費税率の引き上げが実際に経済に及ぼす影響は、引き上げの方法や実施する時の経済の状況によって異なる可能性が高い。

 1989年度に消費税3%が導入されたときには、バブル景気の真っ只中で好景気が続いていた。更に、この時は消費税率の導入といった増税と同時に物品税廃止といった減税も実施された。このため、実質的な家計への負担増は小幅であった。89年度は消費税の導入により+3.3兆円の増収となった一方、物品税の廃止により税収が▲2.2兆円減少したため、最終的な家計の負担増加額は+1.1兆円程度にとどまった。消費税を導入しても消費の好調が持続し、経済全体に目立った悪影響は及ぼさなかった。

 一方、1997年度には消費税率が+2%ポイント引き上げられた。この時はバブル崩壊後の停滞から景気が一時的に持ち直しつつある時期だった。これにより、消費税の税収は前年比で+3.2兆円増加した。さらに、同時期に特別減税の打ち切りにより+2兆円程度、年金・医療保険改革で+1.5兆円程度の増税が実施され、家計全体では合計で約+6.7兆円もの増税が実施された。更に消費税引き上げ後には、アジア通貨危機や金融システム不安、年金不安の高まりなども重なった。このため消費者心理が急速に悪化し、消費の低迷により景気が大きく悪化した。この時期の物価は、導入前のデフレの状況から、一時的に消費税引き上げ分の転嫁は進んだが、その後はより深刻なデフレに陥ってしまった。

 このように、消費税の増税が景気に及ぼす影響は、導入時の景気や所得の状況によって大きく異なる。すなわち、橋本政権時の1997年には景気が底割れし、増税にもかかわらず財政構造改革自体が頓挫してしまった。つまり、消費税収は増えたが、それ以上に法人税や所得税が減ってしまったのである。日本経済がデフレに陥っている限り、増税のみでは財政再建は成り立たない。今後、政府には景気動向を慎重に判断し、景気拡大と財政再建を両立させることを期待したい。(第136話にる付きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第134話)

第134話:想定以上に高い税収弾性値

 基礎的財政収支は基本的に景気変動に応じて変化するが、税収の弾性値によっても左右される。景気循環で変動する「名目GDP要因」と税収の弾性値で左右される「税収弾性値要因」に分けられ、財務省のHPによれば税収弾性値は1強程度とされている。つまり、名目経済成長率が1%成長すると税収は1%強増加するとみられている。しかし、政府の「中長期の経済財政に関する試算」で基礎的財政収支の予測をみると、名目経済成長率が見通し対比で下振れしているにもかかわらず、基礎的財政収支は見通し対比で改善傾向にある。これは、政府の見通しでは税収弾性値をうまく設定できていないためだと考えられる。つまり、名目GDP成長率が1%変化したら税収が何%変化するかを示す税収弾性値が現実よりも低く想定されているためである。

 「中長期の経済財政に関する試算」では、名目GDP成長率に対する税収増加率の比率を示す税収弾性値は1.0~1.1程度となっている。一方、過去の税収弾性値の実績からトレンドを抽出すると、90年代後半から水準が高まり、16年度時点でも2.3程度あることがわかる。すなわち、政府は想定している税収弾性値を低めに見積もっており、基礎的財政収支の先行きを慎重に予測しすぎている可能性が高い。

 90年代後半から税収弾性値が高まった理由の一つに、日本が資産デフレによる不況を経験したことがある。つまり、資産価格の下落は企業を借金返済に走らせ、それが国内需要を萎縮させて、税収悪化を増幅させたからである。しかも、我が国では資産価格の下落局面で時価会計を導入したため、資産価値下落による評価損や実現損が企業収益を直撃し、税収がGDPの落ち込みを遥かに超えて減少した。

 理由はこれだけではない。資産価値の下落から発生した損失があまりにも大きかったために、企業はその損失を繰り延べた。これが、景気が回復してもなかなか税収が回復しなかった理由である。しかし、企業が損失を繰り延べられる期間は最長7年で、以降は利益に見合った税金を払うことになる。つまり、このような時価会計が導入されて以降の税収弾性値は、安定していた90年代前半までの値より高く見積もらなければならない。

 実際、現実に近い税収弾性値を用いて基礎的財政収支を予測してみると、先に筆者が抽出した直近の税収弾性値のトレンドを用いて、政府の基礎的財政収支の予測を修正すれば、政府が2025年度に達成を見通している基礎的財政収支の黒字化は、四年前倒しの2021年度に達成できることになる。これは、日本の財政赤字は経済動向に左右される要素が大きく、闇雲に財政を緊縮すれば自動的に財政再建が達成されるとの見方が困難であることを意味している。(第135話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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マーケティング思考の姿勢と行動の頭文字は「K」。

第19回:マーケティングは「4K+4K」の継続である。

 ビジネスの環境を語る折に「K」を頭文字にした言葉がよく使われるようです。かつて「きつい」「汚い」「危険」の3Kが言われたこともあります。

 してみると、マーケティング思考も「K」で語ることが出来そうです。ビジネス姿勢の基本に「勘/経験/根性/感性」が必要なことは、どのような分野にも当てはまります。ただ、それだけでは不十分。行動が伴わなければなりません。

 マーケティングの実践行動では「関係(絆)/気づき(提案)/こだわり(志)」をもって、顧客に「感動」して頂けることが重要です。日々の思考と行動に「K」が問われているのです。

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 2016年11月の九州生産性本部での授業風景
株式会社マップス 
代表取締役 清野 裕司

当ブログの寄稿記事を元に加筆編集しました新書が出ましたので是非お読みください。

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「清野裕司のマーケティング考 風を聴く」

今、経営に新たな思考力が求められています。市場にはどのような風が吹いているのでしょうか。風の音に耳を澄ませていると、次代に向けた風の通り道から、マーケティング思考で未来への道標が浮かんでくるかもしれません。それはまた、自分の心に吹く風の音を聴くことにも繋がるのではないか考えました。

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第133話)

第133話:消費増税の見直し度合いで異なる影響

 今回は、消費増税の見直しがマクロ経済に及ぼす影響を試算する。具体的には、消費増税見直しが実質GDPに与える影響を、借金返済の半分を社会保障充実に回す自民党案、消費税率引き上げを凍結する希望の党案についてそれぞれ先行き3年間の影響を試算した。

 まず自民党案についてみると、2019年度には実質GDPを▲0.12%程度押し下げるにとどまる。すなわち、現状との比較で見れば、2019年度には0.05%ポイント程度の実質GDP押し上げが期待できることになる。更に2020年度には実質GDPが0.17%、そして2021年度には駆け込み需要の反動減の影響が緩和することで実質GDPは0.05%程度の押し下げに止まることになる。こうした効果も加味すれば、自民党案のGDP押し上げ効果は2021年度時点で現状に比べて実質GDPを+0.14%ポイント押し上げる効果を持つ。

 一方、消費税率引き上げを凍結する希望の党の影響を試算すると、2019年度は+0.17%ポイント程度の実質GDP押し上げ効果となるが、2020年度には消費増税に伴う反動減がないこと等から実質GDPは+0.28%ポイント程度の押し上げ効果となる。そして2021年度には見直しなしのケースが駆け込み需要の反動減効果が剥落することから、その押し上げ効果は+0.18%ポイント程度にまで縮小することになる。

 しかし、増税使途見直しの効果は財政収支の動向と切り離して評価することはできない。そこで続いては、プライマリーバランスの見通しについて、内閣府マクロモデルの乗数を基に、増税使途見直しに伴う経済動向の変動を通じて事後的にプライマリーバランスに及ぼす影響を試算した。

 まず、自民党案の前提をもとに得られた推計結果によれば、増税使途見直しに伴うプライマリーバランスへの影響は、借金返済に回る財源が半減することから、GDP比で見て2019年度▲0.16%ポイント、2020年度▲0.32%ポイント、2021年度▲0.32%ポイントのプライマリーバランス拡大要因となる。一方の希望の党案では、2019年度以降の3年間でそれぞれ▲0.21%ポイント、▲0.48%ポイント、▲0.52%ポイントのプライマリーバランス/GDP悪化要因となる。すなわち、増税使途見直しはいずれも財政赤字の拡大要因となるが、増税を凍結する希望の党案よりも、借金返済分の半分を社会保障に回す自民党案の方が財政収支の悪化度合いが少ないことになる。

以上見てきたとおり、増税使途見直しは再分配政策として検討に値する効果があるといえよう。しかし、我が国が深刻なデフレ均衡にさらされていることも勘案すれば、2014年4月の消費増税で得られた恒久財源8.2兆円のうち、借金返済に回っている3.4兆円分の使途を見直すことも検討に値するのではないか。

 いずれにしても、増税の使途見直しが経済の各部門に様々な影響を及ぼすことを勘案すれば、増税の是非や使途見直しを国民に十分に納得させるには、実証的な政策議論が不可欠といえる。従って、各党は消費増税をめぐる議論において、定量的な影響分析についても議論し、そのうえで国民に審判を問うべきであろう。(第134話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第123話)

第123話:買物をしていて「狩猟民族」に出逢ったことはありませんか。

 季節の変わり目に衣料を買おうと、たまにデパートに行くことがあります。元来が何かを求めようとする目的を持ったラウンドなので、それ程の滞留時間ではありません。その限られた時間の中でも、さまざまな体験が出来るものです。

 時として、フロアーに居る人の数のうち、購入予定の顧客よりも販売予定の販売員の方が多い場合があります。そのような空間に一歩足を踏み入れたときが悲劇です。さながら速射砲のように、言葉が耳に突き刺さってくるからです。当方が、ゆっくりと商品を吟味しているときにです。デザインや色・柄・サイズと、基本の購買インデックスに沿って品定めをしようとしていると、こちらから声を掛けることもなく、声を掛けられます。「こちらのは、いかがですか・・・この色などお似合いかと思います」・・・と立て続けです。こちらの好みの色やデザインなど、そもそも聞く耳すら持っていない、一方的なのです。

 「購買予定の顧客と親密な関係をとり、繰り返して来店されることを促進しよう」などの考え方は微塵も見えません。そこに居る顧客は、さながら自分が捕獲すべき獲物。獲物に対して話など聞く必要もない、自分の思いをただ告げて、交換(販売)が成立すればそれで良し、といった空気を感じさせます。じっくりと育てようといった、農耕的な発想が全く見えず、狩猟的なのです。

 獲物の側でも、ちょっと聞きたいことがあるのです。「他のサイズはありませんか?」遠慮がちに聞く。「出ているだけです」。何ともむなしい風が吹き抜けていきます。

 そそくさと、狩場から逃げなければ・・・の心理が働いてしまうもの。(第124話に続きます)

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 2016年11月の九州生産性本部での授業風景
株式会社マップス 
代表取締役 清野 裕司

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「清野裕司のマーケティング考 風を聴く」

今、経営に新たな思考力が求められています。市場にはどのような風が吹いているのでしょうか。風の音に耳を澄ませていると、次代に向けた風の通り道から、マーケティング思考で未来への道標が浮かんでくるかもしれません。それはまた、自分の心に吹く風の音を聴くことにも繋がるのではないか考えました。

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